軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第4話 ダンジョン改変の報告

自身のステータスボードを見ながら、そこに燦然と輝くレベル500という文字、そして5000超えのステータスにアレンは今までの苦労を思い出し、涙を流していた。

この1か月半の間この光景を見るためだけに休日も返上してスライムダンジョンへ通い詰めていたのだ。

ちなみにスライムの魔石は長時間ダンジョンに潜っていたおかげもあり毎日150個のノルマは余裕でこなしており、むしろ休日に拾った分を含めればアレンの家にはすでに1000個を超える使い道のないスライムの魔石が溜まっていた。

「どうする。とりあえず試してみるか?」

アレンはレベルアップとダウンの罠を使ったレベル上げを始めてから、あえて全力を出したことがなかった。

ステータスの数値はあくまで最大値であり、普通に生活をする分にはあまり関係ない。つまり現在どの程度のことが出来るのかアレンには全くわからなかったのだ。

日々上がるステータスの数値に、試してみたいという誘惑にかられたことがアレンには何度もあった。

しかしレベルアップ時のステータスの伸びに影響するかもしれないと思ったし、なによりレベルが最高になったあかつきに試してみようとずっと我慢していたのだ。

時間としてはちょうど折よくヒュージスライムが復活するころである。

アレンはうきうきした気分を隠しもせずに一路ボス部屋へと向かっていった。

ボス部屋ではアレンの予想通りヒュージスライムがその体をプルプルと揺らしていた。

ボスとはいえ最弱の部類で、はっきり言ってレベルが5もあれば単独で倒せるようなボスではあるのだが、これでもスライムダンジョンでは最も強いモンスターである。

どうやって倒そうかと嬉しそうな顔で考えていたアレンだったが、どうせならいつもはあまり使わない魔法で倒してみよう考える。

そして意識を戦いへと切り替え、その手をヒュージスライムへと差し向けた。

「ファイヤーボール……はぁ!?」

アレンとしては火魔法の基礎呪文であるファイヤーボールを普通に撃っただけのつもりだった。

通常のファイヤーボールは直径10センチほどの火の玉が飛んでいく攻撃魔法である。

しかしアレンの眼前に現れたのは直径1メートルを超える火の塊であり、アレンが驚いた瞬間に発射されたそれは、普通のファイヤーボールが止まって見えるほどの速度で飛ぶとヒュージスライムを焼き尽くした。

そればかりか背後のダンジョンの壁にめり込みジューという音をたてたのだ。

しばらくしてファイヤーボールの効果が終わり、アレンは恐る恐るその跡を見に行った。

普通ならあるはずのヒュージスライムの魔石など影も形もなく、ファイヤーボールを受け止めたダンジョンの壁はまるでガラスのようにつるつるとした半球状の凹みのついた壁になり果ててしまっている。

通常ダンジョンの壁というのは頑強であり、傷をつけたとしてもしばらくすれば戻ってしまう不可思議なものだ。しかしアレンの目の前にある見事に変形した壁は一向に直る様子も無い。

この状態は明らかに異常だった。

アレンの額に一筋の汗が流れる。

「いやいやいやいや、ただのファイヤーボールだぞ」

アレンがじっと自分の手を見る。そしてその場で手を掲げ、思い直してかなり離れたところに移動してからもう一度壁に向かって手を構えた。

「ファイヤーボール」

先ほどと全く同じ光景が繰り返される。壁に残された半球状の2つの凹みがくっつき、ひょうたんのような形になっただけだ。

アレンがもう一度自分の手を見る。

「マジかよ」

2回も繰り返したのだ。間違えているはずがない。そのことはアレン自身も十分わかっているのだが、それでも自分の行ったことがアレンには信じられなかった。

だってファイヤーボールなのだ。火魔法では最弱で、熟練の魔法使いであれば、けん制程度に使うくらいの威力しか出ないはずの。

アレンが顔をしかめ、頭を抱える。

「そういや、そうだよな。前のステータスの6倍以上なんだもんな。うわっ、そうするとまさか……」

アレンが腰の剣を抜き、力任せに一閃する。それだけで剣から巻き起こった衝撃波により、届いていないはずの壁へと一直線の筋がくっきりと残った。

続いてパキン、という高い金属音が辺りに響く。

「うえっ!?」

アレンの持つ剣が柄のすぐ上の部分からぽっきりと折れ、カランカランと乾いた音を響かせながら地面を転がっていった。素振りのあまりの負荷にアレンの剣は耐えきれなかったのだ

その信じられない光景にアレンが思わず声をあげる。

そして根元から折れて、もはや役に立たなくなってしまった愛剣をアレンが悲しそうに見つめた。

この剣はアレンが金策に苦労しながら街の鍛冶屋に通い詰め、下働きまでして打ってもらった思い入れの深い一品だったのだ。

それがただの一振りで壊れてしまったことにアレンは絶望に近い衝撃を受けていた。

「はぁ、今日はもう帰るか。これは慣れるまで、このダンジョン以外で戦えそうにないな」

大きなため息を吐き、アレンが肩を落とす。

せっかく500レベルまで上がっためでたい日でありながら、アレンは折れてしまった愛剣を大事に鞘へと入れると、とぼとぼとした足取りでスライムダンジョンを後にしたのだった。

