軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

過去との擦り合わせ

あの三人が家族として訪れるも、私の日常は変わらない。

私の日常だけが変わらない。

一人で食事をし、刺繍をし、図書室の本を読み漁る。

私の世話をしていた使用人が一人減り、また一人減っても気が付かないフリをし私の日常を淡々と熟す。

「お嬢様、お食事の準備が整いました」

「そう……」

「はい」

マイヤではない使用人が決められた時間よりも早い時間を指定する。

素直に食堂へ向かえば食堂は賑やかな声に包まれていた。

以前はあの三人が食事をしているのだと思い私が突然現れ邪魔するわけにはいかないと部屋に戻ったが、真の狙いは食堂の光景を私に見させることだった。

この時既に使用人があちらの三人に寝返りだしていたのだ。

「お嬢様?」

私が足を止め食堂へ入るのを躊躇っているのに気が付いた使用人は『早く入れ』と仕草が私を急かす。

過去の私が仲睦まじい家族の団欒を目撃するのはもう少し先の話。

今回も中の気配を察知して踵を返そうとしたが、いつの間にか扉が開いていた。

そこには予想通りの光景。

新たな家族三人と私を憎む男の姿。

誰が使用人を使って私をこの場所に誘き寄せたのか確認したかった。

私を連れてきた使用人は俯きながらも口角が上がっていたので、確実に向こうに着いた使用人を確認できた。

使用人の彼女に指示を出した人物を探ると、口許を押さえて笑みを堪える人物。

「どう……して……」

笑みを堪えていた人物は……義母だった。

あの時の私も同じ言葉を言った。

以前は食堂にあの三人と父の姿を目撃し今までの人生を覆されたから。

父が誰かと一緒に何かをすることをしない人だと思い込んでいた。

私が生まれてから一度だって父と一緒に食事をしたことがないのに、誰かと父が共にするとは思えずの『どう……して……』だ。

誰にも聞き取れない音量での呟き。

今回はそんな父の姿なんてどうでも良い。

私が今驚愕したのは、いつも私を気遣ってくれていた義母が惨めな私の姿を見て口許を手で覆うほど微笑んでいることだった。

「あっニルヴァーナ様も一緒に……」

私と目が合うと取り繕うように食事に誘う姿は、ここまで計算していたのだろう。

状況を瞬時に把握し、『優しいお義母様』の行動を取る事に長けている。

敢えて間違った時間を使用人に伝え、私に恥をかかせ恩を売る。

過去の私は完全に騙されていた。

「部屋に戻りなさい。お前の時間じゃないだろう」

義母の誘いの言葉を遮るよう父は私を追い出していく。

父の一声で先ほどまでの和やかな雰囲気は消え去り、張り詰めた空気に変わる。

私だって、こんな人間達と共に食事を取りたいなんて思っていない。

私が眉間に皺を寄せた理由は、悔しいことに父の言葉に従い自らの意思で食堂の扉を閉め自室に戻ることになってしまった事。

「あいつの指示通りにしてしまった……」

部屋に戻りソファで悔しさを噛みしめる。

先程の食堂の光景。

「以前の私はあの光景を見てとても悲しかったのよね……」

四人分の食事に、父の周囲に座る三人。

楽しそうな会話。

あの場所に私の食事はなく、あの人達の中に私の存在はない。

微笑ましく会話に入ることさえ許されずに追い出された。

「『どうして……私は家族になれないの? 』って、泣いてたっけ……ハハッ」

今なら涙が溢れることもなく、寧ろ笑みが溢れた。

『私は可哀想なんかじゃない』

『父は誰に対しても距離を置いているんだ』

何度も自分に言い聞かせ、それでも私達は二人だけの『家族』なんだと慰めていた。

それをあの三人が来て、呆気なく私の考えを覆し否定された。

父は誰に対しても冷たい人じゃない。

食事も誰かと一緒に取る事もあれば、楽しげに会話をすることもある。

三人には私の知らない笑顔を向け、私に見せる険しい表情は見せることはない。

