軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百二十二話 ヴェンデリン、花を贈る。

「先生、サングラスの具合はいかがですか?」

「いい具合で、釣りと狩猟に役立っているよ。いい品をありがとうな、アグネス」

「先生に喜んでもらえてよかったです」

今日も講義が終わった後、俺はアグネスと世間話をしていた。

サングラスで縁ができたし、彼女は魔法使いのクラスで一番優秀な生徒であった。

魔力も現時点で一番多く、講義も熱心に聞き、筆記試験などでも優秀な成績を修めている。

委員長キャラであるが可愛い娘でもあり、俺のお気に入りの生徒になっていた。

生徒を差別するのはどうかと思ったが、先生も人間だから仕方がないし、別に他の生徒達の指導に手を抜いているわけでもない。

と、自分で思う事にした。

前世の学校の先生も、こういう悩みを抱えていたのであろうか?

「先生はこれからどうされますか?」

「少し早く屋敷に戻ろうと思うんだ。奥さん達がいるから」

「それがいいですよ」

俺がアグネスを気に入っている理由の一つに、この娘が物凄くいい子だというのがある。

放課後に遊びに連れて行けとか、この年代の娘なら言いそうな事を言わずに、俺が妊娠したエリーゼ達の元に早く帰ってあげた方がいいと気を使えるのが凄いと思う。

まず前世で同じ年齢だった時の俺は、こんな気遣いなどできなかった。

最新のゲームと、人気の連載漫画の続きと、可愛い女の子の事しか考えていなかったのを思い出す。

「何かお菓子でも買って帰ろうかな?」

「先生って、お土産がほとんど食べ物ですね」

「ははっ、好きだからな」

それもあるが、服やアクセサリーだと似合う似合わないとかサイズの問題もあって、エリーゼ達と一緒に店に行かないと俺には判断できないからだ。

まあ、ファッションセンスがないのは前世からずっとそうなので仕方がない。

「女性への贈り物なら、たまにはお花なんていかがですか?」

「花か……」

さすがは女性という事もあり、アグネスは俺に花を買って帰ればエリーゼ達も喜ぶであろうと助言してくれた。

なるほど、女性らしい視点からの意見であった。

「そうだな、たまには花もいいか」

「そうですよ、女性はお花をもらうと嬉しいものですよ」

大量にバラを買って花束に……鉢植えの高価なランとかでもいいのか?

他にも花は一杯あるであろうし、いざ花を選ぼうとすると悩んでしまうな。

「先生、実はシンディちゃんの実家はお花屋さんなんですよ。有名な専門店で、綺麗なお花が一杯置いてあるんです」

シンディとは、このクラスで最年少の少女であった。

年齢は十二歳で、そういえば俺もその年で予備校に入学したんだよな。

アグネスとも仲がよく、実はクラスで三番目の魔力の持ち主であった。

しかも、三番目とはいっても、アグネスとそう魔力量に差があるわけでもない。

前途有望な新人というわけだ。

黒い髪をオカッパにしているので余計幼く見えるが、実はルイーゼよりも少し背が高かった。

やはり、ルイーゼほど幼く見える娘ってそうはいないのだな、と俺は感じていた。

「シンディ」

「なあに? アグネス」

年齢は二つ違うが、二人はお互いに気安く口を利いていた。

同じクラスでもあるし、本当に仲がいいのであろう。

「先生が、シンディのお家でお花を買いたいって」

「本当ですか? ありがとうございます」

シンディは、お客になるであろう俺に嬉しそうにお礼を述べた。

「それで、どのようなお花をご希望ですか?」

「……」

シンディに質問され、こで一瞬、俺の時間が止まってしまった。

よくよく考えたら、俺は大して花の種類など知らないのだ。

バラ、チューリップ、ラン、菊……駄目だ、菊は女性に贈るのに向かない。

俺のイメージだと、葬式とかに飾られていそうだ。

あとは花人形……全然関係ないな。

そういえば、この世界に菊ってあるのかな?

ミズホ公爵領には花人形と共にありそうだが、全然興味がないので知らなかった。

食用菊……はあるかどうか、あとでミズホ公爵に聞いてみよう。

あれ、茹でてからカラシ醤油で食べると美味しいからな。

それにしても、他の花の名前がいまいち出てこない。

マーガレットって、花の名前……人の名前か?

