作品タイトル不明
550話 真アルテラ戦・その1
「うにゃんっ、一番……」
「一番乗りよ!」
「私のセリフ!?」
まず最初に飛び出したのは、タニアだった。
メインディッシュ……アルテラはレインに譲るから、周囲のザコ連中は任せて。
そう言うかのように、複数の魔族に向けて突撃する。
相手は魔族。
正確な実力はわからないが、強敵であることは間違いない。
アルテラほどではないだろうが、それぞれがホライズンの街に出現した魔族と同等……あるいは、それ以上だろう。
しかも、それが複数。
普通に考えて、なにも考えずに突撃するなんて自殺行為だ。
仲間と一緒に連携をして、慎重に戦わないといけない。
いけないのだけど……
タニアは我慢できなかった。
レインとユウキがボロボロになっていた。
大事な主が傷つけられた。
怒りが湧き上がる。
心が燃える。
その熱が、彼女にこれまでにない力を与える。
「ふんっ、竜族か。だがしかし、この俺の敵ではない」
タニアの前に、一人の魔族が立ちはだかる。
アルテラの炎と同じように、赤い髪を持つ長身の魔族だ。
「俺は、アルテラさまの親衛隊を束ねる者! その名はぐぅ!?」
「うるさいのよ! 戦場で、いちいち名乗りをあげてるんじゃないの!」
律儀に名乗ろうとした魔族を、タニアの鉄拳が吹き飛ばした。
何度も地面をバウントして、魔族が飛ぶ。
それを追いかけて、タニアは魔族の胸元を掴み、そのまま地面に叩きつけた。
押さえつけるようにして、片手で動きを封じる。
さらに、もう片手で拳の弾丸を繰り出して、マウントを取り、嵐のような攻撃を叩き込んでいく。
「ぐぅっ……!? この俺が、親衛隊のこの俺が、こんなことでぇっ……!!!」
「うるさいわね……寝てなさい!!!」
ゴォッ! と拳を唸らせつつ、豪拳を叩き込んだ。
さらに、ゼロ距離でのドラゴンブレス。
大地が揺れるほどの衝撃が起きて、光が炸裂した。
タニアは、何事もないようにその場に立ち……
その足元に、ボロボロになった魔族が気を失い、倒れていた。
「ふんっ」
つまらないことをしたというように、タニアは小さく鼻を鳴らした。
「うにゃ……なんか、タニアが怖い」
「カナデがなにかした?」
「なんで、リファはそんな結論になるの!?」
「なんとなく?」
「ほらっ、そこのあんたら!」
「にゃん!?」
「!?」
タニアがビシッとした声を叩きつけると、カナデとリファは直立不動で敬礼をした。
「くだらない話をしてないで、敵と戦いなさい!」
「そ、そうだね」
「ボク、がんばるよ」
「そう……敵と戦いなさい」
タニアは、どこか複雑な表情をしていた。
この西大陸に渡り、直接、魔族と接してきた。
その経験から、魔族=悪という認識に疑問を持つようになった。
もしかしたら、人間がそうであるように、魔族にも色々な者がいるのではないか?
そんなことを考えるようになったのだけど……
しかし、アルテラは違う。
彼女とわかりあえることは絶対にないと断言できる。
タニアは人間の味方ではなくて、レインの味方だ。
人間に対してそれほどの思い入れはないし、正直なところ、どうでもいい……だ。
だがしかし。
しかし、あのような仕打ちはあんまりだ。
幼い姉妹の絆を引き裂いて。
その命だけではなくて、魂さえも弄ぶ。
そのようなこと、絶対に許せることではない。
レインと同じように、タニアも激怒していた。
怒れる竜の牙は、全てを打ち砕く。
「なんでそんなに怒っているのか、詳しくはわからないけど……タニア、私もいるからね!」
「うん、ボク達がいる。おもいきり暴れていいよ」
「ええ、背中は任せるわ」
タニアは、ニヤリと不敵に笑う。
その性格故、決して言葉にしないものの……
タニアは、レインと同じように仲間のことを信頼している。
カナデは能天気で、やや、猪突猛進なところがあるのだけど……
しかし、そのパワーは抜群。
戦闘のセンスにも長けていて、背中を預けたのならば、どんな時であろうと自分の役目を果たすことができるだろう。
リファはぼーっとしていて、一見、なにを考えているかわからないのだけど……
しかし、戦闘になると、別人のように動きが変わる。
血を使った変幻自在のトリッキーな攻撃。
さらに、眷属召喚。
文字通り、なんでもできるタイプで、かなり心強い。
そんな二人と一緒に戦えるのなら、かなり心強い。
相手が、大量の魔族だとしても。
四天王のコピーが並んでいたとしても。
負ける気なんて、欠片も湧いてこない。
「ふふんっ」
今のあたしは無敵よ。
タニアは、心の中でそうつぶやいた。
「にゃん?」
「なによ、妄想猫」
「また新しい称号が!? っていうか、妄想はソラの特権じゃないかな?」
「それは……そうかもしれないわね」
「って、そうじゃなくて……タニア今、機嫌が良い?」
「……かもね」
「さっきは機嫌悪そうにしていたのに、今は良さそうにするなんて……にゃん?」
カナデは不思議そうに小首を傾げるが、もちろん、タニアは答えを教えるつもりなんてない。
わからないのなら、わからないまま、ずっと考えていればいい。
というか、本音なんて恥ずかしくて言えるわけがない。
「うんうん、タニアはツンデレさんだね」
「リファ?」
「でも、たまには素直になった方がいいな、とボクは思うよ?」
「……」
こいつ、なにもかも、全部理解しているのか……?
タニアは、たらりと汗を流すものの……
とりあえず、なにも見なかった、聞かなかったことにした。
大事な戦いの最中なのに、心を乱されるのはよくないと、そう自分を納得させた。
「それじゃあ……いくわよ!」
「うん!」
「おー」