軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百五十三話 統一、陞爵、他いろいろ。

「宋家? 誰それ? どこに領地があるの?」

これで統一と思ったら、まだ残っている領主がいるそうだ。

クジ引きで初代南部代官になった島津貴久が、俺にまだ服属していない領主がいると教えてくれた。

「宋家の領地はここです」

アキツシマ島南部には、比較的広めの砂浜がある。

たまに海竜が来るので危険はあるが、島津家はここで製塩業を営み、ここで製塩された塩は中央まで運ばれているそうだ。

「この南海湾はちょうど真円状の 内海(うちうみ) でして、南側の狭い海峡のみで外海と繋がっているのです」

その特殊な地形ゆえに広大な砂浜を有し、製塩業が盛んであった。

たまに狭い海峡を通って海竜が襲来するが、島津領の男達は製塩設備を守るために命をかけて戦う。

そのため、彼らは精兵としても有名であった。

これからは、製塩や漁業にのみに従事できるように改革を進める予定だが。

「この内海の真ん中に島があるのです。人口は百人ほどですかね?」

「島津領ではなかったのか?」

「それが、独立した領主がいるのです。うちもそうですが、どの大領主にも服属しませんね。当代の当主が中級魔法使いで、余計に島津家には従えないと」

人口百人……ほぼ村の規模で独立精神が旺盛。

何か、面倒なので放置したくなってきた。

「お館様、そういうわけにはいきませんよ」

「最後の仕事かぁ……」

相手は人口が百名ほどだ。

降伏させるのなら、千人もいれば……いや、もう軍縮したいから五百名で十分だろう。

俺達は、宋家の領地がある島へと船で上陸した。

「ヤシの木ばかりだな」

「この島の特産はヤシの木ですので。身の中に入っているジュースを飲むくらいで、中央の金持ちが心もち高めに購入するくらいですね」

「それは勿体ないな」

ヤシの木を増やして大農園を作れば、新しい産業になるのに。

「来たな! 侵略者よ!」

上陸して島を見学していると、突然大きな声で侵略者扱いされてしまった。

声の方向を見ると、そこにはミズホ服に腰ミノという奇妙な格好をした色黒の青年がいる。

気配を探ると魔法使いなので、彼が宋家の当主なのであろう。

「……。ヴェル様、変」

「あの腰ミノに何か意味はあるのかしら?」

「変だよね」

「あの家の決まりなのかもしれませんわ」

「ええと……とても個性的ですね……」

和服風のミズホ服……この島だとアキツシマ服というらしい……に腰ミノ姿なので、宋家の当主である色黒の若者は全体的にどこかチグハグな印象を受ける。

ヴィルマ、イーナ、ルイーゼ、カタリーナ、エリーゼ。

一緒にいる女性陣は、みんな彼の格好が変だと言った。

エリーゼはあからさまに批判しないで個性的と言っているが、個性的は変の同義語であろう。

「これから躍るのですね」

危険も少なかろうという事で俺についてきたルルが、宋家の当主を見て言う。

確かに腰ミノは、ハワイとかバリ島に行くとダンサーがつけている物によく似ていた。

「ルルの島でも、年に一度お祭りで腰ミノをつけて躍るんです」

「収穫のお祭りとか、そんな感じかな?」

「はい。その時には料理も一杯出ますよ」

南の島の収穫祭なので、腰ミノをつけて躍るのであろう。

ルルはヘルムート王国人と人種的に違いはないが、宋家の当主は日焼けしているが日本人風である。

つまり、アキツシマ島の住民と人種的に差はなく、なぜ腰ミノなのかという疑問が残ってしまう。

そして、彼は言動も変だった。

「このぉーーー! 超絶天才魔法使い! 『宋家の旋風』と呼ばれる俺様に何か用か?」

「貴久、彼はそういう二つ名で呼ばれているのか?」

「いえ、今初めて聞きました」

「……そうか……」

今、この場で決めたっぽい。

何というか、とてもキャラが濃い人のようだ。

「念のために聞いておくけど、島津家と宋家との関係というか、立ち位置はどうなんだ?」

「距離は置いていますね。何と言いますか、宋家の当主はああいう感じの者が多くて……」

宋家は内海の島に領地がある。

昔は島津家も、何度か服属を迫ったり、兵を出した事もあったそうだ。

「兵を集めて攻めると降伏はします。ですが……」

『やっぱり嘘だよぉーーーん! バーーーカ!』という感じで……代々の宋家の当主は、そういうノリの者が多いそうだ……すぐにまた独立してしまう。

それでまた兵を送ると降伏するが、兵を退くと独立してしまい、兵を送るのも無料ではないし、交易品はヤシの実くらいなので、段々と無理に服属させなくてもという空気になってしまったそうだ。

「我ら島津家の後背を突けると、大友、竜造寺、毛利も服属させようとした事もありましたね。まあ、無駄だったのですが……」

『宋家は、何者にもつかず!』と言い放ち、宋家とはそういうものという空気が南部に広がって行った。

放置しておけばヤシの実の交易も普通にできるので、今では誰も宋家を降そうとは思わなくなった。

これが、宋家の現状というわけだ。

「お館様の手腕に期待しております」

……島津貴久、随分と素直に降ったと思ったら、バウマイスター伯爵家のお手並み拝見とはいい度胸だ。

彼を降す事ができたら、心からバウマイスター伯爵家を認めるというわけか。

「このぉ! 超絶天才魔法使いぃ! 宋家の旋風に勝てる奴はいるのかな?」

何だろう?