ポインセチア……あれ? 犬の名前か?

そんな具体的に聞かれても困ってしまうので、俺は思わず後ろで静かにしていたエルに救いを求めた。

エルもナンパとかしているくらいだから、きっと俺の知らないところで女性に花を贈った経験くらいはあるはずだ。

「エル、お前ならどんな花を贈る?」

「……チューリップ?」

「さては、お前。俺と同じレベルだな」

エルも碌に花の名前など知らず、俺と大差なかったというわけだ。

「お前、そんなんだからカルラにフラれるんだよ!」

「それは花と関係ないじゃないか! バラ!」

「バラを知らない人はいないだろう」

やっぱり、エルも俺と大差がなかった。

大半の男がこんなものなのであろうが……。

「ここは同じ女性であるカチヤに聞くか……カチヤ」

「えっ? あたい?」

なぜかカチヤに話を振ったら、彼女もエルと同じように考え込んでしまった。

「例えば、家族や冒険者の男性から花を贈られたとか?」

「……ええと、ないかな」

カチヤは、人から花を贈られた経験がないという。

明らかに表情が暗くなったので、俺もエルもこれ以上は聞いてはいけないような気がした。

多分、屋敷に帰っても、カタリーナとリサにも聞いてはいけないと思う。

「親父や兄貴が花なんてくれないし。一番もらうのはマロイモ?」

「そうか……」

マロイモは美味しいし女性には大人気だけど、やっぱりたまには花くらいほしいとカチヤでも思うよな。

マロイモだと、いまいちロマンチックじゃないし……。

「こうして、花の名前がわからなくて三人で行き詰っているわけだ」

先生失格かもしれないが、俺の専門は植物学じゃないからな。

気にしないようにしようと思った。

「先生、そういう方は別に珍しくないですよ。そのための、私達のようなお花のプロなのです」

「そうだよな? なら、シンディに選んでもらおうかな」

「はい、喜んで。ご案内しますね」

こうして俺達は、シンディの案内で彼女の実家である花屋へと向かうのであった。

「先生、ここですよ」

「これは専門的な……」

シンディの実家は、商業街の一角、下級貴族街にも近い大きな花屋であった。

花のみならず、植木やガーデニング関連の商品も扱い、かなり大規模に経営している。

「ただいま」

「お帰りなさいませ、お嬢様」

店内に入ったシンディを、店員らしき若い男性が出迎える。

お嬢様と呼ばれているところを見ると、かなり大規模に花を扱っている大商家のようだ。

「トーマス、今日はお客さんを連れてきたから私が案内するわね」

「へえ、お嬢様がじきじきお連れしたお客様ですか……って! バウマイスター伯爵様ですか?」

若い店員は、俺の顔を知っていたようだ。

こちらも驚くほどの大声をあげた。

「今、私達の先生なのよ。先生は奥様達に贈るお花を選ぶから、私が案内するわね」

「わかりました、ここはお嬢様にお任せした方がいいですね」

シンディの案内で、まずは切り花が置いてあるコーナーに向かう。

綺麗な花が沢山置いてある。

バラとか……チューリップもあった。

タンポポはないか……野生の植物だからな。

でも、あれは根っこでコーヒーが作れるんだよな……今度作らせてみようかな。

あとは、よくわからない。

「綺麗だな、エル」

「ああ、綺麗だ」

「綺麗だな、旦那」

そして悲しい事に、やはりエルとカチヤも俺と同じレベルであった。

人に花を贈る生活なんてした事がないから、三人もいて花を見ても綺麗としか言えない。

花の名前なんて、ほとんど知っているはずがないのだ。

「先生は、どのようなお花が好きですか? お花の名前を知らなくても、自分が綺麗だと思うお花を贈るのも悪くないですよ」

さすがは、商売屋の娘。

シンディは、俺に恥をかかせないように上手く誘導してくれる。

というか、十二歳とは思えないほどシッカリしていた。

俺から魔法を教わる時とかは、もう少し幼い印象を受けていたのだが。

「そうだな……これは?」

俺は、ある花を指差した。

何か見た事があるようなないような……花は小さいけど、これは意外といいのではないかと思ったのだ。

