作品タイトル不明
試験
「新しい小説がほしいなぁ」
試験が近付くに連れ教師を訪ねる生徒や、いつも空席が目立つ図書館は満席。
過去の私もその一人だったが、今は屋敷の自室で何度読んだか覚えていない読み飽きたといえる小説を開いていた。
言葉を読むことはせず、文字を目で追うだけで物語が頭に浮かぶ。
新しい小説が欲しくとも私には手に入れる手段がない。
あの男に頼んだところで願いが叶ったことはないし、貴族から見ればはした金でも私が金銭を要求すれば
『金遣いの荒い女』
使用人により広まっていく。
毎月ドレスや宝石を強請るローレルの願いは無条件で叶えられるのに、私の願いが叶った事は一つもない。
この小説も、以前貴族達の間で話題となりローレルも流行りに乗り遅れないようにと買い、話題が過ぎ去ったので忘れられたように図書室に仕舞われていた。
公爵家で忘れ去られた私が忘れ去られた本を持ち出していても誰も気付く事はない。
「私と一緒……」
本の表紙を撫でる。
試験前にノンビリ過ごしているのは私くらい。
Aクラスの人間は上位に入るのは当然で、万が一Bクラスになれば落伍者と認定される為精神的に追い詰められる。
BからDクラスの生徒は一つでも上のクラスに這い上がろうと常に必死。
EクラスはFなんかに落ちたら家門の恥、『生きてはいけない』と言わんばかりに追い込まれている。
Fクラスの人間は、この理不尽な環境から抜け出せるチャンスと捉え勉強に励む。
これが優秀な生徒を輩出する学園の思惑なのか、試験一ヶ月前はどのクラスも殺伐とし始める。
「私には……関係ない……」
学園でも屋敷でも机に向かうことのない私。
試験の事を考えないよう小説を読み、気分転換に庭の散歩をする。
ベネディクトもローレルも学園が終われば必死に机に齧り付き勉強するので、この時だけはあの人達を気にすることなく散歩が出来た。
『本当に怠け者なのね』
『お二人を見習うべきよ』
気分転換の散歩も次第に気分を害するものに。
あちら側についた使用人や、新たに雇った使用人達が勉強もせず呑気に過ごす私に厳しい目を向けるように。
『貴族の自覚が無いのね』
『娼婦の娘が公爵家に置いてもらっているだけありがたいことなのに、その好意に報いることもせずFクラスになるだなんて』
『恥知らず』
そのように言われてもし仕方がない行動をしたのは私。
それでも私が態度を変えないので、苛立った使用人の呟きが聞こえた。
『旦那様もとっとと追い出してしまえば良いのに』
試験当日。
どの教室も異様と感じる空気。
過去の私もその一人だったのかと思うと少し怖く感じた。
Fクラスも重苦しい緊張感を漂わせている中、私だけは
『どうでも良い』
『どんな点数を取ったとしても結果は決まっている』
緊張する事もなく普段通り。
私にとっては何の意味もない試験。
良い点数を取ったとしても誰にも認められないどころか『不正』とまで言われた。
『良い点数を取りたい』なんて無駄なこと望まない。
「全員、教科書ノートはしまいなさい」
教師が現れ試験が始まる。
ただならぬ緊張感の中、私は淡々と解答欄を埋めていく。
二度目の試験であり点数なんてどうでもいいので、全ての問題を解き終えると見直すことはせず時間が過ぎるのを待った。