軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1話 指名依頼を受ける冒険者

ライラックの街。そこは大陸有数の大国であるエリアルド王国の中でも指折りの大都市だ。

交易の中継点となるだけでなく、その周囲にある四つのダンジョンのおかげで多くの冒険者や商人が行き交い、大通りには彼らを相手にした地元の店が立ち並んでいる。

朝から活気に満ちたその通りを軽装の男が歩いていく。少しくすんだ茶髪はしっかりと整えられているものの、その目元はどこか疲れを見せていた。

「ふぁー」

大きなあくびをしながらその男は一つの建物の中に入っていく。そして依頼の掲示板を眺める屈強な冒険者たちの様子に少し笑みを浮かべながら受付へ向かった。

「よっ、おはよう」

「おはようございます、アレンさん。朝というにはちょっと遅い時間ですね」

「 冒険者(・・・) にとっては、な」

意味ありげに冒険者の部分を強調したアレンだったが、短めの髪を後ろで一つに縛った若い受付嬢はにこりとした笑みを崩さない。その反応にアレンは苦笑すると、持っていたマジックバッグから一枚の紙を取り出した。

「ほい、今回の分だ。薬士ギルドで確認済みだからもう連絡がいってるかもしれんが」

「はい。いつもありがとうございます」

「それだよ、それ。いつも、なんだよ。冒険者ギルドはいつから薬士ギルドの出張所に変わったんだよ。しかも俺だけ!」

アレンの言葉に受付嬢が苦笑する。

最近アレンは冒険者ギルドからポーションを作る仕事ばかりを受けていた。というより指名依頼され受けさせられていたのだ。

現在アレンはネラとしてライラックのダンジョン攻略を進めており、街の中ででき、納品の期間にも余裕のあるポーション作製の依頼をアレンとして受けることはありがたい面もあった。

しかしそれにも限度がある。いくら作っても、もっと、もっとと言われ続ければ少しずつ不満が溜まっても仕方ないだろう。

「特殊な技術を持つ冒険者にはありがちなことですね。いいじゃないですか。割のいい仕事だと思いますよ。それが嫌なら、他の冒険者に調薬を教えてはいかがですか?」

「スザンナ。お前絶対わかってて言ってるだろ。下手にそんなことをしたら薬士ギルドから目をつけられるって」

「そこはやりようですよ。冒険者に向いていないと自覚してやめようか迷っている人たちに基礎を教えるんです。で、ある程度の技量になったら薬士ギルドに転職させればあら不思議。冒険者ギルドからはお荷物が消えて、人材不足の薬士ギルドは大喜び!」

「お荷物って……いつか刺されるぞ、お前」

呆れたような顔で注意するアレンをにこやかに笑ってパンっと手を打った姿勢のままスザンナが受け流す。いつもどおりのその対応にアレンは苦笑したが、それ以上は何も言わなかった。

スザンナはアレンと同じスラムに近い東地区出身であり、冒険者ギルドに入って三年目の受付嬢だ。彼女はときおり辛らつな言葉を放つことで有名だった。

一部の冒険者には嫌われているが、逆にそれが良いと好む者や面白いと思う者もおり、アレンは面白いと思う側だった。

それは辛らつな言葉の奥にある、スザンナの思いを知っているからだ。

毎年冒険者に憧れてやってくる若者は多くいるが、その中で大成できる者はほんのわずかだ。あっさりと諦めて違う職を探す者もいるが、中にはだらだらと冒険者のままでくすぶってしまう者もいる。

日雇いの仕事でその日をしのげている内はまだいい。しかし加齢と共に仕事をこなせなくなっていき、日々の暮らしにも苦労するようになった冒険者が行く先は明るいものではなかった。

スラムにおちる者。

犯罪にはしる者。

無茶な依頼を受けて命を失う者。

そういった数々の冒険者をスザンナは受付嬢として見て来た。そして次第に辛らつな言葉を放つようになっていったのだ。

その過程を見てきたアレンには、その裏に知り合いだった冒険者たちが落ちていく姿を見たくないという気持ちが隠れているとわかっていた。なまじ同じ地区のスラムに近い場所に住んでいるからこそ余計に。

アレンは苦笑すると、マジックバッグから紙袋を取り出しカウンターの上に置いた。香ばしい匂いが周囲に広がっていく。

首を傾げるスザンナにアレンは笑いかけた。

「あんま一人で背負い込むなよ。周囲の頼りになる先輩に助けてもらえ。気が向いたらお茶請けぐらい差し入れてやるから」

マチルダへのお土産としてここまで来る途中で購入した、それなりに高級な焼き菓子が袋の中にはたくさん入っていた。少なくとも今業務についている受付嬢全員の分は十分にある。

