軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

244話 うごめく陰謀

「こちらです」

騎士団本部の外に出て、人混みの中に姿を紛れ込ませて追手を振り切り……

サーリャさまの案内で、小さな路地にある小さな家に移動した。

単身者用なのか狭い家だ。

ギリギリで二人が暮らせるかどうかという程度の広さしかない。

壁際に埃のかぶった硬そうなソファー。

それと、イスが数脚。

ひとまず、サーリャさまをソファーに座らせた。

それから手錠を外す。

「失礼しました」

「ふふっ、手錠をかけられるというのも新鮮な経験ですね」

冗談のつもりかもしれないが、今の状況だと笑えない。

「それで……どういうことなのか教えてくれませんか?」

「はい、わかっています」

笑顔を消して、サーリャさまは真面目な顔になる。

その表情には、俺に対するいくらかの心配の色が込められていた。

「一週間前のこと……レインさま達が殺人の容疑で逮捕されたという知らせを受けました。そのようなことはありえないと、私は独自に調査を進めたのですが……そのような必要はない、レインさまの罪は確かなものだ……と、アリオスさまにはねのけられてしまいました」

「なるほど……それで?」

「アリオスさまの態度には不自然なものがあり、まるで、レインさま達を犯人にしたがっているように思えました。なにかが隠されているに違いないと確信した私は、モニカにコンタクトをとりました」

「モニカ?」

「あ……最近、アリオスさまのパーティーに加えられた騎士です」

「……あぁ。そういえば、見慣れない顔がいたな」

女騎士のことを思い出した。

綺麗な女性だ。

ただ……

どこか無機質な目をしていて、時折、おそろしく冷たい目をしていた。

それ故に印象に残っている。

おそらく、モニカという騎士はアリオスを監視するために派遣されたのだろう。

パゴスの一件では、さすがにアリオスはやりすぎた。

そのことをよく思わない王などが、モニカを派遣したのだろう。

確認のためにサーリャさまに聞いてみると、その通りだと頷いた。

「モニカは、元は父の親衛隊で……基本的に、私達の味方なのです。なので、アリオスさまが隠しているであろう『なにか』についても知っているはずです」

「その口ぶりだと、まだ結論にはたどり着いていないんですか?」

「はい……モニカもアリオスさまを疑っているみたいですが、確たる証拠は得ていないらしく……引き続き、近くで様子を見ると言っていました」

「ふむ……?」

サーリャさまの言葉に少し違和感を覚えた。

モニカという騎士……元親衛隊というのだから、かなり優秀なのだろう。

それ故に、アリオスの監視役に選ばれたのだろう。

それなのに、アリオスの裏の事情を把握していないなんてこと、ありえるのだろうか?

よほどうまくアリオスが立ち回ったのか……

あるいは、俺達の予想はまったくの見当違いのところを向いていて、今回の件にアリオスは関わっていない?

……ダメだ、よくわからないな。

情報が足りない。

ひとまず、サーリャさまの話の続きを聞こう。

「その後、私は私で独自に調査を続けたのですが……すみません。私の方でも、これといって確たるものは見つけることができませんでした。ですが、レインさん達が犯罪を犯していないことは、王族の名にかけて断言できます。なので、せめて脱出の手伝いをしようと思い……」

「今に至る、というわけか……なるほど、よくわかりました」

「すみません、役に立たない王族で……私にもっと力があれば、レインさん達の疑いを晴らすこともできたのですが……」

「いえ。こうして脱出を手助けしてくれただけでも、相当にありがたいですよ。それに、どこで手に入れたのか知らないですが、アリオスは俺が殺人を犯している場面を映像に残していましたからね。あの証拠がある限り、いかにサーリャさまといえど、裁定を覆すことはできないでしょう」

「そう言っていただけると助かります」

サーリャさまは柔らかい笑みを見せた。

役に立てないと思い込み、後ろめたい思いをしていたのだろう。

でも、不思議だ。

「どうして、そこまでしてくれるんですか?」

俺はサーリャさまを助けたことがあるが……

だからといって、ここまでしてくれる理由にはならない。

サーリャさまは立場もあるだろうし……

一介の冒険者である俺に、ここまでしてくれる理由がわからない。

「そうですね……レインさんは、この国に必要な方になる。そう思ったから、というのが理由でしょうか」

「それは、どういう……?」

「すみません。私自身、勘と衝動に突き動かされている部分があるため、明確には説明できないのですが……レインさんは、この国の将来に必要な方だと思っているのです」

「そんな、買いかぶりすぎですよ」

「いいえ、私はそうは思いません。たぶん、父も同じようなことを考えていると思います。だからこそ、私を止めることなく、こうして自由にさせているのでしょう」

そんな大きなことを言われても……と、戸惑う部分はある。

でも、言い換えれば、サーリャさまは俺のことを評価してくれている。

認めてくれている。

不思議な気分だ。

かつては、役立たずとしてパーティーを追放されたのに……

今は王女さまから必要と求められているなんて。

ただ、こうして信頼を向けられることは名誉なことだ。

そのことは素直にうれしいと思えた。

「わかりました。とりあえず、そういうことで納得しておきます」

「協力は惜しみません。どうにかして、この事態を乗り越えましょう」

「はい、がんばりましょう」

さて……ひとまず、現状は理解した。

その上で、次はどんな手を打つか?

「みんなは……あっ」

ついつい、いつもの癖で、みんなに問いかけてしまいそうになる。

でも……当然だけど、返事はない。

みんなは囚われたままなのだ。

「……」

返事がないことで、俺が一人になっているということを改めて自覚させられた。

今までは、どんな困難に襲われたとしても、みんながいた。

カナデがいた。

タニアがいた。

ソラがいた。

ルナがいた。

ニーナがいた。

ティナがいた。

でも……今は誰もいない。

俺一人だ。

自然と手が震えてしまう。

正直なところ、孤独になることが……怖い。

一人でいることがたまらなく辛い。

「っ!」

俺は頭を振る。

本音を言うと不安だ。

怖くて怖くてたまらない。

でも、だからといって、立ち止まるわけにはいかない。

みんなは、まだ捕まったままなのだ。

ならば、どうするか?

俺が助けないと!

今まで、色々なところでみんなに助けられてきた。

仲間に支えられてきた。

それならば。

今度は俺が助ける番だ。

みんなを支える時だ。

ここでがんばらないと、いつがんばればいい?

今が前に進む時だ。

止まってなんていられない。

迷ってなんていられない。

不器用でも、無様でも、情けなくても……

がむしゃらに前に進まないといけない!

「よしっ」

気持ちを切り替えて、一つ、吐息をこぼした。

「ふふっ」

気がつくと、サーリャさまが柔らかい笑みを浮かべていた。

「えっと……どうしたんですか?」

「必要とあれば、レインさんを支えるつもりでいましたが……無用な気遣いでしたね。レインさんは、ご自分の力で立ち上がることができる、とても強い方でした」

「そんなことはないですよ。いつも仲間に助けられてばかりで、俺は強くありません」

「他のみなさんの力を借りることは、悪いことではありませんよ。一人でいるよりも、よほどすばらしいことだと思います。だから、謙遜することなく、私からレインさんに対する評価を受け止めていただければと思います」

「……わかりました」

さすがというか……

王女という立場にあるからなのか、とても深い視点を持っている人だ。

力を貸してくれたサーリャさまのためにも、今回の事件を無事に乗り切らないといけないな。