軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第72話 人材紹介業?

「えっ? ハンクが冒険者を引退したのか?」

「ええ、魔物に大怪我を負わされてしまって……。私も若くないし、次の人生を考えないといけないの」

「それなら、こんな仕事はどうだ?」

「随分と条件がいいけど、本当にいいの?」

「そうか? バウマイスター辺境伯領だと、わりと普通の仕事だぜ。開拓民だから、それなりに大変だし」

「夫も完全に戦えなくなったわけじゃないし、現地の農民たちに基本的な戦い方を教えることはできる。広大な農地も貰えるから、悪くないどころかいい仕事だと思う。私も夫も実家は農家だし、農業を教えてくれる指導員もいるって書かれてるから」

「その代わり、ここからはるか南方のバウマイスター辺境伯領に引っ越すことになるけどさ」

「それは特に問題ないわ。私たちは王都が故郷ってわけでもないし、故郷に戻っても、継ぐ農地なんてないんだから」

久々に、以前一緒に仕事をした女性冒険者から連絡があり、あたいは王都で彼女の相談を聞いていた。

旦那が王都まで、『瞬間移動』で連れてきてくれて助かったぜ。

王都の喫茶店で話を聞くと、同業者の夫が魔物に大怪我を負わされ、冒険者を引退しなければいけないのだとか。

そこで、もう若くはない自分も冒険者を引退することを決め、次の仕事を探しているという。

そこであたいは早速、開拓民の仕事を紹介した。

この仕事は、土地だけは大量に余っているバウマイスター辺境伯領で農業をするだけの仕事だ。

すでに農家を引退した老人の指導を受けながら、魔族が作った農業用の魔道具を使って広大な田畑を耕す。

耕した土地はすべて自分のもので、最初は農業用の魔道具も無料で貸してくれる。

購入する際には、ローンを組んで購入することもできた。

素晴らしい条件に思えるが、バウマイスター辺境伯領は魔物の領域でなくても、野生動物の脅威があった。

あいつら、駆除しても駆除しても田畑の作物を狙ってきやがる。

だから、魔物と戦ったことがある元冒険者なら大丈夫だと思って勧めたんだ。

「動物は罠でも対応できるし、私はまだ現役だから。カチヤ、お願い、紹介して」

「任せてくれ」

「ありがとう。実は、他にも冒険者からの引退を考えている人たちがいるんだけど、次の仕事が見つからない人がいて。紹介してもらえないかしら?」

「いいぜ」

「私たちを邪魔者扱いして追い出した実家よりも、はるかに広い農地を持てるのがいいわね。そろそろ子供も欲しいから、頑張って働くわ」

旦那のアイデアなんだけど、元冒険者を開拓民にするのはいい考えだと思う。

広い農地を無料で貰えるのはいいんだけど、とにかく害獣が多くて、普通の農民だと厳しい土地が多かったんだ。

農民の中にも狩猟に長けた人はいるけど、いくら駆除してもあいつらは減らないし、田畑への被害も大きい。

元冒険者なら、近隣の農民たちに害獣との戦い方を教えられるという利点もあった。

農業技術については、元々農家の出の人が多いし、指導員がいるから問題ない。

「カチヤの顔が広くて助かるよ」

「そうかな?」

相談が終わったあと、旦那と護衛のエルヴィンでレストランに移動した。

たまには王都で外食ってのも悪くない。

あたいは色々な冒険者パーティを渡り歩いてきたから知り合いは多い方だけど、旦那の方が顔が広い気がする。

『元冒険者を開拓民にする。この方針で進めて、さらに農地を広げるんだ。カチヤ、引退しそうな冒険者を紹介して』

旦那に頼まれて、あたいは冒険者を引退するつもりだけど、次の仕事が見つからない人たちに開拓民の仕事を紹介していく。

