作品タイトル不明
322話 さようなら?
クリオスの人々の歓迎を受けた後、俺達は領主の館へ移動した。
そこで事の顛末をカイズさんに報告して、事件が収束したことを伝える。
「ありがとうございます、レインさん。あなた達のおかげで、この街は救われました。あなた達は、この街の英雄です」
「えっ、いや、その……」
報告を聞いたカイズさんは、その場で深く頭を下げた。
確かに、俺達はスタンピードを引き起こすヴァイスを倒したけれど……
でも、単なる一冒険者だ。
対するカイズさんは領主で、街を治める立場にある。
そんな人がほいほいと頭を下げるようなものじゃない。
そんなことを伝えると……
「なにをおっしゃいますか。レインさん達がいなければ、この街は滅んでいたでしょう。運良く、それを免れたとしても、恐ろしいほどの被害を受けていたに違いありません」
「それは……まあ」
街が滅ぶかもしれないという意見に同意するのはどうかと思うが、否定してもウソくさいため、曖昧に頷いておいた。
「しかし、それは回避されました。レインさん達のおかげです。ならば、感謝の意を示すのは当たり前のことでしょう。もちろん、報酬などは別途、用意させていただきますが……それよりも先に、お礼を言いたいのです。この街を治める者として、この街に生きる一人の人として。なので、これくらいはさせてください」
「……レイン、レイン」
そっと、カナデが小声で耳打ちしてきた。
「……レインが謙虚なことは知っているけど、こういう時は、きちんとお礼を受けておいた方がいいよ? 相手の顔を立てる、っていう意味もあるけど、でもでも、それ以上に、誰かの好意はきちんと受け取らないと」
「……それもそうだな」
むず痒いところはあるけれど、時に、素直になることは必要だ。
カナデの言う通りだ。
「えっと……どういたしまして」
「はい」
カイズさんと笑顔を交わして、次いで、握手を交わした。
それを見守っていた周囲の人達から歓声が上がる。
「なぁ、カイズさん。ちょっとええ?」
歓声が落ち着いたところで、ニーナの頭の上に乗っかっている、人形形態のティナがそんな風にカイズさんに声をかけた。
「はい、どうかしましたか?」
「レインの旦那、けっこう疲れているみたいなんや。だから、細かい話はうちらがすることにして、今日は、レインの旦那だけ先に宿に行ってもええ?」
「ティナ? 俺は別に疲れてなんて……」
「しっ」
疲労がないといえばウソになるけれど、今後の相談などの色々な話ができないほどじゃない。
そう反論しようとしたが、ティナに小声で制止されてしまう。
このまま話を合わせてくれないか? というような感じで、ティナはこちらを見た。
ティナはちょっとノリが良すぎるところはあるが、基本的に、とても賢い女性だ。
なにか考えあってのことだろう。
「……レインの旦那は、リファの様子を見てきてくれへん?」
そっと、耳打ちされた。
リファはこの場にいない。
用があるからと領主の館の前で別れている。
たぶん、レゾナさんのところに行ったのだろう。
「……リファ、色々とあると思うから、レインの旦那についててほしいねん」
「……わかった。リファのことは任せてくれ」
さすがティナ。
色々とよく見ている。
お兄さんのことを知った後だし……
レゾナさんと色々な話をして、色々な感情を抱いているだろう。
ティナはそのことを心配しているみたいだ。
ホント、よく配慮ができる人だ。
「……じゃあ、悪いが、この場は任せた」
「……オッケーやで。うちらに任せとき」
頼もしい返事をするティナに後のことは任せて、俺は領主の館を後にした。
――――――――――
リファの姿を探して、クリオスの街のあちらこちらを歩き回る。
途中、色々な人に声をかけられた。
いずれも感謝の言葉を伝えられて、時に、握手を求められた。
俺達のことは、もうすでに街全体に広がっているらしい。
リファが言っていた、ノリが良い、というのはこういうことなのだろうか?
軽く苦笑しつつ、リファを探した。
そして……街の中心地から離れたところにある墓地に、リファとレゾナさんの姿を見つけた。
二人は共に手を合わせて、目を閉じて、祈りを捧げている。
誰を想っているのか?
