作品タイトル不明
572話 キャッチボール
結局……
カナデとタニア。
ソラとルナ。
フィーニアとサクラ。
ニーナとイリスとリファ。
変則的に三人一組を混ぜることで問題は解決した。
そのまま準備運動が完了。
「うむ、ほどよく体も温まってきたじゃろう。今日は、キャッチボールをするぞ」
「普通だね」
「うむ。母上のことだから、とんでもないことを言い出すかと思っていたのだ」
「崖登り崖下りとか言いそうよね」
「お主ら、妾をどういう目で見ておるのじゃ……?」
みんなの感想に、アルさんがこめかみの辺りをひくひくとさせた。
「まったく……キャッチボールも、きちんとやればけっこう大変なのじゃぞ? ボールを遠くに投げる腕力だけではなく、精密なコントロール。ボールをキャッチする器用さに、速球が来ても捕捉できる動体視力や、逃げない度胸が必要なのじゃ」
「なるほど。そう言われると、理に叶っているように聞こえますわね」
「わたし……うまく、投げられるかな?」
「がんばろうね」
なんだかんだ言いつつ、みんな、それなりに楽しみにしているようだった。
それぞれボールを受け取ると、軽く放ったり、くるくると指先で回したりする。
「とりあえず、各々、好きにやってみるのじゃ。慣れてきたら、次第に距離や速度を上げていくぞ」
「「「はーい」」」
こうして、キャッチボールが始まった。
「え、えいっ」
「オンッ!」
フィーニアは、おっかなびっくりという感じでボールを投げて、それをサクラがパクっと口でキャッチする。
どうやって投げ返すのだろう? と思っていたら……
サクラがくるっと回転して、その遠心力でボールを放つ。
なかなか器用だ。
「いく、よ?」
「ばっちこい」
「ふふ、よろしくお願いいたします」
ニーナとリファとイリスは三角形を作るように立ち、ゆっくりとボールを投げていた。
まあ……
ゆっくりと言っても、それは彼女達基準での話。
見た目は幼くても、彼女達は最強種。
ニーナを含めて、一般の人以上の力があるわけで……
ギュンッ! とか。
ブォンッ! とか。
ちょくちょく、ボールが風を切る音が聞こえてくる。
取り損ねないか心配なのだけど……
その辺りはきちんと調整しているらしく、たぶん、大丈夫かな?
「えいやー」
「へいやー」
ソラがボールを投げて……へとん。
ルナがボールを投げて……ぽてん。
相手のところに届かず、かなり手前でボールが落ちてしまう。
「我が姉よ、ちゃんと投げるのだ! ぜんぜん届いていないぞ」
「それはソラの台詞です! きちんとソラのところまで投げてください!」
「なにをー!?」
「なんですか!?」
ソラとルナは予想通りだ。
いや……予想以下?
二人も最強種だけど、魔力に特化している精霊族なので、身体能力は一般的な人よりも低い。
そのせいか、まともにキャッチボールができていない。
とはいえ、ここまでひどいとは……
多少拙くても、キャッチボールくらいはできると思っていたんだけど。
うーん。
もう少し、運動をしてもらった方がいいのかな?
「うにゃー……にゃんっ!!!」
ドゴォッ!!!
「これでも……くらいなさいっ!!!」
ゴガァッ!!!
カナデとタニアは……なんだ、あれ?
キャッチボール?
互いの距離が百メートルほど離れているのに、一瞬で相手のところまでボールが届いていた。
一投の度に、上級魔法が炸裂したような轟音が響いている。
ついでに、衝撃波がビリビリと撒き散らされていた。
あの二人だけ、次元が違うな……
「というか、ボールはなんで無事なんだ……?」
「ふっふっふ、それは妾のおかげじゃな」
「アルさんの?」
「あのボールは、ただのボールではない。妾達、精霊族の力と知識を結集させて作り上げた、絶対に壊れないボールじゃ!」
「その努力、もっと別な方向に注いだ方が良かったのでは……?」
「ほれ、見ろ見ろ。あんなに激しくしているのに、ぜんぜん壊れておらんじゃろう?」
俺のツッコミは無視。
アルさんは、精霊族はすごいじゃろう、とばかりに胸を張っている。
そんなアルさんの胸に……
ゴギャーーーンッ!!!
「「あっ」」
カナデが暴投。
狙ったかのように、アルさんにボールが直撃した。
「あわわわ、ど、どうしよう?」
「アルさん、死んだんじゃないかしら……? カナデ……あんたが投獄されても、ちょくちょく面会に行ってあげるわ」
「うむ、差し入れは魚でいいか?」
「お菓子もつけてあげましょう」
「なでなで、するね?」
騒ぎを聞きつけて、みんながやってきた。
それぞれ適当なことを口にしているのだけど……
「お主ら……」
地の底から響くような声。
「呑気におしゃべりしてないで、妾の心配をせぬかぁあああああっ!!!?」
「「「ひゃあ!?」」」
アルさんが復活して、火山の噴火のごとく激怒する。
まったくの無傷だけど……
いったい、どうやって防いだのだろう?
「ええいっ、キャッチボールはやめじゃやめ! ランニングじゃ! とことん走らせてくれるわ、ふはははははっ!!!」
この後……
みんなは、憂さ晴らしとばかりに、アルさんが良いというまでランニングをさせられるのだった。
そして、なぜか俺も走らされるのだった。
ひどいとばっちりだ……