作品タイトル不明
464話 分家の話
「それと、できればもう一つ、お願いがあるんですけど……」
「ふむ? 厚かましいな……と言うところではあるが、まあ、知らぬ仲でもない。聞くだけ聞いてみよう」
素っ気ない態度を取りつつも、話を聞く姿勢は崩さない。
ここにルナがいたら、ツンデレなのだ、とか言いそうだ。
「ありがとうございます。一つ、聞きたいことがあるんです」
「聞きたいこと?」
「勇者の血筋について」
かつて、精霊族の里を訪れた時……
己の出自に疑問などを抱いたら、里を訪ねるといい、と長は言ってくれた。
長は、俺の家が、勇者の分家であることを知っていたのだろう。
そうでなければ、あんな言動はとらない。
自分自身の謎はすでに解けているが……
他の部分で疑問点が浮上してきた。
その点を長の知識を頼りにして、解決していきたいと思う。
「長は、勇者の血筋について、ある程度のことを知っているんですね?」
「ふむ、確信があるようだな? まあ、ごまかしても仕方あるまい。知っている。というか、知っていて当たり前というべきか」
「と、いうと?」
「かつての勇者が宗家、分家を作ることになった時、その場に同席していたからな」
思わぬ情報に驚いて、目を丸くしてしまう。
そんな俺の反応を見た長は、苦々しい表情をしつつ、話を続ける。
「今から数百年も前の話だ。その頃はまだ、我ら精霊族は人間と共にあった」
「なるほど……その時の話をできれば、詳しく」
「人間と手を取り合っていたなど、我々にとっては汚点ではあるが……まあ、いいだろう。来たるべき時に話をすると、確かにそう言ったからな」
「すみません。それと、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げる。
人間と距離をとっている長にとっては、なかなかに難しい話なのだろう。
それをあえて聞き出そうとしている。
申しわけないと思うのだけど、でも、今はどうしてもその話が必要だ。
「それで、宗家と分家のなにを知りたい」
「宗家については、まあ、色々とありますが……今はそれよりも、分家についてを知りたいです」
「ふむ? お主の家のことか?」
それはそれで、ものすごく興味がある。
ただ、今はそれもまた、別だ。
「モニカ・エクレール……という名前に聞き覚えは?」
「ないな」
「分家に、エクレール家というものはありませんか?」
「それは……ふむ? しばし待て」
なにか心当たりがある様子で、長は家の奥へ。
記憶か、あるいは記録が残っているのだろうか?
期待をしつつ待っていると、五分ほどで長が戻ってきた。
その手には古い書物が。
「それは?」
「当時の宗家と分家の関係を記したものだ。今の関係は記されていないが、当時の関係は詳細に記されているはずだ」
「拝見しても?」
「そのために持ってきたのだ。好きに見るといい」
「ありがとうございます」
書物を受け取り、目を通す。
まず最初に、聞いたことのない名前が宗家として記されていた。
「あれ?」
「どうした?」
「アリオスの家……オーランド家が宗家ではないんですか?」
「オーランド家? そのような家は、聞いたことがないな。分家が派生して、後々で生まれたところだと思うが……」
ということは、どこかのタイミングで分家が宗家になった?
そんなことがありえるのだろうか。
謎を解くはずが、逆に謎が増えてしまう。
ひとまず、アリオスの家のことは置いておこう。
今は、モニカのこと……エクレール家のことだ。
「あっ」
分家を辿っていくと、途中に、シュラウド家という記述を見つけることができた。
なんともいえない気持ちになる。
それともう一つ。
分家の派生の派生の派生……かなり端の方に、エクレールという記載があった。
「やっぱり、か」
これで、モニカも初代勇者の血筋であることが判明した。
あの幻影を作る能力は、俺のテイムと同じように、モニカだけに与えられた特殊能力なのだろう。
あるいは、モニカの一族、エクレール家に与えられたものか。
「その人間は、どのようなヤツなのだ?」
「あ、すみません。説明していませんでしたね」
モニカについての説明をする。
「……と、いうわけなんです」
かなり複雑な立ち位置にいる上に、今までに色々とやらかしてきてくれたものだから、説明が長くなってしまった。
俺の説明を聞いた長は、険しい顔をする。
「その者は、人間でありながら魔族の味方をしている。間違いないのか?」
「ほぼほぼ、間違いないかと」
先日、イリスの証言で、一連の背後にリースという魔族がいるということを知った。
モニカは、そのリースの右腕らしい。
「これは……まずいことになるかもしれぬな」
「どういうことですか?」
「お主も知っているだろう? 勇者の血筋は特殊な力を持ち、なおかつ、成長限界というものがない。どこまでも強く、強くなることができる。そんな者が敵に回れば……」
「厄介極まりない、ということですね」
すでに、モニカとは何度も交戦している。
強大な火力を持っているわけではないが……
複数の幻影を生み出して、自由自在に操ることが出来る能力は、かなりの脅威だ。
その力、身に染みて理解している。
「それにしても、どうして勇者の分家が魔族の味方なんて……?」
「悪に染まらぬ人間はいない、と断言することはできぬであろう? それは、お主が一番よく知っていることだと思うが」
「……それもそうですね」
アリオスやリーンのことを思い返して、苦笑する。
「ただ、アリオス達は、一応は勇者をしていた。明確に、人の敵になった様子はなかった。でも……モニカは違う。彼女は、人に対して敵対的な立場を貫いている。なにがあれば、そんなことに……?」
「出自が関係しているのかもしれないな」
「出自ですか?」
「多くの分家が作られた。しかし、現存する分家は少ない。違うか?」
「そう、ですね……詳しくは知らないですけど、そんなに数はないと思います」
「それはなぜか? 途中で滅びたのだよ」
「滅びた……」
「とある分家は、跡継ぎが生まれず血が途絶えた。とある分家は……魔族に狙われて、里ごと滅ぼされた」
その分家は……たぶん、俺の家のことだろう。
あれは事故じゃなくて、事件なのか……
強い怒りが湧いてくるものの、今は我慢して、拳を握りしめるだけに留める。
「そして……とある分家は、愚かな人間同士の争いの果てに滅びた」