作品タイトル不明
第22話 集落攻略の成果
21階層から続く防衛拠点化した集落の攻略を10日かけてアレンとイセリアは順調に続けていた。
この階層まで来ている冒険者はほとんどいないらしく、攻略方法を検証するにはうってつけの環境であったこともあり2人は様々な方法を試しては検討を続けていた。
煙玉や気化する痺れ薬などを散布させて混乱を引き起こしてみたり、最初に防壁を壊してみたりと色々とやってみたのだが……
「遠距離攻撃で削ってから、中に入って一掃するのが一番安定してるな」
「やはり基本が一番ということでしょうか」
「まあ、場合によりけりだけどな。一気に殲滅するだけなら大規模魔法の方が早いし」
「宝箱まで消えてしまいましたけれどね」
ふふっ、と笑うイセリアの表情からは非難するような感情はうかがえない。しかしそれでもばつが悪くなったアレンは頭をかきつつ謝罪をした。
一度だけ、人が全くいないことを十分に確認した上で、アレンが上級魔法を放ってみたのだ。結果としてそれを受けたモンスターたちは跡形もなく殲滅されたわけだが、同時に集落も壊滅状態だった。宝箱の残骸さえ発見できないほどに。
その時の光景を思い出し、ひとつため息を吐いたアレンだったが、すぐ気持ちを切り替えて話を続ける。
「しかしここは魅力的な階層だな。ライラックから移住する冒険者が増えるかもしれねえ」
「そしてそれと同時に取り合いによるトラブルが発生する可能性が高いですよね」
「だよなぁ。1階層あたり、たった10。しかも一か所は階段だから実質9しか宝箱が出ないとなると、大規模なパーティとかが占有しそうな気がするな。で、一般の冒険者と揉める、と」
イセリアの考えに同意しつつ、その光景が頭の中で鮮明に浮かんだアレンが先ほどとは別の意味でのため息を吐く。
10日間で21階層から23階層までの集落を攻略して回った2人だったが、まだここまで来る冒険者がほぼいないということもあり自由に攻略することが出来ていた。
しかしそれは今だからこそであり、集落を攻略すれば宝箱が出る階層があるなどとなればそれが変わることは明白だった。
アレンたちも、この10日間で1日平均3つの集落を攻略しており、見つけた宝箱の数は26にものぼる。
一般的な鉄級の冒険者であればダンジョンで宝箱を発見するのは、生涯で10に満たない数、それ以上の実力の冒険者たちであっても100を超えるものなど滅多にいないのだからその破格さは正に桁違いだ。
その利を得るためなら、大規模な冒険者パーティが常時拠点付近に人を置いて占有しようとする可能性は高いとアレンはふんでいた。
「宝箱の中身が意外としょぼいから、そんなことにはならねえって言えればよかったんだけどな」
「先ほどマジックバッグが出てしまいましたからね」
「そうなんだよなぁ」
困ったように笑うイセリアに、同意しつつアレンが苦笑する。
10日間かけて集落を攻略し、宝箱を発見してきた2人だったがその中身は案外期待はずれといったものが少なくなかった。
もちろんギルドで買い取ってもらえば最低でも50万ゼニー程度はするようなものばかりなのだが、例えば宝箱から見つけた剣よりもアレンが打った剣の方が性能が良いといったように微妙なものも多かったのだ。
階層が進んでいくごとに防壁が高く厚くなったり物見塔が出来たりと、集落というよりは拠点という様相に変わっていき、攻略難度が高くなったことに呼応するように宝箱の中身も少しずつ良くなっていた。
それでもコレ、というものは出てこなかったのだが、つい先ほど攻略した拠点で発見した宝箱からはマジックバッグが出てきてしまったのだ。
試してみたところ、そのマジックバッグはアレンがネラとして初めて購入したマジックバッグより少し劣る程度の容量であり、売り払えば400万ゼニー程度にはなるだろうものだった。
だがここで重要なのはお金ではない。冒険者にとって運搬の手間を省けるマジックバッグは喉から手が出るほどのものなのだ。
希少とはいえ金があれば買える程度ではあるのだが、そうでない者たちにとっては自らの手でそれを手に入れられるかもしれない機会が目の前に転がっていればどうなるか。
