軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

533話 撤退戦

イリスの攻撃で通路が崩落して、いくらかのギガブランドと、他の魔族が巻き込まれた。

しかし、それは一部だけ。

十を超えるギガブランドが健在で、重い足音を響かせつつ、俺達を追いかけてきていた。

ヤツの体は大きい。

数も多いため、まとめて移動するとなると、どうしても移動が制限されてしまう。

そのおかげで追いつかれることなく、少しずつではあるが距離を取ることができていた。

このまま逃げ切りたいところなのだけど……

「レイン、やばいのだ!」

飛行魔法を使い、遺跡内を器用に飛ぶルナが、悲鳴じみた声をあげる。

それに反応して後ろを見ると、

「……マジか」

別の通路から、さらに複数のギガブランドが姿を見せた。

もう少しで撒けると思っていたのだけど……

でも、そんな希望は打ち砕かれてしまい……

「くそっ」

こんな時こそ落ち着かないといけないのだけど、しかし、悪態がこぼれてしまう。

心も追い詰められてきているのがわかる。

この戦い方。

この追い込み方。

アルテラの力の一つなのだろう。

まだ刃を交わしたことがないため、その力は未知数だが……

頭の回転は速く、まったく油断できない厳しい相手ということを理解した。

「ファイヤーボール・マルチショット!」

複数の火球を天井の一点に集中させて、爆裂させた。

ガラガラと遺跡が崩れる。

崩落とまではいかないが、道を狭くする程度に、天井を崩すことができたみたいだ。

でも、これも時間稼ぎでしかない。

逃げ切るだけならなんとか、と思っていたのだけど……

現状、それも難しそうに思えてきた。

なにか手を打たないと……

連中を足止めする作戦を考えないと、いずれ、追いつかれてしまう。

そうなったら……終わりだ。

「レインさま。ここは、わたくしに任せていただけませんか?」

ソラとルナと同じように、空を飛ぶイリスが俺に並行して、そう口にした。

「なにか考えが?」

「わたくしが足止めをしてまいります。そうすれば、レインさま達は安全圏まで撤退することが可能に……」

「却下だ」

「……わたくし、まだ最後まで話をしていないのですが」

「却下、そういうのはダメだ」

「ですから、話をさせてくださいな。わたくしが殿を務めることで、レインさま達を無事に逃がすことが……」

「殿なんてものじゃないだろう?」

「……」

イリスは、敵を食い止めることを考えてはいないだろう。

彼女は聡明だ。

いかに最強種の中で特に優れた天族であろうと、十以上の四天王を同時に相手にできるわけがない。

善戦はできるかもしれないが……

最終的に待っている結果は……死。

蹂躙以外の結末はありえないだろう。

イリスはそれを覚悟しているのだろう。

あれこれと考えて……結果、そうする以外に道はないと判断したのだろう。

それでもダメだ。

誰かを犠牲にするなんて、そんなことは認められない。

「みんなで逃げる。誰一人、欠けたりしない」

「しかし、レインさま。それは……」

「甘いかもしれないが……でも、諦めたくなんてない。みっともなくても情けなくても、最後まであがいてやる」

「……まったく、仕方のない方ですわ」

「でも、それがレインっていうものよ」

話を聞いていたらしく、タニアがニヤリと笑う。

ソラとルナも、そうするべきだと賛同してくれた。

「……ただ」

このままだと詰んでしまうことは確か。

そのために、なにかしら手を打たないといけない。

どうする?

どうすればいい?

「……はあ」

考えを巡らせていると、ふと、グレイがため息をこぼした。

深い深いため息だ。

「おい、レイン。この嬢ちゃんを頼んだぜ」

「え? あっ、ととと」

走りつつ、グレイがユニアを渡してきた。

って、荷物のように扱うな!

危うく、落としてしまいそうになっただろうが。

「グレイ、どうしたんだい? もしかして、なにか考えが?」

主だけあって、グレイの考えていることがよくわかるらしい。

そんなユウキの問いかけに、グレイは苦笑しつつ頷いた。

「考えってほどのものじゃありやせんけどね。まあ……ここは、誰かが犠牲になるしかないでしょう」

「……え?」

唐突な発言に、みんな驚いて足を止めてしまう。

慌ててグレイの顔を見る。

彼は……殉教者のように、穏やかな顔をして笑っていた。

「翼持ちの嬢ちゃんの意見が正しいですぜ。この状況……誰かが殿となり、敵の足を止めなければどうしようもない」

「待った、そんなことはないはずだ。誰かを犠牲にしなくても済む方法があるはず。すぐに諦めたりしないで、最善の方法をみんなで考えるべきだ」

「その方法が思いつかなかったら?」

「それは……」

反論できない。

グレイが口にしていることは、圧倒的な正論だ。

一方の俺は、ただの感情でしかなくて……

「今は一分一秒でも惜しい。遅れれば遅れるほど、手遅れになる可能性が高いからな。犠牲になる人数も増えるかもしれねえ。だから、さっさと俺が行くべきなんだよ」

「……なら、俺が!」

「舐めんなよ」

コツ、と軽く頭を叩かれた。

「確かに、レインは強いかもしれねえけどな。ただ、殿なんて務めたことねえだろ? 遅滞戦闘の経験なんてねえだろ?」

「それは、そうだけど……」

「なら、ここは俺にやらせろ。っていうか……俺から見たら、レインもまだまだガキなんだよ。ガキを守るのは、大人の仕事だろ?」

こんな時なのに、グレイは笑ってみせた。

その笑顔は太陽のようで、人の心を温かく、そして力強く照らすものだった。