軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第372話 ドレスでカレーうどん(ナニコレ)

貴族には貴族の価値観がある。

力を持っていれば良い。精霊を祀っていれば良い。加護や恩寵を授かっていれば良い。良い服を着ていれば良い。所作が美しければ良い。爵位が高ければ良い。戦歴が自慢できれば良い。領地が潤っていれば良い。魔導師の称号があれば良い。醜聞がなければ良い。完璧であれば良い。

……様々な「良い」とされる判断基準がある。刺繍や歌、絵画なども達者であれば貴族にとっては一目置かれるし、賢者なんてものは尊敬される称号だ。

私も「賢者」として認められるだけの知性と魔力を見せたが……ただ、私の場合は「年齢」「派閥と家族なし」「平民の商人に使われていた」「明らかに担がれた神輿」などなど、目に見えて付け入る隙があった。

そのため今でも侮られていると感じる事がある。見合いの申し出なんてしょっちゅうで……領地や利権よこせなんて言ってくる。

侮られないように魔力の圧を浴びせるのも一つのコミュニケーション方法にしても良いかもしれない。

前世でもそうだったけど、侮られていればその後のやり取りに困ることがある。

学生時代のいじめっ子といじめられっ子が社会人になってもそのままの関係性が残ってしまったりと……一度侮られて、その印象が固定されてしまえばそれはもう「対等な関係」ではなくなる。

そういう侮られ方もあると思い知ったのが、仕事で同時期に入社した同期が私を下に見たことだった。

会社に入ってすぐは慣れない環境にうまくいかないこともあった。コピー機がうまく使えない、会議をすっぽかす、電話対応で間違えるなどなど……まぁすぐに覚えたが新入社員時代は失敗もしたものだ。

しかし、それらを卒無くこなしていた同期はその後の私がいくら出世しても彼女の中での私は「どんくさい」という印象のままだったのか……部下になっても言うことは聞かないし要領が悪かった頃の私のことを他の社員に話すなど、とてもやりにくかった。

何かでイメージの払拭ができればいいが、人間というのは先入観がなかなかなおらないこともある。

貴族社会ではその一つに――――「流行」を先取りすることができれば一目置かれる存在となる。

そんなわけでディア様が気を遣ってくれたのだと思う。

「オベイロスではこれを上手く食べられれば素晴らしいとされるわ」

「あの、これは一体……」

「カレーうどんよ。服を汚すこと無く食べてみなさい」

なんか、カレーうどん流行っていた。そしてドレスでカレーうどんを食べるのか。

カレーはこの世界基準でも好評であり凄まじく美味しい。それはリヴァイアスに来る豪商でも確認できている。そして麺は前世でも世界共通で一定の支持を得ていた事もあってうどんが受け入れられるのも理解できる。うどん単体もかなり品質が上がってコシが出てきたからなお美味しく感じる。

