軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8話 鬼人のダンジョン攻略

目の前にある巨大な扉を見ながらアレンは悩んでいた。引き返すべきかどうかを。

アレンが今いるのは鬼人のダンジョンの最下層、三十階層にあるボス部屋へと続く扉の前の広場である。

二十五階層以降のサイクロプスやグレートオーガなどと戦ってみたものの、そのあまりの手ごたえのなさについつい先へと進んでしまい、気が付いたら三十階層まで降りてしまっていたのだ。

「いや普通に考えれば引き返すべきなんだけどな。しかしせっかくここまで来て、ただ帰るってのも」

この扉を開けばこの鬼人のダンジョンのボスと戦うことが出来る。鬼人のダンジョンは初攻略というわけではないが、これまでにボスを倒した冒険者と言えばアレンの記憶が正しければ両手で足りる数のはずだった。

しかもそれは複数人で協力して倒したのであって、ソロで倒したとなれば快挙としか言いようがない。

ここに来るまでにさんざんサイクロプスやグレートオーガなどと戦ってきたため、その巨体にも慣れてきたし、疲れや眠気も今のところアレンは感じていなかった。

すでにダンジョンに潜り始めて二十時間は経過しているはずなのだが、不思議なほどに体調は万全なのだ。

そうなると欲が出てくる。ここまでの歯ごたえのないモンスターと違って、さすがにボスなら多少なりとも強いのではないかと。自分の強さを測るために最適なモンスターなのではないかと。

しかしボスの攻略ともなれば、事前に十分な準備を整えた上で行うのが当たり前だ。今のアレンのように普通の探索を想定した状態で行うものではない。

そんな常識がアレンに二の足を踏ませていた。

門の前でうろうろと歩き回ること数分。アレンは覚悟を決めた。もとより今回は自分の実力を試す意味でこの鬼人のダンジョンに来たのだ。今のままでは力を試すというよりただ殲滅に来ただけである。

せめて少しでも自分の実力が測れるような相手と戦ってみたい。冒険者なのに冒険が出来なかったその日々の思いがアレンの背を押したのだ。

後先考えるより、冒険したいんだろ。してみろよって。

「よし。行くぞ!」

パンパンと掌で顔を叩き、自分自身に気合を入れて五メートルはある巨大な扉に手をかける。

その大きさに比べ、扉の動き出しは非常にスムーズでほとんど力を入れる必要さえなかった。徐々に扉が開き、アレンの目の前にボスの部屋が広がっていく。

ボスの部屋はまるでコロッセオのような円形の闘技場になっていた。半径五十メートルほどの広さがあり、高い壁が外側を囲んでいるだけで遮蔽物の類は全くない。

小細工は抜きにして正面からぶつかってこいというボスの気持ちが表れているような場所だ。

アレンが少し緊張した面持ちで部屋の中へと入っていく。

それと同時に入ってきた扉が閉まり始め、そしてズウゥンという重い音とともに完全にそこは閉ざされた。

ボス部屋は一度入ったら決着がつくまで扉が開くことはない。つまりここから出るためにはボスを倒すしかないということである。

「さあ、来い!」

アレンがそう叫ぶのと同時に、その目の前十メートルほどの地面に穴が開き、そこからゆっくりと一体のモンスターが現れた。

身長五メートル。その炎のごとく赤い体躯は全てが筋肉なのではと思うほど力強く、その腕はアレンがそのまま入ってしまうほどに太い。その全身を黒光りする鎧で包み、四メートルはあろうかというとげの付いた棍棒を軽々と携える姿は、重々しい武の匂いを発していた。

こぶし大の球体を繋げたものを太い首に着け、その額からは種族の特徴である一本の角がまっすぐ突き出している。

そしてその瞳は、まるでごみを見るかのようにアレンを見下ろしていた。

そのモンスターの名はオーガキング。ダンジョン外であればオーガの軍勢をまとめ、時に町を滅ぼす災厄と呼ばれる種のモンスターである。

「グオォォオオォー!!」

「ぐっ、耳が……」

オーガキングのあまりの声の大きさにアレンが耳を押さえ顔をしかめる。それを見たオーガキングはにやりと笑うと、大きく一歩踏み出してその棍棒を思い切りフルスイングした。

十メートルあったはずの距離はその一動作のみで意味をなさなくなっており、反応の遅れたアレンは吹き飛ばされてそのままコロッセオの壁へとぶつかり、その周囲にもうもうと土煙があがる。

オーガキングがゆったりとした足取りでアレンが吹き飛ばされた方向へと歩を進める。それは追撃を行うためでなく、ただ自身の行動の結果を確認するためだけのものだった。

そしてがれきの下に埋まったアレンを見たオーガキングが再び雄たけびを上げる。勝利の雄たけびだ。

「だからうっせえっんだよ。この馬鹿野郎が!!」

がれきを吹き飛ばしながら起き上がったアレンの様子に、オーガキングが一瞬呆気にとられる。それは今の状況ではあまりにも致命的な隙だった。

ボゴォという鈍い音がし、先ほどとまるで逆の立場になったかのようにオーガキングは反対の壁へと吹き飛んでいった。

その体はそのままの形のままで壁へとめり込み、衝撃をまともに受けてしまったオーガキングの口からごぽぉっと緑の血が流れ出る。

オーガキングには何が起こったのかわからなかった。自身の二分の一の大きささえない人間のただの蹴りによって、この状況が引き起こされたと理解することが出来るほどオーガキングの頭は良くなかった。