こいつ、喋り方がウザい。

他にも色々と理由はあるけど、島津家が関わり合いになりたくない理由がよくわかった。

「誰か戦いたい人は?」

「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」

誰も手をあげなかった。

導師ですら嫌がっている。

きっと変な人だからであろう。

あと、喋り方が何かムカつく。

「俺が相手をする。負けたら降れよ」

「そうだなぁ、考えてやらないでもないなぁ」

本当、こいつウザいな。

「……」

「始めるか?」

「おうっ!」

時間が勿体ないので、早く降す事にしよう。

領主同士で魔法勝負を行い、降して降伏させる。

この島ではよくある戦であった。

「なぜぇーーー! この俺が宋家の旋風と呼ばれているかぁーーー!」

「自称でしょう?」

イーナ、それは事実だけど、そこで妙なツッコミを入れないでくれ。

「自称ではなぁーーーい! 我が領民で可愛いハナちゃんがつけてくれたのだぁーーー!」

ほら、こいつ反論しないと気が済まないから。

時間がもったいないので、とっとと終わらせてしまうに限るのだ。

「ちょーーーぉとくらい、魔力が多いくらいで俺に勝てるかなぁ? いかにぃ、魔法の威力が凄くてもぉ! 風と同じ速さで動く俺はぁーーー!」

宋家の当主は、風系統の魔法を得意とするようであった。

カタリーナとは違って『竜巻』は用いず、極限まで速度をあげて敵の魔法を回避、相手に素早く接近して攻撃するタイプのようだ。

「あーーーはっはっ! この俺の姿がぁーーー見えるかなぁーーー! いかにぃ、魔力が多くてもぉーーー! 当たらなければ意味ががぁーーーあーーーっ!」

これ以上聞いていると頭が痛くなりそうだったので、俺は彼の移動位置を予測、そこに風の塊を作って罠として配置した。

宋家の当主はそれに真正面から激突し、そのまま海へと飛ばされてしまう。

彼のスピードも利用した攻撃だったので大分沖合いまで吹き飛ばされたが、あいつなら死なないという確信はあった。

「殿ぉーーー!」

「あいつ、自分の事を殿って呼ばせているのかよ……」

ブランタークさんが呆れるのも無理はない。

殿よりも、村長といった方が正しかったからだ。

「さて、これで天下統一だな」

宋家も無事に降り、これでようやくアキツシマ島は統一された。

これにより島から一切の戦が消え、島内の発展にも期待できる……と思っていたら……。

「お館様、宋家が独立しました」

「……」

ウザイ奴だが、決まりなので降伏した彼を旧領の代官にして大津に引き上げたが、わずか数日で再び宋家が反乱したと雪が報告を持ってきた。

「あの野郎……」

喋り方はウザイし、一見アホそうに見える宋家当主だが、実はかなり賢いようだ。

彼の領地は人口百人ほど、特産品はヤシの実のみ。

ここを、逆らう者達を殺してでも支配する意味はない。

この島の戦には特殊なルールがあり、宋家の当主はそれを最大限に利用して領地の独立を維持しているのだ。

「再び討伐しますか?」

「そうだな」

「兵力はいかほど?」

「兵力は出さないよ」

「ですが!」

「それも宋家の狙いなんだよ」

侵略者が何度も兵力を率いて宋家を攻めても、手間と費用ばかりかかって無駄になってしまう。

本腰を入れて支配する価値もない領地のため、島津家も他の領主達もすぐに諦めてしまったというわけだ。

「兵力を整えるだけ無駄だな。雪は常備兵力の再編と、訓練と称した開発の手伝いの方を頼む」

この島は統一された。

常備兵力を減らし、島の開発に人員を振り分けないといけない。

領民は戦に駆り出される事もなく、生産性も上がる。

生活が豊かになれば、バウマイスター伯爵家が異民族でも問題にする者は少なくなるであろう。

「承知いたしました」

「じゃあ、行ってくる」

まるで奥さんに対し仕事に行ってくると言うような感じで、俺は宋家の領地である島に『瞬間移動』で飛んだ。

「どうだ?」

「原種が多いね。土地の利用し方も不効率だし、もっと生産量を上げられるんだけどなぁ……」

「魔族の国にヤシの木があるんだ」

「気候の関係で路地だと栽培できないから、温室で限定生産だね。ヤシジュースを販売しているところがやっている。品種改良も進んでいるし、園芸用で苗も売っているよ」

「ヤシの木を園芸で育てるのか」

今日の宋家攻めには、モール達を連れてきた。

兵力など必要ないので、この島をいかに開発するか、彼らに判断してもらうためだ。

この三人、農業の素人だったのに短期間でよく勉強したものだ。

元々頭はよかったし、職も得られて、今度結婚するから頑張っているのであろう。

結婚費用になる遠隔地手当てのために。

「旧島津領でも、ヤシの木の栽培に適している土地は多いね。水は中央ほどじゃないけど豊富な場所が多いけど、ちょっと稲作に向かない土地が多いかな。イモでも作ればいいさ」

「野菜も種類によってはいけるかな?」

「この島は、黒硬石の上に堆積した砂や土が載っているから、土壌が少し貧弱なのが欠点だな。バウマイスター伯爵領は、逆にあんなに農業に適した土地はないよ」

モールの説明どおり、バウマイスター伯爵領は水も多くて稲作に向いている土地が多い。

他の作物も問題なく作れ、寒くならないし、日もよく当たる。

確かに、農業には非常に適した土地であった。

「この島も気候は悪くない。水も井戸を掘れば出てくるし、中古の海水ろ過装置も大量に導入する予定だからね。島だからちょっと土壌が貧弱だね。どこから土でも持ってこようかな?」

「それがいいかもしれないな。あとで正式に魔王様に依頼しようかな?」

「そうしてくれないか。俺達も会長の許可なしでは動けないからね」

俺も概要が理解できないわけではないので、宋領がある島を視察しながらモール達とこれからの開発計画を相談する。

魔族をお抱えにすると、技術と知識があるので効率がいい。

向こうの国で不良在庫やゴミ扱いの魔道具だって、この島やバウマイスター伯爵領ではとても役に立つものなのだ。

「おい! お前ら!」

「えっ? 何?」

人の島で勝手にこれからの開発計画を相談していたので、やはり宋家の当主であるこの色黒の若者はキレてしまったようだ。

まあこいつがいくら怒ろうと、俺達は仕事を効率的にこなそうとするだけだ。

つい二日前に魔法勝負で勝利して海に叩き込んでやったのだが、懲りずに反抗してきてウザかったのだから。

「もう少しで相談が終わるから、少し待ってくれ。すぐにお前に相手をしてやるから。寂しいのはわかるけどさ」

「この野郎! 人を友達がいない可哀想な奴みたいに言うな!」

「誰もそんな事は言っていないじゃないか」

でも、宋領の人口は百名ほど。

領主である彼につき従う家臣もなく、実はこの男。

子供の頃の俺よりもボッチなのか?

