軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第360話 小国の姫君の嘆き(アンナコムスメガ!)

何が筆頭婚約者よ!何が侯爵よ!!

女の身で!侯爵で!……だからこそ出迎える立場なのに私達をぞんざいに扱った。

一国の姫を出迎えるのに、目も合わせずに体ごとぶれてふらふら……挨拶すらまともにしなかった礼儀も知らぬガキ。他国の人間を招いているのにあの態度はなんなんですか!!

正妃候補として、筆頭格の婚約者の中でも抜きん出ているそうですがあんな無礼――――ありえないでしょう。

あれほど見くびられては……明確な敵です!

しばらくの間ここで過ごして、王妃の座を巡る勢力や関係性が見えてきました。

この国の重鎮に連なる四人の娘ならまだ格が釣り合うでしょう。

貴族をまとめる貴族院の院長の娘『セルティー』。

大臣の中でも最も力を持つポヨ大臣の令嬢『ミィア』。

大賢者の末裔にして魔法魔導省の新たな賢者『ラズリー』。

この国一番の商会の後ろ盾を持つ聖女『リュビリーナ』。

一人格落ちですが現政権と敵対している現王の伯父ライアームの派閥の筆頭家臣の娘『エルストラ』……彼女も政治的にその立場に据えられているのでしょう。

元から婚約者であった彼女らであれば、まだ誰を正妃に迎えようとも理解が出来ます。それに王族であるライアームの娘ともなれば親戚ですし、争った因縁もあれば政略的に両者の思惑もあるでしょうし無くもないでしょう。

しかしあのリヴァイアス侯爵は彼女らよりも上の立場で、更には王に気に入られています。

他の「筆頭」とされる婚約者でも直答を許されるかを伺った後に話しているというのに……あの娘だけは全ての無礼を許されていて、仕事だと二人だけの時間を過ごし、更には移動すらも王に抱き上げられているそうだ。

私や他の姫のような格のある人間と違って、放浪の民にまで落ちていた成り上がり者。礼も恥も知らぬ小娘だ。礼儀が出来ぬ放浪の民ならせめて手を地につけて頭を下げるべき――――あんな小娘、正妃にふさわしくなんかない!

「あの『コンペイトー』はリヴァイアスの名産品のようですわ」

「きらびやかな見た目ですし、国元に持って帰りたいですわ」

「私は『アイス』が良かったです!とくにカーヌアーヴィたっぷりで風味豊かな『チョコアイス』はもう!至福の味でしたわね」

「……甘味がしみるぅ」

「たしかに!料理人を連れ帰りたいですわ!!」

確かにリヴァイアス領で体験したあれらは美味しかったですが……もう帰るつもりですか。

改めてこの「お見合い大会」の詳細を知り、国元に連絡を取った方は多くいます。

そうして、正妃の座を狙うようにと言われる方もいれば大貴族の令息と嫁ぐなりしてオベイロスとの関係を構築するように指示されている方もいますが……人によっては帰ってくるよう言いつけられているでしょう。

そもそも普通の国には上位存在による恩恵なんてありません。あったとしても姿を見せず、声を聞かせるか僅かな恩寵を賜れば良い方です。むしろ彼らの勘気に触れればそれだけで国は滅んでしまいます。

上位存在が共に居て、その恩恵を享受できる国はごくわずか。普通の国では鉱石が湧くように出てきたり腐るほど果実が実るなんてありえない。

遠くの国まではわかりませんがそんな現象が起きるのは上位存在とともにある国のみ。竜の国、エルフの国、ドワーフの国、空の国に魔国や神聖国。――――……そしてこの精霊国。

上位の存在がいる国の貴族はそうでない国を見下します。

それは当然でしょう。なにせ国力が違います。

普通の国は200年も存続すれば立派な「歴史ある国」ですが、上位存在と共にある国はいつからあったのかもわかりません。

この国は「歴史」も「国力」もあります。ただ精霊に困らされることもあるそうですが、普通の国であれば「困る」どころか上位の存在の遊びで滅ぼされることもあります。

そのような揺らぎが起これば上位の存在のいる国でも狙われることがあります。なぜなら上位の存在のいる国の領地は豊穣に満たされていますし、一定の領地から領土を広げようとはなかなかしません。しかしもしも上位の存在がいる領地を奪えて、上位の存在と縁を結んで、そしてその領地の防衛に成功すれば――――末代まで飢えることは無くなる。

