軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

393話 それぞれの思惑

「ふんふんふ~ん」

北大陸のとある平原を、ご機嫌な様子のリーンとモニカが歩いていた。

リーンは足取りも軽く、鼻歌を歌っている。

一方のモニカは静かだ。

「北大陸なんてところに行ってほしい、って言われた時はえーって思ったけど……ふふんっ、まあまあ悪くないわね」

リーンの目的は、北大陸に移動したと思われるレインとシフォンの動向を観察すること。

勇者候補と現勇者が、北大陸に向かった、という情報を入手した。

その目的まではつかめなかったものの……

そんな二人が未踏の地に移動するなんて、普通に考えてありえないことだ。

自分達にとって、なにかしら不利益となることを企んでいるのかもしれない。

そう判断したリースによって、リーンが派遣されることに。

ついでに、もう一つ。

北大陸に住まうとされている、未知の最強種の調査。

そして可能ならば、力の奪取……あるいは、里の壊滅。

面倒なことは嫌い。

そんなことを公言するリーンにとって、今回の件は面倒きわまりない。

本当なら拒否して、ベッドでゴロゴロしていたい。

あるいは街に繰り出して、ショッピングを楽しみたい。

でも、今回は違う。

「植物とか動物とか、そういうものに変わりないのかしら? 基本的に、中央とかで見るのと変わりないわよねー」

リーンは植物や、時折すれ違う動物を眺めつつ、足を進める。

やはりご機嫌な様子だ。

そんなリーンの視線は右手に向けられていた。

正確に言うと、右手に握られた虹水晶だ。

「北大陸とか、最初は面倒って思ったけど……よくよく考えてみれば、この子を試す良い機会なのよねー。ふふっ、どんな力を見せてくれるのかしら?」

お気に入りのおもちゃを与えられた子供のような顔をして、リーンは笑う。

天族すらも倒してみせた力に魅せられ、飲み込まれつつあった。

「あまり無理はしないでくださいね?」

そんなリーンを諌めるように、同行するモニカが言う。

「大丈夫だいじょーぶ。なんたって、あたしには虹水晶があるからね。って、魔物はっけーん!」

リーンの三倍はあろうかという、巨大な鳥のような姿をした魔物が現れた。

上空で翼を羽ばたかせながら滞空して、リーンに鋭い目を向ける。

対するリーンは、ニヤリと笑う。

良い実験相手が現れた、というような感じだ。

「魔物ごときが、このリーン様を見下さないでくれる? ウインドカッター!」

リーンは魔法で風の刃を作り出して、魔物に向けて放つ。

空気が圧縮されて、見えないはずなのだけど……

その気配を感じ取ったのか、魔物は右に旋回して魔法を避けた。

しかし、それは囮。

本命の攻撃は別にある。

「虹水晶!」

リーンが杖をかざすと、その先端に光が灯る。

それに反応するように、もう片方のリーンの手が揺らぐ。

「ウインドカッター!」

再び魔法を唱える。

ただ、今度は真正面からぶつけるわけじゃない。

虹水晶の力を使い、空間を跳躍して、魔物の体内で炸裂させた。

内部から体をズタズタに切り裂かれ、魔物は断末魔の悲鳴をあげて墜落する。

それを見たリーンは、楽しそうに笑う。

「あはははっ、やっぱりすごい、すごいんですけど! さすが伝説の装備、とんでもない威力ね」

ゆらりと、虹水晶からわずかに闇がこぼれる。

それはリーンの腕にまとわりつくようにして……

しかし、本人に気づかれるよりも先に、すぐに消える。

「……そろそろですかね」

「ん? なんか言った?」

「いえ、なにも」

「そう? ならいいけど……さーて、バシバシ殺しちゃおうかなー?」

なにも知ることはなく、気づくことはなく、リーンは北大陸を進む。

――――――――――

「いいですか、フィーニア」

「ひゃ、ひゃいっ!?」

母娘の二人きりになったところで、エルフィンは厳しい顔をして娘に声をかける。

そんな母の雰囲気に緊張したらしく、フィーニアは背をピーンと伸ばしている。

娘の様子を見て、エルフィンは不思議そうにする。

「どうして緊張するのですか?」

「え、えとっ……そのっ……」

「やれやれ。あなたはとても賢く強い子ですが、心はまだまだですね。大事な話をするとはいえ、母である私と話をする時でさえ緊張してしまうとは」

「あう……ご、ごめんなさい……」

「いいのですよ。別に、責めているわけではありません。足りない部分があったとしても、それは、これから補っていけばいいのですから」

「が、がんばりましゅっ」

母を相手にガチガチに緊張してしまう。

それが、フィーニアという女の子だった。

とても気が弱く、人見知りで、ネガティブ思考というトリプルスコア。

なかなかに厄介な女の子だ。

「それで、レースについての話ですが……不死鳥族の代表は、私とフィーニア、あなたになります」

「えぇっ!?」

「なぜ驚いているのですか? 今年はそういう風にすると、事前に話をしておいたでしょう」

「そ、そそそ、そうなんですけどぉ……で、でも、人間が参加するみたいだから……わ、私なんかが参加しない方がいいんじゃあ……」

あたふたと慌てるフィーニアを落ち着かせるように、その手をそっと握り、エルフィンは顔を近づけて言う。

「これはチャンスですよ」

「ちゃ、チャンス……?」

「その性格のせいで、里の中にはあなたの能力、資質を疑う声が多少あります」

「ご、ごめんなさい……」

「しかし、今回の件をうまく解決できたら? あなたを見直す声が、きっと出てくるでしょう」

「それは、えっと……で、でも、ワタシにそんなことができるかな……?」

「できますよ。あなたは、私が誇りに思う、立派な娘なのですから」

「……お母さん……」

母の優しい言葉に、フィーニアは小さな笑みを浮かべる。

「それと、相手は人間ですから。大したことはありません」

「だ、大丈夫……なのかな? 人間って、すごく凶暴で邪悪で、とんでもないことをいつも企んでいるとか……」

「そうですね、その通りです。人間は愚かな存在で、救いようがありません」

「あう……こ、怖くなってきたかも」

「ああ、すみません。脅かすつもりはないのですよ? ただ、人間は愚かであり……それ故に、大した力を持たない下等種である、ということを言いたかったのです」

「強くない、のかな?」

「ええ、大したことはありませんよ。所詮は、人間。所詮は、愚かな存在。そんなものに我ら最強種が負けるなんてこと、一パーセントもありませんから」

不死鳥族について、シグレにも知らないことが一つある。

それは、圧倒的にプライドが高く、人間を下等種と見下していること。

己こそが最強であると信じて疑わない。

人間なんて低レベルであると信じて疑わない。

そんな思考を種族全体が持っていた。

人間を敵視するだけではなくて、その存在を下に下に見る。

それが、シグレの知らない不死鳥族の裏の顔だ。

シグレが知らないのも無理はない。

不死鳥族は、人間を下に見ているだけで、他の種族に対してはわりと友好的だ。

同じ大陸に住み、同じ最強種である呀狼族には、特に親しくしている。

不死鳥族が人間を相手にするところなんて、百年以上起きていないため……

人間を圧倒的に下に見ていることをシグレが知らないのも、ある意味で、当たり前と言えることであった。

「ワタシ……できるかな?」

「ええ、できますとも。あなたは、私の自慢の娘なのですから」

「が、がんばるねっ!」

フィーニアは、ぐっと、小さな拳を握りしめた。