「バウマイスター伯爵、彼が旧宋領の当主なの?」

「魔族! 人を勝手に元領主にするな! 宋領は再び独立を果たしたのだ!」

サイラスに元領主扱いされた、宋家当主の青年が激高する。

自分はまだ領主のままだと、大声で主張する。

「一旦降っておいて、それはないよなぁ……。なら、降らないで領地に殉じたら?」

「サイラス、お前、怖い事を言うな」

「領主同士による魔法勝負や一騎打ちで勝利した方が講和で有利になったり、勝った方に服属。犠牲を出さないいいシステムだけど、こういうルール無視の例外は、処分しちゃっていいと思うよ」

「ルールが機能しなくなっちゃうからね。そのリスクを考えると、統一の過程で一人くらい死んでも許容範囲?」

サイラスに続けて、ラムルも宋家の領主に厳しい意見を言う。

「お前ら余所者が、この島の決まりにケチつけるな!」

「その決まりを破っているのは君じゃないか。そこのところはどう思っているの?」

学のあるモールは、理論的に宋家の当主の駄目な点を指摘した。

「うるさい! 俺はこの宋領を必ず守ると、両親に誓ったのだ!」

これはもしかすると、この若者は亡くなった両親のためにこの領地を守ると誓い、魔法の勝負を俺に挑みで負けてもすぐに反抗していたのか?

亡くなった両親のためか……。

その点は同情できるな。

「両親の遺言なのか」

「こら魔族! 人の両親を勝手に殺すな!」

こいつ、本当に腹立つな。

両親はまだ生きており、この息子に宋領を守るように命令しているというのが正しいようだ。

「とにかくだ! 俺様は諦めないぞ! バウマイスター伯爵、尋常に勝負!」

「またかよ」

「またかよとか言うな!」

とは言いつつも、どうせ勝負しないといけないのは同じだ。

とにかくこいつが心から敗北を認めなければ、何度破れてもすぐに反抗してしまう。

昔の偉い人が言っていたが、心を屈服させないと駄目なのだ。

「今度負けたら降れよ?」

「さ~~~あなぁ~~~」

こいつ、本当に殴りたくなってきた。

「それとだな! バウマイスター伯爵」

「まだ何かあるのか?」

「俺様の名は、宋義智様だ! 超絶天才魔法使いにして……「ああ、それはもういいから」」

名前は立派なのに、行動が残念すぎる。

これ以上前と同じ口上を聞かされても、退屈だし時間の無駄だ。

また速攻で倒してしまおう。

「俺をバカにするぅーーーと! お前は、必ず後悔するぞぉーーー!」

前と同じく、彼は勝負で興奮するとこういう口調になった。

癖なのであろう。

今度は魔力をほぼ使った巨大な『竜巻』を作り、それで俺を攻撃しようとする。

というかこいつ、『竜巻』も使えたんだな。

その威力は絶大で、島に植わっているヤシの木から実が取れて上空へと飛ばされて行った。

「若! ヤシの木はうちの島の命綱じゃないですか! 魔法勝負なら他所でしてくだせえ!」

「すまん……あと、俺は領主なんだが……」

義智は外の人間には威張っていたが、領内では意外と立場が弱いらしい。

魔法の『竜巻』でヤシの実を飛ばしてしまい、木の持ち主であるお爺さんに怒られていた。

それにしても、領主なのに領民から怒られる奴は珍しい。

「まだ領主様のお仕事の大半は、ご隠居様と奥様がなされているではありませんか。魔法ばかり撃っていないで仕事をしてくだせえ」

「なあっ! 俺はこの領地の独立を守るために戦っているのだ!」

「誰もそんな事は望んでねえじゃねえですか!」

「そうなのか?」

俺は、思わずヤシの木の持ち主である老人に問い質してしまった。

「島が一つになるってのなら、その方がヤシの実も売れますし、この島はイモしか取れねえんですよ。みんな米を買わなきゃいけねえ」

「おい、アホ」

独立云々よりも、その前に領主としてやる事がいくらでもあるじゃないか。

「誰がアホかぁーーー! 俺様は、この前の俺様とは大違いなのであーーーるぅ! 超絶天才魔法使いである俺様が……「あーーー、先の話をしてくれ」」

「俺の事をバカにしてんのかぁーーー! この巨大な『竜巻』をーーー!」

義智は作った『竜巻』を俺にぶつけようとしたが、やはりカタリーナの『竜巻』に比べると数段落ちる。

俺は即座に反対側から回っている同程度の『竜巻』を作り、義智の『竜巻』にぶつけて相殺した。

義智はほとんどの魔力を使ってしまったので、もう魔法攻撃はできない。

「おのれーーー! ならば、代々宋家に伝わる刀術にて……あがっ!」

もうこれ以上付き合っても無駄なので、俺は『電撃』の魔法で義智を気絶させた。

「バウマイスター伯爵様、わざわざすみませんですだ」

「彼の両親の下に案内してくれ」

「へい」

義智の『竜巻』のせいでヤシの木を失わずに済んだお爺さんは、俺達をこの島の領主館へと案内してくれた。

気絶した義智は誰もおんぶしたくなかったので、俺が魔法で浮かせて運んでいる。

「申し訳ありません!」

「このバカ息子が!」

案内された宋家の屋敷は、この島では一番大きくて立派だが、中央に行けばこれよりも立派な家はいくらでもあった。

人口が百人しかいない村の領主だったので、村長くらいの存在でしかないのだ。

意外にも義智の両親は常識人で、俺にペコペコと頭を下げた。

気絶した義智は土間に放置され、少し可哀想な気がしないでもない。

「村の代官職は、暫く義智の父親宗義調に任せる。というか、他に手がないな」

義智が宋家の独立とうるさいので、常識的な父親に任せるしかないのだ。

「彼は、なぜはっちゃけているんだ?」

「ご覧のとおり、私は魔力が低いので……」

彼は宋家の当主としては例外的に魔力が低く、ウザイ性格をしていなかった。

そのため、義智が調子づいてしまう土壌が生まれてしまったようだ。

とはいえ魔力は多いので宋家の家督を早めに譲り、いつあるかもしれない島津家のちょっかいに備える生活。

段々と宋家の独立に拘り、意地でも自分が降らないという姿勢を崩さなくなったというのが真相のようだ。

「バウマイスター伯爵、アレどうするの?」

「放置する」

俺に突っかかってきたら、すぐに撃退すればいい。

それよりも、この島の開発をどうするかだ。

思ったよりも大きな島なので、モール達の仲介で新種のヤシの木の苗を購入し、それを育ててもっとヤシの木を増やした方がいい。

「そうですね。島の空いている土地を手入れし、もっとヤシの木を植えます」

義智はアレだが、父親は素直に降ってこの島の代官になった。

領民達も、別に義智に同調しているわけでもないようだ。

「彼に支持があったら、徒党くらい組むよね?」

「サイラスは、サラっと酷い事を言うなぁ……」

つまり、義智は誰に支持されるでなく、一人で俺に突っかかっただけ。

なまじ彼の身分が領主だったので雪が混乱したが、ボッチなので放置しても構わないという結論に至ったわけだ。

宋義智は、アキツシマ島のボッチ魔法使いであった。

「バウマイスター伯爵、苗木を購入してきたぞ」

「これが品種改良品かぁ」

「少し前は、この品種が農家で栽培されていたのだ。今も極少量生産されているそうだがな。まあ、我らの国でヤシの木の需要は少ないし、気候の問題もある。わずかに温室で生産されているのみだが」

