作品タイトル不明
221話 王と対面
その後、特に問題はなく旅は進み……
予定通り、五日後に王都についた。
王都はホライズンの何倍も広く、街の周囲全てが高い石壁に囲まれていた。
ところどころに入り口が設置されていて、不審者などが街に入り込まないように、逐一、騎士によってチェックされている。
俺達は、王族専用の出入り口から王都に入った。
サーリャさまの顔パスで、俺達も大して検査を受けることなく、王都に入ることができた。
この点はありがたい。
そのまま、サーリャさまと一緒に王城へ。
王城は王都の中心に位置していて、街の外壁よりもさらに高い壁と門によって守られていた。
出入り口は一つで、常に大量の騎士が常駐している。
守りは鉄壁というわけだ。
こちらもサーリャさまのおかげで、簡単に中に入ることができた。
カナデやタニアを見て、騎士達が何事かと不思議そうにしていたが……
それでも、軽いチェックを受けるだけで王城に入ることができた。
改めて、サーリャさまが王女であることを思い知る。
第三王女とはいえ、その権力はとても大きい。
まずは客間に案内されて、そこでサーリャさまと別れた。
王に話を通すらしく、それまではここで待機していてほしい、とのことだ。
「わー、すごい部屋だねえ」
「この部屋だけで、ウチと同じくらいの広さがない?」
さすがというべきか。
カナデとタニアは物怖じすることなく、客間を散策していた。
細かな細工が施された家具や調度品を見て、ほうほうと妙な唸り声をあげている。
対する俺は、彼女達ほど自由にしていられなくて……
「おー? レイン、どうしたのだ? なんだか、妙な顔をしているぞ」
「もしかして、緊張しているのですか?」
ソラとルナが俺の様子に気がついて、声をかけてきた。
「緊張するレインなんて、初めて見るのだ」
「あのな……俺だって、緊張する時はするぞ」
助けたお礼をしたいということで、王城の中にまで付いてきたのだけど……
王と面会するというのは予想外だった。
てっきり、サーリャからお礼の言葉をもらい、それで終わりだと思っていたのだが……
「王族として、そんな適当なことはできません」と反対されてしまい、王から直接言葉をもらうことになったのだ。
胃が痛い。
俺は、そんなことまで求めていないんだけどな……
「まあ、仕方ないですよ。王女さまを助けたとなれば、国を治める王としては、言葉をかけないわけにはいきませんからね」
「むしろ、当然のことだと思うぞ。そこまで考えて、レインはあの王女を助けたのかと思ったのだ」
特に考えなしに助けてすみません。
「ん……私は、レインは良いことをしたと……思うな」
「せやで。後先考えないところはちと反省点かもしれんが、それでも、迷うことなく人助けをできるところは、レインの旦那の良いところや」
ニーナとティナが、そうフォローを入れてくれた。
「失礼します」
扉がノックされて、騎士が顔を見せた。
「準備が調いましたので、謁見の間へお越しください」
いよいよだ。
緊張しながら、俺は客間を出た。
――――――――――
「面を上げよ」
頭を伏せていた俺達は、王の言葉にそっと顔を上げた。
この大陸を治める主、アルガス・ヴァン・ロールリーズの姿が見えた。
歳は60を過ぎていると聞くが、その身にまとう覇気は老人のそれではない。
歴戦の戦士というもので、こうして対峙していると圧さえ感じる。
王は玉座に座り……その隣に、サーリャさまの姿があった。
旅をしていた時とは違い、ドレスや宝石で身を飾っている。
ついつい見惚れてしまいそうになるほど綺麗だ。
「サーリャから話は聞いた。魔物から助けてくれただけではなく、不忠者を捕えるのにも力を貸してくれたそうだな? 礼を言うぞ」
「はっ、もったいないお言葉」
王の言葉を受けて頭を下げた。
それを真似するように、他のみんなも頭を下げた。
カナデやタニアなんかは、「人間の作法なんて知らないんだけど」と言い出さないかと不安に思ったが……
そんなことはなくて、きちんと礼儀正しくしてくれていた。
「そなたのおかげで、思っていたよりも早く不忠者をあぶり出すことができた。目的を果たすことができた。褒美をとらせよう。なにがいい?」
王の言葉に引っかかるものを覚えた。
あぶりだす? 目的?
