軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

58.敵と見做せば容赦はしない

扉の内鍵を外して、外を窺っていると……幸いにも外から開けてくれた。一歩踏み出し、短剣を持たぬ右手を差し伸べる。

「どなたか、手を貸してくださらない?」

一般的には男性が乗っていたら、先に降りる。そのため事前情報と違う、と困惑したのか。女性だけなら制圧しやすいと思ったか。素直に手が差し出された。さらに一歩進み、ステップから降りて地面を踏んだところで……微笑んだ。

「神殿騎士の出迎えは初めてね。大神官様はどちら?」

「中でお待ちです」

なるほど、知らせてもいないようね。ならば時間の変更を指示した手紙も、偽物だったと考えてよさそう。証拠品として保管しなくてはね。

手を引かれて一歩、そこで躓いた風を装い前屈みになる。足を痛めたような素振りで屈み、背中に隠した短剣の柄を掴んだ。

「フォルト兄様っ!」

わざと後ろを振り返り、大きな声で叫ぶ。ぎょっとした顔で私の手を離した男の首を、掻き切った。噴き出す血を浴びた私は、次の獲物を左側に立つ騎士に定める。

剣を抜いた順に敵として判断するわ。少し離れた位置の騎士は、驚いた顔をするが動かない。柄に手を置いたのは、左側の男だけね。半分ほど引き抜いた男の膝を蹴った。裾の長いスカートだけれど、スレンダーラインの布は潤沢だ。マーメイドのように足を束縛しない。

「うっ」

がくりと体勢が崩れたところで、首に腕を回して手前に引いた。押すより引き倒す方が力が要らないの。倒れた男の顔に膝を入れる。倒れる勢いで突っ込んだため、派手に血が飛び散った。最悪だわ、本当に……血だらけじゃないの。

むっとして溜め息を吐く。気を失った男を蹴飛ばし、振り返った。呆然とする残りの騎士は敵ではなさそう。

「皇族に刃を向けるなら、お相手するわよ?」

首を横に振って数歩下がる神殿騎士の一人が、走った。叔父様を呼んでくれるなら助かるわ。

「……赤が映えて美しいですね、トリア」

「褒めるより、エスコートをお願いしたいわ。エック兄様」

優雅に一礼して、エック兄様は何もなかったように腕を差し出す。濡れた血をそのままに、エック兄様の腕を取った。駆け寄ったエリーゼは、タオルで髪や顔に付いた血を拭う。

「タオルを濡らしてもう一度拭かないとダメね。ありがとう、エリーゼ」

「いえ。準備してまいります」

神殿騎士が敵と認識できる環境で、神殿内だというのに、エリーゼは一礼して建物に入っていく。水を探しに行ったのね。度胸があるところは、高く評価しているの。

「先ほど、フォルトを呼んだね」

「ええ、この場面ならフォルト兄様が脅威でしょう? 彼らが勝てない相手の名を呼んで、気を逸らしたのよ」

「なるほど。君らしいね」

エック兄様は前を向いて歩き始め、私はその横顔を盗み見た。まさか、私が元夫でも呼ぶと思ったのかしら? ルヴィ兄様を呼んでも脅威にはならないし、エック兄様は言うに及ばず。となれば、消去法でフォルト兄様になるのだけれど。

消去法の選択肢にすら入らない男を心配するなんて。ふふっと笑った。その弾みに、髪がはらりと崩れる。髪飾りが重さで落ちてきたみたい。襲われる危険性は承知していても、着替えまでは用意しなかったのよね。

血まみれで神殿内を歩くのも、外聞が悪い。ちょうどいいものを見つけたわ。回廊を進む足を止めれば、エック兄様も立ち止まった。

「血を流すから、待ってくださる?」

「まさか、噴水でかい?」

尋ねる兄に頷くより早く、私は手を離して噴水に近づく。水は澄んでおり綺麗だった。手を入れるとひんやりと冷たい。でも我慢できる範囲ね。縁に腰掛けて、水を浴びようとしたところで、声がかかった。

「お待ちください、お嬢様! ご用意いたしました」

駆け寄るエリーゼは、タオル以外に白い布を持っている。

「女性神官の服になりますが、着替えでございます。それとお湯の準備も整いました」

「あら、そうなの? ならばお借りするわ」

止めようか迷っていたエック兄様は、やれやれと呟く。

「血を流してきますので……エック兄様も袖の血を落とされたほうがよろしくてよ」

「え? ああ、本当です」

腕を組んだ際に付いた血を確認し、噴水から垂れる水に腕を突っ込んだ。私はダメなのに、エック兄様は噴水でいいの? ふふっと笑い、私は神殿の一室へ向かった。