軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第327話 フドン❐顔見世の酒宴

起きると港に船が着いていた。

少し体が軽くなっている気がする。短時間とはいえうたた寝も含めて日に5度も6度も寝るのは体に悪いんじゃないかという気もするけど子どもの体ってそういうものな気もする。

「ミィア」

「なんだ?」

「ありがとうございます」

「気にすんな…………へへっ」

もう二度と会えないと思っていた前世の家族と会えるのはひとえに彼女のおかげである。

少し照れくさそうなミィアは頭を掻きながら顔を逸らしてしまった。

そろそろフドンさんを国元に返す船乗りも集まっただろうか?

いつ来るかもわからないライアーム御子息一行よりも仕事をするべきだ。フドンさんの確認が終わったら領内がどうなってるか今度こそ見る――――はずだった。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「リヴァイアス侯爵の無事のお帰り、たいへんめでたく!」

「おかわりのないお姿に安心しました」

「失礼だろう。侯も成長してらっしゃる」

「――――ありがとうございます」

ミィアに伝えた本心からの感謝と違ってなんと軽い言葉だろう。

緊急で夜会を開くことになってしまった。周辺から貴族が集まってきたのだ。

帰ってきたリヴァイアス領主への挨拶が目的ではなく、貴族派閥をまとめているディア様やそれぞれの派閥の当主の娘や、大貴族の子息令嬢の集まっていることもあっての挨拶だとかで……。

「おぉオッヴァーディア様!この極東にまで足を運んでいただいて……国を憂う貴族派として素晴らしき行動、感服致しました!」

「そうですな!」

「オベイロスの未来に乾杯!!」

彼らの半数は私に挨拶に来ずに向こうに挨拶に行く。

ディア様は元王族であり、貴族派閥の取りまとめとなっている事もあって私よりも先に挨拶に行くのは良い部分もある。

集まってきた周辺貴族がリヴァイアス家当主にばかり挨拶に行けば東の辺境貴族は中央貴族に対して反意があると受け取られかねない。

だから今の状況は良い面もあるのだが……それはそれで問題もある。

リヴァイアス家は周辺の家とうまく行っているとは言えない。一度は国難に際して力を示したこともあってうちにつこうという人もいるが……敵対気味の家も多い。

彼らが来た理由は「挨拶」や「祝い」という名目だが、一向にこちらに挨拶に来ないのは喧嘩を売りに来たのだろうか?

「リヴァイアス侯!本日は挨拶の場を設けて頂き、光栄に存じます。こちらお初にお目にかかりますが我が妻と息子です。……どうですかな?辺境の力を示すためにもシュルトーク伯爵家との縁を結び直すのに閣下との婚姻などは」

嫁と子供連れの伯爵が堂々とやってきた。

ほらきた。厄介事だ。頬に力を入れてニッコリと対応する。

「寝言は寝て言うものですよ」

「はっはっは!手厳しいですなぁ――――我が息子では釣り合いが取れぬと?東の地において我が伯爵家はリヴァイアス侯爵家に次いで力を持ちましょう。よもや、我が家を格下に見ておりますかな?」

貴族社会にも慣れてきたものだ。

人は行動する時に多くの手段を考えることができる。しかしその手段の中で何を選択するかは自由だ。

以前の私には貴族社会における選択が「どういう結果になるのか」が想像も出来なかった。今ではある程度の予想ができて……自分の意に反していれば叩き潰しても良いと知った。

以前の私ならもっとなんでも丸く治めようとしていた。まだ学びきれてない部分もあるし、こういう対応はやめておいたほうが良いのかもしれないが――――ある程度は舐められないようにする対応も必要である。

「はぁ、私は シ ャ ル ル か ら の 申 し 出 に よ り 、筆頭婚約者として選定されております。むしろシュルトーク伯爵家は『王家と同格』と主張されたいのですか?」

「――――――……い、いやそのようなことはなく!お忘れくださいませ!ここまでそのような話は回ってきておりませんで!しゃ、謝罪申し上げますっ!!」

「仕方ありませんね。ここは辺境です。中央の声が届かぬこともありますでしょう。謝罪を受け取りましょう」

ペコペコ頭を下げて会場から出ていく伯爵御一行、情報の精度が足りてなかったな。

貴族共よ……以前より私の対応も塩味になってるよ?君たちの嫌がらせでこうなったんだ。ぜひ味わっていってくれたまえ。なんならお茶碗いっぱい分詰め込んであげよう。口をあけたまえ。

