軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第346話 鉄鬼<竜人

もともと貴族だった。

ただ――――妾腹で、女で、亜人の血が強く出て……蔑まれていた。

「ダース!言うことを聞きなさい!」

「っせーんだよ!ババア!」

父と母、どちらの家系にも亜人の血が入っていた。

だが二人とも人間至上主義に近い思想があって……角が生えたのは近隣貴族へのお披露目よりも後だった。だから殺されるようなことはなかった。

とはいっても母親ですらこれだ。

角が生えただけで態度は一変、自分ではどうしようもないことなのに……反抗的になるにはそう時間がかからなかった。

「ご当主様の言いつけですよ!これだから汚らわしい血が入った半端者は…………」

「あんだと!?もういっぺん言ってみろ!!」

「いたっ!?だ、だれか!!」

蔑んでくる親とも親族とも仲良くなれるわけもなく、悪さばかりしていた。

それに生まれつき、力が強く、押さえつけられるばかりではない。

まぁちょっとばかりやりすぎた。

「姉さん、またやったの?」

「んだよ。くんなっての」

品行方正な弟には似合わない地下牢。

流石に骨3本ぐらい折ったし、俺の部屋じゃ閉じ込められねぇからな。

「もー、シグレアもカルパンも神殿送りにしちゃってー」

「…………っせーな」

「パン置いとくね」

弟は何でも要領良くこなす。

何度来んなって言っても、こうやって俺のもとによく来る。

牢屋にぶち込まれてる姉とか醜聞でしか無いだろうに何を考えているのか。……まぁ元々仲は悪くなかったが。

「……酒は?」

「あるよ」

「でかした!」

「もう、ちょっとは反省してよね」

「へいへい」

たまに貴族院に怒られるようなこともしでかして……デンレール家に行儀見習いに出された。

亜人に特徴的な角。そしてこの膂力だ。騎士団か軍にでも投げ込まれそうになったが、母親が頼み込んだらしくそうなった。誰も頼んでもねーのに勝手しやがってよ。

殴り合いなら得意だけど、貴族同士の争いになれば弟にも迷惑がかかっちまう。

仕方なく……うん、まぁ相変わらず悪さもしつつ行儀見習いの任務は全うした。

たまに「これが亜人の特徴だ」とか見世物にされてムカつきもしたが……まぁ飯はうまかった。軍の飯は不味いらしいし、母親は飯の不味さで誰か殺すとでも計算したのかもしれないな。

貴族院では徹底的に礼儀作法を学ぶことになった。面倒でも不良になる前は普通に貴族だったが貴族院ではもう何段か上の作法があるのだとか。言葉遣いだとか歩幅だとかめんどくさい。

そのまま何年も経って、面倒なことにひょんなことから精霊から加護を貰ってしまった。

鍛冶場で自分用に武器を作っていただけだったのに、疲れ果てて金槌を枕に唸って寝ていたら身体が変わってたんだもんな。

クソ親父は幸いにして健在ですぐに後継者を選ぶ必要がなかった。弟も立派な精霊の加護を得ていた。家に戻って当主になるのも良かったかもしれないが、クソ親父をボコボコにした後で一日だけ俺が上だと見せつけて当主やってから――――……弟に家督を譲ることにした。

昔から悪さばっかしてたからあのままじゃ親族に殺されそうだったし……弟は俺に懐いてたからな。弟も俺が当主で納得してるってのに親族もクソ親父は素行の悪い俺の首を狙ってきやがる。トドメ刺しときゃよかったかと思ったが、まぁ弟に迷惑かけんのはチゲェしな。全部面倒になって旅に出ようとして……デンレール卿に呼び出された。

無視しても良かったが、旅に出る前に挨拶するぐらいの義理はある。

俺とデンレール家は縁もあったし、俺は長子で精霊もいる。家督を取り返してやると言われたけど……弟はあの家で唯一私を守ろうとしてくれた存在だ。

だから別の生き方をすると決めた。

旅はやめて、なんやかんやデンレール家の荒事担当として我儘貴族をぶっ潰したり、税を誤魔化す中間貴族をぶっ潰したり、軍の不正をぶっ潰したりと結構好きに生きてきた。自分のような亜人でも、秩序のため、正義のためにと国の役に立てた。