この国は先の政争の折に周囲の国々から攻め込まれました。

だからでしょう。この国の令嬢は王妃の座を狙う私達に対してそれはもう焼き尽くさんと言わんばかりの態度です。

外国からきた勢力は安全のためにも身を寄せ合って情報交換を盛んに行っていますが…………………もう、なんなんでしょうか、この催しは。

国元からすればこんな好機は二度と無いと言わんばかりに支援してくれます。王の好みさえ分かれば数十人だろうと送り込んでくるでしょうね。

しかし、どこの国もこの現状を知らないのでしょう。王の妃候補は筆頭婚約者で埋まっていますし、その中でも有力なのが幼いリヴァイアス侯爵であることを。オベイロスの貴族は外国出身者に厳しい態度であることを。

「エステ!それにこのドレス!これらはリヴァイアス侯爵が行ってるそうですわ」

「国元もいくらでも出してくれて嬉しいですわぁ」

「資源豊かなオベイロスの王妃の座を狙えるなんて!こんな機会めったにありませんからね!」

「この国に住みたいですわ!」

幼くて、無礼なリヴァイアス侯爵……!

確かにコンペイトーとチョコレイトーとリヴァイアス酒とマヨニーズハンバーグは凄まじく美味でしたけど!

確かに、王宮で行われているマッサージにエステ、占いやドレスの作成……評価できる部分は大きいです…………ですが!それは商売人のやることであって!決して王妃のやることではありません!

金銭に関わることなど!貴族のやることではありません!下賤な商売人は商売をしていればいいのですわ!

「しかも王も噂のような女性を侍らかすような性格でもありませんし!」

「見目麗しいのも良いですわ!」

「わかります!オベイロスの王がどんな年嵩の方かと心配しておりましたが!」

「400を超える老齢の王との噂を聞いていたのに、本当に安心しましたわ」

そもそもリヴァイアス侯爵は子供で……世継ぎも産めないでしょう。

…………そう考えれば哀れなものかもしれませんね。

リヴァイアス侯爵は子供で、王に弄ばれていて……きっと成長すれば王に捨てられるでしょう。

彼女の礼儀知らずな部分を見て、この王宮で過ごす息苦しい日々。思い通りに王と面会すら約束できない現状だからと……リヴァイアス侯爵に当たるのは間違いだったかもしれませんね。

この国の貴族からもリヴァイアス侯爵は嫌われていると言う情報も多く上がっていますし……いえ、いない相手のことなんて考えても仕方ありません。

それに王がいくら彼女を寵愛していようとも世継ぎを先に産んでしまえば良いでしょう。元々彼女は後援すらいない成り上がり、子さえ産めば排斥出来ます。我々の子ならそれぞれ国元からの支援もありますし、何よりオベイロスの貴族が次のオベイロス王のために王の傍にリヴァイアス侯がよることを許そうとはしないでしょう。

しかし……王は噂通りそういう趣味なのでしょう。数人、王の趣味に合わせたであろう相手も居て…………適齢期の令嬢じゃ相手にもされないなんて聞いてないですわ!

特に有力とされるのが妖精の血を引くミンテー姫。背丈も低くて、一番幼く見えることから選ばれる可能性が高そうで――――

「オベイロス王が来てくださったわ」

「どなたか令嬢を連れてらしてよ」

「急ぎましょう」

王は忙しく、こちらに来ることは殆どありません。

急いでいると見せない程度に王のもとに向かいます。

とにかく私は私に出来ることをしませんと。王の目を引くように……王の前に出て優雅にふわりと礼を取る。

これまでなら王は玉座に座って顔を見せるだけ、なのにお茶会の場に現れて、その令嬢は王の陰に居て――――

「知らぬ者もいるだろうから紹介しよう。彼女は王家の相談役にして筆頭婚約者だ」

「紹介に預かりました。フレーミス・タナナ・レーム・ルカリム・リヴァイアスです。リヴァイアス侯爵に王家相談役の任を賜っております。どうぞお見知りおきを」

「――――……え?」

私か、それともどなたかの声が漏れ聞こえました。

なぜならそこには女の私でもうっとりするほどの麗しい淑女がいました。

子供ではない。

オベイロス王と背丈もあった適齢の女性。

彼女の目は妖艶で、その装いは国宝のような装飾を惜しげもなく使われていて、何故か彼女から目が離せない。

そこにいるだけでこちらに意識を向けてもいない彼女に気圧されるほどの品格と風格があって…………完璧な礼をする。

――――后にふさわしいと、一目で思える方がそこにいました。