魔王様がヤシの木の苗木を持ってきてくれたので、みんなで宋領がある島と島津領内に植えた。

魔法で土地を整備し、魔法で作った肥料を混ぜながら苗を植えていく。

島の住民と、島津領で新たにヤシの木の栽培を始める者達も手伝い、モール達は栽培方法を教えていた。

元ネタの大半は、魔族の国の園芸書や、書店で購入可能な農業指南書からである。

「バウマイスター伯爵、成木もあるそうだぞ。ライラが言っておった」

「それは欲しいけど、何で成木が?」

「持ち主が破産したそうだ」

「世知辛いお話ですわね……」

魔王様の口から出た『破産』という言葉に、カタリーナは顔をしかめた。

さらに詳しい事情を聞くと、人口減で悩んでいる地域で観光客を呼ぼうと温室と建て、ヤシの木や他の熱帯産フルーツの栽培を始めた者がいた。

そこで獲れるフルーツを、観光客に調理して出す。

地球でもありそうな商売だが、過疎地の村おこし、地方創生……日本でも大分前から色々とやっているが、商売なので少数の成功者と多数の失敗者という構図は同じだ。

資金繰りが悪化して倒産、なまじ地方自治体も金を出していたために税金で借金を補てんし、余計に苦境に陥るという話は珍しくない。

その温室農園と飲食店も、その地方の自治体が資本金を出して参加していた。

所謂第三セクターというやつだが、魔族の国でどういうのかは知らない。

結局補助金が戻ってくるどころか、膨らんだ借金を税金で補てんする羽目になり、地元住民は大激怒というわけだ。

「税金の無駄使いだと批判されたそうだ。放置されているヤシの木が多少なりとも金になれば損失が減る。今頃ライラが買い叩いているはずだ」

ライラさんは、本当に優秀な人だな。

魔王様をお世話するため複数のアルバイトで家計を維持していた生活とは一変、優秀な女性社長に華麗に転身を遂げたのだから。

「温室がほしいな」

「移築が難しかろう」

「それはあるか」

魔族は全員魔法使いなのだが、使える魔法の数が少なかったり、人間には極少数いる希少な魔法を使える者がいなかった。

俺の『瞬間移動』、レンブラント男爵の『移築』、『通信』系の魔法も駄目だ。

ただし、携帯魔導通信機の技術は最新鋭なので魔王様は頻繁にライラさんと連絡を取っていた。

魔王様の携帯魔導通信機はピンクが主体の女の子仕様で、藤子とルルがとても羨ましそうに見ていた。

携帯電話を使う魔王様……ちょっとシュールではあるか。

「農業は経営が難しい。価格の下ぶれに耐えられる大規模農家か大企業経営農業。あとは小回りが利く小規模農園のみだな。それでも潰れる農家は多い」

ライラさんは、倒産農家の放置された道具や肥料、種子、苗木なども買い取ってこちらに送ってくれるそうだ。

向こうでは債権者ですらゴミ扱いして放置された品なので、少しでも金になればいいとかなり集まっているらしい。

ライラさんは農業法人の社長なので、まさかアキツシマ島に輸出されているとは思っていないようだ。

苗木を植える作業をしている領民達は、支給された農機具の使いやすさに感動していた。

「旦那、ヤシの木ばかり植えているけど、これ役に立つのか?」

「ヤシの木は使い道が多いぞ」

ヤシは色々と種類があるが、この島に植わっていた種類はココヤシに似ていた。

未熟果からココナッツジュースが取れ、これは中央の金持ちがたまに飲んでいるそうだ。

成熟果の胚乳からココナッツオイルが搾れ、ココナッツとココナッツミルクも取れた。

外皮、殻、幹、葉も使い道がある。

魔族の国から購入した品種改良品は、実が多く成ったり、病気になり難くなったり、樹木が高く成長しないようになっているそうだ。

他にも、ナツメヤシ、アサイー、アブラヤシ、オウギヤシに似ている品種もあった。

果物、砂糖、油などが取れ、油は食用油としても、石鹸の材料にもなる。

せっかく暖かい気候なので、この地でヤシの木を大量に育て、将来は王国や帝国に輸出してもいい。

「種子からも苗を育て、大々的にヤシの木の大農園を作ればいいか」

「それはありがたい事です。銭も手に入りますからな」

旧島津領と旧宋領の領民達も、換金可能な商品作物に喜んでいた。

この島は長年分裂していた影響で、地方に銭が流れないで困っていた。

鉱物資源にも恵まれていない地域が多く、商品取引に物々交換や、地方貨扱いで石貨を用いていた地域もあったほどだ。

石貨は誰でも作ろうと思えば作れる。

そのせいで価値が不安定で受け取らない人も多く、物々交換だと手間がかかりすぎてしまう。

例え外国のものでも、安定した貨幣があり、それが交易で手に入るのなら彼らには利益となるのだ。

「ええいっ! 嘆かわしい!」

一人だけ、物凄く反発している人がいるが……。

「また君? ボク達忙しいから、またあとで遊んであげるよ」

「このチビ! 俺様を寂しい人扱いするな!」

宋家の現当主(名ばかり)の義智が、またも文句を言ってきた。

ルイーゼがまたかと適当にあしらうと、それが我慢できない義智は反論し、二人はレベルの低い口喧嘩を始める。

「実際に寂しいじゃない。独立を目指すのはいいけど、支持者は?」

「いるに決まっている! お前達に表立って反抗すると最悪処刑されるかもしれないからな! 心の中に仕舞って俺を密かに応援しているのだ!」

それとなく義智の父である代官に聞いてみた事があるのだが、宋領の領民の独立性は昔はヤシの木と実の交易以外では島に籠った生活だから出たものらしい。

島津家など大物領主の介入は、実入りを減らされる事への不安から。

今は、バウマイスター伯爵が開発と交易の促進を代官を通じて行っているので、誰も義智の反乱に参加していない。

というか、この義智の行動は反乱なのか?

