軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百三十二話 ヴェンデリン、浮かれる?

「だぁーーー」

「そうだな。みんな、まだ産まれたばかりなのにもう婚約者がいて大変だよな。お父さんは、できる限り頑張ってお前達を守るからな」

「あうーーー」

「うんうん。お父さんに任せておいてくれ」

「おい、ヴェル。お前はまだ喋れない赤ん坊と、何を勝手に会話した気になっているんだ?」

朝、土木工事に出かける前に子供達と話をしていると、なぜかエルが邪魔をしてきた。

自分も父親になった癖に、無粋な事を聞いてくる奴である。

「エルよ。一見、『だぁーーー』とか、『あうーーー』とかしか言えないけど、実はその中には多くの意味が詰まっているんだよ。この子達の父親である俺にはわかる」

「それは、ヴェルの勝手な思い込みじゃないか……」

「失礼な」

「いやさ、赤ん坊なんだからもう少し待てよ。その内にちゃんと喋れるようになるから……」

エルの奴、父親になったらえらく常識的な事を言うようになった。

なるほど、子供が産まれると親も成長するらしい。

まさか、目の前にその実例がいるとは驚きだ。

「それよりも、そろそろ時間だぞ」

「名残惜しいが、お父さんは頑張るからな」

子供達だけでなくエリーゼ達にも挨拶をしてから、早速エルを護衛に工事現場に『瞬間移動』で飛ぼうとすると、屋敷の入り口が騒がしくなってくる。

「エル、何事だ?」

「さあ? 様子を見に行くか?」

「ああ」

小さな城塞のような造りになっているバウマイスター伯爵邸の正門に向かうと、そこでは衛兵達と貴族らしい青年とが小競り合いをしていた。

以前に、こんな光景を見たような……。

こういうのを、デジャブっていうんだよな。

「事前のお約束なしでは通せません!」

「そこを何とかしたまえ! 僕はベネケン男爵家の嫡男フロート様なのだから!」

「自分で自分を『様』付けするか?」

エルが、自称ベネケン男爵の嫡男フロートという青年の発言を聞いて失笑した。

俺も、自分で様とか言ってしまう貴族の御曹司は初めてだ。

「いかなる身分の方でも、いきなりの面会は無理です! まずはアポイントメントを!」

フロートと名乗る貴族の青年が強引に屋敷に入ろうとし、入れまいと衛兵達が抵抗する。

ローデリヒから面会の予定は聞いていないので、この男が勝手に押し入ろうとしているのであろう。

いわゆる、アポなしでの面会希望者だ。

テレビ番組の企画でもあるまいし、基本的には迷惑な奴でしかない。

「高貴な生まれである僕を止める事などできないよ。どきたまえ」

「若様! お助けします!」

「押し込め!」

フロートが、三名の従者に応援させて無理矢理屋敷の中に入ろうとする。

衛兵達はそれを阻止しようと、笛を吹いて応援を呼び、彼らを押し返した。

暫くそんな状態が続いたので、俺は乗りかかった船だとフロートに姿を見せる。

「バウマイスター伯爵だが、何か用事か?」

「おおっ! バウマイスター伯爵殿ではないですか。私の名は、フロート・ロゲール・フォン・ベネケン。ベネケン男爵の嫡男です」

フローロは、礼儀に則った挨拶を俺に行う。

そのくらいの知恵はあるようだ。

常識は……誰が見てもないな。

「それで、アポイントメントも取らずに何の用事で?」

口調が厳しくなるが、俺に会いたいという貴族、商人、平民などは多い。

ローデリヒが厳選して会う人物を選定している状態なので、このような横紙破りを許すと、余計にそういう手合いが増えてしまう可能性があった。

今回は、たまたま偶然というやつだ。

「なら、前に出たのは失敗だな」

「エル、そこで正論を言うなよ……これは例外中の例外です。さあ、ご用件は?」

「これは光栄の極み。では、率直に! あなたのお嬢さんを私の妻にください!」

「へっ?」

俺は最初、この男が何を言っているのか理解できなかった。

「娘?」

「この前、生まれたではありませんか。当然、成人するまで待ちますよ。お義父さん」

「はあ?」

明らかに俺よりも年上の男が、俺をお義父さんと呼ぶ。

最初の衝撃が消えて次第にその意味がわかってくると、俺は湧きあがってくる怒りで頭が沸騰しそうになってしまう。

「お義父さん、安心して私に娘さんを」

「死にさらせ! このロリコン!」

真顔で生まれたばかりの娘を嫁に寄越せというフロートに、俺は遂にキレて爆発した。

非殺傷ながら威力のある爆発魔法で、その従者ごと門の外に吹き飛ばすのであった。

「お館様」

