軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

389話 近づいてくる破滅

「あー……めっちゃ憂鬱なんですけど」

そんなぼやきをこぼしながら、なにもない平原を歩くのはリーンだ。

最近もらったお気に入りの装備、虹水晶をしっかりと握りしめている。

「すみません」

リーンの隣で申し訳なさそうにしているのは、モニカだ。

付き従うように、一歩後ろを進んでいる。

「リーンさんは、この前動いてもらったばかりなのに、またすぐに力を貸してもらうことになるなんて」

「まったくよ……しかも、行き先は北大陸。おいしい料理は食べられないし、ふかふかのベッドもない。なーんにもないじゃない」

ぶつくさと、リーンは不満たっぷりに言う。

カグネから帰還した後……

リーンを待っていたのは、新しい仕事の話だった。

北大陸に、未知の最強種が存在するらしい。

シフォンを監視する者からの情報で、そのことが判明した。

その最強種は危険な存在。

血と破壊衝動に囚われており、話し合いは無意味。

下手をしたら、人と魔族の融和の道が閉ざされてしまう。

なので、本格的な情報収集をしてほしい。

そして可能であれば、未知の最強種を殲滅すること。

そんな話をリースからされて……

大して休むこともできず、リーンとモニカは北大陸に派遣されたのだった。

「少しは休めると思ってたんだけどなー。あーもう、脂たっぷりの分厚いステーキが食べたいわ」

「本当にすみません……」

「まあ、いいわよ。面倒といえば面倒なんだけど……でも、この子をおもいきり使うことができるのは、それはそれで楽しみ」

リーンは虹水晶を見る。

その顔は、お気に入りのおもちゃを手に入れた子供のそれだ。

イリスに不意打ちをした時のことを思い返す。

不意を突いたとはいえ、最強の中の最強と言われている天族を一撃で倒す。

なんてすごい力なのだろう。

虹水晶があれば、できないことはない。

どんな相手を敵に回しても倒すことができる。

「ふっ……うふふ」

力に酔うリーンは、知らず知らずのうちに唇の端を吊り上げる。

未知の最強種とやらに、思う存分に力を振るうことにしよう。

人が最強種を圧倒する。

それはとても楽しいだろう。

想像しただけで、胸の奥がうずうずしてくる。

暗い思考に囚われているからなのか、リーンは気づいていなかった。

虹水晶に、わずかな影が宿り始めていることに。

持ち主の心を反映するかのように、水晶がゆっくりと黒くなり始めていた。

そんなリーンを見て、モニカは主との会話を思い返す。

――――――――――

「北大陸に、未知の最強種……ですか?」

とある屋敷の一室。

リースと二人きりで話をするモニカは、キョトンとした。

北大陸に最強種がいるなんて話、聞いたことがない。

しかし、リースがそう言うのならば、それは確かなことなのだろう。

疑問を捨てた後、自分がやるべきことを問いかける。

「私はなにをすればよろしいのですか?」

「リーンさんを連れて、北大陸に行ってくれますか? そこで、未知の最強種の情報収集をお願いします」

「情報収集だけでよろしいのですか?」

「そうですね……本音を言うのなら、イリスさんの時と同じように、いくらか魂を拝借できれば。もしくは、殲滅……というところが理想ですね」

「わかりました。では、その通りに」

とてつもなく難しいことを言われたはずなのに、モニカは迷うことなく了承した。

リースが望んでいることを、確実に成功させるという大きな自信があるわけではない。

どちらかというと、成功確率は低いだろう。

それでも、リースが望むのならば、自分は忠実な駒となり、突き進むだけだ。

なぜ、そこまでするのか?

どうして、そんな無謀なことを実行できるのか?

答えは簡単だ。

リースがいなければ、モニカはこの世にいない。

すでに死んでいただろう。

モニカにとって、リースは命の恩人だ。

それだけじゃない。

ある意味で、親に近い情を抱いている。

そんなリースのためならば、どんなこともするというのが、モニカの信念だ。

「モニカ、無理はしなくていいですよ」

モニカの心の内を見透かしたかのように、リースが優しく言う。

そっと頬を撫でて、もう片方の手で髪を静かに梳く。

「確かに、最強種の情報は欲しい。可能なら力も奪い取りたいし、今後の妨げにならないよう、殲滅もしておきたい」

「それならば、私は……」

「いいんですよ。それであなたを失うようなことがあれば、私は、悔やんでも悔やみきれないわ。だから、基本はリーンさんの援護程度に留めておいてください」

そう言うリースは、魔族とは思えないくらい優しい顔をしていた。

モニカをいいように操るために甘い言葉を吐いているのではなくて……

本心から彼女の身を案じていることがわかる。

そんなリースの心が伝わったらしく、モニカはうっとりとした顔に。

「ありがとうございます、リース様。人間である私に、そんな言葉をかけていただけるなんて……とてもうれしく思います」

「確かに、あなたは人間。私は魔族。ですが……モニカのことは、娘のように思っていますから」

それは、リースの紛れもない本心だった。

「だから、大きな危険を与えるようなことはしたくないんです」

「私のことなら……」

「気にしますよ。他の人間が何千、何万と死んでも一向に構いませんが……モニカの命は、それ以上に重いんですから」

「ありがとうございます」

「私のために、という気持ちはうれしいですよ? いざという時は、その命、私に預けてもらいます」

「はい」

「ただ……今は、その時じゃありません。無駄に危険を犯す必要はありません」

はて? とモニカは小首を傾げる。

自分達の目的を考えると、未知の最強種を放っておくなんてこと、できるわけがない。

厄介な事態に発展するまえに、手を打っておく必要があるのだけど……

しかし、リースは無理をする必要はないと言う。

「本当に放っておいていいのですか?」

「あら、放っておく必要はありませんよ。力を奪い取る、もしくは、殲滅します。まあ、それは理想ではあるので、壊滅的な打撃を与える、というところが現実的な範囲でしょうか?」

「しかし、私はそれをしなくてよい……と?」

「リーンさんにやってもらいましょう」

「リーンさんに? しかし、虹水晶を手にしているとはいえ、彼女の実力では……」

「大丈夫ですよ。モニカは、アレが本当に虹水晶だと思っています?」

「違うのですか?」

「見た目はそっくりですが、中身は別物という、厄介極まりないアイテムですよ。アレをうまく使えば、リーンさん単独で殲滅も可能でしょう。アレの本当の名前は、闇水晶……悪意を吸い取り成長するという、呪われた武具なんです」