ルイーゼに可哀想な子扱いされている時点で駄目だと思うんだが……。

「せっかく木を植えたんだから、魔法で吹き飛ばさないでよね。植えたばかりで、まだ根が張っていないんだから」

「するか! この俺様は超絶天才魔法使いではあるが、スーパー天才格闘家でもあるのだ! バウマイスター伯爵、勝負だ!」

こいつ、魔法では俺に勝てないからって、今度は格闘技で勝負かよ。

魔力を使わないとなると、俺には勝ち目がなさそうだな。

色々と残念な義智だが、こいつ典型的な器用貧乏で何でもそこそここなしてしまうのだと代官から聞いていたからだ。

「はいはい。じゃあ、ボクが相手をするから」

「ふっ、女には本気を出せないな」

「そんな事を言って。ボクに負けるのが怖いんでしょう?」

「そんな事があぁーーーるかぁーーー!」

ルイーゼの挑発に簡単に乗ってしまった義智が、勢いよくルイーゼに飛びかかった。

並の格闘家なら対抗できないスピードだが、ルイーゼなら余裕で対処可能なようだ。

「ほいっと」

ルイーゼは魔力を使わず、義智の勢いを利用し、受け流しつつ、素早く彼を掴んで海へとぶん投げた。

「のぁーーー!」

ルイーゼの投げ技にまったく対処できなかった義智は、大きな水柱と共に海へと沈んでいく。

「大丈夫か? あいつ」

「あの程度で死にはしないよ」

確かに、義智は今まで何度か戦ったが、異常なまでにタフで頑丈だった。

怪我をしにくいようで、次の日にはピンピンとした状態でまた挑んでくるのだ。

「ぷはっ! うぬぬ……」

義智は水面から顔を出し、悔しそうな表情を浮かべていた。

「また暇なら遊んであげるから」

「この俺様が、お子様に負けるなあんてぇーーー!」

「失礼な奴だな。ボクは、バウマイスター伯爵家夫人で子供もいるんだぞ」

「嘘つけ!」

「失礼な! えいっ!」

「痛いじゃないか!」

義智にお子様扱いされたルイーゼは怒り、その辺にある石を彼に投げた。

それが彼の顔に命中し、一人勝手に怒っている。

義智は、宋家の独立を願う癖に敵の情報には疎かった。

一人で勝手に反抗しているので、こちらを調べる余裕がないのであろう。

それに、初めて会う人でルイーゼが既婚、子供ありだと思う人はいなかったから、義智の言い分もあながち間違いではないのだ。

「しつこい人ね」

こいつのしつこさは、ある意味伝説だ。

家に戻ると毎日代官である父親に叱られるそうだが……というか、バウマイスター伯爵家に反抗しているのに、その代官に任じられた実家に戻るのが凄い。

普通に食事などもするそうだ。

彼曰く『代官家に食事代を負担させ、バウマイスター伯爵家の財政にダメージを与えているらしい。

何とも、物は言いようである。

「物語だと、何度か負かしていると敵が観念してとか、そういうパターンよね」

諸葛孔明が破った孟獲を七度放ち、八度目に心服したお話みたいだな。

この世界にも、似たような話があるのか。

「でもよ、イーナ。アレに心服されて嬉しいか?」

「ないわね」

イーナとカチヤが酷い事を言うが、確かに義智に慕われてもなぁ……。

何かウザいし。

「畜生! 何で勝てないんだよぉーーー!」

海に浮かびながら一人叫ぶ義智だが、同情する者はいない。

素直に島の代官をやればいいのに、一人だけ無意味にバウマイスター伯爵家に逆らっているからだ。

両親と領民達ですら、意味がわからなくて首を傾げている状態なのだから。

「そんなに俺に勝ちたいのか?」

「当たり前だ! 俺様は超絶天才魔法使いだからな!」

アキツシマ島では中級魔法使いでも天才扱いだから、義智の言う事は間違っていない。

隣に島津四兄弟がいるのだが、彼らとは戦った事はないのであろうか?