「暫く牢屋にでも入れておけ」

「かしこまりました」

彼らは、父親であるベネケン男爵が迎えに来るまで別荘生活を楽しんだ。

別荘は豪華な石造りで、鉄格子もついて防犯体制も完璧なお部屋であった。

食事も普段は贅沢ばかりしている御曹司のためを思い、バウマイスター騎士爵家で出てきたものとほぼ同じ、高血圧予防のために薄味で、素材の味を十二分に生かしたものだ。

貴人に出す食事ではないとフロートが叫んでいたそうだが、俺はそれを実際に聞いていないから知らない。

フロートを迎えにきたベネケン男爵の顔が真っ青で、後に彼は廃嫡されたそうだが、その件に関しても俺はまったく関与していない。

どうやらフロートは、王国でもかなり偉い方々を敵に回してしまったようだ。

俺には、よく事情がわからなかったけど。

「まったく、どいつもこいつも……」

朝から嫌な奴に会ってしまったが、気分を取り直して土木工事を始める。

最近は次々と入植者が増えているので、宅地に農地に道路にと、基礎工事で忙しい状態なのだ。

ちなみに最近では、仕上げはすべて入植者にやらせている。

このくらいは自分でやる人達でないと、いつまで経っても領地が発展しないからだ。

何とか部屋住みやスラム生活を抜け出そうとしている人達を救う必要はあるが、駄目な連中を領地に入れるつもりはない。

死ぬほど頑張れ、無理という言葉が無理とは言わないが、普通に働いて生活できる人でないと困る。

「あのバカ貴族、何を狙っていたんだ?」

「真相は漏れていないはずだよな?」

娘達は王家や大物貴族家に取られてしまったが、婚約した情報は秘密になっていた。

俺の子供が魔法使いになる情報は、彼らが完全にシャットアウトしている。

なぜなら、それが漏れれば競争相手が増えてしまうからだ。

そう考えると、彼らは信頼できるというわけだ。

問題は、俺の娘が嫁ぎ先で苛められないかだけであろう。

地球で母親がそういうドラマを見ていたので、俺は心配になってしまうのだ。

「単純に、財力があるバウマイスター伯爵家と縁戚になって援助をたかろうという寸法か」

「だろうな」

でなければ、二十過ぎの青年が赤ん坊に求婚とかまずあり得ない。

いくらこの世界でもだ。

「これは、暫くは冒険者パーティは組めないか?」

「だよなぁ……」

出産後、エリーゼ達は冒険者復帰を目指して訓練しているのだが、すぐに子供を産めと言われているに等しいので、またすぐに産休になってしまう可能性が高かった。

この世界には、『女性は子供を産む機械ではないのですよ!』と抗議する政治家はいないからだ。

「たまに、導師、ブランタークさん、俺、エル、助っ人でいくか?」

「男だけパーティか、いいな」

エルが物凄く嬉しそうだ。

奥さんのいない場所で、思いっ切りハメを外せると思っているのかもしれない。

みんな忙しいのでたまにしか組めないだろうが、それはお互い様なので問題なかった。

「先生、私が助っ人に入りますから」

「私も頑張ります」

「私も」

今日も、魔法の修練をかねてアグネス達が土木工事を手伝っていた。

俺達の話を聞いて、自分達がパーティに加わると言う。

「ありがとう。でもシンディとベッティは、成人してからな」

「すぐに産休に入って、またメンバーが足りなくなりそう……」

「ふんっ!」

「痛っ!」

可愛い生徒達を邪な目で見やがって、俺はエルに肘打ちを食らわせた。

俺は、三人をそういう目で見ていないというのに……。

「先生、エルヴィンさんは何か?」

「何でもない。ちょっといつものおバカ発言が出ただけ」

「そうなんですか」

俺がエルに肘打ちした理由をアグネスが聞いてくるが、適当に誤魔化した。

その日も無事に予定の工事が終了し、さて帰ろうかと準備をしているとシンディが俺にお願いをしてくる。

「先生、赤ちゃんを見に行ってもいいですか?」

「いいよ」

「私も行きたいです」

「私も」

アグネスとベッティも付いて来る事になった。

そして、それを聞いたエルがまた余計な事を言う。

「自分で出産する時にために勉強か……」

「ふんっ!」

「痛っ!」

俺は、再びエルに肘打ちを加えるのであった。

「お弟子さんですか。可愛らしいお嬢さん方達ですね」

アグネス達が赤ん坊を見たいというので屋敷に連れて行くと、エリーゼ達が満面の笑みで三人を出迎える。

先ほどエルが妙な事を口走っていたが、それがエリーゼに漏れたという事は無いようだ。

というか、あの三人は俺が初めて指導を行い、もう少しで一人前の魔法使いになれる初めての弟子達なのだ。

