軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第335話 水Ξ売り

……あれ?なんで路上で寝てるんだ。

直前の記憶が……スーリさんに「借りる」と言われて、それきりだ。

鬱陶しいほどついてきていたストーカー杖もない。

とりあえず城に戻る。

一人でいるなんて、久しぶりで……なんだか夢を見ている気分だ。

いつもなら門番は私を見た瞬間に門を開けてくれるのに、開けてもらえない。

「ご苦労さまです」

「何の用だ?」

「――――……?部屋に戻って寝ようかなと」

いつものように通してもらえず、嫌な顔をされた。

何の用かと聞かれれば自室に帰って仕事か寝ることだけど……。

「ここにお前の部屋はない」

「はい??あのジュリオンかエール先生を呼んでもらえませんか?」

人の出入りの激しいリヴァイアスだし、この門兵さんは新人かもしれない。

私はこの門兵を見たことがある気はする。だけど、亜人は毛深いし、よく似た兄弟も多い。だからもしかしたら別人の可能性もある。

「無礼だぞ!ハー様と呼べ!!スーリ!!」

「――――……え?」

「だいたい貴様はフレーミス様を怖がらせて何がしたい!いや、言わなくてもいい!!貴様には再三この城に近づかないように注意していたはずだ!!今ここで処してもお褒めの言葉が貰えるだろうよ!!」

「え?その……失礼します」

「止めとけって、相手は手練だ。それにスーリを丁重に扱わねばリヴァイアスが……ひいてはフレーミス様が狭量と思われかねん」

激昂して剣を抜こうとする彼を前に、90度腰を折って頭を下げて後ろに下がった。

彼も虚をつかれたようで、そこにもう一人の門兵さんが説得していた。

――――……意味がわからない。彼らには私がスーリさんに見えているのだろうか。

「<水よ。出ろ>」

誰もいない路地に入って水鏡を作り出しと超魔力水で光を調節し、自身を映し出す。

杖が無いせいか、いつもよりも全然使いにくい超魔力水。指先で出しているからか爪が割れそうなほど痛む。

やっとの思いでコントロールして水鏡を見てみると……おかしなことにそこに写っているのはボロ着を来たスーリとなっている。

「――――<出てきてルカリム!オルカス!……り、リヴァイアス!>」

反応は――――ない。

何にも映さずに自分の髪を見ると自分のままに見えるのに、水鏡を見るとスーリとなっている。

どういうことだろうか……しかし、現状はかなり危うい。

幼女の私が暗い街なかで一人だ。しかももう夜で、地理もわからず、お金もない。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

結局路地裏で寝ることとなった。

何処かで保護してもらいたかったりもしたけど、誰の目にもスーリに見えているようで警戒されて門前払いを受けた。

そして人もいなくて、城程度しか地理のわからない私には行く宛もなく……。

いや、行く宛はあったのだけどそこにたどり着くための道がわからずに結局歩き回った挙げ句に路地で寝ることに。

不思議なことに寒さも痛みも感じずにいる。

石畳で寝れば絶対に身体が痛むと思ったのに、不思議なほど問題なかった。というか風が少し吹いているのが旗のゆらめきでわかるのに、風を感じずにいる。体表から一定範囲で物理干渉が緩やかになっている気がする。試しに床を叩いても手が痛くならなかった。でも呼吸は普通にできる……何だこの状況。

元々路地裏生活をしていた私だったから良かったけど普通の六歳ぐらいの少女だったら危険だよ。絶対スーリの仕業だろうけど!何したのよ!!?

――――お腹の何処かからくぅぅと音が鳴った。

昨日結構な量を食べていたから胃が拡張されているのかもしれない。

なにかの保護はされているようだけどお腹が減るのまではカバーされてないのね。……お腹が空いた。

スーリが上位存在であったとして目的はなんだろう。

コロシアムでの戦いではわざと攻撃を受けようとしていた。そして、「借りる」と言われて、周囲が見ている認識が入れ替わっているようである。

なにがしたいのか全くわからない。今頃私と交代して政務でもしているのか?いや、まさか……シャルルとの婚姻が目的か!!?

あのイケメンなら一応王様だし、外国の偉い人なら既成事実を作ろうとしてもおかしくはない。しかも王家の跡継ぎを授かることが出来れば他国にこの国の王を継承する可能性のある子供や子孫が…………!!?

待って待って!!それを私の姿でやろうとしてるのか?!

私の姿で!シャルルと!!?

