軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

254話 アリオスの過去

アリオス・オーランド。

男。

二十歳。

職業……勇者。

物心ついた時には、アリオスはすでに勇者として扱われていた。

大人はまだ子供であるアリオスに対して膝をついて、頭を下げた。

王族のような派手な暮らしが約束されていて、不自由は何一つない。

しかし、そんな生活を維持するためにしなければいけないことがある。

強くなることだ。

剣と魔法の訓練が毎日続いた。

最初の頃は休みなんてない。

毎日毎日、剣と魔法の練習が続く。

それは怪我をしても病気になっても変わることはない。

どんな時でも戦えるように。

絶対に死なないように。

そしてなによりも強くなるために。

アリオスは『力』を持つことを求められた。

子供には過酷な生活だ。

一日一時間ほどではあるが、わずかに自由時間も与えられていたが……

そのせいで周囲の人々の『普通の生活』というものを知ることになり、いかに自分が置かれている環境が異質なのかをアリオスは理解した。

理解した上で……

アリオスは、これはこれで悪くないと考えるようになった。

強くなれば贅沢な暮らしができる。

確かに、それは魅力的だ。

おいしい料理を食べることは楽しい。

貴族の遊びを嗜むことも楽しい。

ただ、それ以上に楽しいことがあった。

誰も彼も、自分に対して頭を下げるところだ。

厳しい訓練を課す一方で、まるで国賓のような待遇を受けていて……

訓練以外の時ならば、アリオスはさながら王のようであった。

誰もアリオスに逆らうことはない。

大人も子供も関係なく、皆等しく、アリオスの前では頭を下げる。

たまらない快感だった。

自分はまだ子供だというのに、誰もが自分を下に見せてくる。

これ以上ないくらい明確に、自分の方が立場が下なのだということを伝えてくる。

たまに、媚びへつらう者も現れた。

見え透いた邪な感情はやや不快ではあったけれど……

そういう者に限り、他の者以上にアリオスのことを持ち上げてくる。

これはこれでたまらない。

誰も彼も自分の前にひれ伏す。

全てを征服したような気分になった。

アリオスは子供ながらにそんな歪んだ考えを抱くようになった。

なってしまった。

そのことは周囲の大人達は気がついていた。

次第にアリオスの態度が増長してきたから、気づくのは簡単だった。

アリオスが周囲をどういう目で見ているか。

そして、どんな感情を抱いているか。

知りながらも、大人達は咎めることをしなかった。

注意することすらしない。

勇者であるアリオスを鍛えることはしても、その言動に口を出すことは許されない。

そんなことを本気で考えていたのだ。

そうして、アリオスは歪んだまま成長して……

自分は選ばれた存在であると、ことさら強く思うようになった。

勇者なのだ。

特別な存在なのだ。

平民などとは違う。

肩書だけの貴族とも違う。

唯一無二の存在であり、至高の存在なのだ。

そんなことを真面目に考えるようになっていた。

成人した後、勇者としての活動を始めた。

アッガス、リーン、ミナという仲間と共に魔物などと戦うことになる。

アリオスは初めて仲間という対等な立場の存在を得た。

彼、彼女らはアリオスのために用意された存在ではあるが……

周囲の人のように頭を下げるようなことはせず、対等の立場であることを強調した。

基本的にアリオスの行動に異を唱えることはしないが……

時折、口を挟んでくる。

それはたまらなく不愉快なことであり、アリオスは鬱陶しいとさえ思った。

なぜ勇者である自分が凡人の言葉を聞かなければいけないのか?

周囲の人のようにひれ伏し、ただただ自分の言うことを聞いていればいい。

最初のうちは勇者として活動するには必要なことだと、仲間の存在を渋々ながらも受け入れた。

口を挟まれるようなことがあっても、寛大な心で聞いてやった。

しかし、物事には限度というものがある。

彼、彼女らは事ある毎にアリオスの行動にあれこれと言うようになった。

それだけアリオスの行動に問題あるという証拠なのだけど……

アリオスはそのことを自覚することはなく、仲間のことを煩わしく思うようになった。

とはいえ、彼、彼女らを追放することはできない。

いかに勇者といえど、まだ自分は未完成だ。

至高の力を手に入れたのならば仲間など用無しであるが……

今はまだ必要だ。

ならば、どうすればいいか?

アリオスは一つの答えを導き出した。

仲間のせいでイライラする。

腹が立つ。

ならば、ストレスを解消できる要素を作り出せばいい。

そんなことを考えたアリオスは……レインを仲間に加えた。

ビーストテイマーなんてものに何も期待していない。

雑用係としてさえ期待していない。

アリオスがレインに求めるものはただ一つ。

ストレスをぶつけるための避雷針になってもらうことだ。

その後は……実に楽しい日々が続いた。

レインをコキ使い、頭を下げさせて……

不愉快なことがあれば、その鬱憤を晴らすようにレインをなじる。

幼少期から歪んでいたアリオスではあるが……

ここにきて、『他者をなじる』という行為に愉悦を覚えるようになった。

破滅的に性格がねじれてしまう。

そんなある日のことだ。

アリオスはレインに飽きるようになった。

どんな言葉をぶつけても、訓練と称していじめ抜いたとしても、レインは常にまっすぐと前を向いていて、折れることがない。

つまらない、と思った。

子供の頃に味わった、お気に入りのおもちゃを壊した時に得られる倒錯的な快感。

それを人間で味わってみたかったというのに……

レインはまったくへこたれないし、折れることがない。

もう飽きた。

アリオスは適当な理由をつけてレインをパーティーから追放した。

おもちゃなら、また適当なヤツを捕まえればいい。

今度はよりいじめがいのあるヤツがいい。

なにしろ、自分は勇者なのだ。

勇者パーティーに入りたいというヤツは山程いるのだから。

そんなことを考えていたのだけど……

予想外のことが起きた。

追放したレインと、ふとしたことから激突することになったのだ。

自分は勇者であり、人類で最強の存在だ。

たかがビーストテイマーごときに負けるわけがない。

アリオスはそう確信していたのだけど……

実際は、レインに負けた。

最強種と契約したレインは常識外の力を持つようになり……

手も足も出ることがなく、完敗だった。

その敗北が、アリオスの心を決定的に狂わせる。

なぜ、レインは倒されない?

なぜ、レインはひざまずかない?

なぜ、レインは牙を剥く?

なぜなぜなぜなぜなぜ!!!

アリオスは気が狂うほどに迷い、悩み、考えて……

ほどなくして、それは憎しみに変わる。

選ばれたはずの自分に屈辱を与えるなんて許されることではない。

レインは決して許されることのない罪を犯した。

万死以外にありえない。

勇者としてもてはやされてきたアリオスが、初めて……産まれてきて初めて、そのプライドを傷つけられた。

しかも、おもいきり。

それは本人が自覚している以上の傷となり……

アリオスの心に深く食い込む。

逆恨み以外のなにものでもなくて……

ただ単にプライドを傷つけられたという、つまらない理由なのだけど……

アリオスは浅はかな行動をとり、レインを殺すと決めた。

自分に牙を向いたことを死ぬほど後悔させてから殺すと決めた。

その結果は……