軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8話 木級冒険者としての仕事

ネラとしての身分を手に入れ、イセリアとのライラックのダンジョン9階層でのあれこれがあった2日後の朝7時ごろ、アレンは普段の姿で冒険者ギルドにやってきていた。

ネラとしてはミスリル級冒険者であるが、アレン自身としては未だ木級冒険者であるためそのランクを上げるために依頼を受けようと考えたからだ。

冒険者ギルドでは朝の5時半に新たな依頼が掲示板へと貼り出される。これはライラックの門が開くのが午前6時であるため、遠方での依頼を受けた冒険者などが開門直後に街を出ていけるようにというギルドの配慮からである。

とは言えそれが理由の全てではなく、依頼を貼り出した直後は少しでも良い依頼を受けるために冒険者たちが殺到するため、朝早くにすることでそれを少しでも分散させようという狙いもあった。

かくいうアレンも弟妹を養っていた頃は朝早くにギルドへと行き、少しでも安全で報酬の良い依頼を受けられるようにしたものだった。とは言え、同様のことを考える冒険者は少なくないので、良い依頼については争奪戦になるのが常であったのだが。

そんな事情を知っているアレンがなぜ依頼が貼られてからだいぶ時間が経過した朝の7時という時間にやってきたかというと、昔の自分のような冒険者たちの依頼を奪ってしまわないためである。

現状、アレンの目的はランクを上げることであり、報酬については二の次だからだ。

ネラとして稼いだお金があるということもあるのだが、そもそも1人暮らしになったアレンの生活費などそこまで大した額ではない。

なによりアレンとして最近稼いでいるお金もそれなりの金額だったため、アレンの懐は暖かかったという理由もあった。

「さて、良い感じの依頼でもねえかな。ギルドへの貢献度の高い依頼なんかがあると助かるんだが」

そんなことを呟きながら数人の冒険者がその前に立ち止まって眺めている掲示板に向かってアレンは歩いていく。

少しの期間ではあるがギルドの職員であったアレンはギルドへの貢献ポイントの高い依頼についての知識があった。冒険者時代には知る事のない裏事情だったので、少し興味があってマチルダに教えてもらったのだ。

もちろん依頼の種類やその報酬金額などによって上下するのではあるが、おおよその傾向をアレンは掴んでいた。だから普通の冒険者よりランクを上げるのは楽になるはずだったのだが……

「あっ、アレン。ちょうど良いところに」

あともう少しで掲示板につくというところで聞こえてきたその声に、アレンは顔を引きつらせながらそちらを見る。レベルアップの罠の申込のカウンターで、マチルダがにこやかな顔でアレンに向かって手を振っていた。

冒険者ギルドの受付嬢の中で最も年上ではあるものの、その美貌を衰えさせていないマチルダに笑顔を向けられるアレンへと周囲の冒険者たちから嫉妬の視線が向けられる中、アレンは明らかに気乗りしない様子でそちらへと向かって歩いていった。

「おはよう。今日は良い日ね」

「おはよう。 俺に(・・) とって良い日になると良いんだけどな」

アレンの皮肉を込めたそのセリフにも、マチルダは全くひるむ様子もなかった。その姿に見覚えがありすぎて嫌な予感をひしひしと感じるアレンに、マチルダは少し首を傾げながら柔らかく笑いかける。

「もちろんよ。という訳でアレンにとって良い日となるのにうってつけの依頼がここにあるんだけど」

「どれどれ……ってやっぱ薬草採取の依頼じゃねえか!」

マチルダがカウンターの下から取り出して差し出してきた依頼書を受け取り、嫌な予感が確信に変わっていくのを感じつつもアレンは一応目を通し、そしてカウンターに依頼書を叩きつけた。

それはアレンが以前冒険者ギルドの長であるオルランドに半ば無理矢理受けさせられ、かなり苦労した末になんとか依頼を達成する事の出来たという、いわくつきの依頼と同様の内容だったのだ。

「先方がアレンを指名しているらしいわよ。気に入られているわね、アレン」

「指名って、指名依頼があるのは鉄級以上のはずだろ。それにあの偏屈じじいに気に入られてもな」

はぁ、と大きくため息をついて落ち込むアレンをマチルダが優しく見守る。

確かにアレンの言うとおり、依頼を受ける冒険者をあらかじめ指名する指名依頼の制度があるのは鉄級冒険者以上からだった。

とは言えそれ以下について全く指名できないかと言えばそうではない。今回のように依頼者の希望を優先してギルドが融通を利かせるということはその数は多くないものの確かにあったのだ。