そういう下種な想像は止めて欲しいものである。

「初めまして、エリーゼ様」

「先生の奥様は、評判どおりに綺麗ですね」

「スタイルもよくて羨ましいです」

「ありがとうございます」

アグネス達に褒められて、エリーゼも悪い気はしないようだ。

確かに、出産して大して時間が経たない内に体形がほぼ元通りなのだから。

治癒魔法に、そういう魔法があるのかと思ってしまうほどだ。

「ヴェルのお弟子さんかぁ」

「私達もこういう時期があったわよね」

まずはアグネス達が挨拶と自己紹介を行い、他の奥さん達や、テレーゼ、アマーリエ義姉さんなども自己紹介をおこなう。

ルイーゼとイーナは、三人に自分達の過去を重ねているようだ。

少し遠い目をしていた。

「でも、見事に女の子ばかりね」

「特に深い意味はないぞ」

念のため、イーナに釘を刺しておく。

可愛い女の子だから特に目をかけているわけではなく、あのクラスの中で三人がずば抜けて優秀だからである。

勿論男子生徒もちゃんと面倒を見ていたが、俺が担当したクラスはどういうわけか女子の方が優秀であった。

魔法使いのクラスは一つしかないんだけど……。

「確かに、私やヴィルマの魔力量では勝てないわね」

既に上級も見えつつあるアグネス達の魔力に、イーナは納得をしたようだ。

「君達、いくつ?」

「私が十五歳で、シンディが十三歳、ベッティが十四歳です」

「年下なのに、子供を産んだボクよりも胸があっていいね……」

ルイーゼは、自分とアグネス達の胸を見比べて溜息をついた。

そういえば、赤ん坊が産まれた割にルイーゼの胸は……これ以上は危険だ。

「えっ? 気にするところはそこ?」

「ヴェル、ボクが他に何を悩むと言うのさ。アマーリエさんが子供を産むと胸が大きくなるって言うんだけど、あまり実感がないんだよね……」

確かに、ルイーゼの胸はあまり大きくなっていない。

これはもう、遺伝子のせいだとしか言いようがないな。

「人生、色々あるさ」

「ヴェル、もっと気の利いた慰め方はないの?」

「魔法で何とかなるから何とかするけどね……」

俺は可愛いと思うのだが、本人の希望もある。

魔法で何とかできるのなら、何とかしてあげたいところだ。

この世界の魔法は、魔法使いの才能次第で万能になる可能性を秘めていたけど、それでもできない事は多い。

前に背を高くできないかという相談を貴族から受けたけど、人間の体に変化を与える魔法はとても難しかった。

もしそれができれば、俺ももう少し背を高くしていただろうし、筋肉をもう少し増やしたりしているであろう。

「魔法で盛った胸ってのもどうかと思うから、やっぱりいいや」

基本的に深く悩まないルイーゼは、すぐに自分の胸がない事が気にならなくなったようだ。

「噂には聞いていたのですが、先生の奥さんは全員魔法使い……」

「アグネス、先生の赤ちゃん達も……」

「全員、魔力を持っている……」

魔法使いは魔法使いを知る。

アグネス達は、エリーゼ達、赤ん坊達と見て、全員に魔力がある事に絶句した。

確かに、普通に考えればあり得ない事だ。

「えっ? えっ? どうしてですか?」

「全員はさすがに……」

「これはもしかして……」

三人の中でベッティが、最初に感付いたようだ。

明らかに動揺した表情になる。

「ベッティ、しぃーーー」

「へっ? しぃーーーですか?」

「世の中、知らないフリをしていた方が幸せな事がある」

普段は寡黙だが、たまに喋るとインパクトがあるヴィルマがベッティに忠告を始める。

「『魔法の先生の子供を見に来て、和やかな時間を過ごして帰っただけ』か、『少し秘密に入り込む』のとどちらがいい? ただし、後者には条件がある」

「秘密……」

「魔法使いとして大成したいのなら、どちらを選択してもしてはいけない事がある。それを破ると、後の人生が色々と大変」

「先生の奥さん怖い……」

ヴィルマからの問いに、アグネス達は神妙な表情で考え込んでしまう。

明らかに脅しも含まれているが、入り込んでしまえば魔法使いとして大成可能かもしれない。

その誘惑に迷っているようだ。

「なあ、ヴィルマ」

「ヴェル様、これは脅しじゃない。あくまでも取引」

アグネス達が赤ん坊を見たいというから連れて来たのに、なぜかとても物騒な話になっている。

困惑する俺に、ヴィルマがこれは脅迫ではないと述べる。

「ヴェンデリンさんは、まだどこか甘い部分がありますわね。陛下や大貴族の方々が封じている機密に触れるのですから、気軽にフリードリヒ達を見せてあげるなんて言わない方がいいですわ」