この階層へと冒険者たちが殺到し、拠点の奪い合いといった混乱が起きないはずがなかった。
「仕方ねえ。とりあえず今回はこれで一旦帰るか。マチルダとも詳細を詰めた方が良さそうだしな」
「そうですね。マチルダさんなら既に何かの対策を打っている可能性もあるでしょうし」
「かもしれねえな」
そんなことを言い合いながらアレンとイセリアは、今は無人となった拠点を背に歩き始める。
アレンの腰には、その拠点で見つけたマジックバッグが無造作に結び付けられており、その中にはこの10日間の攻略で見つけた宝箱25個分の剣や鉱石などの宝が入っていた。
総額にして2千万ゼニーを超える宝なのだが、アレンは帰ってからどうしようか、そのことばかりを考えていた。
「で、ギルドには寄らずにここで2人して待っていたって訳ね」
「お、おう」
にこやかに笑ってそう言いながらも、なぜかマチルダから言いようのない圧が出ているのを感じとったアレンは、少しびくびくしながら短く答えた。そんなアレンの様子をイセリアが少し呆れた様子で見守る。
翌日、ダンジョンから帰還しドゥラレの町へと戻った2人だったが、マジックバッグを見つけたことをギルドに報告するところを見られでもしたら何が起こるかわからないと判断し、そのままアレンの家で待機していたのだ。
イセリアは「私は宿で待っていますからマチルダさんが帰ってきたら呼んでください」と帰ろうとしたのだが、もうすぐマチルダが帰ってくる時間ということもありアレンが引きとめていた。
アレンからすれば行き来の時間がもったいない程度の認識だったのだが、自宅に夫と若い女性が2人きりでいるとなれば、いくらなにもないとわかっていたとしてもマチルダが機嫌を損ねるのは当然と言える。
恋愛経験がほとんどなく、夫としても新米のアレンからすれば、ただ冒険者仲間を待たせていただけの気分から一転した今の状況にどう対処すべきか、すぐに判断が出来なかった。
「あの、申し訳ありません」
そう言ってマチルダに対して素直にイセリアが謝罪する。それに対して、なぜイセリアが謝るんだ? と首を傾げるアレンの様子に、マチルダが大きく息を吐いた。
「イセリアさんは悪くないわ。どうせアレンが残れって引き止めたんでしょ。もうすぐ私が帰ってくるし、とか言って」
「それはそうですが、マチルダさんのことを考えれば無理にでも帰るべきだったかと」
「んっ? なんでマチルダのことを考えれば帰ることに……」
言葉の途中で、女性陣2人から冷たい視線を受け、アレンが口をつぐむ。そしてどうやら自分がまずいことをしたらしいと察し、これまでの状況を改めて考え、そして気づいた。
アレンがぶんぶんと手と首を横に振りながら必死に弁明する。
「いや、そういうのじゃねえからな! 俺、マチルダ一筋だし。というかずっと好きだった人と一緒にいられる幸せを噛みしめている今日このごろだし」
「アレンさん、気づいたみたいですね。ふふっ、マチルダさん一筋だそうですよ」
「……アレン。ちょっと落ち着きなさい!」
弁明に必死になるあまり内心がだだもれになるアレンの様子をイセリアは微笑ましいものを見るかのように優しい笑顔を浮かべ、そしてアレンに続いてそんな顔を向けられたマチルダが顔を真っ赤にしながらアレンを一喝する。
ビクッ、と動きを止めたが、キョロキョロと視線をさまよわせて様子をうかがうその姿はレベル500、ステータス5千を超える超人とは全く思えなかった。
はぁー、と深いため息を一度吐き、そしてマチルダがキッと視線をアレンに向ける。
「アレン。あなたはもうちょっと女心を勉強……うーん、この場合勉強しろって言うと他の女と遊べってことになるのかしら?」
「かもしれませんね。まあマチルダさんが頑張って教えていけばよいのではないでしょうか? アレンさんもきっとその方が嬉しいでしょうし」
マチルダとイセリアが顔を見合わせ、そして同時に視線をアレンへと向ける。そんな2人に対してアレンはコクコクと首を縦に振ることしか出来ず、その様子にマチルダとイセリアは再び顔を見合わせると噴き出して笑い始めたのだった。