軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ふわぁっ

「ね…………」

ね──猫ちゃんだわ~~~~!!!

(やって参りました!!猫の街!!)

すごい、あちこちに猫がいる。

流石、猫の街だわ!!!!

私は立場も忘れて興奮していた。

視界には、猫、猫、猫、猫!!

至る所に猫がいる。

すごい、まさに人も歩けば猫に当たる、状態。

リリアやサラサ、メアリーたちの手前、喜びの踊りを披露することは出来ないが、私は密かに手をぎゅっと握りしめた。

ニュンペー地方。

通称──猫の街。

街は馬車での通行が禁止(馬も禁止)されているため、徒歩で向かうと、大通りは観光客で賑わっていた。

その足元には…………

(猫、チャンッ…………!!!!)

心の中で、甲高い声を零す。

可愛い、なんて言う可愛さなの。破壊的な可愛さだわ。世界取れる。

大通りには様々な猫がいた。

サビ猫、ブチ猫、白猫、キジトラ猫……。多種多様な猫がのんびりと歩いている。

道端で寝ている猫もいた。

関所を通る際、観光案内パンフレットも貰った。

そこによると『猫は気まぐれな生き物だから、彼らの調子がいい時だけ触るように』と厳重に書かれていた。

(そうよね、猫ちゃんは気まぐれだものね)

流石、猫の街と名高い場所だ。

観光客はみな猫好きらしく、至る所に猫グッズが溢れている。猫の髪留めをしている女性もいれば、猫の柄物シャツを着ている男性もいた。

「すごいですわね……王妃へい──クレメンティーナ様!」

メアリーが興奮したように私を呼ぶ。

それに、頷いて答える。

大通りの露天では、人間の食事の他に、猫の餌やオヤツも売っているようだ。

サラサが私に尋ねた。

「少し行くと、牧場もあるようです。いかがしますか?」

「そうね……。まずはここで食事をしてから、宿泊先に向かいましょうか」

宿は、ニュンペーの街、つまりここで取っている。食事を摂ってからチェックインし、荷物を置いてから動くのがいいだろう。

答えると、サラサが心得た、というように頷いた。

その後ろで、騎士のルークとケヴィンが物珍しそうに、あちこちに散らばる猫を見ている。

私は、彼らを振り向いてから、言った。

「では、ここからは別行動をしましょう!」

私たちは全員で、六人。

この人数で動くと、流石に目立つ。

これはお忍び旅行なのだし、私の身分が露呈したら、周りが気を遣うだろう。それは、私の望むところではない。

そのため、私たちはふたつのグループに別れることにした。

私はルーク、ケヴィンと行動する。

もうひとつのグループは、メアリーとリリアとサラサの三人だ。

別行動を提案すると、やはり彼らは渋ったが、そこは、身分が露呈するといけないと説得した。

そして、最終的に『騎士のふたりと行動するなら』ということで合意してもらい──今に至る。

「いらっしゃい、いらっしゃい!今なら猫ちゃんクッキーが焼きたてだよ!」

「猫ちゃんの刺繍はいかがですか?旅の思い出に!」

「猫ちゃんを象った 氷花(アイスフラワー) もありますよ!」

大通りはすごい人通りだ。

活気があり、ほとんどのひとが手に猫のグッズを持っている。

「パラダイスだわ……」

「クレメンティーナ様?」

背後からルークに尋ねられ、ハッとする。

思わず、本音が口から零れてしまい、咄嗟に口を手で覆った。

(いけない、いけない……。今の私は王妃ではなく、ここは城でもない。だけど、彼らの主には違いないのだから、あまりみっともない姿は)

……と、思ったその時。

足元に、ふわりとした感触が触れた。

瞬間的に、足を止める。

「──」

こ……れ、は!!

下を向くと、そこにはやはり、一匹の猫ちゃんがいた。

真っ白の猫ちゃんは、私を見ると蠱惑的にその場に転がってみせた。

そう。まるで──

体をくねらせ『撫でてもいいのよ?』と言わんばかりにお腹を見せているじゃないの……!!

「っ……」

「クレメンティーナ様?この後は──」

「にゃぁ~~ん」

ルークの声に被せるように、猫ちゃんが鳴く。

自分が可愛いとわかっている声である。

甘えた、高い鳴き声が聞こえ──私は思わず、その場に膝をついていた。

「クレメンティーナ様!?」

驚くふたりに、口元に人差し指をあて、静かに、と指示を出す。

というか、クレメンティーナ【様】と呼ばれたらそのうち正体が露見しそうな気がする。

偽名を考えるべきかしら……。

そんなことを思いながら、猫ちゃんのお腹にそろそろと手を伸ばした。

……ふわぁっ。

「──」

ふわふわ!!ふわっふわ!!

そのあまりの柔らかな感覚に、私は思わず手を止めた。猫ちゃんは満更でもないのか、さらに体をくねくねとさせている。

「かっ」

「か?」

私に倣って隣にケヴィンが腰を下ろし、聞き返してきた。それに、私は言葉を返す。

もう、理性がどこかにお出かけしてしまっていた。

「かわいい……………………っ!!!!」

もう、本音は抑えようがなかった。

「な~~ん」

(鳴き声も可愛いわ!やばい!可愛い!!可愛すぎる~~!!)

猫ちゃんバンザイ。

そして今世は猫アレルギーではないこの体に感謝。

私は猫ちゃんを撫でくり、撫でくり、しながらその感触を堪能した。

そう。これ、これよ~~!

私は城でもこうやって猫ちゃんを可愛がりたかったの……!

王妃だとか、立場だとか、そういうの忘れて、『可愛いでちゅね~~!』ってやりたかったのよ……!!!!

ゆっくり手を滑らせる。

「んー……」

猫ちゃんは、嫌がらなかった。

ごろごろと言っているのが聞こえる。

私は、にっこり、笑みを浮かべて魔法を放つ。

「κάθαρση」

水魔法と火魔法の混合魔法のひとつ、浄化魔法である。

ギョッと隣のケヴィンが驚いているがそれに構わず──私は猫ちゃんのお腹、つまりモフモフの毛に顔を近づけようとした。

いわゆる猫吸いである。

猫ちゃんが好きな人間なら誰しもがする、あれである。

前世は猫アレルギーがあり、今世は王妃という体裁があり、出来なかった。

お忍び旅行で、誰も私の素性を知らない今だからこそ、できるふわふわ堪能技。

それをいざ味わおうとした、その時。

「あっ……こら!待ちなさい、それは──」

どこかで聞いたことのある声が、聞こえてきた。

「え?あっ──キャッ!!ゔえっ」

振り返ると同時、何かが顔にぶつかってきた。

それは柔らかくふわふわとした感触──と同時に、ベチャ、という嫌な音。

最悪なドミノ倒しが起きた気がした。