「いやね。俺は、可愛い生徒達の願いを聞き入れようかと思ってね……」

カタリーナは俺に呆れているようだが、地球なら親戚や友人に子供が産まれたら見に行くくらい普通に行っているはずだ。

俺も、何回かお祝いを持って見に行った事があるし。

「今朝の、バカ貴族の息子の件があるじゃないか。旦那にしては迂闊だぜ」

「そう言われると……カチヤでも気がつくレベルの話を俺は……」

「うわっ! 旦那が酷い!」

確かに、俺の子供達は全員が魔法使いの素質を持っているので、成人するまで慎重に育てないといけない。

いくら可愛い生徒達でも、アグネス達に見せるのは迂闊だったかもしれない。

「旦那、出会った頃のあたいはおかしな行動で迷惑をかけたけど、それはないじゃないか」

「すまんすまん、カチヤ」

「意味のない決闘を挑んで負けた私よりは、マシな過去ではないでしょうか?」

「最近の姉御は、あたいが初めて出会った頃とは別人だぜ……」

カチヤが出会ったばかりの頃のリサは、派手な装飾とメイクにエキセントリックな言動で世間を騒がせる凄腕の魔法使いであった。

今はようやく人見知りがマシになり、エリーゼ達とも普通に話せるようになった。

年齢は三十になったが、メイクがないと若く見える綺麗なお姉さんにしか見えない。

子供を産んで少し落ち着きを見せ、年齢が近いアマーリエ義姉さんやテレーゼと特に仲良くなった。

魔法使いとしては努力家で経験も長いので、ブランタークさんの次くらいに人に教えるのが上手い。

特に魔法が使えるようになって時間が短い、イーナ、ヴィルマ、テレーゼ、カチヤに妊娠中でも出来る魔法の訓練を施していた。

「先生はやっぱり凄いです!」

「えっ? いきなり何で?」

俺は、急にアグネスに褒められて困惑してしまう。

「あの『ブリザードのリサ』を、決闘で破るなんて!」

「しかも、あのド派手な装飾とメイクを止めさせ」

「奥さんにして子供まで……凄い……」

なぜか、シンディとベッティにまで尊敬されてしまう。

というか、その情報は今さらだと思うけどな。

この三人からすると、以前に臨時講義を受けた時に以前のメイクで現れて生徒達の度肝を抜いた過去が強烈に残っているのであろう。

「私、前はそんなに恐ろしかったのでしょうか?」

「そうね。ちょっと同一人物とは思えないわ」

「妾とも決闘をしたしの。結果は妾が負け逃げしたわけじゃが、あの時は物凄い暴言じゃったの」

「そんな……」

アマーリエ義姉さんとテレーゼにも肯定され、リサは落ち込んでしまう。

「まあ、以前のリサと今のリサ。夫としては、二人と付き合っているようでこれはこれで面白いと思うけど」

「ヴェル……それはフォローになっていないわよ」

「イーナ、しぃーーー!」

人の懸命のフォローをイーナが否定するので、俺は慌てて彼女の口を塞ごうとした。

「イーナさん、安心して。なぜか効果あったみたいだから」

「私って、夫に愛されているのですね」

アマーリエ姉さんが視線を向けた先では、今度は一人顔を赤く染めながら喜んでいるリサがいた。

なぜ、あのフォローでそこまで喜べるのか、俺にもわからなくなった。

「本人が喜んでいるからよしとしようではないか。話を戻すが、今のバウマイスター伯爵家は色々と複雑な事情があっての。三人とも、わかるかの?」

「新興の大貴族様なので、色々と大変だというくらいは……」

