軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

329話 同盟成立

アリオス、リーン、ミナの三人は、中央大陸の西端の森の中にある屋敷を訪れていた。

周囲は背の高い木々に囲まれており、昼間でも室内は薄暗い。

人気なんてものはない。

ただ、屋敷の中は綺麗に掃除されていた。

「ここは……?」

「豪華な屋敷だけど、なんか雰囲気が暗いわね」

「モニカ。こんなところに来て、どうするんだい?」

最後尾に立つモニカを、アリオスは訝しげに見た。

ただ、その目に敵意のような類の感情はない。

あくまでも、こんなところに連れてこられた理由がわからないという、疑問だけだ。

「まずは、こちらへどうぞ」

モニカが先頭を歩き、アリオス達を客間に案内した。

ソファーとテーブルなどの応接セットが揃っており、さらに、紅茶と茶菓子も用意されていた。

「今は微妙な時間なのでお茶だけですが、お腹が空いているのなら、お食事も用意できますよ」

「……いや、僕はいい」

「あたしもいいや。お腹、まだ減ってないし」

「私も……それよりも、話をしていただけませんか? モニカは、私達がここに来れば、再び勇者として立ち上がるだけの力を得られる、と言っていましたが……」

「それが本当なら、すごくありがたい話だ。ただ、どのような方法なのか、一切説明されていないからね。モニカを疑うわけではないが、ここまで焦らされてしまうと、気になってしまうんだよ」

「すみません。特殊な事情があり、情報の漏洩を防ぐために、ギリギリまで伏せておいたのです。ですが、もうその必要はありません。全てお話します」

アリオス達がソファーに座り、モニカはその対面に腰を下ろす。

「アリオス様達が力を得る方法……それは単純なもので、私の主と同盟を結ぶことです」

「主? 同盟?」

「実は、私はとある方に仕えている身で……その方の命令で、今まで、アリオス様達の手助けをしてきました。アリオス様達には、その方と同盟を結んでもらいたいのです。そうすれば、私の主は協力を惜しみませんし、アリオス様達はさらに大きな力を得ることができます」

「ふむ……」

興味深い話だと、アリオスは同盟とやらを結ぶべきか考えた。

モニカが何者かの命令を受けていることは、アリオスは、前々から予想していた。

助けられた時やアッガスの裏切りを教えてくれた時など、色々なことに関して手際が良すぎる。

協力者がいるか、あるいは、モニカに指示を出す上の者がいるか。

アリオスも馬鹿ではないため、そう睨んでいた。

「……ひとまず、モニカの主とやらに会わせてくれないか? 手を組むかどうかは、それからだ」

「アリオス、いいのですか? どのような方なのか、まるでわからないのですよ?」

「モニカの話を信じるなら、僕達のために色々としてくれた人だ。少なくとも、敵じゃないだろう」

「うちはアリオスにさんせーかな。話くらいは聞いてもいいと思うし、もっと強くなれるっていう話は興味あるし」

「……そうですね、わかりました。私達の使命を果たすためにも、力は必要です。今は、モニカを信じましょう」

勇者の資格はすでに剥奪されているのだけど、ミナは、未だに使命という言葉を口にする。

どのような立場であれ、自分達がやるべきことは変わらないと信じているのか……

あるいは、現実を見ないで、そう思い込むことで逃避をしているのか。

「ありがとうございます。アリオス様達がそう言ってくれて、私も安心しました」

全会一致を得られたことで、モニカはうれしそうに笑う。

邪気などは欠片もなく、自分の務めを果たすことができて安心した、という感じだ。

そんなモニカの顔を見たアリオスは、どのような人物か知らないけれど、協力してもいいかもしれない……と、早くも心が動いていた。

それだけモニカのことを信頼している、と言えば聞こえはいいが……

実際は、ただただ思考を放棄しているだけだ。

勇者である自分に、モニカが協力するのは当たり前。

勇者を騙すなんてことをするわけがない。

そのように考えていた。

『勇者』という称号を奪われたにも関わらず、未だにしがみついて……

栄光がまだ続いていると、当たり前のように考えていた。

「それで、君の主とやらは?」

「はい、ただいまお呼びしますので、少しお待ちくださいね」

モニカは一礼して部屋を後にした。

アリオス、リーン、ミナの三人が部屋に残される。

「モニカの主って、どんな人なんだろーね? やっぱり、騎士なのかな?」

「どうだろうね。可能性はなくもないが……僕は、もっと違う人物だと考えているよ」

「それって、どんなん?」

「そうだね……」

忌々しいことに、自分達は国に反逆する身となった。

そんな自分達に協力する騎士なんてものは、まずいないだろう。

いるとしたら、モニカのように『騎士のフリ』をしていた者に限られる。

そんなモニカの主となれば、同じく、国に反逆する身なのだろう。

犯罪者か?

いや、それにしては持つ力が大きい。

このような屋敷を用意して、巨大な情報網を構築して……

普通、できるようなことじゃない。

ならば、どんな可能性が残されているか?