……辺境領主と関係が良くない理由は「妬み」が大きな部分だろう。

クーリディアスはリヴァイアス領クーリディアス地方として落ち着いているが、戦争時には周辺の領地からも軍が派遣されていた。

戦い自体はリヴァイアスとローガ将軍の軍だけが事にあたった上、ローガ将軍が領地や利権といった報酬を拒否したためリヴァイアス侯爵家がまるまる一国を得た。

彼らにとっては「絵に描いた餅」だろう。一国を支配に置いたというのに自分たちはその恩恵に預かれない。それも戦わずともちゃんと軍を動かしていたため少しぐらい文句も言える立場となれば……殺したいほどに憎まれている可能性もある。

防衛線が広かったため戦闘自体を見ていない貴族もいる。

大氷河や水で出来た巨大フリムを見た貴族は文句を言わないし、そもそもこちらが先制して対処しなかったらいくつかの領地は危険だったことも考えれば感謝されてもおかしくはない。ちゃんと理解できている貴族は感謝してきているが貴族次第だ。

戦闘せずにいた彼らにも国から報酬は支払われたはずなんだけど、嫉妬や妬みは理屈ではないのかもしれない。

彼らの動きで中央の貴族に「辺境の貴族は一枚岩ではない」と知られてしまって……いやそれはそれで利点もあるだろうけど、めんどくさいなぁ。

半立食のパーティ会場を見渡す。

一応どこにも問題は起きていなさそうだ。

この会には「お見合い参加者」と「周辺貴族」……そして交易で来た「大商人」に「フドンさん」が参加している。

周辺貴族だけでは空気が冷え込みそうだったし大商人にも声をかけた。

大商人は他国では爵位を持つ人もいるし、教養も才覚もある。急な話だったのに招待状を渡せばニッコニコで彼らは来た。

貴族間の挨拶なのであまり派手に行動しないように伝えるも……凄まじくギラついた目でお礼の品々を渡された。呼んだのはポイントカードを最高ランクまで上げている大商人に限定したのだけど――――彼らは新たなコネクションの価値が分かっているようだ。彼らは思い思いに営業活動をしているようだ。邪魔はするまい。

それよりもフドンさんに挨拶がしたい。

「なんと!お前さん精神乗っ取られて国を渡しちまったのか!?」

「はい、なので今はリヴァイアス家家門の末席におりまして」

「そうか!人生何が起きるかわからんもんだな!!儂も一度竜に飲み込まれたことがあるが生き残ったからの!」

「なんと……」

フドンさんはイルーテガは面識があるようで相手をしているようだ。

酒飲みならではのコミュニケーションだろうか?知らない顔ばかりの酒宴よりも安心できたようでかなりリラックスしているように見える。ヒゲで顔はだいたい覆われているが頬と眼尻でなんとなくわかる。