その言葉の意味を考えて……
ほどなくして、ある仮定にたどり着いた。
ただの俺の妄想かもしれないが……
しかし、不思議と間違っているという気はしない。
これが正解のような気がした。
だとしたら、俺は……
「……褒美の代わりに、一つ、質問をいいですか?」
「うん? なんだ?」
「もしかして、王は……サーリャさまの身辺に、その身を狙う者が混じっていることに気がついていたのでは?」
「ほう」
王はおもしろそうなものを見つけたような顔をした。
みんなは後ろなので顔は見えないが、驚いているような雰囲気が伝わってきた。
サーリャさまは……顔色を変えることなく、静かな笑みを携えていた。
「この儂が、娘を狙う者をあえて護衛につけていたと……そう言いたいのか?」
「はい」
「ふむ、断言してみせるか。どうして、そのように思う?」
「それは……」
サーリャさまが機密性の高い公務のため、少数の護衛のみを連れて城を離れることになった。
その護衛として、サーリャさまを狙う暗殺者が選ばれた。
しかも、暗殺者は一人だけではなくて……全員だ。
いくらなんでも、こんな偶然あるだろうか?
国は暗殺者の素性を見抜くことができず、王女を暗殺してくれと自分から言っているようなもので……無能極まりない。
しかし、王は無能な者ではない。
こうして対面してわかるが、賢く、強い人だ。
そんな人が、娘の護衛に暗殺者を選ぶわけがない。
でも……あえて、暗殺者を選んだとしたら?
慎重で尻尾をなかなか掴ませない暗殺者に絶好のチャンスを与えて、わざと泳がせていたとしたら?
そう考えると辻褄が合う。
ようするに、この王は……
実の娘を餌にして、国に巣食う背徳者をあぶり出そうとしていたのだ。
おそらく、俺が助けに入らなくても、どこかでサーリャさまを救出して、一網打尽にする作戦だったのだろう。
「ふむ、なるほど」
俺の考えを伝えると、王は軽く笑う。
こんな時なのに、楽しそうにしていた。
「貴様っ、王に対してそのようなことを……!」
「無礼であるぞ、打首にされたいか!?」
王の側近達は声を荒げるが、それに怯む俺ではない。
「おもしろい考えだ。ほころびもない。しかし、証拠はないな?」
「そうですね、証拠はありません。ですが、王とあろう方が言い逃れをするのですか?」
「ふむ」
「俺の妄想ならば、この身をかけて償いましょう。ですが、そうでないというのなら……」
「ならば?」
「サーリャさまに謝罪してください」
「……」
王の目が丸くなる。
「おそらく、サーリャさまも承知の上の作戦だったのでしょう。でなければ、柔軟に対応することはできませんからね。ですが……親が子を利用するなど、国のためであったとしても、許されることではないと考えています」
「言ってくれるな、小僧」
圧が強くなる。
まるで最強種と対峙しているかのようだ。
それでも、俺は言葉を止めない。
「サーリャさまが承知していたとしても……思うところはあったはずです。体は傷ついていなくても、心は傷ついたはずです。だから、謝罪してください。それが、俺が望む報酬です」
「このっ……」
「よい」
俺を打ち首にするためか、側近が前に出ようとしたが、王に制止された。
王はじっと俺を見据えて……
やがて、豪快に笑う。
「はははっ、おもしろい。実におもしろい。この儂を相手に、ここまで言うとは……久しぶりだな、このような痛快な気分になったのは」
「お父さま……?」
「サーリャよ、お前が連れてきた冒険者はとてもおもしろいな。このような者がいたなんて……くくく、世界は広いというべきか」
よくわからないが……
打首覚悟で発言したのだけど、逆に気に入られてしまったみたいだ。
王はひとしきり、楽しそうに笑い……
それから玉座を立ち、サーリャさまに向けて頭を下げた。
「すまなかったな、サーリャよ」
「お、お父さま……!? そんな……今回のことは私も納得済のことですから。国のためにこの身が役立つのならば、喜んで協力いたしますわ」
「良い王女に育ったな。しかし、良い子すぎるから、ついつい甘えてしまう。儂のしたことは、その冒険者が言うように間違っていることなのだ。他の者の身を守るためにも、早く背徳者をあぶり出さなければと思い、今回の作戦を実行したが……もっとやり方があったかもしれん。反省している」
「お父さま……」
やはり、サーリャさまなりに思うところがあったらしい。
王の謝罪を聞いて、サーリャさまはうれしそうにした。
「さて……」
王は改めて玉座に座り、こちらを見た。
「これでいいか? 冒険者よ」
「はい、失礼しました」
「よい。このような機会を作ってくれたこと、感謝している。故に、そなたに与える罰などはない。よいな?」
王が側近達に言い聞かせるように、そう言った。
「今夜は城に泊まっていくといい。サーリャを助けてくれた礼を改めてしたい」
「はい。では、お言葉に甘えて」
「そういえば……名前を聞くのを忘れていたな」
「失礼しました。レイン・シュラウド、といいます」
自分の名前を口にした瞬間、王の顔色が変わった。