「アグネスじゃったの。そなたの実家は?」

「王都で眼鏡工房と店を営んでいます」

「なら、わかるか」

眼鏡は完全オーダーメイドで高級品でもあるため、顧客に貴族が多い。

両親などが貴族を接客しているところを見ているアグネスは、他の平民よりも貴族という生き物がわかっていた。

「ご覧の通りに、ヴェンデリンは有能ではあるが少し抜けている部分があっての。それを補うのが、エリーゼ達というわけじゃ」

「あの……それはテレーゼ様もですか?」

「おうよ。世間では、妾は『バウマイスター伯爵への帝国からの戦利品』と思われておって、実際にそうじゃがの。アマーリエと同じく、日陰の身で楽しくやらせてもらっておるがの」

テレーゼは、自分が俺の愛人だと素直に認めた。

それはもう子供まで産んでいるので今さらであったが、堂々と口にするのはどうかと思う。

俺の、生徒達への評価とかそういうものにも繋がるから、あまり大きな声で言わないでほしいな。

「先生は、奥さんが多いのですね」

「これだけの大貴族なのじゃ。珍しくもないの」

「凄い」

嫌悪感でも抱かれるのかと思ったが、シンディは目を輝かせながら俺を見つめる。

ここでは、地球の常識が通用しないようだ。

「こういう新興の家は、特に子供が沢山必要じゃからの。妾達はこれからも産休で抜けるケースが多い。よって、アグネス達には期待しておるぞ」

テレーゼの言う期待とは、自分達が産休を取っている間、三人がパーティメンバーとして活躍する事であろう。

あとは、冒険者引退後にバウマイスター伯爵家のお抱えになる事であろうか?

「テレーゼ様、私頑張ります」

「私も」

「先生と一緒。最高です」

「あのさ、アグネスは別のパーティに入っていなかったか?」

彼女だけ成人していたので、普段は別の冒険者パーティに入っていたはずだ。

そことの契約は大丈夫なのであろうか?

「はい、あくまでも臨時で組んだパーティなので問題ないですよ。抜けようと思えば、すぐに抜けられますから」

正式にパーティを組むと抜けるのが難しいので、あくまでも臨時でパーティを組んだようだ。

この娘、同年代の俺よりもしっかりしているよな。

「先生と同じパーティ、楽しみですね」

俺の子供を見に来たはずのアグネス達は、なぜかテレーゼの説得でバウマイスター伯爵家にスカウトされてしまう。

「こういう囲い込みってどうなの?」

「文句を言う輩も多いであろうが、魔法使いとて生活がかかっておるのじゃ。条件がいい方に雇われて当たり前であろう。それよりもヴェンデリン、ローデリヒが呼んでおったぞ」

「えっ? 今? アグネス達もいるし、あとでよくないか?」

「緊急の用事だそうじゃ。早く行け」

「アグネス、シンディ、ベッティ。招待しておいて色々と悪いな。ちょっと席を外すから」

俺は、急ぎローデリヒがいる執務室へと向かう。

「やれやれ、内乱では妾を蹴落とす選択までできた男が、妙に甘いの」

あの時は、妾と同じくヴェンデリンも追い込まれていたからかの。

今は領地開発で大変じゃが、別に敵もおらぬか。

「さて、アグネス達よ。そなたらは将来どうするのじゃ?」

「どうするって、私達は先生の弟子で……」

「早く成人して、先生と狩りに行きたいです」

「魔法ももっと教えて欲しいですし」

ふっ、妾も舐められたものじゃな。

フィリップ公爵位を失って、ヴェンデリンの愛人と揶揄されておるからかの?