俺はむしろ名前から、この四兄弟の方を警戒していたのだ。

実際に蓋を開けてみたら、彼らは父貴久に従って降り、代官や中央官僚、軍の武官として活躍している。

まさか、宋義智という戦国時代ではマイナーな人物が逆らうとは思わなかった。

「いくら天才でも、修行はしないと勝てないんじゃないかな?」

「バウマイスター伯爵、お前は修行をしたのか?」

「したよ。厳しかったなぁ……」

成人するまで、ルイーゼと共に導師に鍛えられたものだ。

今も格闘術などはいまいちかもしれないが、それでも帝国内乱で師匠に殺されないで済んだりしたから、あの厳しい修行の日々も決して無駄ではなかったのだと思う。

「ふっ、敵に塩を送るとは、バウマイスター伯爵も甘ぁーーーいな!」

出た、興奮したり調子に乗ると出るいつもの口調が。

どうやら、上手く引っかかってくれたようだ。

「ならば俺もその人物に修行を受け、必ずやバウマイスター伯爵を倒ぉーーーすのだぁ!」

「でも、大丈夫かな?」

「どういう意味だ? バウマイスター伯爵」

「いや、厳しい修行だからねぇ……。なあ? ルイーゼ」

「そうだねぇ……。ボクも結構大変だったし」

「何を心配するかと思えば。この俺様なら、余裕で修行をこなせぇーーーるはずだ!」

「まあ、ご自由に」

「ふんっ! あとで後悔するなよ!」

わざと修行は厳しいからやめた方がいいよと釘を差して正解だった。

義智は、俺にできた修行が自分にできないはずはないと、逆に余計に修行をやる気になったからだ。

ルイーゼに視線を送るとウインクしてきたので、俺の誘導策に気がついたようだ。

「では、その人物の下へ!」

「俺が送るよ」

「ふっ、甘いな貴様は」

これから大変だろうから、せめて最初くらいは送ってやるよ。

地獄への時間を短縮してやる意図もあったけど。

「なかなかイキのよさそうな若者である!」

「導師、彼が弟子になりたいそうです」

「大歓迎である!」

導師は、大津の郊外で魔法使い達を鍛えていた。

兼仲もおり、他の魔法使い達も魔法を放出するよりも、拳に魔力を纏わせて殴ったり、まあそういう系統の人が大半であった。

普通の魔法使いは、全員ブランタークさんの方に行っていた。

「おおっ! いかにも強そうじゃないか!」

義智は、導師を見て大喜びであった。

相思相愛で俺も嬉しいさ。

なかなか修行は終わらないと思うけど、精々頑張ってくれ。

「では、強さを見るのである!」

「ふっ、この超絶天才魔法使い宋義智様なら、一か月もあれば余裕だな! バウマイスター伯爵よりも早く修行のコツを掴んでスピードアップだ!」

「バウマイスター伯爵、これは思った以上にイキのいい若者である!」

「頑丈なので、好きに鍛えてやってください」

「任せるのである!」

導師が胸を叩いて了承すると、隣にいた兼仲の顔が真っ青になった。

彼も、人類の壁を超えていそうな導師に鍛えられ、三途の川の向こう側を何度か見ているからだ。

「(お館様……)」

「(導師に鍛えられている間は反抗しないからな。俺も忙しいから、あいつの相手をしていられないんだよ)」

「(はあ……)」

兼仲は今度大津に発足した警備隊の幹部なので、義智の事情をよく知っている。

そのため、導師の生贄に出す事を了承した。

自分が相手をするのも面倒だと思ったのであろう。

「(まあ、自分では義智よりも少し強いくらいなので、毎日突っかかられたら面倒ですね。わかりました)」

「じゃあ、義智は頑張れよ」

「ふんっ! 貴様は厳しい修行により更に限界を超えた俺様に破れるのだ!」

だといいがな。

その前に、導師に毎日ギタギタに鍛えられるがいい。

義智は中級魔法使いでこれ以上魔力は上がらないから、死ぬほど努力して工夫しないと俺に勝てない仕組みになっているわけだが。

「では、行くのである!」

「おうさ!」

導師と義智は、修行前にお互いの実力を確認するために戦い始めた。

「あれぇーーー! ドカッ! ベキッ!」

いきなり導師の魔力を篭めた拳に殴られ、地面にめり込んだ奴がいるが、彼の頑丈さは折り紙つきだ。

気にせずに俺は、中断した作業を手伝うために『瞬間移動』で旧宋領がある島へと戻るのであった。

「ただいま、ヴェル。どうだった?」

「導師は快く受け入れてくれたよ」

「バカ息子がすいません」

島に戻ってからルイーゼに詳細を報告していると、義智の父親が息子の不祥事を謝った。

本来なら、宋家はクビにされても文句を言えない不祥事だからだ。

だが、今の時点で義智はともかく父親の方は切れない。

彼は代官としてもよくやっているし、島の領民達にも慕われているからだ。

義智も、導師に鍛えられれば現実が見えてくるであろう。

不良息子を相撲部屋か寺へ修行に出したようなものだと、父親は納得していた。

「それよりも、あの島は『宋島』でいいな。正式な呼び名を考えないと、色々と面倒になる」

「その名前でよろしいのですか?」

「いいよ。実は我々の名前は、バウマイスター伯爵本領の地名づけの時にネタが尽きてな」

もう考えるのが面倒なので、そのままにしようと思う。

王国に地名などを報告しなければいけないので、急ぎ名もなかった旧宋領の島に命名しなければいけなかったからだ。

他の地名はそのままだ。

王国でも漢字は使うので、大津などをそのまま使っても問題ない。

というか、何とかブルクとかつけるのが面倒になった。

うるさい貴族達には『ヘルムート王国風の名前に変えると反発するかもしれない。せっかく大人しく支配を受け入れているので、このままでいいでしょう』と言い訳するつもりだ。

そんな命名よりも、早く開発を進めないと。

バウマイスター伯爵本領、南方諸島、今回発見した人が住めそうな島々、アキツシマ島を結ぶ魔導飛行船網を整備し、また移民を募らないといけない。

アキツシマ島は、もう少し開発の余地がある。

ルルがいた島への移住と冒険者としての滞在許可を与えて、今はバウマイスター伯爵本領に移住させない方がいいな。

ミズホへの移住を希望する者はいるのであろうか?

それを聞いておかなければいけない。

「いえ、嫌です」

「同じ民族でも、一万年も前に喧嘩別れしてしますからね。昔からミズホの連中は技術や財力を鼻にかける嫌な連中だったそうです」

そんな悪口を書いた本が残っているとはなぁ……。

今のところは人口で、経済力でも、技術力でも負けているので、移住すると下に見られるかもしれないと思っているのかもしれない。

『アキツシマの係累か? ミズホへの移住はやめた方がいいな』

『向こうもそう言っていますね』

『大方、こちらを傲慢な一族とか言っているのであろう? アキツシマの連中は、神官で宗教の権威を傘に威張っておっての。付き合うのはゴメン。別れて清々したという古文書が……』

