軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第22話 ジーンとの再会

泣き続けるフルナゼーノをどうにかしたいと思いつつ、先の言動からどうやら自分のことを誤解しているようだと理解したイセリアは、先にアレンへと声をかけた。

「アレンさん、アレンさん! 助けてください」

「おおっ、すまん。ちょっと信じられないことを聞いちまってそっちに意識が……ってジーン!」

名前を呼ばれたことで意識が戻ってきたアレンが振り返り、イセリアに肩をかされながらぐったりとした様子で立っているジーンを見て慌てて駆け寄る。そしてイセリアからジーンを受け取ると、掃除したばかりできれいになった床へとジーンを寝かせてその様子を調べ始めた。

目元までかかった髪の毛を上げるとその大きなクマのある目がアレンを捉え、ゆっくりと閉じていった。そして安心したかのように体から完全に力が抜ける。

「あの、アレンさん?」

その様子を背後から見守っていたイセリアが遠慮ぎみにアレンに問いかける。イセリアの目にはまるでその様子は天に召される姿のように映ったからだ。

ジーンの前髪を元の状態へと戻し、少しだけ微笑んでいたアレンが一度大きく息を吐いてから立ち上がる。

「ああ、寝たな。寝不足の上に食事も最低限しか食べてなかったみたいだ。以前より体重が軽くなってる。しかし弟が面倒をかけたな。ありがとう、イセリア」

「いえ、たまたま買い物の途中でふらふら歩いていて危ないなと見ていたら、パタリと倒れられまして」

「体力の限界だったんだろうな。それで肩を貸してここまで連れてきてくれたってわけか。いや、マジですまん」

本気で感謝と謝罪を伝えてくるアレンに、イセリアがとんでもないと微笑みながら首を横に振る。

そしてイセリアはすぐにその表情を困ったようなものに変え、視線をアレンから外した。

「それより、彼女はどうしましょうか?」

「んっ、ああ。というかどうして泣いてんだ?」

「私と弟さんの関係を誤解されたようです」

「いや、肩を貸してただけだろ」

大泣きは治まってきていたものの、ひっく、ひっくと引きつるようにしながら泣き続けているフルナゼーノを眺めながら二人が会話を交わす。

どうしていいのか全く見当もつかないイセリアに対し、アレンは一度大きく息を吐くと迷うことなくフルナゼーノのそばへと寄っていき、そして膝をついて話し始めた。

「なあ、フーノ」

「……はい」

「彼女はイセリアだ。俺の冒険者仲間で、倒れていたジーンを助けてくれた」

アレンが言葉を短く区切り、ゆっくりと優しい声で話しかける。そしてフルナゼーノが自分の言葉を飲み込めているかどうかを微笑みながら観察する。

理解が追いついていない状態で話を進めようとしても子どもには通じないと経験上よく知っているからだ。

フルナゼーノがゆっくりと顔を上げてイセリアの方を見るのを眺めながら、アレンは待ち続けた。

「ジーン君を助けてくれたんですか?」

「おう。それだけだ。あいつが倒れるのはいつものことだろ」

「はい」

「えっ、いつものことなのですか!?」

背後でイセリアが驚いている声が聞こえ、それに対して内心、まあ普通はそういう反応になるよなぁ、と考えつつもアレンはフルナゼーノへの対応を優先する。

今、他の者に気をやれば下手をすると現状が悪化する可能性があるとアレンは知っていた。こういうときは真剣に向き合っているとわかりやすく示してやることで相手が安心するのだと。

「だから悪い奴じゃない。フーノが考えたようなことにはならないから安心しろ」

「ジーン君、私を見捨てないでしょうか?」

ジーンとフルナゼーノの関係性を知らないアレンには答えようのない質問に、一瞬だがアレンの動きが止まる。

しかし目の前で瞳を潤ませながらアレンをすがるように見つめるそのフルナゼーノの姿に、すぐに気を取り直して柔らかく微笑むとその頭を撫でた。

「あいつが人を見捨てるとかないだろ。さて、状況はわかったな。じゃあ、これからどうすればいい?」

「……イセリアさんに謝ります」

「良い子だ」

アレンがニカっと笑みを浮かべて、フルナゼーノの頭をくしゃっと少し強めに撫でて立ち上がる。そしてイセリアを前に少し躊躇しているような様子を見せていたフルナゼーノの背をそっと押してやった。

「あ、あの。ジーン君を助けてくれてありがとうございました。そして勝手に勘違いしちゃってすみませんでした!」

勢い良くという表現がぴったりくるほどのそのフルナゼーノの謝り方に、イセリアが思わず口の端を上げて表情を柔らかくする。

「はい。どういたしまして。しかし泣いてしまうほど人を好きになるって、少し憧れてしまいますね」

「いえ、そ、そんな」

顔を瞬時に真っ赤にしたフルナゼーノの姿に、イセリアが笑みを深める。そして先ほどまでのアレンの対応を少し真似しながら、雰囲気を変えるように少しおどけた様子で問いかけた。

