軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

290話 最期

王都で起きた騒動から一ヶ月ほどが過ぎた。

アリオスの脱獄は騎士と一部の冒険者のみに伝えられて、その捜索が行われていた。

アリオスの捜索はもちろん王都だけではなくて、各都市で行われていた。

それだけではなく、無関係と思われる街……小さな村まで、絶対に逃さないという執念を感じさせるような勢いで調べられた。

その捜索の手はフラムの村にも及ぶ。

全ての家が調べられる。

猫の子一匹逃さない勢いだ。

……しかし、アリオス達を見つけることはできなかった。

――――――――――

フラムの村の近くにある洞窟にアリオス達はいた。

自分達を探している騎士や冒険者達がフラムの村に近づいている。

そんな情報をモニカから得たアリオス達は、すぐに村を出た。

しかし、想定外の事態のため長旅の準備はしていない。

次の目的地も定まっていない。

ひとまず休める場所を探そうということで、近くの洞窟に身を寄せたのだった。

「ただいま戻りました」

「あっ、モニカ。おかえりー」

「どうでしたか?」

姿を見せたモニカを、リーンとミナが迎える。

そんな二人に、モニカは困ったような表情を見せた。

「追手は未だフラムの村に滞在しているみたいですね。さすがに国中をくまなく調べ尽くすというのは不可能なので、ここは安全だと思いますが……今は動かない方がいいと思います。哨戒がいないわけではないですし、下手に動けば見つかるかもしれません。後は、この周辺の調査をしているアッガスさまが戻るのを待つのがいいかと」

「そっか……ありがと、モニカ。あんたがいてくれてマジ助かったわ」

「ええ、本当に。私達は魔法特化なので、探索などは向いておらず……ご迷惑をかけます」

「いえ、気になさらず。みなさんの……アリオスさまのお役に立てるのならば、どのようなことでもいたします」

こんなことは苦労でもなんともないというように、モニカが笑う。

そんな笑みに癒やされるように、リーンとミナも笑う。

勇者の資格を剥奪されて、国を追われて……

全てを失ったリーンとミナにとって、モニカは生命線に等しい。

自分達を助けてくれて、さらにその後も積極的に守ってくれている。

依存しても仕方ない環境ではあった。

「アッガスはまだなのかい?」

タイミングを見てアリオスがモニカに声をかけた。

「おそらくは。ここに戻ってきていないということは、そういうことなのでしょう」

「まったく……周囲を調べるだけなのに、どれだけの時間をかけているのか」

「この辺って、なんか調べることあんの?」

リーンの疑問にミナが答える。

「追手に捕まらないように、逃走用のルートを確保しなければいけませんからね。あと、できれば水や食料も確保しておきたいです。フラムの村で得たものはありますが、多いに越したことはありませんから」

