軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

282話 裸の付き合い

「ひゅふぃいいいいい」

熱い湯。

白い湯気。

それらを満喫するように、アルさんは恍惚とした表情を浮かべていた。

ここは精霊族の里に作られた露天風呂だ。

今は俺とアルさんの貸切状態だ。

なんでこんなものがあるのか?

答えは、アルさんが趣味で作ったらしい。

「ど、どうしてこんなことに……?」

俺は明後日の方向を向いて、アルさんから視線を逸らすことしかできない。

アルさんと話をしたいだけなのに、気がつけば強引なペースに巻き込まれて、一緒に風呂に入ることに。

マナー違反だとはわかっているが、俺は腰にタオルを巻いていた。

ただ、アルさんはタオルなんて巻いていない。

隠すことはやましいこと!

……なんていうような感じで、堂々と体を晒している。

直視なんてできない。

明後日の方向を見ながら話をするしかない。

「んっ……くぅ……ぷはぁあああ! やっぱり、風呂で飲む酒はうまいのう! 極楽じゃ♪」

アルさんは風呂に酒を持ち込み、幸せそうな顔をして飲んでいた。

遊び人のやることだな……

「レインも一杯やるか?」

「い、いえ。俺はいいです」

「そうか? 遠慮しなくていいのじゃぞ?」

「遠慮というわけじゃなくて……というか、なんで風呂なんですか?」

「知らぬのか? よく言うじゃろう。裸の付き合いは大切じゃ、とな」

なんで、そんな話を知っているんですか?

アルさん、実は人間贔屓?

「ほれ、一杯飲め」

「いや、ですから……」

「妾の酒が飲めないというのか!?」

「絡み酒!?」

酔っ払うとめんどくさいな、この人!

「……これから大事な話をするので、さすがに酒は飲めません」

「ふむ、大事な話と来たか」

アルさんも真面目な顔になる。

酔っているかと思ったら、そうでもないらしい。

そういえば、精霊族は酒に強いんだっけ。

「なら、これで最後の一杯にしておくか」

アルさんは酒をくいっと喉に流し込み……

「さて……では、お主の話を聞くとしようか」

不敵な表情でそう言うのだった。

「大事な話とやらをしてみるがいい。今回の件で人間に対する怒りは覚えているが、妾は、レインの話であればちゃんときくのじゃ」

「その、俺は……」

「別に、妾はレインを責めるつもりなんてないぞ?」

「っ!? あの、今の言葉の意味は……?」

「うむ? そうじゃな、そのままの意味じゃぞ。妾としては、レインを責めるつもりなんて毛頭ないのじゃ」

「えっと……もう少し詳細を」

「くははっ、ちょっと意地悪がすぎたかのう。レインが気にしとるようじゃったから、ついついからかってしもうたわ」

ひとしきり楽しそうに笑い……それから、再び酒を飲む。

最後の一杯じゃなかったのか……

「今回の件で、ソラとルナがひどい扱いを受けたこと。そのことを、レインは自分のせいじゃと思っていること。それについて、妾は何も気にしていないこと……まとめると、こんなところじゃな」

「どうして……」

「どうしてわかったのか、ということを聞きたいのか? ふふんっ、伊達に長くは生きておらぬからな。子供の考えることくらい、簡単にわかるのじゃ」

100年以上生きているアルさんからしたら、俺は子供と同じか。

まあ、そうなるよなあ。

ついつい苦笑してしまう。

「長く一緒にいたわけではないが、レインが真面目な性格であることはわかるぞ。きっかけはわからぬが……今回の件を自分のせいではないかと気にしておる。ソラとルナ……他の皆を仲間にしなければ問題が起きることはなかったのではないか? そんな風に考えているのじゃろう?」

「はは、全部、お見通しですか……」

もう一度苦笑して……

それから、ため息と共に胸の内をさらけ出す。

「でも……それ、自分で気づいたわけじゃないんですよ。ちょっと色々とあって気付かされたというか……とにかく、俺は何も考えなかった。今回の件が起きた後も、気づくことなく、考えなかった」

「ふむ」

「みんながいることが当たり前になっていて……そのことに疑問を抱くことなく……危険な目に遭ったとしても、それは……はぁあああ」

言葉がうまくまとまらない。

代わりに、どうしようもない自己嫌悪を覚えて、ため息ばかりが出てくる。

みんなと出会い、一緒に旅をした。

冒険者として活動してきた。

互いのことを思い、絆を感じていた。

それは間違いないと言える。

しかし。

一緒にいることで、みんなを危険に晒していた。

今回の件がもっともな例だ。

俺がしていることは正しいことなのか?

本当にみんなのことを考えるなら、パーティーを解消した方がいいのではないか?

ユキに言われた言葉がきっかけとなり、そんなことばかり考えてしまう。

本当は、自分で気づくべきだった。

ユキに言われるまで気づくことはなく……いや、目を逸らしていたのかもしれない。

今があまりに心地良いから、幸せだから……

みんなに甘えていたのかもしれない。

俺は……

「これっ」

「いた!?」

ぽかん、とアルさんにげんこつをもらう。

意外と力が入っていて、ちょっとだけクラクラとした。

「な、なにを……?」

「その顔は、どうでもいいことを延々と悩み、迷っている様子じゃな」

「どうでもいいことなんて、そんなことは……!」

「どうでもいいことじゃよ」

あえて、アルさんは断言した。

「それは、つまらぬ考えじゃ。というよりは……おこがましい、というべきかのう」

「おこがましい……?」

「なぜ、レインが全ての責任を負う必要がある? 皆の保護者にでもなったつもりかのう? まあ、皆が年端も行かぬ子供なら、確かに責任はあるかもしれぬが……そういうわけではなかろう。皆、大人じゃ。自分の行動の責任は自分で負う。それが当たり前のことであり、レインが気にする必要はないのじゃ」

「ですが……」

「む? じゃが、ニーナという神族の娘は、まだ子供か。その点に関しては、多少の責任が生じるかもしれぬが……まあ、それでも、心は立派な大人じゃ。自身の行動の責任を自身で負う覚悟は決めておるじゃろう。それらについて、全てが自分のせいなんじゃ、というのはおこがましいというものじゃよ」

アルさんの言葉は俺の胸の深いところに響いた。

ただ、それだけで悩みが解消されることはなく、むしろ、より一層深い迷路に迷い込んだみたいで……

どうしたらいいのか?

俺は再び迷うことになった。