それは考えるまでもない。
邪魔をしてはいけないが、リファがどういう状態なのか、そこも気になる。
ひとまず、離れたところで待機をして、俺もリファのお兄さんの安らぎを祈る。
「レイン、いたの?」
「よう、兄ちゃんじゃねえか」
祈りを終えた二人はこちらに気がついて、いつもの様子で声をかけてきた。
さきほどまで祈りを捧げていたとは思えない。
二人の中では、お兄さんのことは決着がついているのかもしれない。
「すみません、邪魔してしまいましたか?」
「んなこたあねえよ。それよりも、兄ちゃんを歓迎したいところだ」
「え? なんでですか?」
「くそったれの魔族を倒すことができた。リファの手で、カルスを眠らせてやることができた。全部、兄ちゃんのおかげさ」
「俺は大したことはしていませんよ。がんばったのは、俺の仲間と……あと、リファ自身です」
「兄ちゃんがどう思ってるのか、んなことあ関係ねえんだよ。俺が兄ちゃんに感謝してる。そのことが大事なんだ。つーわけだから、素直に受け取っておけ」
なんていう強引な人だ。
こんなことを考えるのはいけないかもしれないが、この人、本当にリファの母親なのだろうか?
あまりに性格が違いすぎる……いや。
逆にこんな性格だからこそ、娘のリファはとことんマイペースに育ったのだろうか?
謎だ。
「で、どうしたんだ?」
「リファとちょっと話をしたくて……」
「そうか。なら、俺はちと用があるから、もう行くぜ。じゃあ、また後でな」
ひらひらと手を振り、レゾナさんは墓地を後にした。
マイペースな人だ。
リファはこういうところに似たのだろうか?
「レイン、ボクになにか用?」
「用というか、ちょっと様子を見に」
「様子?」
「大丈夫かな、って」
「……ああ」
こちらの意図を察した様子で、リファは小さく頷いた。
それから、ぺこりと頭を下げる。
「ありがと、心配してくれて。ボクは大丈夫」
「無理していないか?」
「ううん、ホントに大丈夫。いつまでも泣いていたら、お兄ちゃんに心配をかける。だから、ボクは前を向いて歩くだけ」
「そっか。強いな、リファは」
「あ」
カナデ達にそうしていることが癖になっているらしく、ついついリファの頭をなでてしまう。
「んぅ♪」
リファは嫌がるということはなくて、むしろ、うれしそうにしていた。
自分から頭を差し出して、なでなでを態度で催促しているほどだ。
「はふぅ……落ち着く。レインの手は、ヒーリング効果がある」
「それ、褒め言葉なのか?」
「最大級」
「そうなのか……」
やっぱり、リファはちょっとよくわからない女の子だった。
「ありがと、レイン」
「うん?」
「この街を救ってくれて、ありがと」
「……どういたしまして」
色々と気になることは残っているけれど……
今はそれらは考えることはやめて、素直にリファからの言葉を受け取ろう。
「ボク、お礼がしたい」
「別にいいよ」
「そんなことない。よくない。お礼、する」
見返りを求めての行動じゃないから、本当に気にしなくていいんだけど……
とはいえ、リファの側からしたら、なにもしないというのは難しいか。
「じゃあ、クリオスの案内をしてくれないか?」
「案内?」
「しばらくはクリオスに滞在する予定だから、ついでに色々と見て回りたいんだ。でも、よくわからないからな。ガイドが欲しい」
「ん、わかった。ボクに任せて」
「ああ、頼むよ」
取引成立だ。
「どこか見たいところはある?」
「うーん……色々とあるけど、土産物屋とかは外せないかな。ホライズンに戻る前に、おみやげを買っておきたい」
「……戻る?」
リファがこてんと小首を傾げて、不思議そうに言った。
「レイン、戻る? ホライズンに帰る?」
「ん? そりゃ、まあ。俺、ホライズンを拠点にしているからな」
「それじゃあ……ボクとレイン、お別れ?」
「そうなる、かな」
「……あう」
リファが今にも泣き出しそうな顔になった。