軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十二話 師匠の遺産。

「師匠は、満足して成仏したんだ。これ以上、悲しむのは止めよう」

師匠が天へと消えた後、俺はそう決意していた。

そして、師匠のお墓は作らない事にした。

彼が事前に、『お墓なんていらない。たまに、知っている人に思い出して貰えれば満足さ』と言っていたので、その意志に従う事にしたのだ。

それよりも、問題が一つあった。

師匠から形見として与えられた、魔法の袋とその中身の事である。

師匠は孤児で、血縁者がいなかったらしい。

なので、これを俺が受け取る事に関しては何の問題も無いであろう。

あっても、本来であれば魔の森の奥地で朽ち果てる予定であった物である。

万が一正式な相続者がいたとしても、命を賭してまで取りに行くかどうかも怪しい。

師匠は優れた魔法使いであり、ブライヒレーダー辺境伯のお抱えになる前は優秀な冒険者でもあった。

となると、その遺産は多いのかもしれないが、それを取りに魔の森へ向かって死んでしまっては元も子もない。

金を出して冒険者などに頼むとしても、場所が場所なので受ける人が居るのかも怪しい。

普通の人ならば、諦めるのが当然であろう。

実際のところ、今のブライヒレーダー辺境伯は失敗に終わった出兵で発生した被害の負担どころか、遺品の捜索すら全くしていないと言うのだから。

「とりあえずは、中身の確認だな。良い魔法具とかがあるといいな」

俺は魔法の袋に付いている小さな魔晶石に触れながら、微量の魔力を送る。

こうする事によって、自分の脳裏に魔法の袋に入っている品物のリストが浮かんでくるらしい。

どんな仕組みなのかは不明であったが、物凄く便利な機能ではある。

すると、その筆頭に師匠から俺への手紙というのが浮かんでいた。

早速に袋から取り出して封を開けると、そこには丁寧に魔法の袋の中に入っている品物のリストが書かれていたのだ。

「これで、脳裏に浮かぶ大量の文字の羅列と戦わないで済む」

手紙には、こう書かれていた。

まずは、最後の挨拶を簡単な物としたいので、この手紙を事前に認めておいた事。

次に、この手紙が袋から取り出せたという事は、正式にこの袋の持ち主が俺に代わった事の証明であるという事をだ。

『事前に器合わせで君の魔力の容量は広げてあるし、私との僅かな期間の訓練でも君の魔力量は飛躍的に上昇している。限界が来るまで決して鍛錬を怠ってはいけない。さて、君に渡す私の遺産の内容なんだが……』

まずは、師匠が愛用していた装備品のローブやアクセサリーに、杖、魔法の刀身を出す剣の柄に、他にも魔法の矢を飛ばす弓や、果てはオリハルコン製やミスリル製のナイフが数本ずつなど。

なるほど、師匠は優れた冒険者であったらしい。

その装備品は、全て魔法の効果がかかった、金を出して買うとなると高額な物ばかりであった。

あとは、愛用していた魔法具の類であったが、これは魔法使い専用の物と、市場では高額で取り引きされる汎用品も半分ほどを占めていた。

「食べ物を冷やし、氷を作る冷蔵庫なる魔法具か……。汎用品の大半は、冒険者時代に遺跡で拾ったと書かれているな」

冒険者とは、魔物のテリトリーに侵入してそれを狩って素材や肉を得たり、テリトリー内にのみ存在する植物や鉱物などを採取するのが仕事だ。

そして他にも、なぜか魔物の生存圏の中にしか存在しない旧魔法文明王朝の遺跡やダンジョンなどを捜索し、その古代の遺産を得るというものも含まれていた。

ただ、これを達成可能な冒険者というのは非常に少ない。

旧魔法文明王朝とは、今から一万年ほど前に滅んだ今よりも優れた魔法具の製造に長けた古代王朝であったようで、その遺跡から産出される魔法具には高価な値段が付くのだが、その分危険も大きいというのが現実であったからだ。

魔物の恐ろしさは、冒険者時代に何度も遺跡探索に成功している師匠が生き残れなかった件からしても納得というものだ。

『しかしながら、実は魔物のテリトリーへの侵入は少数精鋭の方が成功率は圧倒的に高くてね。そのための、冒険者稼業という事でもあるんだ。ブライヒレーダー辺境伯には良く説明したつもりだったんだが……』

まるで俺と話をしているかのように手紙には的確な合いの手が書かれていて、俺は思わず苦笑してしまう。

『あれほどの大軍で押し入って、目的が新しい土地の開発のために魔の森の魔物を殲滅。これで目立たない道理はないさ。最初の数日間は、派手に魔物の殲滅に成功していたんだけど、それで浮かれている間に数十倍の魔物に囲まれてね。良く少数だけど逃げ延びた人がいたものだ』

その僅かな生存者達も、半分以上はもう二度と兵士としては使えなかったらしい。

そういえば、我がバウマイスター騎士領軍の生き残りも兵役は免除されていて、常に何かに怯えたようにオドオドしながら農作業や開墾の手伝いなどをしているのを見た覚えがあった。

きっと、かなりのトラウマを受けてしまったのであろう。

『話を戻すが、私は出来る限り出兵を止めようとしていた。だが、完全に否定ばかりしてもブライヒレーダー辺境伯は納得してくれないであろう。ゆえに、もし新しい土地の魔物からの開放が成し得なくても、兵士達の士気を維持するために狩りの成果には恩賞を出すべきであると』