まあ、いい。

この三人、ヴェンデリンは可愛い妹兼弟子のような扱いで特別に可愛がっておるようじゃの。

しかし、三人は女じゃ。

魔法使いが少ないとはいえ、異性の魔法使い同士が深くつき合うのはよくない。

師弟以上の関係があると、周囲から噂されるからの。

ブランタークには弟子が多いが、女性魔法使いに教える時にはちゃんと距離を取っている。

あの男は、女の扱いにも、女の怖さにも慣れているからの。

カタリーナはお師匠様と呼んでおるが、それはあくまでも当時婚約者であったヴェンデリンが許可しての事。

妾にも指導してくれるようになったが、今の妾はヴェンデリンの愛人だと世間に知られておる。

教えるのに、何ら不都合はない。

「妾にも可愛い子供の頃があっての。その頃は、魔法使いになりたくて懸命に書籍を読み漁ったものよ。そこで知り得たのじゃが、未婚の女性魔法使いがヴェンデリンに接近しすぎると世間的にどう思われるかの?」

「それは……」

「私は気にしません」

「運命に身を任せるのみです」

三者の返答の仕方が、それぞれに個性が出ておるの。

真面目なので答えに詰まるアグネス。

最年少で天真爛漫なのもあろう、ヴェンデリンの傍にいられれば何の問題もないと感じるシンディ。

結果的にそう思われても構わないとは言っているが、実はそれを望んでいる節がある強かなベッティか。

「そなたら、顔に書いてあるぞ。可愛い生徒や弟子から、妻か愛人にランクアップしたいと」

舐めるなよ、小娘ども。

負け犬である妾じゃが、その程度のこと気が付かぬと思うたのか?

「事実であろう?」

「「……」」

「はーーーい! 先生のお嫁さんになりたいです!」

アグネスとベッティは黙ってしまったが、シンディは正直じゃの。

最年少で、その分そういう事を言える立場なのかもしれぬが。

「別に咎めてはおらぬよ。ただ、今は止めておけ」

「どうしてですか? テレーゼ様」

シンディが躊躇うことなく妾に訪ねてくる。

それを特に不快に思わないのは、この娘の得な性格かもしれぬ。

「ヴェンデリンは、お主らを一人前の魔法使いに育てる事に妙に拘っておってな」

普段から、妙な連中と生臭い話ばかりであるからの。

妾も、同じ問題で帝国では苦労した口じゃが。

そなたらを妹のように思い、早死にした師匠が出来なかった弟子の育成に拘ったというのが真相であろうか。

「そこで、強引に押しかけ女房をするとヴェンデリンは引くからの」

「テレーゼも前はそうだったよね」

ルイーゼめ、人の過去を抉ってくれたの。

「あの男はちゃんと計算もできる男じゃが、そこにもう一つ理由を付けて自分を納得させようとする部分がある。お主らは、今は可愛い弟子のみでいるように。それが最終的にヴェンデリンから好かれるコツじゃぞ」