バウルブルクの冒険者ギルドも頑張ってくれて、開拓民が続々と未開地に入っていった。

「カチヤは、人を見る目があるよな。問題を起こす元冒険者がほとんどいない」

「問題を起こしそうな人は紹介していないから」

誰彼構わず紹介してしまうと、かえって仕事が増えてしまうからだ。

旦那に迷惑をかけてしまうし。

「駄目そうな人を弾いて、大勢を紹介できるカチヤの顔の広さは凄い」

「ヴェルの冒険者繋がりの知人、友人は少ないからなぁ……」

「大きなお世話だ!」

「エルヴィン、旦那が下手に冒険者の交友関係を広げると、かえって面倒なことになるぜ」

「それはわかっているさ」

旦那と仲良くなった途端、『俺をバウマイスター辺境伯家の重臣にしてくれ!』なんて言い出しかねないからだ。

旦那は今も定期的に冒険者として活動しているから、あたいとエルヴィンたちが、嫌われ役をしながら上手くガードしている。

「あたいやエルヴィンが判断するのは、残念な知り合いの恨みをあたいたちに向けるためなんだから」

「それはそうなんだけどな」

変な奴をバウマイスター辺境伯領に入れてしまうと、かえって足を引っ張られる。

だから仕事の斡旋を断るケースも少なくないんだけど、旦那が直接言うと角が立つ。

あたいやエルヴィンたちが断って、彼らに憎まれるのも仕事のうちってやつさ。

そんなわけで今日のあたいの用事は無事に終わり、知り合いの元冒険者たちに開拓民の仕事を紹介することができた。

「それにしても、狩っても狩っても害獣はいなくならないよな。凄い生命力」

「俺がすべての開拓地に出向いて、害獣を狩るなんて不可能だしなぁ」

「いくら旦那でも、バウマイスター辺境伯領すべての開拓地に出没する害獣をすべて駆除するなんて不可能だって」

だからあたいやエルヴィンたちが、害獣を狩る能力がある元冒険者たちを、開拓民として送り込んでいるのだから。

「カチヤ様のお顔が広くて助かりました。害獣の多さは面倒ですが、それさえ解決できれば悪くないお話ですからね」

屋敷に戻ってから、ローデリヒさんに新しく開拓民になってくれるあたいの知り合いについて報告すると、とても嬉しそうな表情を浮かべた。

ある程度、旦那やバウマイスター辺境伯領警備隊が害獣を駆除した農地を欲しがる人は多いけど、広大な農地は貰えるが、しばらくは攻め寄せる害獣との戦いが続く、開拓民に志願する人は少なかったからだ。

「そうでなくても、バウマイスター辺境伯領の害獣たちは大きくて凶暴ですからね。元冒険者くらいでないと、なかなか相手にできませんよね……」

リーグ大山脈を境に、魔物ではない普通の動物が大きいんだよ。

旦那の実家が、領地を広げられなかった理由がよくわかるというか。

「バウマイスター辺境伯領の開拓は、まだまだこれからですよ。」

「でもさぁ、あたいもそろそろ知り合いの弾切れだぜ」

このところは、旦那やエリーゼたちとしか狩猟、採集に出ていないから、冒険者と知り合う機会が少ないんだよなぁ。

いい知り合いは、ほぼ紹介し尽くしてしまった。

残っている知り合いは、問題がある人が多くて紹介しづらい。

「となると、あとは冒険者ギルド頼りですか……」

ローデリヒさんが肩を落とす理由が理解できる。

冒険者ギルドは、引退する冒険に様々な仕事を紹介しているが、とにかくどんな仕事でもいいから急ぎ次の仕事に就かせ、生活を安定させようと無茶をする傾向があるからだ。

合わない仕事に無理やり就かせた結果、すぐにやめてしまったり、雇用先とトラブルを起こしてしまったりと。

当然それを指摘する人たちもいたが、これまでずっと惰性で効率の悪い仕事紹介が続いていたため、聡い冒険者ほど、引退しても冒険者ギルドの再就職先の斡旋を利用しないって聞いたことがある。