しかし…………そもそもうどんはどう頑張っても汁が跳ねるように思える。それはもうどうしようもなく。

ドレスでこれを食べるマナーってどうなんだろうか……。

「なによこれ!?おいっしいわね!」

「これだけでもこの国に来た価値があるわ」

「……私はこれに出会うために生まれてきたわ。天使に感謝を」

「おかわり!」

冷めたら美味しくないため、理解しているオベイロス貴族は出されれば他の席に置かれる前に食べ始めていた。

品良く、かつ素早い動作で二股のフォークで巻き取ってがっついているオベイロス貴族。他国の人間はそれを不思議そうに見ていた。

多分他国にはまだカレーうどんは伝わっていないんだろうなぁ。

私も食べるけど……マイ箸とレンゲに近い形状のマイスプーンを取り出して食べる。

以前よりもカレーはスパイシーさが強く香り、麺は滑らかかつコシがあって歯ごたえがある。しかも多分海の出汁が入っていてより旨味が強い。

前世のカレーうどんに近付いた気がする。いや、でも肉の差なのかより前世のものとは別の風味でよりコクのある味わいだ。これはもうどちらが美味しいか甲乙つけがたい。

この味なら貴族社会で流行りとなっていてもおかしくはない。

「フ、フリムちゃん?それは?」

「箸ですね」

「前も使っていたけど……それは、その……何故使うの?」

何故と言われても使い慣れていると言うかこっちの方が私にとって正しいと言うか……。

「元々これを使って食べるのが正しい食べ物だからですかね」

「な、なんですって!?」

ディア様、驚くところそこなの……むしろ「ドレスでカレーうどんを食べよう」という方が私にとっては驚きなんだけど……。

いや、それより私の言い方が悪かったように思えるし訂正しておこう。

「私がそう思っているだけなので、皆さん好きに食べてもらえば良いように思います」

麺をゆっくり持ち上げ、レンゲに入れてミニカレーうどんを作って食べていく。

スープの中で麺がどう絡まっているかわからないし、イレギュラーに跳ねることもあるから気をつけないと……。

「……完璧ね。どうしても飛び散るのに」

「というかそもそもドレスでこれを食べる方が間違ってるかと。なんならドレスの前にエプロンやナプキンを使って食べてもいいかと」

「『えぷろん』?『なぷきん』?それはどんなもの?」

「服が汚れないようにする……食卓用の着装具……って感じですかね。ほら、あそこでミンテーさんがやってるようなものです」

「フェア!?」

いきなり声をかけた事もあってミンテーさんがびくっと固まった。

ミンテーさんは大きめのハンカチを首に差し込んで簡易エプロンにしていた。背は低いが胸がそれなりにあって、カレーうどんを食べるのはとても汚れやすそうな体つきだしね。刺繍用に大きめの布を持っていたのかな。

「なるほど、食べ終われば外せばいいですし……上品ですわね」

そういえばこういうマナーは時代や場所で全然違っている。

紙エプロンやナプキンを使うのは子供っぽいという風潮もあれば、使ったほうが良いという考えもある。時代によっては食事の汚れは袖で拭いたり、バスタオルのような大きな布を用意しての手掴みということもあったのだとか。

そもそもドレスでカレーうどんを食べる時点でどうかとも思うが……いや、これ発生源が私だし、うーむ。

「美味しいですし流行るのもわかるのですがカレーうどんはどうしても飛び散ることは避けられませんから。……なんだか作法の授業を邪魔してしまってすいません」

この国では食材にあまり手を加えずにシンプルに調理する方が主流だ。

焼いて塩をふって食べる。果実は切って食べるなど……そうするとカレーのような香辛料をたくさん配合して作った料理は物珍しいだろうし、別の価値基準になったはずだ。

なんかスパイスを持ち運ぶようなブームも出来ているらしいしね。

王宮でもカレーは「凝った料理」でなおかつ「高貴」に映るのかもしれない。

「いいのよ。むしろカレーうどんを作ったのはフリムちゃんだし、堂々としていれば!あ、でもその『えぷろん』ってのも興味があるわ」

「後で届けますね」

あとで、布エプロンを届けることにしよう。ディア様はカレー味が好きっぽいし。

「え、リヴァイアス侯爵がこの料理を!?」

「美味しいけど、食べにくいわね」

「カレーの原料は侯爵領で作ってるらしいわよ」

「はねるわ……あぁ、ついちゃった」

「フレーミス様!是非作り方を!いえ、料理人を紹介してくださいまし!!」

「製法を買い取りたいです!」

「わたくしにこそ!家宝の宝玉を差し出しますから!何卒!!」

あ、普段私を微妙な目で見てくる令嬢でもカレーが絡むと懇願してくるのか。

カレー奉行をやっていた貴族とかもいたし……いや、私を微妙な目で見てくる令嬢ですら頼み込んでくるとかカレーの魅力すごいな!?