このままヴェンデリンが三人を冒険者パーティに入れて連れまわせば、近寄る男などいなくなるからの。

何年かしてから『責任を取れ』と言われれば受け入れるであろう。

それに、受け入れればこの三人が産んだ子供は全て魔法使い。

優秀な魔法使いを三人バウマイスター伯爵家が独占しても、三人以上の子供を産んでそれが魔法使いなら貴族は納得するというもの。

「妾もまだ魔法の修練を始めて時間が短いのでな。たまには、魔法を教えてくれよ」

「「「はいっ!」」」

ここで話は終わり、ヴェンデリンが用事を終えて戻ってくると、三人は交互に赤ん坊を抱いたりあやしていた。

「三人とも、慣れているんだな」

「私には弟と妹がいて面倒を見ていましたから」

「私も妹がいるので」

「私は親戚の子供で慣れています」

三人とも、さり気なく子供を産んでも大丈夫アピールをしておる。

ヴェンデリン、確かにその三人は可愛いのも事実じゃが、やはり女であるという事を忘れておるの。

いや、あえて忘れたフリをしておるのか。

「テレーゼって凄いわね」

アグネス達が帰り、ヴェンデリンはまたローデリヒに呼ばれて雑用をこなしていると、アマーリエが妾に労いの言葉をかけてくる。

アマーリエは零細とはいえ騎士の娘なので、エリーゼの次にこういう事では察しがいいのが助かる。

「妾も非公式ながら、バウマイスター伯爵家の一員じゃからの。御家のために、将来有望な魔法使いを周囲からの軋轢を少なく囲い込む道しるべを示したのみ」

「あの娘達、少し怖がっていなかった?」

「じゃろうが、同時に妾が落とし所を提示したら喜んでいたではないか」

こういう話は、正妻であるエリーゼが言うと角が立つのでな。

愛人の妾が非公式に出した方がいい。

それを理解したエリーゼは何も言わなかったのじゃから。

「女魔法使いとは、大変じゃからの」

リサを見れば一目瞭然じゃ。

なまじ力があって稼げるために、寄生虫のようなおかしな男が近寄ってくる。

それを排除すれば、売れ残る羽目になるケースが多い。

それを防ぐのに、ヴェンデリンのような相手は最適というわけじゃ。

「こちらは 庇(ひさし) を準備してやり、向こうは魔法使いとしての力と子供を提供してもらう。こう言うと、物凄く現実的じゃが……」

ヴェンデリンには、甘い部分が多い。

そのおかげで妾も救われたが、その甘さが致命傷になるやもしれぬ。

それを防ぐ手助けを、妾がするのもこれは運命かの。

「しかし、ヴェンデリンは女というものがまだよくわかっておらぬようじゃの」

「ああ見えて、夢見がちな部分もあるからね」

でなければ、あの三人を純粋な弟子として扱う事にここまで拘らぬか。

もっとも、肝心の弟子達の方はしっかりとヴェンデリンの妻なり愛人になる事を望んでおる。

「多分、親御さん達も期待してしまっているのよ」

冒険者予備校の魔法使いクラスの中で、三名だけがヴェンデリンに特別扱いされている。

変な男に騙されて結婚するよりは、ヴェンデリンの傍の方が安心というわけだ。

上手くすれば、自分の孫が貴族になれるかもしれぬしの。

「私がヴェル君に囲われたら、両親も兄も大喜びよ」

「であろうな」

飛ぶ鳥落とす勢いのバウマイスター伯爵家の縁戚になれたのだから。

更にアマーリエが子供でも産めば、余計に嬉しいであろう。

「かくも貴族とは、打算の果てに婚姻が決まるというわけじゃ」

「恋愛結婚なんて、物語になるほど珍しいものね」

「とはいえ、妾は物語的な部分があるぞ。帝国皇帝になるのも仕方なしと思われていた時に、ヴェンデリンが妾の心を読んで見事に粉砕してくれたわ。兄達には悪かったが、妾に隠れて最悪な選択を取ろうとしたからの。あまり同情もできぬ」

傍から見ればまるでそう思われないかもしれぬが、妾はヴェンデリンに感謝しておる。

だから非公式の愛人としては、バウマイスター伯爵家のためにたまにはひと肌脱ぐ手間を惜しまぬというわけじゃな。

世間からは、容易い女だと思われるかもしれぬがの。

「やれやれ、また工事の計画が早まったのかよ……」

「先生、また土木工事ですか?」

「ローデリヒの奴、俺を容赦なく扱き使うからな」

「先生、私達も手伝いますから」

「アグネスちゃんも、シンディちゃんも、私も、みんな先生のおかげで土木魔法が上手になったから大丈夫ですよ」

「それはそうなんだけど……」

「先生は、俺に任せとけと言って魔法を使っていた方が似合いますよ」

「そうかな?」

「そうですよ。先生、頑張りましょう」

「それもそうだな」

いくら可愛いとはいえ、ヴェンデリンの奴、簡単におだてに乗ってしまいおって。

能力はあるのだから、このくらい抜けていた方が実は大貴族の当主としてはよかったりするからの。

もし何かがあれば、エリーゼや妾が口を出せば済む問題なのじゃから。