軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

この世に失望なさいましたか

陛下が予想よりずっと早くニュンペーに着いたのは、早馬を飛ばしたからだそうだ。護衛を置いていくくらいの勢いで、度々馬を替えて、ニュンペーに来たらしい。

どうりで早かったわけだ。

本来、国の王が戦時でもないのにひとり早馬を飛ばすなどありえないことだ。

まあ、それくらい彼も動揺していた、ということなのだろう。

ニュンペーにくれば、私がどうとでもするとでも思ったのかもしれない。

(ほんと、呆れる……)

私が今も尚、 陛下(じぶん) のことを好きだと信じて疑わない陛下と、そして、そんな彼のために尽くした過去の私自身に。

こうして、私は長く楽しみにしていた余暇を途中で、切り上げる羽目になったのだった。

城に戻ると、予想はしていたが城内は不気味なほど静まり返っており、ピリピリとした緊張感が張り詰めていた。

陛下は、ニュンペーに残ったようだ。

だけど貴族院から緊急送還を求められ、ルーンケン卿の言った通り使者が向かわされることとなった。

貴族院の重鎮が揃う、諸侯会議。

着席すると、既に席に着いてていたお父様と目が合った。

お父様は私を見ると、ほんの少し目尻を緩ませた。精悍な顔つきをしたお父様は見た目も厳つく、他者を威圧しやすい。

だけど、実は繊細な心配りのできる優しいひとだということを、娘の私は知っていた。

議会に席を持つ貴族たちがちらほらと集まってくる。

みな、私の髪を見るとぎょっとして、二度見三度見してくる。

それに思うところが無いわけではないけれど、今更どうしようもない。取り繕うつもりもなかった。

時間になり、最後に現れたのは、強制的に城に戻された陛下だった。

彼が諸侯会議に参加するのは随分と久しぶりなはずだ。

最後に姿を見せたのは、半年以上前の、年始の挨拶だったと思う。

彼はやけに堂々とした様子で部屋に入ってくると、ぐるりと議会を見渡す。

それから、既に着席している私を見て、彼は鼻で笑った。

(……何かしら)

とても、今から責任を追求されるひとの姿とは見えず、訝しく思う。

私は陛下の視線に気が付かなかった振りをし、表情を変えずにいた。

──そして、ようやく時間になる。

議題は、やはりベロニカの失態、そして──

「陛下。この件は既に、民衆に知られております」

ガタ、と音を立てて宰相が席を立つ。

その手には、新聞紙があった。

それに、いや、彼の言葉に、私は唖然とした。

(な……何ですって……!?)

早急に、箝口令を敷かなければならないだろう、と思っていたのだ。

情報統制が必要だ、と。

その矢先に、まさかの事態である。

既に!?民衆に……知られている!?

なぜ!?という疑問には、すぐに答えが出た。

宰相が持っているのは、新聞。

恐らくそこに、今回の不祥事が記されているのだろう。

「新聞屋に嗅ぎつけられたようです。本日付けで発行されており、今から回収したとしても出回った分はどうにもなりません」

「そんなの、揉み消せばいい。それがお前の仕事だろう」

陛下は落ち着いた様子でそう答えた。

随分な物言いである。元はといえば、陛下の愛人の手癖が悪かったからこそ招いたこの不祥事。

陛下は、自身に一切の責任はないと思っているのか、そこには悪びれた様子は見受けられない。

宰相はそんな彼の様子に、思うところがあったのだろう。

眉間に深い皺を寄せ、不快感を見せるがすぐにそれを消し、淡々と言った。

「新聞の内容はそれだけではありません。ベルネット伯爵の脱税疑惑についても記されています」

は──

今度こそ、私は素っ頓狂な声が出そうになってしまった。

なぜなら、それを知っているのは私と、ルーンケン卿のふたりだけのはず。

思わず、バッとルーンケン卿に視線を向けると、それに気がついたのだろう。

彼が控えめに微笑んでみせた。

どうやら、彼が手を回したらしかった。

抜け目ないというか、ちゃっかりしている、というか。

やはり、敵に回したくない人間だと思った。それにしても、用意周到すぎる。

一体、いつ新聞屋とコンタクトを取っていたのだろう。

私がそう思っていると、宰相が手を挙げ、部屋の扉が開かれた。

騎士に囲まれ、入室してきたのは──

ベロニカの父であり、ベルネット伯爵当主、そのひとだった。

ベルネット伯爵は、なぜ呼ばれたのかいまいち分かっていないのだろう。

いきなり連行されてきたようで、彼は不機嫌そうに議会の人間を睨めつけた。

「何のつもりですかな、宰相閣下。こんな真似が許されるとお思いか。これは、明確な ベルネット(我が) 伯爵家への侮辱だ」

宰相は、いきり立つベルネット伯爵に慇懃に答えた。

「突然申し訳ありません。なにぶん、逃げられたら面倒でしたので」

宰相はそう言ってから、ベルネット伯爵に静かに尋ねた。

「伯爵も既にご存知でしょう。ご息女が、とんでもないことをしでかしたことを」

「知りませんな。あれはもう、私の娘ではありません。縁を切りましたのでね」

鼻で笑うように、ベルネット伯爵は言った。

その発言を聞くに、おそらく彼もベロニカの一件は知っているようだ。

ベルネット伯爵が呼び出されたのなら、ちょうどいい。

そう思って、私は腰を上げた。

「ベルネット伯爵。私からもあなたに、お聞きしたいことがあります」

私が声をあげると、彼の視線が私を向く。

その胡乱げな視線は、『お飾り妃が何の用だ』とハッキリ顔に書かれている。

それから、彼は嘲りを含んだ顔で笑い、答える。

「これはこれは、王妃陛下。そのお 髪(ぐし) はどうされたのです?陛下からの愛を得られず、この世に失望なさいましたか」