軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第5話 路上生活からの脱却。

ほんの少しでも屋根があれば上等、そんな路地で私達は寝る。

路地には私達と同じような限界底辺の立場の人間が一緒に寝ている。半銅貨でも払えばこの場所で寝られる、寝て……比較的安心できる。

場所代を払わなければ制裁されて当たり前、朝になる前には息もできなくなってしまう。

まだ私やパキスはマシな場所である。仲間同士が集まって寝るだけの路地だが仲間がいるだけで物取りや他のマフィアの襲撃の可能性は減る……まぁそれでも組織で最低階級である私が金を持っていれば、仲間内でも暴力で奪われることもよくあるのだが。

「行くぞ……あ?何見てんだよぶっ殺されてぇのか!?」

「い、いえあがっ?!」

お腹が空いた孤児らしき少年にゾッとするほどの目で見られているとパキスが殴った。

ドゥッガ一家で一番扱いの悪いパキスにすらここいらの大人も逆らうことはしないがこういうことはよくある。

若かったり新入りや旅の人間だと、まだパキスの顔を知らなかったりドゥッガ一家の怖さを知らないのだろう。

パキスが直接殴りに行くのがいつもだが体の大きな相手には他の兄貴さんを呼びに行くこともある。

「はぁ」

「なんか言ったか?」

「なんでも無いです」

とんでもなく酷い生活、10年以上日本で学んだ日本人として「どんな生活に投げ出されたとしてももうちょっとマシな生活に抜け出せる」と思っていた。いきなり海外に投げ出されたとして、言葉が通じなくてもボディランゲージや紙とペン、いや木の枝と地面で世界地図や国旗を描くなりして意思疎通し、こんな生活からは脱出できると考えていたと思う。

衣・食・住、自分の思う『最低限の暮らし』はこんな血と汗とドロだらけで穴の空いたボロボロの服でいることでも、食べれなくてお腹が減ってフラフラすることでも、屋根のない路地で寝ることでもない。

「あ、あの」

「なんだ?」

「お金数えるの手伝いましょうか?」

だから、賭けに出ることにした。

「――――あ?」

親分さんはとても用心深い。常に護衛のいる賭場の上の階で金勘定をし、食べ物にも毒が盛られないように気を使っている。暴力にも躊躇いがなく力も強い、それでいて賢い。

他の人間はほとんど計算ができない、教育を受けていないからだ。

「お前計算できるのか?」

「カシラ!できるわけ無いっすよこんなガキに」

「自分の尻もふけねぇようなガキが何言ってやがる、さっさと水出して帰れっての」

普段横で何かの賭けをしている彼らが口を挟んできた。怖くて喉から魂が出そうになるがこれも賭けだ。

「てめぇらは黙ってろ!!――――フリム、試しにやってみろ」

机に散らばる硬貨の数々、流石に計算ぐらいできるし余裕だと思ったが……。

硬貨の種類が、多いっ!!?

不味い、失敗した。私の思っていた硬貨は多くても6種類だが余裕で10種類以上ある。これなら役に立てるかもと思ったが失敗したかもしれない。

「――どうした?出来ねぇのか?」

「えぇっと、途中までやってるのはここまでですよね?じゃあこれで親分さんの役に立てるか試してもいいですか?」

机の上で既に計算中の硬貨は一度放置する。

親分さんが頷いたのを確認し、机の横の方のスペースを使い、まだ開けられていない金袋を開けて分類する。

宝石、大金貨、金貨、大銀貨、銀貨、銅貨、半銅貨、朽ちてなにかわからない硬貨。多分作ってる国も違うし歪んだり割れたりしてるものも多い……それらを机の上に分類して集めていく。

親分さんは計算するのに一枚一枚分類しているのを何度か見かけたがそれだけで結構大変そうだった。お金の計算は後回しだ。「お金の計算というあまりない技能によって親分さんの役に立つ」のが目的だったがいざ見てみて冷や汗が出たが、ようは親分さんの役に立てば良いのだ。