「えっ! このお花ですか?」

「おかしいかな? 綺麗だと思うけど……」

「先生、このお花はシレネって言いまして、花言葉は『偽りの愛』なんです」

「……」

どうやら、この世界にも花言葉があるようだ。

しかも俺は、花言葉という単語しか知らず、いきなり妻達に贈るのには不向きな花を選んでしまうのであった。

「ヴェル、こんなに沢山ある中から最悪なのを選ぶなよ」

「うるさいな、じゃあエルが選んでみろよ」

「俺も、ハルカさんが喜ぶような花束でも買って帰るかな」

エルも、ハルカに花でも買って帰ろうと思ったらしい。

沢山ある中から、女性に贈るのに相応しいと思う花を選び始める。

「似合わないなぁ……」

「ヴェルには言われたくないわ!」

俺に対して怒りながらも、エルは沢山ある花の中から自分の好みに合う花を選び出した。

「これなんて、変わっていて面白いかも。バラと合わせて花束にするとか?」

「シンディ、これはどうだ?」

俺は、エルが選んだ花の花言葉を聞いてみる。

「このお花はシクラメンですね。花言葉は、嫉妬と猜疑心です」

「お前も駄目じゃないか」

嫉妬と猜疑心とは、女性に贈るのには不向きな花言葉にしか聞こえない。

シクラメンは今名前を言われて、俺も聞き覚えがある花の名前であった。

正直、どんな花かは知らなかったけど。

「なあ、シンディ。そういうのを気にしていたら、花なんて贈れないんじゃないのか?」

カチヤは、じゃあなぜそんな花言葉の花を商品として置いておくのだと疑問に感じたようだ。

シンディに対し、疑問を投げかける。

「女性に贈るのに一番無難で、一番喜ばれるのはやっぱりバラなんですけど、ずっとバラばかり贈られても飽きるじゃないですか。そういう慣れた方は花言葉はほとんど気にしませんけど、初めて贈るお花で冒険をして相手に嫌われるというケースもあるので、そこは、お勧めする店員の力量なんです」

シンディは、カチヤの疑問に淀みなく答えた。

「なるほど、あたいは花言葉よりも綺麗な花がもらえた方が嬉しいかな」

シンディの実家である花屋は繁盛していた。

数名いる若い店員が、客一人一人について色々とアドバイスをしている。

花を買うのはお金に余裕がある人なので富裕層であり、花の値段も現代日本よりも高いから、きめ細やかなサービスというものが必要なのであろう。

定期的に花を購入してくれる金持ちの客が、次も気分よく花を買いに来てくれるよう、店員達は日々お花の勉強を怠っていないようだ。

鉢植えなどもあるし、花の種も売っているので、育て方についても詳しくないと駄目なはず。

俺は、お花屋さんも色々と大変だなと思った。

「お得意様の好みのお花を覚えるのも、店員のお仕事なんです」

「なるほどねぇ……色々と大変なんだな。シンディも詳しいみたいだけど」

「はい、私には兄と弟がいるのでこのお花屋は継ぎませんけど、子供の頃から手伝いをしていたので」

門前の小僧習わぬ経を読むという事のようだ。

シンディも、店員に負けないくらいお花には詳しかった。

「サービスのよさか……確かに、客が多いからなぁ」

店内には男性の客も多い。

貴族がお付き合いのある女性に贈ったり、大商人らしき人は飲み屋の女性にでも贈るのであろうか?

そう考えると、実はエルよりもブランタークさんを連れてきた方がよかったとか?

「赤いバラとカスミソウを大きな花束に! 四つ作ってほしいのである!」

とここで、俺達は意外な光景を目の当たりにする事となる。

何と、あの導師が花を買いに来ていたのだ。

導師が熱心に教会に通うのと合わせて、あり得ない事象の双璧だと思っていたのに、俺達は目の前の現実に目を見張った。

「導師?」

「おおっ! バウマイスター伯爵であるか!」

導師は俺達を見つけると、嬉しそうに声をかけてきた。

「花を買いに来たのですか?」

「普段は屋敷を空ける事も多く、妻達には寂しい思いをさせているので、たまには花くらいはというやつである! まあ、花などよく知らないので、いつも赤いバラとカスミソウであるが」