そして……セルティー様の敵を排除する任務を仰せつかっていた。

国の秩序を乱すリヴァイアスは悪であり、隙があればうまく戦力を削ぐようにとも命令されていた。

セルティー様はこの騒動に参加する気はなかったけれども、「オベイロスの貴族が、他国の上位存在に攻撃されているのを貴族院院長の娘が見逃すのか?」と突っつかれて……俺が行くことにした。

ちょうどトカゲ女とは因縁もある。ぶっ潰してやろうと思った。

トカゲ女は強そうに見えたが、俺のほうがつえぇに決まってる。

鬼の血を強く引き、精霊の加護を授かっている。これまでどんな相手でも対人で俺に敵う者はいなかった。先の政争でも他国の軍を相手に領地の一つを守りきった。オベイロス国内にいりゃあ俺が負けるわけがない。『デンレールの鉄槌』様の出番だ。

元々気に食わなかったんだ。王宮にこいつらがきてからお嬢様の機嫌は悪くなるしよ。お見合いとか馬鹿げた企画に参加して、トカゲ女も警戒してたのか見かけるたびに威圧してくる。

幼い主がいるんだからせいぜい警戒してろとか思ってたがその主すら守れてねぇ軟弱者。

せっかくデンレール家が、セルティー様が築き上げた秩序を荒らすだけ荒らして胸を張ってる見掛け倒し。

そう思っていたのに――――この女、強すぎる。

鉄精霊の加護で鋼鉄に変えた身体を……あっさり割られた。俺の鉄拳でびくともせず、逆に腹にはコイツの拳の跡が残ったままだ。

体を鉄に変えてるのに……何なんだこの竜人は。加護がなけりゃ死んでたぞ。

角もへし折られた。腕も引き千切られた。殴り合いでは勝てず、足を掴まれ壁に打ち付ける工具にされた。

「そこがお前の弱点だな」

「そう思うなら狙ってみせなさい。トカゲ風情にできるものかしらね?」

頭はまだ潰されていない。床に打ち付けられる時に頭を守ったからそう思ったようだ。

潰されて砕かれたとしても、すぐに身体は元通りだ。この頑健さがあるからこそ、家臣で居られた。政争で生き残れた。

ただ、水に沈めば浮かないし泥底からはなかなか抜け出せなくなるが、ここは建物の中だ。

しっかし、大賢者がこちらの手助けをしてくれなければ終わっていたな。俺も同じ土属性だから大賢者に合図さえすりゃあ全方向から石の柱をトカゲ女にぶつけて、踏み込む床を溶かしてくれる。

たまに自分ごと容赦なくはじき飛ばしてくるのは言いたいこともあるが、打ち合わせ通りだ。

何処かの壁に飾ってあった戦斧が足元に来た。素手のトカゲ女相手にこの武器はどうかとも思ったが…………まぁ良いだろう。

大きな刃が前後についた戦斧。豪華な装飾で、壁にかけるだけの見せかけのものかと思いきや……亜人の多い領地だからか柄も分厚く実用的に見える。

手に取り、試しに刃を指でなぞってみる。鉄の指じゃなければ傷ついていたことだろう。

「――――ふん!」

「――――ふっ!」

トカゲ女の胴体を狙うが、素早く身を引かれて……外した。でかい図体の割に機敏に動きやがる。

ニヤつくトカゲ女、普通なら振り下ろした戦斧の重みで隙だらけになるだろう。

そのまま斧を手前に引き、体ごと回転。隙をついて近づいてきたトカゲ女の首筋から腰まで一直線に振り下ろした。

「惜しかったな――――カァッ!!!」

信じらんネェ!!?