オーガキングに唯一わかったのは、自身が手を出してはいけない相手に手を出してしまったということ、ただそれだけだった。

「あーあ、せっかくのローブが破れちまったじゃねえか」

そう毒づきながら近づいてくるピエロのマスクをかぶったアレンにオーガキングは恐怖した。その動きに全く乱れがなかったからだ。

自身が全力で行った攻撃がクリーンヒットしたはずであるのに全く効いている様子がない。それはオーガキングが本来持っている闘争心という、本能ともいえる感情を根こそぎ奪っていた。

頭を振って土ぼこりを払いつつ、アレンがオーガキングへと掌を向ける。

「とりあえず、これで試してみるか。ウォーターボール」

そして身動きさえ取れないオーガキングの眼が水球を捉え、それが動いたと思った瞬間オーガキングの意識は途絶えたのだった。

思ったよりはるかに楽勝だった。それがオーガキングと戦ってみたアレンの感想だった。

最初の不意打ちこそ驚いたものの、しっかりと腕でガードしたおかげで怪我らしい怪我はしていない。攻撃を受けたときは腕一本ぐらいで済めばいいなと思っていたのだが、結局腕一本さえも怪我することなく済んでしまった。

一番のダメージはオーガキングの雄たけびのせいで耳がキンキンすることくらいだったのだ。

アレンは倒したオーガキングを解体して角と魔石を取り出す。さすが鬼人ダンジョンのボスというだけあってその魔石の大きさはアレンの頭の大きさほどあった。

その魔石を売ればアレンが冒険者として稼いでいた頃の数年分くらいのお金になるし、角も金属に混ぜると強度が増す性質からかなりの高値で取引されていることをアレンは知っていた。

他にも装備していた鎧などの取れる素材はあるのだが、かさばる割に売値はそこまでではない。一人で持って帰ることを考えるとこの二つがベストだとアレンは考えた。

しばらくしてオーガキングの死体がダンジョンへと吸収され、その代わりに一抱えほどある大きさの宝箱が一つ現れる。

それを見たアレンは思わず歓声を上げた。

「おぉ、マジで出てくるんだな。眉唾もんだと思ってたぜ」

ダンジョンの最下層のボスモンスターを倒すと宝箱が出ることがある、というのは冒険者たちの間でまことしやかに囁かれている噂の一つである。

冒険者ギルドで以前アレンが調べた資料に書かれていたため、そういったこともあると知ってはいた。

とはいえスライムダンジョンのボスを散々倒したのに何一つ出なかった身としては半信半疑、いやほとんど嘘なんじゃないかとアレンは思っていたのだ。しかし現に宝箱が現れた今、噂が本当だったと認めざるを得なかった。

「さて、一応注意して開けるか」

ダンジョンにある宝箱には罠が仕掛けられている物や宝箱自体がモンスターであることもあった。宝箱を発見したと思って浮かれていたら、開けた瞬間に罠で全員が命を落としたという笑えない話もあるのだ。

ボスを倒した後に出た宝箱がそんな仕様になっているという話を聞いたことはなかったが、アレンはできうる限り慎重に宝箱を調べる。

アレン自身そういった役割を果たすためにパーティを組んだこともあるため、普通の冒険者よりは知識はあるがそれでも専門ではない。

10分ほど宝箱を調べ、何も発見できなかったアレンは覚悟を決めて開けることに決めた。

蓋に手をかけ、何かあったらすぐに逃げられるように逃げ腰のままでアレンが宝箱を開ける。騒がしく脈打つ心臓をよそに、なにも起こらずしばらく時が流れた。

「ふぅ、安心したぜ。さてと、お宝はなんだろうな」

何事もなかったことに胸を撫で下ろしつつ、アレンが宝箱をのぞき込む。そこに入っていたのは……

「服か? ちょっと奇抜だが」

取り出した上下セットの服を見ながらアレンは首をひねる。上半身のジャケットは半分が赤でもう半分が黒になっており、腕の部分からはその逆の色になっている。そしてズボンは白い下地に黒のひし形がずらりと並んだ特徴的なデザインだった。

ご丁寧なことに黒いシルクハットと靴、そして白い手袋も揃っている。

まるでこれを着ろと言わんばかりのラインナップにアレンは少し躊躇し、しかしローブも破れてしまったのでちょうどよいかもしれないと考え直してそれを身に着ける。その装備は不思議なほどアレンの持っていたマスクに似合っていた。

着替えたアレンが体を動かしてみると、まるで自分のためにあつらえたかのようにぴったりとフィットしており、なにより今まで着たどんな服よりも動きやすかった。

「さすがダンジョンの宝箱だな。デザインはちょっとアレだけど」

多少の不満はあるものの、概ね宝箱の中身に満足したアレンは、その服装のまましばし休憩することに決めたのだった。