まずは大まかに硬貨を仕分けし、同じ種類のものだけ集めて10枚ずつ山にし、同じ種類の中でも傷んだ硬貨を別のグループにおいてそれは別で数える。

「これは……どう分けた?」

「同じ種類の硬貨を綺麗、普通、汚いで分けてそれぞれ10枚ずつで塊にしてます、全部数えるのはすぐには出来ないので親分さんの役に立てればって思います。」

「……なるほどなぁ」

「カシラこいつ使えるんで?」

「あぁ、それといつも言ってるが人の話さえぎんなケディン、ぶん殴んぞ」

「へーい」

護衛の兄さん、他のマフィアの事務所に行って物を壊してくるのが大好き『大木槌のケディン』さん。

一応この都市でも抜き身の剣や戦闘用の斧なんかは携帯していると捕まることがある。だが建築用と言えばごまかせるみたいで、常に大木槌を持ち運んでいるとても目立つ人だ。

大木槌は石造りの建造物が多組手使い道はなさそうな気もするが……それでも何かに使うのだろう。持ち運び可能な武器らしい。明らかに血でどす黒く汚れていたりするのにそこは良いのかとも思う。

「何処で覚えた?」

「まチで水の商売しながら歩いてて、屋台でこうやって手伝ってる子がいました」

まだ親分さんは怖くて、言葉が詰まりそうになる。

「なるほどなぁ……まぁいい、金勘定もさせることにするから今から手伝え」

「はい、パキスにはなんて言えばいいですか?」

「パキス?あぁ末のか、こっちで言っとくから気にすんなちょっと待ってろ」

部屋の隅においてある木箱を机の横においてくれた親分さん。親分さんの机は大きく、立っていても端しか使えなかったから椅子に使えということだろう。

正直こちらの文字は詳しくはないが……なにか悪さをするための文章がありそうで見るのが怖い気もする。しかし気を使われて悪い気はしない。

硬貨の種類を教わりながらどんどん数える。現代日本では考えられないほど硬貨の質が悪い。大きく凹んで歪み重ねておけない。

「これも偽金だ。覚えろ」

「はい」

しかも偽の硬貨が混じっている。偽造は犯罪だろと言いたいがよくあることらしい。

ただ親分さんはご機嫌である。一人で全部一枚ずつ数えるのに比べれば段違いに作業効率は良くなったはずだ。同じ銅貨100枚の山から数枚、偽の銅貨を弾いて同じ数を入れて袋に小分けする。

それともう一つ気がついた。

「親分さん」

「なんだ?」

「硬貨を触った後に指を舐めるの止めたほうが良いと思います」

「どうしてだ?」

結構親分さんは優しい。パキスと違って理性的に話すことができる。パキスだと何もなくても小突いてくることがあるし、道理も理性もない。

「たしか金属には体に良くないものもあるそうです、ちょっとでは体に害はないと思いますがいっぱい体に入ると毒になるんじゃないかと思います」

「なんだとっ!!?それは本当か!?」

立ち上がった親分さん、ちょっと怖いがこれはチャンスだ。知識は武器になる。

「た、タしか、甘く感じる鉛は毒があるって薬師のお婆さんに聞きましたし、偽硬貨があるなら何使われてるかわかりませんし」

薬師のお婆さんには色々聞いたしこういう知識もあった。あえて聞き出したというのもあるが聞いてよかった。自分の知ってる金属や野草があるかという知識とのすり合わせだったが名称は違っても基本的な金属や常識が同じである。

もしも全部が全部違う世界なら、人の姿も宇宙人みたいな可能性もあるし、金貨が一番価値がない可能性だってある。仕事の間、店員さんや薬師のおばあちゃんが動かずこっちを見てくるから色々話すしかなくて情報を仕入れられた。

「そうだったのか……フリムだったな、気に入った。今日から仕事は俺につけ」

「はイっ!」

この選択肢があってるかは分からない。親分さんの暴力がこちらに向かないかは怖いしまだ震えそうになるが……それでもきっとパキスの元よりはマシなはずだ。