「導師様、これでよろしいですか?」

「うーーーむ、もう少し赤いバラ花を増して花束を大きくするのである! こういうのは豪勢な方がいいのである!」

「畏まりました」

意外というと失礼かもしれないが、導師はこのお店の常連のようだ。

店員とのやり取りで、そういう印象を感じてしまった。

しかし、花束も豪勢な方がいいとか、導師の性格がよく出ていると思う。

「大分増量いたしましたが」

「おおっ! これぞ花束であるな! では、某はこれで! エリーゼ達に花を贈るとは、バウマイスター伯爵もやるではないか!」

俺は導師に褒められたが、何となく釈然としない気持ちを抱いてしまった。

そして導師は、購入した花束を魔法の袋に仕舞うと、颯爽と屋敷へと戻っていく。

その手慣れた様子に、俺も、エルも、カチヤも、物凄い敗北感を感じてしまう。

ブランタークさんやブライヒレーダー辺境伯なら、そんな感情は抱かなかったかもしれない。

あの、花とは一番縁遠そうな導師だからこそ、余計にそう感じてしまったのだ。

「ヴェル、なぜか物凄い敗北感を感じたような……」

「あたい達って、導師様以下……」

「それを言うな! カチヤ!」

「だって事実じゃないか! エルヴィンだってそうだろう!」

導師には大変失礼だが、この件に対する俺達への心のダメージは深刻であった。

そして、もう一つの試練が俺達を襲う。

「お嬢様、導師様が赤いバラをすべて購入されていかれたので品切れです」

一番無難な赤いバラの品切れという事態に、花に詳しくない俺達は更に追い込まれる事となった。

「真っ赤なバラがないというのは困ったな……」

導師よって赤いバラを買い占められてしまうという事態に、俺達は困ってしまった。

陳腐だとか、マンネリだとか言われても、真っ赤なバラを贈られて嬉しくない女性はいないからだ。

「こうなれば……」

「こうなればどうするんだ? 旦那」

「専門家に一任する」

そう、俺は伯爵様なのだ。

何かを成す時に、人の力を借りる事は悪ではない。

むしろ、これが正しい貴族の姿であった。

決して、赤いバラが売り切れてネタに詰まったとかではない。

「はい、任せてください。でも、次からは先生も贈りたいお花とかを考えておいてくださいね」

さすがは手馴れているというべきか、シンディは上手く花を組み合わせてエリーゼ達に贈る花束を作ってくれた。

「……先生の奥さんって、多いんですね……」

それは、アマーリエ義姉さん、テレーゼ、リサの分も混じっているからであろう。

でも、伯爵様ならそう珍しくもないのだが。

奥さんに花を贈るだけでも物凄い出費になっていて、貴族って存在するだけでコストが発生するんだなと、俺は妙に感心してしまった。

「また買いに来るよ」

「はい、定期的に奥様達に贈ってさしあげると喜びますよ。女性は、お花が大好きですから」

それは、俺でも何となくわかった。

女性は花が好きな生き物で、なぜ花がいいかというと枯れてなくなってしまうからだと言っていた人がいたような。

アクセサリーほど重くはなく、また贈ってもらえるかもという期待感もあるのかもしれない。

「シンディにはお世話になったから、ここは先生がお花を贈ろうかな」

俺達だけだったら花を選ぶ事すらできなかったであろうし、お礼とチップも兼ねてシンディにもお花を贈る事にした。

女性に贈る花を選ぶ訓練にもなり、一石二鳥でもある。

「そうだな……これなんてどうかな?」

俺が選んだのは……ユリに似た花。

そうそう、俺でもユリはわかったよ。

急に知っている花の種類を全種類とか言われても、そう都合よく全種類を思い出せるわけでもないからな。

今、ようやく思い出したけど。

「今日はありがとうな、シンディ」

「はい、奥様達によろしくお伝えください」

俺はエリーゼ達に贈る花束を購入し、急ぎ屋敷へと戻るのであった。

「というわけで、エリーゼ達に花を買ってきました」

「そのまま渡せばいいのに、事情を話してしまうのがヴェルらしいね」

「いやあ、俺に気の利いた言葉とか難しくてさ」

奥さん達に花束を渡すと、ルイーゼからもっと格好良く渡せばいいのにと言われてしまうが、花を贈られたこと自体は嬉しかったようだ。

花を見ながら、エリーゼ達とわいわい話をしている。

「赤いバラがありませんけど、他のお花を上手く組み合わせてあって綺麗ですね」