戦斧の側面を両手で挟み、勢いを殺して真正面から鎧で受け止められた。

そのまま炎を吐かれ、反射的に発生源である顔面を殴ってすぐに下がった。

しかし――――すぐに後悔した。

炎を無視して押し込んでしまえばよかった。なぜならトカゲ女の手に、戦斧があるからだ。

「……さっさとフレーミス様のもとに行かせてもらう」

「自らの主を認識できずに傷つけた愚か者め」

「何を言ってるかわからんな」

鼻血を出したトカゲ女だが、片方の鼻を押さえて血を吹き出すとすぐに出血が止まった。

女とは言えこいつも戦士か。なよっちい貴族とはチゲぇな。

「やれるものなら――――やってみなぁ!!」

冷徹な殺気に冷や汗が出る。気合を入れ、圧倒的暴力に立ち向かう。

重量のある斧にも関わらず踏み込みは鋭く、トカゲ女は一瞬で目の前にいた。

先ほどとは逆だ。しかし俺はトカゲ女ほど機敏には動けねぇ。

振り下ろされる斧、二撃までは腕で逸らせたがその後の連撃は嵐のように身体を削った。ガインガインと身体から聞いたことのない音がして火花が散る。俺の身体がどんどん削れていく。隙を見て反撃するも、カスリもしない。

反撃しようにも距離を取ろうにもかなりの体格差がある。その上トカゲ女は武器持ち、一方的に打ち据えられた。

倒れた俺の腹の中央、遠慮なく装飾の施された斧が振り下ろされた。

「ぐっ……」

「頑丈だな……フレーミス様のためにもお前の相手をしていられない」

金属の身体に打ち付けられた斧、柄が耐えられなかったようでポッキリと折れた。

今が好機とはいえ削られすぎて動けない。

トカゲ女が俺の首を持った。

「――――思ったほどでもなかったな、アァっ?!!」

「は……ハッハー!!」

笑えるぐらいにこの女はつえぇな。淡々と俺の首を折りやがった。

身体を鉄にしていたしかなりの体重のはずが……そのまま持ち上げられ、天井付近で首を折られた。だが首を折られた程度ならすぐに治る。

少し死んだふりをしたら顔を覗き込んできたからトカゲ女の角をつかんで思い切りぶん殴ってやった。愉快で笑っちまった。

体格差でこれまで顔面には一発しか入らなかったが……これにはかなりの手応えがあった。

髪の分け目から血を流したトカゲ女だが……。

「…………ゴルルルルル!!」

膝をついたままこちらを睨みつけてきている。

信じらんねぇ。メイスよりも威力のある俺の拳で死ななかったのか。

まぁきっとこいつの視界はぐらついているだろう。今が狙い目とはわかっているが……目も死んでねぇ。

いや、今ビビったら負けるな。

「一応言っておきますが、貴女はリヴァイアス侯爵を攻撃してるのよ。わかりますか?」

「…………」

無視か。

丁寧に話してやったが、その言葉に反応することなく、こちらを今にも殺そうと集中している。

「これで一応義理は果たしました――――くたばりなさい!!」

今、トカゲ女に手を出すのは危険だ。……だからなんだ。死地とわかる距離に駆ける。

身体の鉄を更に重くし、床を割りながらの突進……顔面にぶちかました。

ぶつかる瞬間、倒したかと思ったのに、上下が逆さまになった。

逆に頭を掴まれ、床に何度も叩きつけられ、石壁に顔を押し付けられて削られていく。

「いくらなんでも頑丈すぎだろうっ!!?」

「お前もなぁ!!」

腕に巻き付いて顎に蹴りを入れる。

手は離れたが、これでも死なないかこいつ。

俺も頑丈な方だが、こいつも頑丈すぎるだろう。

こちらも頭がかなり削られたが、左腕を減らせば頭に回せる。鉄さえあれば、俺が死ぬことはない。

いつまでだって付き合ってやる。

「<水よっ>」

いつのまにか壁を突き抜け、スーリとリヴァイアス侯の前に飛び出していた。