王に匹敵するような力を持つ貴族か。

あるいは、最強種か。

それとも……人外の者か。

……アリオスはそこまで考えたところで、思考を停止させた。

あれこれと考えてみたものの、情報が足りないため、決め手に欠けている。

「まあ、すぐに会えるんだ。あれこれと推測しても仕方ないさ」

「それもそうだね」

「あ、来たみたいですよ」

扉が開いて、三人の視線が集中した。

まず最初に、先導するようにモニカが現れて……次いで、リースが現れた。

「「「っ!?」」」

アリオス、リーン、ミナが驚きの顔になる。

リースは華やかなドレスを身にまとい、花の髪飾りをつけて、きらびやかに己を飾っていた。

しかし、そんなもので、その身からあふれる黒い魔力を隠せるわけがない。

また、リース自身も隠す気はないらしく、魔族特有の魔力をそのままにしていた。

アリオス達も、そのことに気づかないほど抜けているわけではなくて……

一目でリースが魔族であることに気がついて、顔をこわばらせた。

アリオス達の反応を楽しむように、リースが笑みを浮かべる。

「はじめまして。私がモニカの主のリースです。以後、よろしく」

「……まさか、魔族とはな」

アリオスが苦い顔をして言う。

人外の可能性も考えていた。

しかし、よりにもよって魔族とは。

どう反応していいかわからない様子で、アリオス達は口を閉じてしまう。

しかし、そんな反応は予想していたというように、リースは慌てることなく、マイペースに話を続ける。

「アリオスさん達は勇者パーティー。そのことは理解しています。魔族である私が協力を申し出ても、戸惑い、裏があるのではないかと疑惑を持つことが普通ですね」

「……随分と堂々としているんだな? 魔族が僕達の前に姿を見せて、無事でいられるとでも?」

「今は、話し合いの場ですからね。アリオスさん達は、いきなり斬りかかってくるような無礼はしないと信じていますから」

人間と魔族は天敵であり、話し合いをすることなんて、まずありえない。

いきなり斬りかかったとしても、それはそれで、正当防衛が成り立つだろう。

ただ、真正面からこんなことを言われてしまうと、ややためらいを覚えてしまうのも事実だった。

言葉が通じる相手に対しては、どこかでためらいを覚えてしまい、非情になりきれないのが普通だ。

「……いいだろう。まずは、話を聞こうか」

「アリオス!? これは、罠という可能性も……」

「えっ、ちょっとマジで? いいの? あいつ、魔族だよ?」

ミナとリーンが驚くが、アリオスは冷静に二人を諭す。

「罠だっていうのなら、こんな回りくどい真似はしないさ。僕達を助けなければ、そのまま始末することができた。彼女の真意は、まだなんとも言えないが……少なくとも、話を聞く価値はある」

「さすが、アリオスさん」

「んー……まあ、アリオスがそう言うならいいけどさ」

リーンはやや引っかかるものがある様子ではあったが、結局は、アリオスの判断に任せることにした。

「……わかりました」

ミナは、リーン以上に引っかかるものを感じている様子だ。

口数も少なく、一言、そう告げるだけ。

それでも、同意は同意。

仲間の賛同を得られたということで、アリオスは話を進める。

「それで、君が僕達に力を貸してくれるとモニカから聞いているが、それはどういうことだい? 僕達に、魔族の仲間になれと? 勇者であるこの僕に?」

「いえ。魔族ではなくて、私の味方になってほしいんです」

「ふむ?」

「今現在、私は、魔族の主勢力から抜けて、反旗を翻している状態です」

「仲間割れかい?」

「そのような認識で問題ありません」

その後、リースはアリオス達に自分達の事情を語った。

最近、魔族の中に変化が起きている。

人間を滅ぼす魔王に従うのではなくて、人間と共存する道を選ぶ者が出てきている。

リースはその一人。

もちろん、それは簡単な道ではない。

人間に信じてもらえないことはもちろん、仲間である魔族からも、裏切り者として命を狙われてしまう。

悔しいが、力がなければ理想を実現することはできない。

そのために、アリオスに仲間になってほしい。

互いに力を貸し出して、互いの目的を達成する。

リースは、そんなことを説明した。

「なるほどね……人間と共存を目指す魔族か。にわかには信じがたい話だけど……」

「しかし、事実です」

「……いいだろう、信じるよ」

いくらか考えた後に、アリオスはリースの言葉を受け入れた。

ただ、今の話を完全に信じたというわけではない。

リースの話が本当で、人間と魔族が共存するようなことになれば、自分はその立役者となり、再び英雄に返り咲くことができる。

ウソだとしても、使い道があるうちは利用してやればいい。

相手を利用すればいい、そのように考えていた。

「ありがとうございます、アリオスさん」

「じゃあ、今日から僕達は同志ということかな?」

「ええ、よろしくお願いします」

アリオスとリースは握手をして、共に笑みを浮かべた。

その背後で、モニカが笑う。

誰にも見られないようにお辞儀をしつつ、ひどく歪な笑みを浮かべていた。