父が他人と……家族四人でいる姿を頻繁に目撃するようになった。

頻繁といっても一カ月に二・三度。

私からすると、凄い数。

ある時は四人で庭を散歩。

ある時は四人で馬車から降りて来ては沢山の荷物を使用人が運んでいた。

「きゃはは。お義父様、だぁいすき」

窓を閉めていてもローレルの甲高い声が部屋に入り、見たくもないのに外を確認せずにはいられなかった愚かな私。

見ない方が良いのは分かっているが足は窓へと近付き、少し窓を開け様子を確認していたあの頃。

その光景は今も変わらず、今日はローレルと父が散歩している。

あの父にローレルは腕を組んでいて、その姿は本物の親子にしか見えない。

そんな姿を目の当たりにすれば、使用人も見捨てられた実の娘より愛されている新たな娘に乗り換えるのも理解できる。

私に良くしたところでなんの見返りもないどころか、突然退職を言い渡される可能性があるんだもの。

「理想的な家族……」

仲睦まじげに歩く二人の姿は絵に描いたような幸せな家族。

父の髪色は人目を引くホワイトブロンド。

あの三人も似たようなプラチナブロンド。

対して私は、パステルブルーと全く違う。

周囲が私達をを見比べた時『血の繋がった本当の家族』は断然、私よりもあの子の方が父の子だった。

私の中にある父と似ている箇所を探そうとするも、見た目で同じな所は見付けられない。

父の瞳はシルバーで、私はグリーン。

彼らはダークブルー。

私は自身が似ていないことを悲しむより、彼らが父と似ていないことに安堵していた。

「お嬢様の髪と瞳は、亡くなった奥様譲りです」

今はまだ私に近い使用人が私を慰めるように教えてくれたが、その頃の私は少しも嬉しいとは感じなかった。

私は母の顔を知らない。

貴族の屋敷には肖像画などがありそうだが、見つけられない。

私がこの屋敷で自由に出来るのは、自室と図書室と談話室に廊下と庭しか許されていない。

そんな場所に母の肖像画はない。

母を知りたくて屋敷の中を捜索した事もあった。

「他の部屋には近付くな」

私の行動が報告され、父に直接注意を受けた。

私が父とした数少ない会話。

このような会話しかしたことがなく、私にとっては父との『大切な約束』だった。

馬鹿みたいに守り、一度も破ったことはない。

「お父様、おはようございます」

挨拶しても父が返してくれた事はない。

それでも父の誕生日を知ってからは一生懸命贈り物を考えた。

私に出来る精一杯の贈り物を。

「お父様。お誕生日おめでとうございます」

初めて贈ったのは、似顔絵。

翌年には読んだ絵本に、お姫様が愛する騎士に無事を祈ってタッセルを贈るとあったので真似てタッセルを贈った。

更にその翌年は偉人が過去に大切な家族に送ったと言う詩を写して贈り、刺繍を学ぶようになってからは家門入りのハンカチを渡す。

それらの贈り物を、直接受け取ってくれたことはない。

それでも毎年贈ればいつかは受け取ってもらえる、振り向いてもらえると願いを込めて続けた。

初めて似顔絵を差し出した時、父に受け取ってもらえず。

「旦那様は忙しく、私から渡しておきます」

見兼ねた執事が受け取った。

それからは直接渡せば避けられると学んだので、執事を通して渡してもらうようにお願いしていた。

『忙しい父の邪魔をしてはいけない』

この頃から父の顔色を窺っていた、

私から父に何かを強請った事はない。

誕生日の贈り物が欲しいなんて考えたこともないし、一緒に散歩は無理でも食事くらいは~と考えた事はあるが口に出したことはない。

『父を煩わせたくない』

『嫌われたくない』

あの頃の私はそんな思いが強かった。

なのに新しく来た家族は父に沢山の我が儘を言い、嫌われることもなければ父は彼らの願いを叶えていた。

『いつか、お父様と一緒に食事ができますように』

過去の私が何年も、寝る前に星に願っていた事なんて父は知らないのだろう……