「ちなみにどんなところが好きなんですか?」

「えっと、あの。ジーン君は普段は研究一筋で他のことはダメダメなんですけど、たまに見せてくれる優しさとか……」

とつとつと語り始め、そして次第に滑らかになっていくフルナゼーノの言葉を、楽しげにイセリアが聞く。その一生懸命に語るフルナゼーノの恋の話はイセリアの心を惹きつけ、いつしかイセリア自身も心からその話を楽しく聞くようになっていた。

そんな女性陣二人の様子を少し眺め、そしてアレンはマジックバッグから取り出した毛布を床に敷いてそこにジーンを移動させると、ジーンが起きた時に食べさせるための食事の準備に取り掛かるのだった。

そして料理もすっかりと出来上がり、フルナゼーノとイセリアの恋の話も一段落ついたのだが、ジーンは未だに目を覚まさなかった。しかしその目の周りを覆っていたクマは少しだけではあるが薄くなっており、ジーンが回復していることを示していた。

「あの、本当にもらってしまっていいんですか?」

「おう。ジーンが日ごろから世話になってるみたいだしな。多めに作ったし気にせず持って帰ってくれ。今から食事を用意するのも面倒だろ」

「ありがとうございます」

アレンが作った料理が詰まったイセリア所有のバスケットを抱え、フルナゼーノがぺこりと頭を下げる。それに対して手を振って気にするなとアレンは伝え、そして心配そうにジーンのことを何度も見ながら家を出ていくフルナゼーノを見送った。

フルナゼーノはジーンが目覚めるまで待つと言ったのだが、アレンが少し強引に帰らせたのだ。

一人暮らしの男の家にアレンたちが居るとはいえ、フルナゼーノのような少女が残るというのは外聞が悪いかもしれないと思ったし、なによりフルナゼーノが住んでいるのがエルフ四人共同で住んでいる家ということを会話の中で知り、その仲間が心配するのではと思ったからだ。

そして家にはアレンとイセリア、そして眠ったままのジーンが残される。先ほどまで恋の話などで盛り上がっていただけに、少しばかりしんみりとしたように感じられる空気の中、アレンがイセリアへと話しかける。

「どうする。先に食べちまうか?」

「いえ、お話ししておきたいことがあります。フルナゼーノさんがいたので話せなかったのですが、ジーンさんは誰かにつけられていました」

「おいおい、勘違いじゃねえよな?」

「はい。まず間違いないと思います。ふらふら歩くジーンさんを見かけて、大丈夫かなと思って見ていたのですが、途中で違和感を覚えて。なんだろうと思ってそちらを見たら誰かがさっと角に消えたのです」

「うーん」

イセリアの言葉にアレンが首をひねる。

イセリアの言っていることは完全な推論であり、根拠などないものだ。実際、たまたまジーンと同じ方向に歩いていた者が、イセリアが振り向いた瞬間に角を曲がったのだろうと普通は考えるはずだし、その可能性は高いだろう。

しかしそれでもアレンが悩んだのは、直感というものの馬鹿にならなさを今までの冒険者生活で十分すぎるほど知っていたからだった。

「わかった。イセリアは顔を見られているだろうし、俺がこっそり調べてみる。忠告ありがとな」

「いえ。私の勘違いなら一番良いのですが」

「そうだが、まあ念には念をってやつだ」

心配そうに眉を下げるイセリアに、アレンがニヤリとした笑みを浮かべる。

アレンの言葉とその態度を受けて、心が軽くなったのか少し表情を明るくしながらイセリアが言葉を続ける。

「あっ、そういえばお掃除お手伝いできなくてすみませんでした。それに食事も……」

「そういや掃除道具と軽食を買ってきてくれって頼んだんだったな。しまったな。作らなくてもよかったか?」

「いえ、色々と迷ってしまって軽食はまだ買う前だったので」

「迷う?」

軽食の内容でも迷ったのか? そんなことを考えたアレンの目の前でイセリアが自分のマジックバッグへと手を突っ込んだ。そして次々と物を取り出していく。

その信じられない光景をアレンは引きつった顔で眺めていた。

「えっと、これは部屋の角を掃除する時に最適だという小さなほうきですね。で、こちらは水周りの垢を落とすのに最適なブラシだそうです。そうそう、これなんか店主さんのおすすめで、数種類の液体を混ぜることで様々な場所の汚れ落としに使える洗剤だそうです。あとこちらは……」

机の上に並んでいく大量の掃除用品、そしてイセリアの解説を聞きながらアレンは天をあおぎ大きく息を吐いた。

(店主の野郎、ここぞとばかりに在庫処分しやがったな)

おそらく貴族の出身であり現状宿暮らしのイセリアが、今まで掃除を自分でしたことなどないだろうということをアレンは失念していた。

掃除をしたことがないのだから、なにが必要なのか判断できるはずがない。その結果店主の説明を聞き、使えそうだと判断したものを片っ端から買うイセリアの姿がアレンにはありありと想像できた。

「冒険者だけじゃなくて、普通の人としての常識も教えた方が良いかもな」

どこまで続くのかわからないイセリアによる掃除道具の説明を聞きながら、アレンはぼそりと呟いたのだった。