…………

……………………

――――ここはあれだな。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「水!おいしい水はいりませんかー?」

「こっちにくれー」

「はーい」

「げぇっスーリ!!?……まぁいい」

「ありがとうございました~」

考えても今の私にはどうにも出来なさそうだし、そもそもそういう可能性もあるだけと言うだけでスーリの目的は全くの不明だ。ならまずは食事をとるために働くべきだろう。

普通に飲み水は出せる。私に手持ちのお金はない。

精霊との繋がりはカットされている気がするし、杖もない。だからいつもよりもかなり負担がかかっているが飲水ぐらいなら余裕で出せる。

小銭を稼いで、朝食を屋台で取る。

「あんたに売るもんはねぇ!帰りな!」

「えぇ……まぁ、はい」

食事も普通にはとれなかった。

スーリさんは「自分で心臓をくり抜いて領主様に見せて怖がらせた」とか「ずっと領主様を見ていて何をするかわからないから警戒するように」というお達しがあったようで……嫌われている。

何件か回って、外国の商家が出している屋台でようやく朝食にありつけた。

兵士もいつも通りだしエール先生もジュリオンも騒いでいないところを見るにきっと気が付かれていない。

出来れば知っている誰かに事情を相談したいところだけど、リゾート地には当然警備がいるだろうし……城に行けば私が切られかねない。

なんとか周りの人に質問して目的地を知ることが出来てそこに向かった。

向かう先はディガッシュ商会。ゴーガッシュの商会でオベイロスの南方の大きな商会をしているガッシュ一族がやっていて――――確かスーリと奴隷契約をしているはずである。

何かしらの事情を知っているかもしれない。もしもこの現象が私への何かしらの攻撃だったら反撃してくれよう。

「すいません。聞きたいことがあるのですが」

「大旦那様は所用で今おりません。契約通りに対応できるのは大旦那様だけとなります。お帰りを」

「待って!契約って?」

「そちらから大旦那様に言い出したことでしょう。大旦那様は三日もすれば帰って来るはずなのでお引き取りを願います。でなければすぐに衛兵を呼びます」

「わ、分かりました」

収穫なしかぁ……いや、数日で話せる相手が確定したのは素晴らしい。

その間にスーリがオベイロスに向かっていってシャルルと既成事実を作らなければ良いんだけど。

「お水ー、魔法で出した水はいりませんかー?」

「こっちに頼むー!」

「はーい!」

「次こっちによろしく~」

「はーい!ただいまー!!」

うむ、リヴァイアスとのつながりは感じないとは言え、普通に出す水は美味しい。

いつもより負担がかかるとは言え他の水魔法使いと比べればちょっと意味不明なぐらい出せていたこともあってこれぐらいの水、余裕である。

「12樽分、銀貨で7枚でいいですかい?」

「樽の大きさ次第ですねー。出港の直前にいれたほうが良いと思うんですけどー」

「出港する時は海門の出入りが激しくてな。早く行けるか遅くなるかは外にいる船次第だし検査もあって直前とはなかなか難しいんだわ」

「検査があるんですか?」

「おう、俺らは真っ当な商売やってるんで問題ないんですが……商人によっちゃあ船出前にちょいと人の一人や二人さらっちまうのはあるみたいだからねぇ」

「なるほどー」

「まぁエルフなら問題ねぇか」

海運なら飲み水は必要だよね。個人個人に飲んでもらう水もいいけどそういう売り方もありかもしれない。

海運か……海運は侯爵家の事業として経済的にやってみるのも良いかもしれない。

船は風で進むが、結構な速さになる。前世において『海運』は世界の物流にとって無くてはならないものだった。なにせ国から国という超長距離をコンテナ何百個も満載にして移動できていた。

大型トラックの総積載量が確か8から15トンほど。それでも凄まじいのに大型のコンテナ船であれば20万トンを運ぶそうな。

勿論船の規格上でそう学んだだけで限界ギリギリで運ぶかは別だと思うのだけど……海運は世界の経済を支える柱の一つと言える。

……この世界では海にも大きな化物はいるし、電話のような連絡手段が普及していない。そして救助隊なんてものもない。船を出すのは命懸けであり、リスクは高い。だからこそリターンも大きい。船は大量の荷物が積み込みできる上に、遠くに行けばそれだけ物流が安定していないこの世界では運んだものが大きな価値になるかもしれない。

そうやって考えてみると少しでも利益を出すために人さらいをするなんてよくあるのかもしれない。だって港から船を出してしまえば追いつけないし価値があるのだから。

出向前の船相手に水売りするのは気をつける必要はあるかもしれないけど……ありかもしれない。

屋台付近で水を売っているだけで衛兵には睨まれているし、まとまったお金のためにも船着き場付近での仕事もありなように思う。

どちらも人の出入りが激しいこともあって顔を知っている相手と話す機会もあるかもしれない。

ジュリオンやエール先生に事情を説明できれば良いんだけど、きっと成り代わっているスーリにつきっきりのはずだし――――……誰か出てきてくれないかなぁ。