軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

無礼には無礼で返していいかしら

『──』

驚いたし、正直、ショックだった。

だって、ベロニカはお茶会では楽しそうにしていたし、その時の空気は決して悪いものでは無いと……そう思っていたから。

だけど、そう思っていたのは私だけだったのだ。

絶句すると、ルシアは心配そうに私を見た。

『やっぱり知らなかったのね。私、心配だわ。あなたは優しすぎるもの……』

ルシアはそう言ったが、優しいのではない。ただ、私が世間知らずなだけだったのだ。

政務の時間を縫ってベロニカとの交友の時間を作った。間抜けな私は彼女に嫌われているとも知らずに、彼女との時間を楽しみにしていた。

ベロニカの好きそうなパティスリーを見つければ、次のお茶会で教えたし、いい香りのする香水を購入した時は彼女にも共有した。

彼女の反応が良かったらそれをプレゼントしたりもしていた。

だけどそれも、全て私の独りよがりに過ぎなかったのだ。

( 城(ここ) では気を許してはいけない、と学んだのはその時だったかしらね)

三年前。つい最近のことのようにも思えるし、遠い昔のようにも感じる。

ベロニカの猫事件──私はそう呼んでいるのだけど。それは、奇しくも私の前世の記憶を取り戻すきっかけとなったのだった。

(前世の記憶、といってもかなり限定的だし、まるまるすべて思い出したわけでは無いけど)

それでも、今の私は彼女をこう称している。

(彼女、絶対人工天然よね!?養殖よね!?)

思考回路が全くの謎の不思議ちゃんなのか、思考回路が宇宙に接続されてるタイプの電波なのかは分からないが、定期的に話が噛み合わなくなる。

そういうわけもあって、それ以来私は極力彼女との接触は控えていた。

(陛下は、あれかしらね。彼女のこういうよく分からないところがミステリアスに見えるのかしらね)

ちょっと変なところも可愛いと思ってそうだ。実際そう言っているところ聞いたことあるもの。

そんなことを思いながら、私は話は終了とその場を立ち去ることにした。

だけど、ベロニカはまだ話を継続させたいらしい。縋るように私の名を呼び、腕を掴んできた。

「待ってください!!猫を返して!」

「──」

あまりの非礼ぶりに侍女たちがひゅっと息を飲む。

失礼、どころの話ではない。貴族令嬢ならまずしない振る舞いだ。

(ベロニカは十五歳まで市井で生活していたからある程度は仕方ない、と目を瞑ってきたけど──)

これはだめね。ええ。

いくら市井育ちといえど、そんなの ベロニカ(そちら) 側の事情でこっちは知ったことでは無いのだ。

ここは王城で、今はまだ、私は王妃という立場にある。

少なくとも、一貴族の娘に乱暴に掴まれていいものではない。

私は、ベロニカを見ると厳しい口調で言った。

「無礼です。手を離しなさい」

「返してくれると、クレメンティーナ様が言うなら離します!」

「話になりません。近衛騎士を呼ぶわよ」

「呼べばいいじゃないですか!陛下は私の気持ちをわかってくださいます!」

ここで言い争いをしていても仕方ない。

背後に控えている近衛騎士が指示を待って私を見ている。

もし、報告をしたのなら陛下は彼女の味方をするだろう。だから、こういう場面の時、私は常にことを荒立てない選択を選んできた。

だけど今は、もうそうする必要もなくなった。

忖度する気はもうない。

「あなたは一度、ご自身の立場というものを考えた方がいいのではないかしら。頭を冷やす必要があるのではない?」

「何を言って──」

ベロニカがさらにムキになって反論しようとした時。

その場に、厳しい声が響いた。

「何をしているのです」

「!」

驚いて振り向くと、そこにはいつからいたのだろうか。

数人の侍女と騎士を引き連れた──

「王太后陛下……!」

現国王陛下の祖母にあたる、エブリン王太后陛下がいらっしゃった。

咄嗟に 礼(カーテシー) を執ろうにも、未だに腕はベロニカに掴まれたまま。

(というかいつまで掴んでるのかしら!?痛いし、早く離して欲しいのだけど……!!)

無礼には無礼で返していいかしら。

具体的に言うなら、乱暴に振り払ってしまいたい。

そう思っていると、王太后陛下も、ベロニカが私の腕を掴んでいることに気がついたらしい。

彼女は眉を寄せると、ベロニカに尋ねた。

「なぜ、お前は王妃の腕を掴んでいるのです?」

「それは……!クレメンティーナ様が逃げようとするから」

「は…………」

私は、ベロニカの言葉に唖然としてしまった。

(逃げ……)

ようとしている、ですって~~!?!?

(いい加減にしなさいよこの小娘……!!)

逃げようとしているんじゃなくて話はもう終わったって言ってるでしょう!!

これ以上無駄な話をして無駄な時間を取らせるなって言ってんのよ!

誰か、ハリセン持ってきてくれないかしら。

それで私、彼女にツッコミ入れるから。

いや、漫才やってるんじゃないのよ。

ひとりボケツッコミにもならない独り言を心の内で零していると、王太后陛下は冷静に彼女に言った。