同じ民族同士でも、色々とあるようだ。

お互いに移民はしないという事になり、アキツシマ島とその住民はすべてバウマイスター伯爵領に編入された。

「ヴェル、この魔道具はちょっと古びているけど、使い勝手は最高だね」

ライラさんが魔族の国で集めた中古魔道具が徐々に到着し、例の盗難防止のタグをつけて畑を耕していた。

イーナが試運転を行い、人間が耕すよりも遥かに早い速度で畑を耕していく。

やはり、魔族の国の耕運機の方が旧式中古でも性能はいいようだ。

この島でしか使えないので、バウマイスター伯爵本領の方は盗難対策の準備が整わないので死蔵されていた魔の森地下遺跡に眠っていた魔道具が使用されるようになった。

耕運機、田植え機、刈り取り機、散水機などは、家臣が管理と簡単な整備を担当しつつ、農民に対し順番に貸し出す仕事を行う。

トラックや車は、バウマイスター伯爵家が運送会社を経営する事で盗難に備えた。

ライラさんが入手してくれた盗難防止タグは好評で、早速魔道具の盗難を試みた初級魔法使いが捕まった。

多分どこかの貴族に頼まれたのであろうとローデリヒが言っていたが、この犯人が黒幕を喋っても、その程度では依頼した貴族を罰する事はできない。

その代わりに、その魔法使いはバウマイスター伯爵領で捕まったので、バウマイスター伯爵家の法で裁かれる。

その魔法使いがどこぞの貴族のお抱えでも、これはバウマイスター伯爵領内の事件なので不当逮捕とは言えないのだ。

彼はすべての持ち物を奪われ、毎日鉱山で鉱石を掘っている。

一定金額以上の鉱石を掘って納めないといけないが、初級魔法使いでも十年はかかるであろう。

この世界では、窃盗は意外と重い罪状であった。

「イーナ、上手いな」

「そう? ヴィルマの方が器用じゃないかしら?」

「すすすーーーい。これ一台で凄い仕事量」

ヴィルマは、魔族の国製の中古田植え機で稲を植えていた。

その操作は、今日が初めてとは思えない上手さだ。

「兄貴も欲しがるかな?」

「うーーーん、あそこは山ばかりだから魔道具が使えないかも」

カチヤの実家であるオイレンベルク家はトンネル騒動のあと、バウマイスター伯爵領側のリーグ大山脈沿いに移転した。

そこの広大な山の斜面で、マロイモの大量生産を始めたのだ。

カチヤは農作業に耕運機が使えないものかと思ったようだが、斜面で使うと倒れてしまうから危険であろう。

「マロイモ以外の畑で使うならいいと思う。地下遺跡の品の方を貸すようにローデリヒに言っておくよ」

「旦那は優しいな。だから大好きだぜ」

カチヤに面と向かってそう言われると、嬉しいのと同時に照れてしまうな。

「魔王様」

「何だ?」

「もっと欲しいな」

「あまり一度に大量に買い取ると、相場が急騰するからな。ライラには言っておく」

いまだに両国の間で交易交渉が結べていないが、実は勝手に交易をしても法的には問題ない。

魔族の国では交易、貿易という概念が消えて久しく、実は勝手に交易をしてもそれを罰する法がなかった。

王国の方は、帝国との交易では色々と決まりがあった。

破ると貴族でも処罰されるが、実は魔族の国との交易に関する法はなかった。

それを決めるために交渉を開始し、まったくお互いが歩み寄らずに何も決まっていないのだが。

帝国も交渉に加わったが、残念ながらそれで交渉の速度は早まらなかった。

むしろ、余計に遅くなってしまったのだ。

即位したばかりのペーターからすれば、下手な交易条件を結び、それで議員や貴族達に攻撃されて耐えられるほどまだ政権基盤が盤石ではないからだ。

下手に国を開きすぎて魔族に侵略でもされたら、同じく帝国のダメージは大きい。

そのため、三者による実りのない話し合いが続いていた。

続いているだけで進んでいないけど……

「とはいえ、中小型の農業用魔道具は余りすぎて困っている状態だな」

小・中規模農業が減ったため、廃業した彼らのものが余っているらしい。

このアキツシマ島でも大規模な農業は難しく、ちょうどニーズに合っているというわけだ。

「とはいえ、バウマイスター伯爵領にはまだ導入できないけどね」

その理由は、王国のみならず、帝国の魔道具ギルドの焦りからだ。

間違いなく、魔族の国から魔道具が輸入されるようになれば、誰も魔道具ギルドから魔道具を買わなくなってしまうであろう。

その前に、車両、農業機械などはまだ研究状態にあるのだから。

「失業の危機か。気持ちはわかるなぁ……」

「決められた数量だけ輸入するとか、そういう条件になるのかな?」

「もしくは、自国の産業保護のために高い関税かぁ……」

モール達は無職期間が長かったため、魔道具ギルドに同情的であった。

「今は職があるからいいけど、やっぱり無職は辛い部分がないわけでもないからね」

魔族の無職は生活保護があるからいいけど、リンガイア大陸の無職は飢え死にの危険があるからなぁ……。

でも、俺に口を出す権限もないので仕方がない。

「入手できる限りは入手するぞ」

アキツシマ島が統一され、統治体制の構築と開発が順調に進んでいく。

俺は、ここで一旦陛下に報告をする事にした。

アキツシマ島の産品を持って王城に移動し、すぐに謁見の間に通される。

「おう、バウマイスター伯爵ではないか。色々と大変だったようだな」

「ええ」

謁見の間には、ルックナー財務卿もいた。

彼は、俺を見かけるとすぐに話しかけてくる。

「バウマイスター伯爵領の開発が進めば、もっと交易が増える。税収が増えて、財務卿であるワシとしては大歓迎だな」

「問題は異民族統治ですね」

「その辺は、バウマイスター伯爵に任せるよ」

だから、王国が直接支配しないでバウマイスター伯爵家に押しつけたのだろうからな。

王国は交易の利益だけ取り、あとは時が経てばアキツシマ島以南の探索でもするつりもなのであろう。

「バウマイスター伯爵、島とはいえ征服成功とは大義である」

続けて、陛下からお褒めの言葉をいただいた。

王国政府や陛下からすれば、俺は辺境の異民族の領地を平定して王国の領地を増やした功労者という扱いになる。

アキツシマ島の産品を献上したが、これはオマケに等しい。

ミズホ風の……こういうとアキツシマ島の住民は怒るので、アキツシマ風と呼ぶ事になった……一部工芸品や茶器などが喜ばれた。

変わっていて、貴族がコレクションするのにいい品なのかもしれない。

多少ミズホ産よりも質は落ちるが、その分値段は安くなるし、一万年の歳月でミズホの品と多少の差異が出ている。

中級以下の貴族や、商人、富裕な平民層に需要があるかもしれない。

これら献上品のチョイスをしたのは、芸術にも造詣がある松永久秀あった。

陛下や貴族達からも好評を得たので、彼はこの分野でも才能があるというわけだ。

「我が国が将来南方に探索の手を広げられるよう、バウマイスター辺境伯が更に領地を発展させる事に期待しよう」

「えっ? 辺境伯ですか?」

俺は伯爵のはずだが……。

「今回の功績で昇爵させる事にした。今のお主は伯爵の力を超えておるからの」

人口はまだ及ばないが、領地の規模と発展性はブライヒレーダー辺境伯領を上回っている。

それなのに、伯爵のままではまずいというわけか……。

「階位も第四位に上げよう」

その場で昇爵の儀が行われ、俺は陛下からゴテゴテと装飾のついた宝剣と新しいマントも与えられた。

マントには金糸と銀糸で豪華な刺繍がされている。

儀礼用だと思うが、これを実際に着けて人前には出たくないな。

成金主義な人に見られそうだ。

「ブライヒレーダー辺境伯家、ブロワ辺境伯家、ホールミア辺境伯家もこれを所持しておる。見た目は豪華なので箔付けというわけだ」

報告と昇爵の儀が終わると、謁見は思いの他短時間で終了した。

やはり、今の王国で最大の懸案事項は魔族の国との交渉のようだ。

「安易に結んだ条約で王国が損をすれば、それは王国の支配力の低下に繋がります。慎重になって当然ですね」

謁見が終わると、俺は久しぶりに王都にあるブライヒレーダー辺境伯邸を訪ねた。

まずはブライヒレーダー辺境伯に昇爵した件を伝えたのだが、彼は既に知っていた。

それもそうだ。

南部で辺境伯が二人になるのだから、先に知らせておかないとブライヒレーダー辺境伯がヘソを曲げてしまうかもしれない。

「また絶妙というか、途中で帝国も交渉に参加しましたからね。私もツテがあって交渉の様子が耳に入ってきますが、全然交渉は進んでいませんね」

「魔族の政治家はどうなのです?」

「融通が利かない声が大きい者、あからさまに魔族の産品を大陸に売り込む事ばかり考えている者の代弁者。政治のプロが少なく、条件を擦り合わせる事すらできないで、魔族が一番性質が悪いかもしれませんね」

