軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第9話 夢見の悪さ

『お前はなんてグズなんだ』

『母親と同じで使えない』

『さっさと酒を買って来い!』

『金がないだぁ? だったら盗んで来い!』

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」

「フィエーラ様。大丈夫でございますか?」

はっと目が覚めます。すぐ目の前に金色の瞳が!

びっくっと固まってしまいました。

私の護衛騎士ではないと頭をよぎり、そう言えば変更があったと思い出し、ため息がこぼれ出ました。

また、昔の夢を見ていたようです。

「大丈夫です」

ガタガタと揺れる室内。いいえ、馬車の中から外を見ます。まだ王都を出発して次の町にも着いていないようですね。

ああ、そうです。この空間に耐えられなくて、寝てしまおうと王都を出たところで寝に入ったのでした。

そう、聖騎士ラフェシエンと二人っきりの空間にです。

これが三ヶ月も続くのです。私に耐えられるでしょうか?

今まで女性騎士でしたのに。

私がこの空間から逃げたいと思っていると、頬にふわりとしたものが……頬にハンカチが当てられています?

「本当に大丈夫ですか?」

「ええ、夢見が悪かっただけですから」

私はそっとハンカチを押しのけます。

くっ! 私は神聖女として安定した暮らしをしていきたいのです。

煩わしいことなど、避けて生きたいのです。

そう言えば、なぜラフェシエンは私が苦手としていることを知っていたのでしょう。

私が教会に来たときに残っている人など、大司教や上の人達ぐらいですのに。

私に完璧な神聖女を求めている教会側から、いち聖騎士にそのようなことを言うことはないでしょうし疑問です。

まぁ、考えてもわからないことを考えても仕方がないことです。

それよりもです。

この耐えられない空間からどう逃げるかです。

次の休憩する町で、他の聖女の馬車に乗り込んでいいでしょうか。

今回のお務めでは五人の聖女が南方に向かうことになっています。

それも聖女一人一人に一台の馬車が用意されているのです。

馬車を一台用意するごとに、騎獣やその周りを警護する聖騎士の数が増えるのです。

それが五台ともなると、王族並みの護衛数になるのです。

同行者の数が半端ない。

これは教会の羽振りがいいわけではなく、必要だからです。

「今日の宿泊する町では、何日滞在予定でしたか?」

「三日です。フィエーラ様にはエトラ村とミナエ村に向って貰う予定です」

「そう」

王都から南方面の町や村の浄化石を五人の聖女で手分けして浄化していくのです。

はっきり言って五人では足りないのですが、聖騎士にも聖女にも人数に限りがありますので、三ヶ月かけて回れというのが、国の方針なのです。

そして護衛騎士は、護衛する聖女とともに行動することが求められているのです。

で、こうしてラフェシエンが馬車の中に同席している状態なのでした。

ただでさえ、聖騎士の圧迫感のある鎧が狭い馬車の中にいるのです。見た目がいい容姿が目の毒です。

そして融通の効かない堅物。

今までの女性騎士でしたら、私の散歩を許してくれたのですが、難しそうですわね。

ええ、今回のお務めに同行する聖女たちにも心配されたほどです。

『あのラフェシエン・アンラディーラ様なのですか?』

『話に聞いたところによると、すぐに却下してくるというではないですか』

『私は朝はゆっくり寝たいから、そういうのは無理』

『寄り道とかしたいよねぇー』

という意見が出るほどです。

街道の移動は、揃って行動をしなければならないので、個々の聖女の意見は通りませんが、それ以外はある程度の自由が認められているのです。

ええ、浄化のお勤めは危険が伴いますから、聖女の精神的なことを踏まえてのことなのです。

……早く次の町につかないでしょうか。

「そう言えば、なぜ私が手をとられることが苦手だとご存知なのですか?」

この疑問は解決しておきましょう。

大司教が言いふらしているようなら、今度こそメガネを消滅させることにします。

「やはり、覚えておいでではなかったのですか」

どういうことなのでしょうか?

私がそのようなことをラフェシエンに言った記憶などありませんよ。

「神聖女アンジェリカ様をご存知ですよね?」

その名に驚いて目を見開きます。

私が教会に連れてこられたときにおられた神聖女様。

白髪のお優しいおばあさまで、三年ほどしかご一緒できませんでしたが、色々教えていただいた覚えがあります。

その傍らにはアンジェリカ様と同じぐらいにお年をお召した聖騎士アンラディーラ様が……あら? アンラディーラ様? アンラディーラ公爵家。

「アンジェリカ様の護衛騎士のアンラディーラ様?」

「はい、祖父です」

……そう言えば、記憶の奥に十歳ぐらいの少年の姿があります。

お年をお召した護衛騎士に、剣術を教えてもらっている少年の姿がぼんやりと思い出されたのでした。