エリーゼも、とても嬉しそうだ。

やはり、女性は花をもらうと嬉しいというのは、本当のようであった。

「赤いバラって、やっぱり定番なのかな?」

「はい、一番人気があって、一番わかりやすいので」

この世界でも、やはり赤いバラは最強なようだ。

「それがさ……」

俺が、導師が赤いバラを全部買い占めてしまった話をすると、実際にそれを見ていたカチヤと、エリーゼを除き、みんなが驚愕の表情を浮かべた。

「えっ? 導師が?」

「またまた、導師に似た他の誰か……あんな人、見間違えるはずがないか」

「似合わない」

「似合わないとしか言えませんわね……」

イーナ、ルイーゼ、ヴィルマ、カタリーナの反応は俺の予想の範囲内だ。

導師を知る人からすれば、きっと誰だってそう思うはずなのだから。

「でもよ、実際にあたいも見たし、話もしたんだから」

「いや、それほどおかしい事か?」

「おかしいというか、似合わないって方が大きい」

「それはそうかもしれぬが、ああ見えて導師は女子供には優しいのじゃぞ」

テレーゼは、子供の頃に親善訪問団で訪れた導師に我儘を言って各地に遊びに連れて行ってもらった時の事を話す。

「下手をすれば厳罰物の行為なのに、導師は妾の我儘を聞いてくれたからの。巻き込まれたブランタークは、最初顔を引き攣らせておったがの」

可哀想にと、俺はブランタークさんに思わず同情してしまう。

「そうよね、私もたまにお話をするけど、お優しい方だと思うわ」

アマーリエ義姉さんもテレーゼと同意見で、ある程度年齢がいっている女性は導師は女性に優しい人だと思っているようだ。

経験を重ねて、男を見る目が鍛えられているというやつであろうか?

「エリーゼは驚かないな」

「はい、昔から伯父様はそういう方ですから」

導師は新婚当時から、定期的に奥さん達に花を買って帰るのが習慣になっているのだと、エリーゼがみんなに教えてくれた。

「まあ、結局あれだな。俺達も導師くらい女性に気を使えるようにならないと駄目だと」

「そうかもな」

エルの的確すぎる指摘に、俺は思わず納得してしまうのであった。

そしてその頃、シンディの実家である花屋では……。

「シンディが、バウマイスター伯爵様からチグリジアを贈られたそうだ」

花言葉など何も知らないバウマイスター伯爵であったが、そんな事は知らない花屋の店主兼オーナーであるシンディの父親は、その事実を知って大喜びしていた。

「凄いですね、オーナー。シンディお嬢様がバウマイスター伯爵様の奥さんですか」

「何しろ、シンディにチグリジアを贈るくらいだからな。シンディがバウマイスター伯爵様の妻になれば、うちもバウルブルクに支店を出せるな」

「それはいいですね」

シンディの父親は、長年花屋に勤めているベテラン店員達と大喜びしていた。

チグリジアの花言葉は、『私を愛して』である。

二人は、自分の娘がバウマイスター伯爵から求愛されたと思っているのだ。

勿論、これは盛大な勘違いである。

「うちは庶民だからな。バウマイスター伯爵様とシンディの子供がバウルブルクの花屋のオーナーになり、バウマイスター伯爵領に作られる他の町の花屋も経営する。そうだな、こっちの本店はカーチスの息子に任せて、お前はシンディの下で実質的な経営と支店網の構築を担当するのだ」

「夢が広がりますね」

そうすれば、今までは王都に一店舗しかなかったこの花屋の商売も大きく広がっていく。

「バウマイスター伯爵領には、珍しいお花も多いそうで。これも商えれば、商売も広がりますね」

「カーチス、いい事に気がついたな。そうだ、これは大きなチャンスなんだ!」

シンディの父親とベテラン店員は将来への希望に夢を膨らませていたが、当のシンディはバウマイスター伯爵がそこまで考えてチグリジアを贈っていないのを知っていたので、予想外の展開に動揺するばかりであった。

「(お父さん! カーチスさん! 違うの! 先生はそこまで考えて私にチグリジアは贈っていないから!)」

シンディは父達のあまりの喜びように、それが違うと言えなかった。

物凄くガッカリするのがわかっていたからだ。

「(何とか私の卒業までにお父さんに違うって言わないと……でも、先生のお嫁さんもいいかも……)」

同時に、バウマイスター伯爵の奥さんになれれば嬉しいとも感じていたので、止めに入れなかったという理由があったのも、他の人には秘密であった。