まあ、魔族の国は政権交代しないと無理か……。

「そっちは王国政府の領分です。私も手は出せないので放置です。バウマイスター伯爵……じゃなかった、辺境伯への昇爵は私への牽制です」

「政治力学ですねぇ……」

「理解が早くて助かります。まあ、そういう事です」

南部は今急速に発展している。

それに伴い、南部を統括するブライヒレーダー辺境伯の力も上がっている。

領地は増えていないが、バウマイスター伯爵領の開発利権とうなぎ登りに上昇している交易の利益、ブライヒレーダー辺境伯でも問題になっていたスラムの住民が殖民し、ブライヒブルクの拡大計画に伴う問題が消えた。

予算の余裕があるので、街道工事、魔導飛行船の発着港の整備、小規模な魔物の領域の開放と跡地の開発が進み、急速に力を増していた。

「王国からすれば、うちが大きくなりすぎると独立、反乱の可能性を考えます。帝国内乱も記憶に新しいですからね」

そこで俺を同等の爵位にしてしまい、ブライヒレーダー辺境伯家へのけん制に利用するというわけだ。

「バウマイスター辺境伯に南部貴族達の面倒を見ろなんて王国は言いませんよ。うちが担当した方が負担を与えられますしね」

「小領主混合領域ですか……」

「寄親なんて面倒なだけですよ。うちの持ち出しばかりです」

ブライヒレーダー辺境伯領と隣接している貴族領には、領地、水利、犯罪者の引き渡しなどで揉めている家も複数あるそうだ。

それでも寄子は寄子なので決定的に揉めるわけにはいかず、そこまで配慮しても『ブライヒレーダー辺境伯家は寄子に冷たい。寄親を変えようかな?』などと腹が立つ事を言う貴族もいると、ブライヒレーダー辺境伯が苦笑いしながら教えてくれた。

「結局、ブロワ辺境伯との紛争と同じく、寄子同士でいつも争っていますからね。寄親は私なので仲介に入りますけど、毎回同じ案件で揉めているケースが大半で、私が出した仲介案を『向こうばかり有利で贔屓だ!』と、怒る貴族もいます。それで、やはり言うんですよ。『他の貴族の寄子になろうかなって』」

「それって、可能なんですか?」

「可能ですけど、南部で孤立するだけでかえって不利ですね。本当にやる人はいませんよ」

寄親を変えると言って、ブライヒレーダー辺境伯から譲歩を引き出そうというわけか。

というか、ウザイ連中だな。

「向こうも生活がかかっているから必死なのはわかりますが、疲れますよ。辺境伯って。バウマイスター辺境伯の場合は寄子も少ないですし、あくまでもうちの牽制のためでしょうね」

南部に二人辺境伯がいて、うちはこれから王家の血が入っていく。

両者の帯同を代を経る毎に緩めるつもりなのか。

「このくらいはしても当然でしょうね。そうでなければ、平和が二百年以上も続きませんって」

その後は、南方諸島以南の島々やアキツシマ島についての話をした。

ブライヒレーダー辺境伯は、砂糖、ヤシの実、海産物、これから討伐を進める海竜の取引などに興味を持ったようだ。

「それにしても、遂にあの魔道具の数々を解禁しましたか。うちも欲しいですねぇ……」

それがあればブライヒレーダー辺境伯領でも開発が進むのにと、ブライヒレーダー辺境伯は残念そうな表情を浮かべる。

こちらとしても、地下遺跡で発掘した分だけではむしろ足りないくらいで他家に販売などできない状態だったのだ。

「かなりの量を魔道具ギルドが研究用で購入して行ったと聞きますが」

「事実ですね」

同じ物が作れるようになれば王国の利益になるからと、今まで色々と売ってきた。

金払いは悪くないので不満はないが、今までに何か成果が出た試しがないので困ってしまう。

「何も成果なしってのは凄いですね。彼らは何をしているのでしょうか?」

魔道具の研究は難しいので、一年や二年でそう簡単に成果が出るわけでもない。

開発研究というのは、莫大な予算と時間が必要だからだ。

俺はそれがわかるので、ブライヒレーダー辺境伯ほど魔道具ギルドに不信感は持っていなかった。

その点に限ってのみだけど。

「誰憚る事なく、交易交渉の妨害をしていると評判です」

「それは、失業の危機だからでしょう」

もし無条件で、魔族の国から魔道具は輸入されるようになれば……。

俺も、魔族の国の製品を購入するかな。

そんな未来を、自国の経済と産業の発展に止めを刺すからといって止めるのは、あながち間違いではなかった。

魔道具ギルドの魔法使いだけでなく、魔道具の重要部品以外を作る職人達や、他にも魔道具関連で食べている人は多い。

彼らの生活を奪うかもしれない自由貿易論を魔道具ギルドが防ごうとするのは、むしろ当たり前の行動なのだ。

「では、暫く状況は動きませんね」

大切な国家同士の交渉だ。

物語みたいに、すぐに交渉成立とはいかないのであろう。

「私も、明日には領地に戻りますしね。王都で疲れる付き合いや交渉に臨むよりも、領地で開発の指揮でも執っていた方がマシです。景気がいいおかげで、少しは寄子達の争いも減っていますから」

「それはよかったですね」

などと話をしていたら、突然ブライヒレーダー辺境伯の家臣が報告したい事があると言って駆け込んできた。

「お館様、イスラーヴェル会長が急死したという報告が入りました」

「イスラーヴェル会長?」

俺はその名前に聞き覚えがなかった。

会長って事は、どこかの組織の長だよな?

「バウマイスター辺境伯、あなたがイスラーヴェル会長を知らないのはどうかと思いますけど……魔道具ギルドの会長ですよ」

「そういえば、そんな名前だったような……」

俺は魔道具ギルドと犬猿の仲である魔導ギルドに所属しているので、ちょっと小耳に挟んだくらいの名前を思い出せなかったのか。

「これは、また混乱しますね……」

魔族との交渉で色々と動いている魔道具ギルドの長が急死してしまった。

これが、これからの交渉にどういう影響を及ぼすのか?

「俺達は関係なくありませんか?」

「いや、辺境伯がそういうわけにはいきませんよ。魔道具ギルドは、世間の人達が思っている以上に力があるのですから」

とはいえ、よく知らない人が亡くなったくらいだ。

どんな影響が出るのかは、俺にもよくわからなかった。