「その喋り方と態度はどうにかならんのか!」

「今は王ではなく一家臣でして……」

「しかしな!一度友と決めたものに酒も呑み交わさずに改まって話されると気分が悪いわい!」

「…………」

「イルーテガ、私はまだ幼いのでお酒は飲めませんし、彼の相手のためにもその分飲むと良いでしょう。程々にね」

イルーテガは流石に今の立場をわきまえて私にどうするか目配せをしてきたので許可を出す。

態度までは流石に軽くするようには言えない。そこまで言ってしまえばきっとイルーテガは後で私のいない場で他の家臣に何かつつかれるだろう。

「しかし」

「かまいません。フドンさんと……そちらフィレーネです。エンカテイナー家の次期当主であり学園の長です。もてなしてください」

この場において「酒を出す許可を持つ私」と「明らかに酒を飲みそうなドワーフ」を見てかフィレーが寄ってきたのでイルーテガに任せることにしよう。

「わかりました。彼女にお酒は?」

「精霊の加護で若く見えるだけでは問題ない。つまみもうまいの!今日はたんまり飲むぞぉ!」

フィレーの見た目は幼いからなんか未成年飲酒のようでよくないものを見ている気分だ。

大皿に料理を集めてきてテーブルにおいたフィレー。酒は期待しているということなのか、目配せしてくる。

「とのことです。フィレー、飲むのは構いませんがまだ王都には出していない酒もありますので飲む量はイルーテガに従ってください。強すぎる酒もありますので」

「良いじゃないか強すぎる酒!まずはそれから頂こう!」

「まぁ良いですけど……」

フィレーは見た目が幼いだけあって私の感覚ではついつい止めたくなってしまう。

とはいえ飲んでもいないのに無理と止めるのもよくないだろう。見た目は少女であるがちゃんとした成人女性だ。

「フドン殿、こちらの酒はカラーゲとよくあうぞ」

「ほほっ!ありがたく!ここまで多様な酒に肴があれば迷いますなぁ!!」

「オススメは狐人族のハンバーグとカラーゲです。狐人族のものは辛味が効いてて酒にぴったりです」

「いいの。それも食ってみよう。うむ、確かに……フリムは……リヴァイアス侯は旨いものをたくさん生み出してくれてな!酒好きにはたまらんよ!」

「良いの!いくらでも飲めそうじゃわい」

挨拶でお腹も空いていたしこの際ここで食べよう。

中央での立食形式ではなく絨毯をいくつか敷いて壁際に料理を置く半立食形式にしている。

フドンさんもいるし、商人には亜人もいて身長が低い人もいる。

招待しておいて人にばかり合わせたテーブルというのも無礼な気もして気を遣った。中央から来たお見合い参加者は少し面食らってる人もいるようだが列車も同じスタイルだったからか文句は言ってこない。

フドンさんとイルーテガとフィレー、かなり異色な組み合わせかもしれないが皆酒好きで話が盛り上がっているようだしその様子を眺めながら食事をする。

話題になっていた狐人族のハンバーグと唐揚げはたしかに良いものだ。

ハンバーグは豆板醤のような旨辛ソース付きハンバーグ、からあげは衣はサクサクで中はジューシー。特にこの唐揚げはいいな。衣自体がスパイシー、レモンのような酸味のある果実を後からかけなくてもふわりとレモンのような酸味がする。衣工夫がされているようでサクサクしていくらでも食べられそうだ。狐人族はスパイスの取り扱いが上手いな。

――――良くない部分もあるな。私もお酒を飲みたくなってしまうあたりが。

「そうだ、3人に聞きたかったんですが、ここのお酒は外国で売れると思いますか?」

「ここにしか無いリヴァイアス酒は間違いなく売れるじゃろうて。出来ればこのフドンにだけ売って欲しいまである」

「フリム、今のはドワーフの礼儀だ。酒を褒めてるだけじゃから気にせんでええ。……ここまで雑味のない酒はなかなかない。売ろうと思えば好きなだけ売れるじゃろうな。儂の分だけは確保して欲しい」

「私もそう思います。クーリディアスには多くの酒が集まりましたが、ここまでの酒はないかと。しかし動かして酒の味が変わるかもしれませんが」

「なるほど」

お酒というのは管理次第で味が変化する。

飲む前の温度の一度でも違うが、それだけではなく普段の保管や輸送による振動はかなり酒の味を左右する。だから他国に売るとなれば味が変わるかもしれないそうだ。

そういえば光るし、超魔力水と同じく何らかの効能とかがあるなら……やっぱり軍事物資として外に売らないほうが良いかなぁ。大きく輸出するのは無しにするか売るにしても販売数を限定しよう。

酒は酒屋のものというか水のリヴァイアス家主導で作るものなので所有が私である。なのでどうとでも調整はできるはずだ。

翻訳スープによってより話せるようになったフドンさんは話し上手で、色んな話をしてくれた。

どう旅をしてきたか、ドワーフの国はどんな国なのか、ここに来るまでの国はどんな事があったのか……などなど話は弾んだ。

酒が入っているからかしょうもない話になったりもしたがそれでも楽しい。

「フドンさんは貴族には何が必要だと思います?」

「……何じゃろうか、酒を守る兵の信を得ることかの」

「酒を、守るですか?」

「酒は話し合いに、ねぎらい。何にだって必要なもの。酒あってこそ領地は平穏と成る。だからその酒を守るための兵は特に信を置く者でなくてはならん」

「なるほど……リヴァイアスとは違いますね」

これが文化の違いかな?

リヴァイアスではそこまで酒を重視していない。むしろ亜人は肉やカレーのほうが喜ぶ気がする。

「そうかの?あぁ……では笑顔、笑顔は貴族にとって必要かもしれん」

「笑顔ですか」

「そう、誰もが領主の様子を伺う。特に下の者は上の者の機嫌を良く見ているもんで不安そうにしていると安心できんと思うのじゃ。儂も一度酒が蔵に無くなってしまっての、五日もすれば届くし館にある分で充分なんじゃが、儂の顔が不安だったら反乱が起こりかねんからな。笑顔や堂々とした態度は貴族にとって必要なもんじゃよ……ほれ、それに女の子は笑顔のほうが可愛いからの!」

「まぁっ、褒めてもお酒しかでませんよ!」

「ほっほっほ!得したわい!」

チャーミングなおじいちゃんである。別れがちょっと悲しくなりそうだ。