二千人で狩りを行い、その成果である魔物から取れる素材や肉、魔の森の中で獲れた採集物などを買い取り、恩賞を出す。

次第に兵士達の懐が暖かくなれば、今の内に兵を退こうという雰囲気になるかもしれないし、ブライヒレーダー辺境伯も出兵の費用が補え、面子的にも大量の魔物の討伐実績と素材を得た事で帳尻が合う。

そのように考えて、師匠も出兵に参加したようだ。

結果は、ますます増長して魔の森の魔物を全滅させるまで撤兵はしないと断言し、その直後に地獄を見たようなのだが。

『それに、私がいれば兵站の苦労が減るからね』

なるほど、師匠は魔法の袋を荷駄部隊に当てて正面戦力を一人でも増やしたようだ。

ブライヒレーダー辺境伯軍二千人の兵站ともなれば、これは大きな負担となる。

いくら隣の領地内とはいえ、魔の森は富士山よりも高い山を越え、更に三百キロほど南に行軍しなければ到着しないからだ。

しかも、我がバウマイスター騎士領の人口は僅かに八百人ほど。

二千人もの軍勢が消費する食料を補給できるはずもない。

しかもバウマイスター騎士領軍は、敵軍どころか魔の森の解放のために共に戦う相手なのだから、その根源地からの現地調達など問題外であろう。

二千人もの軍勢が最長数ヶ月行動可能な食料や物資を、富士山よりも高い山を越えて荷駄部隊で運ぶ。

この時点で、この計画の無謀を悟ってくれれば良かったのにと師匠は手紙の文面でも嘆いていた。

というか、父は何も思わなかったのであろうか?

戦後に少しでも利権を取り戻すために、俺には大叔父にあたる家臣に兵百人を率いさせ、結果的には傷を広げてしまったのだから。

『君なら理解できたと思うが、この魔法の袋にはブライヒレーダー辺境伯軍とバウマイスター騎士領軍が使用する予定であった食料や物資が全て入っている』

しかし、偉大な魔法使いが持つ魔法の袋が、いかに大量の物資を詰め込めるかだ。

これだけの物資を準備したブライヒレーダー辺境伯も相当な物だが、これを全て魔法の袋に仕舞い込めた師匠の魔力が恐ろしい。

『そんな私よりも魔力が多い君が、それを言うかな?』

見事に俺が考えそうな事を読んで、次の行には的確なツッコミが入っていた。

「しかし、二千人が約三ヶ月行動可能な食料に……」

大半が、長期保存が可能な堅く焼き締めたパンに、甘くないクッキー、塩漬けの肉に、樽に入ったザワークラウトなどの類であったが、よくよく考えると魔法の袋の性質を良く理解していないように思える。

魔法の袋の中は、通常の物理の法則から外れた魔力の影響下にある世界なので、そこでは全く時間が経過しない。

だからこそ、大陸の中心部にある王都では、比較的富裕層の市民階級を中心に新鮮な海の魚が食卓に上っているそうなのだから。

これは本の知識ではあったが、早く大きくなってこの不便な田舎から出て行きたい物である。

あとは、予備の武器や防具。

これは、鉄や青銅製の物が多かった。

同じく予備の天幕などの、いかにも中世の軍勢が使いそうな備品に、現地で飲用可能な水が補給可能かという心配があったようで、大量の皮袋に入った水に、兵士の士気向上のためであろう。

ブライヒレーダー辺境伯領産のワインや、怪我の治療にも使うものと思われるブランデーなどの蒸留酒なども多数準備されていた。

大人が酒が好きなのは、どこの世界でも同じなようだ。

俺も前世では、あまり強くはなかったが毎晩の晩酌は欠かさない性質であった。

今はこの成りだし、手に入らないので諦めていたが。

「あとは、この大量の魔物の素材や肉に、魔の森で採集した戦利品か……」

よほど恩賞で煽ったようで、袋には大量の戦利品が入っていた。

ただ、知識でどのような物かは理解できても、今の俺ではどうにも活用は不可能な物が多かったのだが。

魔法の袋に入っている限りは劣化しないので、とりあえずはこのままにしておく事とする。

「そして最後に、大量の宝石類に、宝飾品、金貨に銀貨か……」

師匠の財産であったり、ブライヒレーダー辺境伯が大物貴族として見栄を張ったり、兵士達への恩賞用として準備していたらしい。

軽く眩暈がするほどの大金が、袋の中に入っているようだ。

「とはいえ、今の俺には使えないし」

この村に気軽に買い物できる店など一軒もないし、というかこの袋の存在を公には出来ない。

いくら大きくなるまで基本放任な八男でも、これだけの財産を持っている事が知られたら?

最悪、命の危険まで考えなければいけないであろう。

「というわけで、大きくなるまでは中身は封印と」

師匠のローブや装備品には強力な魔法がかかっているので着てみたかったのだが、如何せん俺はまだ体が六歳児。

サイズの問題で、この身の成長を待つしかなかった。

「ふう……。帰ろう……」

俺は、師匠の装備品を魔法の袋に仕舞うと、今日の分の獲物を抱えて家路へとつくのであった。