「めんどいし……あーもうっ、あたしら、なんでこうなっちゃうのかなあ……」

「今は耐え忍ぶしかありません。いつかきっと、私達の行いが正しいと証明されるでしょう」

「だ、だよね。あたしら何も間違ってないし!」

アリオスの罪を責めるわけでもなく、また、己の罪と向き合うこともせず……

ただただ、リーンとミナは現実から目を逸らす。

これは悪い夢でいつか覚める。

そしてまた、勇者パーティーとして栄光の道を歩む時が来る。

そう信じていた。

現実を認めることを恐れて、目を逸らしているため、信じる以外の道はなかった。

「アリオスさま、少しよろしいですか?」

「うん、なんだい?」

「こちらへ……」

モニカに誘われて、アリオスはリーンとミナに声が届かない洞窟の入り口へ移動した。

そこで、モニカはいかにも深刻そうな顔をして、迷いを見せた後、そっと切り出す。

「先日の、アッガスさまの件なのですが……」

――――――――――

洞窟の外……少し歩いたところにアッガスの姿があった。

一人ではない。

冒険者らしき男が一緒にいた。

「……アリオスはこの先の洞窟にいる。仲間も一緒だ」

「へぇ、こんなところに……道理で見つからないわけだ」

「腐っても勇者だ。その力は強い。人は集めてきたか?」

「冒険者が二十人、騎士が五十人ってところだな」

「心もとないな」

「確かに、勇者を相手にするとなると足りないかもな。冒険者も最高でBランクだし。でも……そのためにあんたがいるんだろ?」

冒険者の男がニヤリと笑う。

「あんたが薬で勇者達を眠らせる。そして、俺達が一気に制圧する。薬が失敗したとしても、予備の作戦は三つある。これだけの準備をしていれば、いくら勇者とはいえひとたまりもないさ」

「ああ、任せろ。俺は俺の仕事をきっちりとこなそう。その代わり……」

「わかってるさ。あんたのことは上にうまく取り計らってもらうよ」

早い話……

アッガスはアリオス達を売ったのだ。

己の身の安全と引き換えに、アリオス達の情報を売り、さらに捕縛の手伝いをする。

そうすることで減刑を求めたのだ。

アッガスは、以前からアリオスに対して不信感を持っていた。

度々、暴走を繰り返して……

周囲を省みない。

そのしわ寄せはアッガス達にやってきて、いつも頭を悩ませていた。

そして……王都の事件だ。

アリオスの暴走はとどまることを知らず、国を巻き込む騒ぎに発展して……

結果、勇者の資格を剥奪された。

それだけではなくて、反逆者の汚名を着せられて処罰されることになった。

そんなこと、納得できるわけがない。

自分はこんなところで終わる男ではない。

短気で浅慮なアリオスと違い……

わがままで何も考えていないリーンと違い……

盲目的に神を信じて自分で物事を見ないミナと違い……

これからも色々なところで活躍できるだけの力があり、知識もあり、経験もある。

あんな連中と心中するつもりなんてない。

それを回避するためならば、どんなことでもしよう。

仲間を売るなんて最低の行為?

構うものか。

なんだかんだで、人間、自分が一番かわいいに決まっている。

自分と他人、どちらか一方を犠牲にしなければいけないという場面があれば、誰も彼も自分を助けるだろう。

だから、これは何も問題はない。

正当な行為なのだ。

アッガスは心の中でそんなことを考えていた。

アリオス達を売り、自分だけが助かることを正当な権利と考えていた。

……そんなことを考えていたせいだろうか。

周囲の警戒を怠り、ソレ、に気づくことに遅れた。

「ギガボルト!」

力強い声と共に雷撃が疾走して、アッガスと、共にいた冒険者を撃つ。

全身に激痛が走り、立っていることはできず倒れた。

「ぐっ……な、なにが……!?」

「アッガス……残念だよ」

「なっ……!? あ、アリオス……!?」

暗闇の中からアリオスが現れた。

アリオスだけではない。

リーン、ミナ、モニカも一緒にいた。

「モニカから聞いたよ。僕達を売ろうとしていたらしいね?」

「ど、どうして……」

「どうしてそのことに気が付いたか、と尋ねたいのでしょうか? アッガスさまは慎重な方で、じっくりと準備を進めていましたね。私も最初は気づきませんでした。しかし……私にはとても頼りになる方が味方にいますから」

「くっ……し、しかし、もう包囲は完成しているはずだ。逃げられるとは……」

「あー……包囲っていうの、あたしらを取り囲んでた連中? あいつらなら、死んでもらったけど?」

リーンがあっさりと言う。

「リーンの言うことはウソではないよ。こちらも、モニカが教えてくれたからね。奇襲をかけるつもりだったみたいだが……逆に奇襲をかけて、全滅させたところだ」

「バカな……」

「君は僕達に薬を盛り、そこを奇襲しようとしていたんだろう? つまり、単純な力では、あんな雑魚をいくら集めても意味ないと知っていたわけだ。なら……僕達の方から奇襲をしかければどうなるか……結果は考えるまでもないと思わないかい?」

アッガスは完全に言葉を失う。

その頭の中では、なぜ? という言葉が繰り返されていた。

どうしてこんなことに?

