作品タイトル不明
440話 母と娘で……
なんとか、不死鳥族と和解することができた。
でも、それが最終目的というわけじゃない。
むしろ前フリ。
その後が本題だ。
そして……イリスを助けてほしいという、本題へ入った。
治癒の力を求める詳しい理由を説明していなかったので、その部分の話をする。
イリスという天族の女の子が、瀕死の状態に陥っている。
なんとしても助けたい。
だから、力を貸してほしい……必死に頭を下げて、協力をお願いした。
結果……エルフィンさん達は、快く了承してくれた。
同胞を助けるためならば、力は惜しまない。
また、俺のためならば、同じく力を惜しむことはない。
そんな頼もしい言葉をもらった。
ただ、いきなり出発ということは難しい。
急いでいることは承知の上だけど、一日、準備させてほしいとのこと。
一分一秒でも早くイリスのところへ戻りたいのだけど、無理を言うことはできない。
俺達はその言葉を受け入れて、準備が整うまでの一日、不死鳥族の里に滞在することになった。
「でも……なんで、こんなことになっているんだろうなあ」
俺は温泉に入っていた。
熱く心地良い湯に浸かり、ゆらゆらと漂う湯気を眺めている。
準備が整うまでの間、戦いの疲れを癒やしてほしいと、温泉に入ることを勧められた。
なんでも、このダンジョンには温泉脈が通っているらしい。
それを利用して、温泉を作ってしまったのだとか。
「のんびりしているヒマなんてないんだけど……でも、無理して倒れても意味ないか」
リーンとの戦いで、体力も魔力も激しく消耗した。
ただ、それ以上に、エルフィンさんに一度焼かれたことのダメージがでかい。
フィーニアに治癒してもらったのだけど、怪我は癒やすことはできても、失った体力や血は戻らないらしい。
あの時、俺はけっこうな体力と血を失っていたらしく……
温泉での療養を強く勧められた。
「心は急いてしまうけど、焦ったらダメだ。精霊族の里に繋がる門まで行けば、アルさんが迎えに来てくれるだろうけど……そこに行くまで、数日はかかるからな。途中で倒れるなんてことになったら、どうなるか。しっかりと体力を回復させておかないと」
手の平で湯をすくい、ぱしゃりと顔にかけた。
「ふぅ」
疲れがとれていく。
失われた体力が戻ってきているような感じで、とても心地良い。
イリスを助けることができたら、みんなで温泉、っていうのもいいかもな。
忙しい日々が続いていて、まともに休んでいない。
みんなで一緒に……
イリスも一緒に……
うん、いいな。
そんなことを考えていた、その時。
「し、しししっ、失礼しまひゅっ!!!」
「っ!?」
聞き覚えのある声。
驚いて振り返ると、タオル一枚のフィーニアが見えて……
慌てて顔を逸らす。
「フィーニア!? な、なにをっ」
「お、お背中をお流しさせてさせていただきたくっ!」
「いやいやいや! そんなのはいいからっ」
「いえ、そういうわけにはいきません」
「その声は、エルフィンさん!?」
幻聴かと思いきや、ぺたぺたという足音がしっかりと聞こえる。
「ふ、二人共、なにをしているんですか!?」
「レインさんには、本当に失礼な……いえ、それ以上にひどいことをしてしまいました。その償いとして、ゆっくりとくつろいでいただきたく……」
「だ、大丈夫ですから! 気にしていないですから!」
「そういうわけにはいきません。さあ、まずは湯から上がり、そちらへ」
「ど、どどど、どうじょぉっ」
エルフィンさんは、ひたすら冷静に。
対するフィーニアは、とんでもなく慌てている。
「フィーニア、そのように慌てていては、きちんと奉仕できませんよ」
「ご、ごめんなひゃいっ。でもでも、は、恥ずかしくてぇ……」
「そのようなことでは、あなたの役目は務まりませんよ。裸を見られるくらい気にしてはいけません。むしろ、見られることに喜びを感じなさい」
「む、無理ぃいいいいいっ」
「まったく」
やれやれとばかりにエルフィンさんがため息をこぼす。
でも、フィーニアの反応が普通だと思うのですが……?
というか、役目ってなんのことだろう?
イリスの治療のことかな?
でも、エルフィンさんも同行してくれるはずなのだけど……うーん、よくわからない。
「さあ、レインさん。どうか、私達に身を委ねてください」
「く、くらひゃいっ!」
「いや、あの……」
母娘が揃って、じりじりとにじり寄ってくる。
逃げようとしても、出口は二人の後ろ。
迂回して逃げられるか?
いや、しかし、こちらはタオルもなにもないわけで……
さすがにそんな状態で全力疾走するのは、色々な意味で心が折れる。
ど、どうすれば……!?
――――――――――
「かゆいところはありませんか?」
「……ありません」
「ど、どうでしょうか!? き、気持ちいいですか!?」
「……大丈夫です」
結局……
二人の強引な誘いを断ることができず、俺は背中を流してもらうことに。
ただ、腰にタオルは巻いているし、あくまでも背中だけ。
それが終われば、すぐに一人にしてもらう約束をした。
「……」
ふと、フィーニアが静かになる。
とても緊張している様子で、それをごまかそうとしてあれこれと喋っていたのだけど、今はおとなしい。
どうしたのだろうか?
「……レインさんの背中って、大きいんですね」
ふと、そんなつぶやきをこぼす。
「そうかな? そんなことはないと思うけど」
「い、いえ。そんなことはあると思います。すごく大きくて、その、えと……お、男の人の背中、っていう感じがします!」
ゴシゴシゴシ、と強く背中が擦られる。
照れているのだろうか?
「それと……いくつか傷跡がありますね」
「あー……ごめん。見苦しいよな」
「そ、そんなことはありません。ただ、その……レインさんが怪我をした時、ワタシがいれば、すぐに癒やすことができて、傷跡を残すことなんてなかったのに、と思って」
「……ありがとう」
「ふぇ?」
「やっぱり、フィーニアは優しいな。そう言ってくれて、すごくうれしいよ」
「い、いいいっ、いえ!? ワタシなんて、そんな、優しいなんてことは……」
「優しいよ。俺は、フィーニアのことを深く知っているわけじゃないけど……でも、とても優しくて、心が綺麗な女の子っていうことは知っているよ。それは確かだ」
「あうあうあう……はふぅ」
しまった、言い過ぎただろうか?
フィーニアは照れ屋なところがあるから、今、顔を真っ赤にしているかもしれない。
でも、これが紛れもない俺の本心なんだよな。
だから、ぽろっと口からこぼれた。
「ありがとう、ございます……レインさんにそう言ってもらえると、うれしいです」
「うん」
「お背中、お流ししますね」
「頼むよ」
「……ふふっ」
そんな会話を繰り広げる俺とフィーニアを見て、エルフィンさんが微笑ましそうに笑うのだった。