作品タイトル不明
579話 猫霊族の家
カナデの家は思っていたよりも小さい。
みんなが泊まることができるというから、大きな宿のような建物を想像していたのだけど……
そんなことはなくて、普通の一軒家という感じだ。
石造りではなくて、木材をメインにして作られている。
自然の温もりを感じられる、良い雰囲気の家だ。
「これ、あたしら全員が泊まるとなると、ちょっと狭くない?」
「わたくしは、いざとなれば野宿でも構いませんが……」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。ほら、どうぞどうぞ」
カナデに案内されて、家の中に。
広くて綺麗な玄関。
奥にリビングと階段が見えた。
「地下もあるん?」
「うん。お客さんが来た時のために、地下に部屋をたくさん作っているんだ。私の部屋は二階だけど、地下は地下で、ひんやりしてて気持ちいいよ」
地下に降りてみると、一階の数倍の広さがあった。
部屋数も十を超えている。
なるほど。
確かに、これなら俺達全員が泊まることができる。
それにしても……
こんな家を持つことができるなんて、スズさんって、やっぱりすごいんだな。
「みんな、好きな部屋を選んで。一部屋三人まで大丈夫だけど、一人で使ってもいいからね?」
「なら、あたしは贅沢に一人で使わせてもらおうかしら」
「ふふ、わたくしも」
「わたし……ママと一緒」
みんな、それぞれ部屋に移動する。
「あ、レインは私の部屋にする?」
「え?」
「……な、なーんて!」
自分で言って恥ずかしくなったらしく、カナデが真っ赤になる。
そういう反応が一番困るから、勘弁してくれ。
とにかくも、俺は余った部屋に移動して荷物を置いた。
テーブルにベッドに収納。
一通りの家具が揃っていて、まるで宿みたいだ。
猫霊族が経営する宿……うん、きっと繁盛すると思う。
ただ、この里に普通の人がやってくることはできない。
スズさんが頼んだらしく、精霊族の手で結界が張られているとのこと。
強固なものではないが、普通の人はここに猫霊族の里があると認識できず、そのまま通り過ぎてしまうのだとか。
里に入るには最強種がいるか……
あるいは、中から招かれる必要があるらしい。
「……それも仕方ないか」
カナデと出会ったばかりの頃、他の冒険者に絡まれたことがあるが……
誰もが善人というわけじゃない。
悪いことを企む人も多い。
そのことを考えると、人と距離をとってしまうのは当たり前と言えた。
ただ、少し寂しく思う。
カナデ達のことをよく知っているからかもしれないが……
人と最強種は手を取り合うことができる。
一緒に笑うことができて、一緒に泣くことができる。
だから、いつか溝がなくればいいな……と、そんなことを願う。
そんなことを考えていると、コンコンと扉がノックされた。
「はい、どうぞ」
「失礼しますね」
スズさんが姿を見せた。
「部屋はどうですか?」
「すごく快適です。ありがとうございます」
「ふふ、いいんですよ。いつもカナデちゃんがお世話になっていますからねー。こういう時くらい、しっかりとおもてなしをしないと」
「あまり気をつかわなくても……」
「レインさん。はい、これをどうぞ」
スズさんから鍵を渡された。
「これは?」
「カナデちゃんの部屋の鍵ですよ」
「え?」
「これで、いつでも夜這いをかけられますね」
「かけませんからね!?」
いきなりとんでもないことを言わないでほしい。
思わず大きな声が出たじゃないか。
「かけないんですか?」
「かけませんよ……」
「うーん、まだそこまでの関係じゃなかったですか。カナデちゃん、奥手ねえ……レインさん。これを機会に、カナデちゃんを自分のものにしてしまいません?」
「俺をけしかけようとしないでください……」
「残念」
本気で残念そうにしているから困る。
スズさんって、たまに強引になるというか、周りを気にせず突き進む時があるんだよな。
困ったものだ。
「ところで、レインさんは疲れていたりしますか?」
「いえ、特には」
多少、歩いた程度だ。
それくらいで疲れるほど、やわな鍛え方はしていないつもりだ。
「なら、軽く運動をしませんか?」
――――――――――
里の広場は運動のためにも使われているらしく、かなり広い。
ホライズンの領主の屋敷くらいの広さがあるだろうか?
その中央で、俺とスズさんが対峙する。
今から軽い運動……手合わせをする、ということに。
「うーん、お母さんとレインか……どっちが勝つのかな? レイン……って言いたいところだけど、相手はお母さんだし」
「ちゃんとあたしらの主を応援しなさい、このぐーたら猫」
「あ、久しぶりに聞けてなんか安心」
「それでええの……?」
「あ、あのっ、イリスひゃん! お、お菓子なんて、ど、どうでしょう?」
「あら、ありがとうございます。一緒に食べましょう」
周囲には、話を聞きつけたみんなの姿が。
大道芸を観戦するようなムードで、とてものんびりとしていた。
「アルから聞いたんですけど、レインさんは、あれから色々な最強種と契約を?」
「はい。えっと……リファ、フィーニア、イリス。鬼族と不死鳥族と天族ですね」
「ふむふむ、なるほど……なら、アレを使っても問題はなさそうですね」
「アレ?」
なんだろう。
とてつもなく嫌な予感がするのだけど……
俺が口を挟むよりも先に、スズさんが行動に移ってしまう。
「では、いきますよ。すぅ……みゃんっ!!!」
裂帛の気合と共に、スズさんは覚醒状態へ移行した。