そして半月後……

「よし、なかなか手加減がうまくいくようになったな」

通常通りの大きさのファイヤーボールに見事耐えたヒュージスライムを見ながら、アレンが流れてもいない汗をぬぐう仕草をする。

500レベルになったその日から、毎日アレンは手加減の訓練をし続けていた。あの威力のまま他の冒険者がいるダンジョンなんかに行った日には、アレンが他の冒険者をうっかりと殺してしまいかねなかったからだ。

ファイヤーボールを受け、こちらに向かって襲い掛かってくるヒュージスライムを中古で買った安物の剣で斬っていく。

もちろん衝撃波など発生させず、一撃でヒュージスライムが粉々に吹っ飛んでいくこともない。その結果にアレンは安堵の表情を浮かべる。

そもそも手加減の訓練など普通はする必要がないのだ。本来少しずつレベルが上がっていくため、その力加減などは自然と体が身に着けるものであるからだ。

しかしアレンの場合はあまりに短期間でレベルが500になり、ステータスも今までとはかけ離れた数値になってしまった。

ステータスの影響がほとんど出ない日常であれば問題は起きないのだが、今まで通りの感覚で戦闘を行おうとすれば初めての時と同じようになってしまうのは自明の理だった訳だ。

「付き合ってくれてありがとうな」

アレンがヒュージスライムの魔石めがけて剣を振り下ろす。すぱっと半分に斬れた魔石を残し、ヒュージスライムは地面へと溶けて消えていった。

ことスライムに関してのみではあるが、絶妙な力加減が出来るようになったことをアレンは確信する。

「よし、これでもうここで訓練する必要はねえだろ。さて、じゃあそろそろ計画を始めるかな」

そう独り言を言い、アレンはちらっとレベルダウンの罠のある、非常にわかりにくい隠し通路を見てからボス部屋を後にする。

この2か月ほど、レベル上げと手加減の訓練を延々と繰り返す中、アレンはもしこのレベルアップがうまくいったらどうするのかをずっと考えていたのだ。

そのための下調べも既に冒険者ギルドでしてあった。アレンの頭の中ではこれからの計画が明確に描かれていた。後はそれにのっとって実行をするだけなのだ。

スライムダンジョンを出たアレンが、真上から照らされた眩いばかりの日差しを浴びて笑みを浮かべる。そして意気揚々とライラックの街を目指して歩き始めた。

アレンが冒険者ギルドへと帰ってきたのは午後の3時ごろだ。こんな中途半端な時間に帰ってくる冒険者は一部だけなので、この比較的自由な時間を休憩や食事の時間にしているギルド職員は多い。

アレンは少し部屋の中を見回し、目的の人物がいることを確認するとそちらへと歩み寄る。

「あらっ、今日は早いのね」

「ああ、ちょっと緊急の用件があってな。一応魔石は150個以上持ってきたからノルマは問題ないぞ」

アレンの言葉にマチルダが首をかしげて次の言葉を待つ。そのマチルダの前にスライムの魔石の入った袋と手書きで修正したスライムダンジョンの地図をアレンは置いた。

「今日の仕事中にスライムダンジョンの構造が変化してな、取り急ぎ罠だけは調査した。階層とかの変化はないから特に目新しさはないが」

「それはお疲れさま。何か気になる点はある?」

「3層にレベルアップの罠が1つあるな。こんなに低い階層で見つかるのは珍しいんだが」

「レベルアップの罠ねぇ。うーん、少し忙しくなるかもしれないわね」

マチルダの悩ましげな言葉にアレンが肩をすくめて応える。

アレンがマチルダに渡した地図はアレンが調査した罠の位置と種類が書き加えられたものだ。もちろんボス部屋にある隠し部屋のことやレベルダウンの罠のことは記載していない。

それを隠す意図もあって報告をしているのだから当然ともいえるが。

アレンがわざわざダンジョンの構造変化のことをギルドへと報告したのは、酔狂な冒険者などがスライムダンジョンへ行き、ギルドの地図との違いを見つけてしまうのを防ぐためだ。

もし他の冒険者にそのことを気付かれた場合、毎日スライムダンジョンに入っているアレンが変化に気づいていないとは誰も考えないだろう。

もちろんアレンが報告をサボったと考える者もいるかもしれない。しかしベテランの冒険者であったアレンの性格は基本的に真面目で堅実だとライラックの冒険者には知られているのだ。

つまり何の意味もなくアレンが報告をしていないと考える者は少ないということである。

だからこそアレンは準備が終わり次第、早急に報告する必要があった。下手に疑われて、レベルダウンの罠が発見されてしまわないようにするために。

ふぅ、と小さく息を吐きマチルダがアレンの持ってきた地図を片手に立ち上がる。

「じゃあ私はギルド長へ報告してくるわ。アレンは……」

「待機だよな。まあ適当に書類整理なんかしながら待ってるさ。何かあったら呼んでくれ」

「お願いね」

そう言い残してマチルダがギルド長室へと向かっていくのをアレンは静かに見送るのだった。