「(冒険者ギルドから元冒険者を紹介してもらうと、当たりハズレが多いから、ローデリヒさんは嫌なんだろうな)」

でも、あたいの紹介にも限界がある。

知り合いの、まともな元冒険者は全員紹介してしまったから。

「カチヤ様、なんとかなりませんか?」

「なんとかって……」

「カチヤの知り合いから、まともな元冒険者を紹介してもらえば? まともな人の紹介なら、ヤバイ人が紹介される可能性は少ないんじゃない? 少なくとも、冒険者ギルドの紹介よりはさ」

「お館様、それはいいアイデアですな。カチヤ様、お願いします」

「可能な限りやってみるよ」

こうしてあたいは、開拓民のみならず、ローデリヒさんが求める経験やスキルを持つ元冒険者を知り合いから紹介してもらい、その人に仕事先を斡旋する仕事を始めた。

「自分、弓の腕前には自信があります。ですが、開拓民には向かないと思います」

「それなら、開拓地に在駐する警備隊の兵士の仕事があるぜ。害獣を駆除しながら、空いている時間に新人に弓を教えるんだ」

「それならできそうです」

「じゃあ、ローデリヒさんに紹介するよ」

「複数のパーティが所属するクランで、経理や雑多な雑務なんかをやっていたんですけど、腕っ節の方はサッパリで、こんな僕にも仕事はあるのでしょうか?」

「あるって。新しくできた開拓村に駐屯する警備隊の経理や事務の仕事があるぜ」

「紹介していただけますか?」

「ハミルトンさんが、あんたのことには太鼓判を押していたから紹介するよ」

「ありがとうございます」

このところ、知り合いに紹介された元冒険者や、これから冒険者を引退する人とばかり面接している気がする。

旦那の言っていたことは正しく、彼らを紹介してくれた知り合いも変な人をあたいに紹介できないから、ほぼハズレはいないな。

たまにいるけど、それは面接で少し話すと大体わかるしな。

「カチヤ様、俺の後輩たちが冒険者を引退するんです。なにか職を斡旋してもらえませんか? 特に優秀ってわけじゃないけど、真面目にずっと同じパーティでやってきた連中なので」

「本人たちにやる気があるのなら、開拓地で害獣と戦いながら、大地主ってコースがあるぜ」

「ちょっと聞いてみます」

「カチヤ様、今週新規採用の面接があるのですが、拙者の代わりに参加してもらえませんか?」

「どうしてあたいが?」

「カチヤ様って顔が広いのに、あまり変な知り合いがいないじゃないですか。ヤバそうな人を見分けるのが上手そうなので」

「あたいに、優れた人を見分ける能力なんてないぜ」

「優秀な人は、割と誰にでもわかりますし、今のバウマイスター辺境伯家に必要なのは、普通に仕事をしてくれるまともな人です。和を乱す変な人を弾ければいいんです」

「あたいでいいのなら」

「カチヤ様、お願いします」

このところ、バウマイスター辺境伯家の人事の仕事を任されるようになったけど、いくら人手不足でも、あたいがやっていいものなのかね?

※※※※

「ローデリヒ、カチヤのおかげで変な人が入ってこなくなってよかったな」

「人手不足だから基準を甘くして採用してしまうんですけど、結局そういう人のせいでかえって仕事が進まなかったり、まじめに働いている人の足を引っ張るし、一度雇ってしまうと、辞めさせるのに手間とお金がかかるので、本当にありがたいですよ」

最近カチヤが、企業の人事採用担当者に見えてしまう。

そういえば俺も、大学四年の時に採用面接で……まあ今の俺は社長のようなものだからな。

過去のトラウマは忘れて、気は大きく持とう。

「お館様、新規開拓地の件ですけど、カチヤ様のおかげで開拓民の目処がついたので、さらに広げていきましょう。お館様の魔法で」

「……」

なにをどうしても、結局俺の仕事は減らないってことかい!