どこで自分は道を間違えた?

そのきっかけとなったのは……

アッガスの視線がモニカに向いた。

「お前か……お前が!?」

「ふふっ」

アッガスの強い視線を受けて、モニカは涼しそうに笑う。

「アリオス……その女は危険だ! 俺は……ぐぁっ!?」

アッガスの手に刃が突き刺さる。

その剣を握るのは……アリオスだ。

「この期に及んで命乞いかな? 見苦しい真似はやめてくれないかな……君は僕達を売ろうとした。裏切った。これは許されるべきことではない……さあ、裁きの時間だ」

手を貫かれた痛みで、死が目の前に迫っているということをアッガスは悟る。

嫌だ。

こんなところで死にたくない。

まだまだ生きていたい。

このようなところで終わる男ではないのだ!

アッガスは雷撃に焼かれた体をなんとか動かし、這いつくばってでも逃げようとした。

しかし、それを遮る者がいる。

「アースバインド!」

「ホーリーアロー!」

リーンの魔法がアッガスの全身を絡め取り……

ミナの魔法がダメ押しというように、足を貫いた。

「リーンっ、ミナっ……待て、俺は……!?」

「すっげー見損なったんですけど……あたしらを売るとか、ふざけたこと考えてくれちゃって。ここで死んでくれる? アッガス……あんた、いらないし」

「その罪、もはや死以外に償うことはできないでしょう。私達のこの先のために、アッガス……ここで私達の糧となってください」

かつての仲間達に冷たい目で見下されて、アッガスは絶望を覚えた。

それでも命を諦めることはできず、アリオスに懇願する。

「俺が……悪かった! だから、これ以上は……!」

「やれやれ、往生際が悪いな……アッガス、君は僕の敵だ。敵はどうするか。知っているだろう?」

「まて、違う! 俺は、俺は……!!!」

「……残念だ」

アリオスは本当に……心の底から残念そうに言う。

悲しみさえ携えていた。

勇者の資格を剥奪されて、全てを失い……

それでも仲間だけは残ったと思っていた。

しかし、それは幻想だった。

アッガスは裏切ろうとしていた。

そのことに怒りよりも悲しみが増していた。

「さようならだ、アッガス」

「まっ……!?」

アリオスは氷のように冷たい顔をして、そのままアッガスの首を刎ねた。

アッガスの頭が転がる。

「……」

アリオスはそれを複雑な顔で見つめていた。

その剣は血に濡れて……

あるいは、涙のようでもあった。

しかし……アリオスが己の仲間を手にかけた事実は変わらない。

消えない。

確かなものとして記録された。

その瞬間、身も心も……その魂も完全に堕ちた。

――――――――――

死体の後始末をすると言い、モニカはその場に残った。

アリオス達は洞窟に戻り、移動の準備を始めている。

アッガスが用意した追手は退けたものの、その情報は他に漏れていると考えた方がいい。

そのため、すぐに洞窟を出ることにしたのだ。

「ふふっ……ご苦労さまでした、アッガスさま。あなたのおかげで、アリオスさまの魂を穢すことができました」

アッガスの死体を見下ろしながら、モニカは満足そうに笑う。

全てを仕組んでいたのはアリオスでもアッガスでもなくて……モニカだった。

追手のことなんて知らない、というのは全てウソだ。

モニカにはリースやその他、魔族が味方についているため、追手の動きはほぼほぼ把握している。

アッガスの裏切りも知っていた。

しかし、あえて放置した。

アリオスの手で仲間を殺させるために、そのままにしておいた。

そして……全てがモニカの思うように運び、アリオスは堕ちた。

笑いが止まらないとはこういうことか。

ニヤニヤと笑みをこぼすモニカは……

その整った容姿とは裏腹に、とんでもない悪鬼のように見えた。

「ふふふ、これで準備は整いました。アリオスさま……あなたは我々の味方になるか、あるいは……魔王さまの贄として役に立ってもらいましょう。ふふふ、うふふふっ」