「でも確実に気に入られてるわよね。毎回アレンを指名しているし、依頼の額も上がっているし」

「腕を買ってくれてるってのは素直に嬉しいんだけどな」

「だって薬草採取で1日3万ゼニーよ。破格過ぎて鉄級冒険者も真っ青になるわ。怒って真っ赤になるかもしれないけれど」

「かもな」

笑いながらそう言ったマチルダの言葉に、アレンが同意する。

ギルド職員になる前、鉄級冒険者だったアレンの年収はおよそ300万ゼニーだった。確実性が高く、期間が短く、街に近い依頼ばかりを選んでいたためなかなか報酬の良い依頼はなく、1日平均にすると1万から1万5千ゼニーくらいの稼ぎが常だったのだ。

木級冒険者で1日に3万ゼニーの報酬を得る、しかも薬草採取で。そんな事を当時のアレンが聞いたら確実に真っ赤になって怒っただろう。内容を知らなければという前提ではあるが。

アレンが腕組みして考え始める。薬草採取と書かれているが、その内容は単純なものではない。具体的に言うのであればライラックのダンジョンの各階ごと、しかも木陰にあるもの、など周辺の環境を指定された上で生えている薬草を採取する必要があるというものだった。

しかも根つきで採取する必要があり、採取から半日以内には納品しなければならないという条件つき。そのため依頼の達成のためには何度もダンジョンと街を往復する必要があった。しかも納品時にダメだしをくらえば採取はやり直しになるそんな依頼なのだ。

こだわりの強い依頼人のせいで納品時のチェックが厳しく、初めて依頼を受けた時に何度もダメだと言われた記憶がアレンの頭の中でよみがえる。

さすがに何度も受けるうちに依頼者が求めるこつは掴んでいるので、もう初回のような悪夢は起きないのだが。

もちろんアレンにはこの依頼を受ける義務はない。

指名依頼であっても冒険者側から断る事は可能だし、木級で本当に指名依頼をされた訳でもないアレンが断ったとしてもギルドとしてなにか制裁を下すような事が出来るはずもないからだ。

それでもアレンが迷っているのは……

「でもアレン。こういう薬草採取とかの依頼、実は好きでしょ」

「うっ、いやまあ好きって言うか……こういう採取系の依頼のおかげで昔は救われたって思いがあるんだよ」

「それに採取系の依頼をこなしてポーションの供給量が増えたり、性能が上がれば助かる新人冒険者もいるかもしれないわよね」

「確かにな。この依頼じゃあ供給量は増えないだろうが、性能は上がるかもしれないんだよなぁ」

自分の心のうちをずばりと見抜かれてアレンが苦笑する。

薬草の納品依頼をこなすうちに、その依頼主に気に入られてその研究中の様子まで見せられるようになったアレンは、その依頼主の執念とも言える研究姿勢があれば本当に性能が上がるのではないかと考えるようになっていた。

ふぅー、と大きく息を吐き、そしてアレンが依頼書をマチルダに渡す。

「わかった。依頼を受ける」

「良かった。じゃあ手続きしておくわね」

「おう、よろしく」

依頼書の控えをもらい、あとの手続きをマチルダに任せたアレンが片手を上げて、ニッと笑いながら背中を向ける。マチルダは依頼書受注の手続きのために動いていた手を止めて、その後姿を眺める。

「あの、アレン」

「んっ?」

その呼びかけに振り返ったアレンに、少し頬を赤くしたマチルダが言葉を続ける。

「昼になったら今日の私の仕事が終わるんだけどちょっと付き合ってくれる? 掘り出し物のベッドを見つけて買ったんだけど運ぶのが大変で」

「うーん、そのくらいならいいぞ。報酬は?」

「昼食をおごるってのはどう?」

「よし。その依頼受けた。じゃあ昼になったらまた来るな。腹を空かせておくから覚悟しとけよ」

アレンは嬉しそうに笑いながらそう言ってギルドから出ていった。周囲の冒険者から向けられるとげとげしい視線に気づくことなく。

一方のマチルダと言えば、周囲の受付嬢たちから興味津々の視線を向けられ、嵐が来る前の静かなうちに依頼の受注手続きだけでも済ませておこうと書類にペンを走らせたのだった。