軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第13話 平穏なドゥル山脈越え

カミアノールの同行について、アレンの予想通り『ライオネル』が拒否することはなかった。そもそも依頼人が拒否しているなどといった明確な理由でなければ、ミスリル級の冒険者が同行することによるメリットの方が大きく、はっきり言って断る理由がないからだ。

とは言え完成されたパーティである『ライオネル』の中に入っては連携が乱れる可能性もあるため、いざという時の予備戦力としてアレンたちのいる馬車につく形に決まった。

そしてカミアノールの話も含めて今後の旅程について『ライオネル』とマシューが相談した結果このまま先へと進むことに決まり、そしてアレンたち一行はドゥル山脈越えを再開した。

「あー、こんな感じで聞こえるんだな」

「馬車内の会話のことですか? そうですね。声をかけるタイミングなどがわかるようにはなっています」

マシューの横に座るアレンが、後ろの小窓から響いてくるくぐもった声にそんな感想をもらす。

馬や車輪が地面を踏む音などにまぎれていて、しっかりと耳を澄ませなければ言葉として聞き取れはしないが、中で盛り上がっている様子をアレンははっきりと感じ取っていた。

今、馬車の中にはギデオンとイセリアだけではなくカミアノールも乗っていた。最初の方こそぼそぼそとした感じで話しているようだったが、途中から熱を帯びたものへと移り変わっていた。

おそらくアレンが先日までしていたように3人で熱く議論を交わしているのだろうとアレンは予想していた。

エルフとしてはるかに長い時を冒険者として生きてきたカミアノールであれば、その経験から様々な考察ができるだろうし、さらに言えば人間とは違うエルフという立場から物を見ることができるのだ。

アレン自身もモンスターを警戒する必要がなかったら話を聞いて議論を交わしてみたいと思っていた。

とはいえ、現在アレンは依頼を受けている身だ。まず依頼をしっかりとこなすことが自分の仕事だと考えていた。

「しかし御者ってのも奥が深そうな仕事だよな。馬車にも色々と仕掛けがありそうだし」

「そうですね。確かに奥は深いかもしれません。馬車を知って素人を抜け、馬を知って半人前になり、道を知って一人前になる。そんな教訓があるんですよ」

「へぇ、でも馬車と馬はわかるが、道を知るってのは御者の前提のような気がするんだが、それが一人前の条件なのか?」

ニコリと笑って御者の教訓を伝えたマシューに、アレンが少しだけ首をひねりながら聞き返す。

馬車を知るというのはアレンにもよくわかった。

馬車の中には今回マシューが操っている箱馬車のようなものだけでなく、ライオネルたちの乗っているような荷馬車など様々な種類がある。その特徴や扱いを知るということが御者としての第一歩ということだと。

そして馬についても理解できた。

マシューの偏愛にも似たその馬への愛情を見ていたこともそうなのだが、休憩時間ごとにマシューはブラッシングやマッサージを行っていた。水分補給だけでなく岩塩を食べさせたりと、様々なケアをマシューはしていたのだ。

それらの馬の扱いが雑になれば馬の疲労が蓄積していき、効率が落ちることに繋がるのだろうと予想がついていた。

しかし最後の一人前の条件である道については納得がいかなかった。

確かに道を知るということは重要なことだ。それを知っているからこそ安全に馬車を操作できるのだともわかっている。しかしそれならば商人ギルドでアレンがしたこととあまり変わりがない。それが一人前の条件とはアレンにはとても思えなかったのだ。

そんなアレンの言葉に少しだけマシューが驚き、そして感心した顔でアレンを見返す。

「アレンさんは御者に向いているのかもしれませんね。実はこの道を知るというのは経路や地面の状態のことではないんです。御者道とでも言えばよいでしょうか。具体的に私も説明はできないのですが」

「あぁ、なんとなくわかるわ。自分の仕事に対する誇りみたいなもんだろ」

「そうですね。そうかもしれません」

アレンとマシューが目を見合わせて笑う。冒険者と御者という違う立場の2人だが、その瞬間確かに思いは一致していた。

馬車は進んでいく。ときおりゴブリンに襲撃されるものの、『ライオネル』たちに問題なく討ち取られアレンが活躍することが全く無いまま。

その後のドゥル山脈越えの間も特に問題なく旅は進んでいった。

ゴブリンの襲撃が多かったのはダンジョン付近だけであり、2日目以降は事前情報どおり日に一度モンスターの襲撃がある程度で済んでいた。

特筆すべき出来事といえば、ドゥル山脈越えの初日に野営する場所においてゴブリン数体が馬に襲い掛かろうとしたことくらいだ。

ちょうどマシューが馬に水を飲ませるために『ライオネル』やアレンから少し離れた時にそれは起こったのだが、結果としてはなんの被害もなかった。

アレンやライオネルの助けが間に合ったということではなく、単に4頭の馬によってゴブリンが蹂躙されただけだったからだ。

マシューカが暴れてゴブリンを蹴散らし、怪我を負ったゴブリンへとマシュールが冷静沈着に止めを刺していく。そしてマシューテとマシューホはゴブリンを玉のようにして蹴りあうという、もはや護衛なんていらないんじゃないかと思うほどの強さだったのだ。

その光景に『ライオネル』の面々だけでなく、カミアノールまで驚いていたのだからその異常さは明らかだ。

ただアレンは驚きよりも先に、本当にマシューの言ったとおりの性格なんだなと変なことを思い浮かべてしまっていたが。

そんなハプニングはありつつもドゥル山脈越えの旅は続き、アレンはその道中で良い機会だからと馬車の扱いをマシューに教わっていた。

たまたま商人ギルドで調べた道のことについて話していたら、マシューから自分がフォローするから馬車の操車をしてみないかと提案されたのだ。

襲撃の警戒中だしどうしようかともアレンは考えたのだが、結局一度も戦うことなく山脈の半ばまで来ていたことなどもあり、興味もあったのでお願いすることにしたのだ。

「うーん、ここまで飲み込みが早いとは私も思いませんでした」

「んっ、そうか?」

ゆったりと手綱を持ち、地面のでこぼこを巧みに避けていくアレンを横で見ながらマシューが少しひきつった顔をする。

マシューの動きを間近で見ており、さらには結構な期間指導してもらったおかげもあってもうすぐドゥル山脈越えが終わる現在、アレンの馬車の扱いは既に一人前の御者と言ってもよいほどのものになっていた。

「少なくともこの馬車であれば、もうアレンさん一人でも問題ないと思います」

「まあマシューカたちがよく言うことを聞いてくれるからな」

手放しに褒めるマシューに対し、アレンが苦笑いを返す。

確かに馬車の扱いについては上手くなったと自分でも思っていたが、それはマシューカたち馬がアレンの意思を汲み取り、その通りに動いてくれたからだと理解していた。

もし違う馬であれば、今のように容易くは扱えないだろうとわかっているアレンが馬たちを褒めると、マシューの顔がみるみる笑顔に変わっていった。

「でしょう。うちの子たちは凄いんですよ」

「ああ。いろんな意味で凄いってのは同意する」

半ば定例になりつつある、マシューの家族自慢を聞きつつアレンは馬車を操り続け、そしてアレンたち一行はついにこの旅最大の難所であるドゥル山脈を越えたのだった。