軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

154.社交界という醜悪な枠 ***SIDEエッケハルト

騒がしい貴族どもの 囀(さえず) りに、眉をひそめる。あの連中は噂話をしなければ、死ぬ病でも罹っているのでしょうか。本当に鬱陶しいですね。

「エック、怖い顔をしているわ」

コルネリアは白い指先で、僕の眉間をつついた。触れて離れる彼女の指を目で追い、そっと指先で掴む。

「すみません。あなたといられる貴重な時間でしたね」

「そう思ってくださるなら、一曲踊ってくださる?」

「光栄です」

中央のホールへ二人で滑り出す。柔らかな動きで身を任せるコルネリアをリードしつつ、人々の間を縫って進んだ。くるりとターンをして、彼女の腰を支える。ダンスは密着度が高く、吐息も感じ取れるほど近い。あれほど貞操観念に厳しい貴族だが、ダンスに関しては甘かった。

はしたない、男に媚びている。僅かな隙を見せた途端、貴族女性が言われる言葉だ。必要以上に異性に近づき、肌を触れさせる行為を示して騒ぎ立てた。そのくせ、婚約者以外の異性と踊っても社交の一環だと言い訳する。

未婚の令嬢の腰を抱き寄せ、手を取って顔を近づける。貴族の言う「ふしだらな行い」だと思いますが? そう突き付けてやりたくなることも多かった。男なので気づかなかったが、女性に投げかけられる言葉は鋭く厳しい。妹トリアは、どんな場面でも顔を上げて毅然と振る舞った。

トリアに憧れる貴族女性は多く、彼女らも謂れのない誹謗中傷にさらされた経験があるのだろう。そんな貴族社会は、少しずつ変化の兆しを見せていた。義母ガブリエラ様や側妃達が先頭を切り、皇女である妹が引き継いだ。社交界は女性の戦いの場でもある。

己の価値と役目を推し量り、トリアは他国へ嫁いだ。王族と認められていない男と結婚式を挙げ、 未(・) 婚(・) の皇妹として戻る。風当たりはきつかった。ましてや娘がいる。追手の懸念を払拭するため、フォルトを遣わした。

あの日から今日まで、本当にいろいろなことがありました。

微笑むコルネリアに、自然と笑みが浮かぶ。くるりと回る彼女を支え、一歩距離を詰めて引き寄せた。もうすぐ曲が変わる。そこで一度休憩を取るほうがよさそうですね。合図を送ると、彼女は小さく頷き返した。

今回のように女を手籠めにする手法は、かつての社交界で珍しくなかった。高位貴族で手が届かない令嬢を傷物にし、責任を取る形で婿入りする。または嫁に取る。どちらにしても吐き気のする手法だった。彼らは想像もしないでしょうね。己の姉妹が同じ目に遭っても笑っていられるのか。

トリア、コルネリア、マルグリット。皇族女性は誰もが強い。身体的な強さだけでなく、心が強くなくては折れてしまう。義母上の強さは理想的ですが、コルネリアがあの人のようになるのは嫌ですね。

曲の切れ目でポーズを取り、軽く会釈して下がる。コルネリアに話しかけようとした男をひと睨みして遠ざけ、彼女の腰から腕を離さなかった。婚約者なら、ダンス以外の時も触れ合いが許される。正式には婚約前ですが、皇族の宰相に物言う阿呆はいないでしょう。

「コルネリア、あちらで……」

休もうと提案する僕の言葉は、途中で消えた。入ってきたのは妹と婚約者のローヴァイン侯爵、フォルトが腕を貸すのは……。ああ、あれが義妹になる女性ですか。大柄で鍛えた腕は逞しい。毛皮を纏い、一部の貴族に顔をしかめられていた。

堂々と顔を上げ、恥じるところはないと体現するイエンチュ王国の女性は、貴族にはない美しさを備えていた。健康的で日に焼けた肌や燃えるような赤毛、鋭い眼差しときつい顔立ち。単独で立つより、フォルトの隣にいると際立つ。

強さを誇る未来の義妹へ挨拶するため、コルネリアにお伺いを立てる。頷く彼女を連れ、フォルトのそばへ足を向けた。見る限り、フォルトと似たタイプのようですね。

トリアの希望通り、婚約式は兄妹そろって執り行うことが叶いそうです。