袋の口を開けて中をのぞいたスザンナは今までの笑みとは違う、自然な笑顔をアレンに向けた。

「気が向いたらってところが、頼りになるんだかならないんだか……本当にアレンさんらしいですね。でも、ありがとうございます」

「おう。んじゃ報酬はまた月末にまとめて頼む」

そう言ってアレンはいつもどおりの足取りでギルドを後にしようとした。焼き菓子は帰りにもう一度買って帰ればいいかと頭の中で考えながら。

しかし歩き出す寸前にスザンナが声をかける。

「あっ、そういえばアレンさん。新しい指名依頼が来ています」

「おっ、マジで? ポーションの増産依頼とかじゃねえよな。それだったらさすがに嫌なんだが」

くるりと体を戻してわざとらしく嫌そうな顔をするアレンに、くすりと笑ったスザンナが首を横に振る。

「違います。でも大物からの依頼ですからアレンさんは好きじゃないかもしれませんね」

「大物?」

「ドゥラレのカミアノールギルド長からの指名依頼になります。ある人物をライラックまで護衛して欲しいとのことです。なんでも気難しい方で、普通の冒険者では勤まらないだろうと」

伝えられた依頼の内容に、アレンは心中でそういえばそんなことを言っていたなと思い出していた。そして厄介ごとの匂いがぷんぷんする依頼内容に顔をしかめる。

アレンの印象ではカミアノール自体が曲者なのだ。その人物をもってして気難しいと言わしめる人物の護衛など、本音で言ってしまえばやりたくない。

だが……

「断るって選択肢はねえよな」

「依頼を受けることのできない切迫した理由でもあれば問題ないと思います」

「ポーションの納品依頼が……」

苦し紛れの理由を告げようとするアレンにスザンナはにっこりと笑みを浮かべる。

「薬士ギルドからは二週間程度であれば納品がなくても大丈夫とうかがっております」

「くっそー、先に逃げ道をふさいでおくなよ。はぁ、わかった。昼過ぎの一番空いてる時に改めて来るから説明の準備をしておいてくれ」

大きなため息を残して肩を落としたアレンがギルドを去っていく。その右手が力なくふらふらと振られる様を見送ると、スザンナはくすりと笑みを浮かべたのだった。

ライラックの街の中心から程近い場所に位置する屋敷にアレンは焼き菓子を片手に戻ってきた。アレンの姿を見つけた若い獣人のメイドがその門扉を開く。

「お帰りなさいませ、アレン様」

「ただいま、コルネリア。これお土産な。あとで俺たちにもお茶請けとして出してくれ」

「承知いたしました。奥様とレックス様はお庭にいらっしゃいます」

「ありがとな」

一番知りたい情報を察して話してくれたコルネリアの気づかいに感謝しつつ、アレンが屋敷の中へ向けていた足を庭に向ける。

そして屋敷の角を曲がりたどり着いた中庭には、東屋でゆったりと椅子に座ってくつろぐマチルダと抱かれたレックスの姿があった。

「ただいま。マチルダ、レックス」

「おかえりなさい、アレン」

「アレー、オカー」

まだ拙いレックスの言葉に頬を緩めながらアレンは二人の傍に椅子へ座る。

最近言葉と認識できるくらいに話しはじめたレックスのおかえりの言葉を聞くたびにアレンは心の中が暖かくなるのだ。そしてこの子の成長をずっと見守り続けたいと、決意を新たにしていた。

ふぅ、と息を吐いたアレンは優しく自分を見つめるマチルダとレックスの姿に幸せを感じていたが、そういえば話すことがあったと思い出す。

「スザンナは大丈夫そうだぞ。ちょっと危ういところはあるが、周りもちゃんとフォローしてくれているみたいだ」

「そう、それならよかったわ。あの子は真面目すぎるのにちょっとひねくれているところがあるから心配なのよね」

マチルダの眉根が下がるのを見ながらアレンが肩をすくめる。

「マチルダも休み中なのに、ご苦労だな」

「余計なお節介かもしれないけどね。全く気づかわなくても駄目だし、かといって構いすぎても駄目なのよ。人間関係って難しいわよね」

「冒険者は単純な奴が多いけどな。酒を差し入れてやれば大抵なんとかなるし」

アレンの答えにマチルダが苦笑する。レックスはわかっているのかいないのかわからないが、アレンとマチルダの顔を交互に見ていた。

「あっ、そういえば新しい指名依頼がきたらしくて、午後からまた冒険者ギルドに行ってくる。ちょっと厄介そうな依頼なんで断りたいんだがな」

「断れない相手ってことね。大物?」

「カミアノールだ」

「あー、私もお世話になったし、それは断れないわね」

「だよなぁ」

ため息を吐いたアレンを慰めるようにマチルダが頭を撫でる。それをまねしてレックスがアレンの腕をぽんぽんと叩いた。二人の感触に、アレンの顔に自然に笑顔が浮かぶ。

「お茶の用意ができたようですのでお持ちしてもよろしいでしょうか?」

ひっそりとマチルダのそばに控えていた老年の獣人、ルトリシアの言葉にアレンがうなずくと、ほどなくコルネリアがやってきた。

よどみない仕草でコルネリアがアレンとマチルダにお茶を注ぎ、アレンが買ってきた焼き菓子が綺麗に並べられた皿を置いた。さわやかなお茶の香りが辺りに広がる。

平穏な家族の風景がそこにはあった。