軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第319話 筆頭家臣#拳闘王

次は勝者であるディーンさんとスーリさんの試合だが……あまりにもダメージ差があるし天候が変わってきた。

先程まで柔らかで暖かい雨だったのが強くなってきた。後日にするかここで終わらすのもありだろう。

杖を持って前に出る。

「良い試合でした!雨も強くなってきましたし次の試合を行うにしても後日にしましょう。今日の勝者である2人はなにか要望はありませんか?」

雨ぐらい防いでしまえば良い。

だけど、このままでは観客がいつまでもお祭り気分で残りそうなので運営判断で一旦止める。

なにか無茶を言ってこなければ良いんだけど……。

「なら俺はこの地の特別な酒と――――リヴァイアス家筆頭家臣、ドゥッガ・ドゥラッゲンとの拳闘を求める」

「お酒は良いんですけど、ドゥッガとの拳闘ですか?」

ディーンは書類通りにお酒を要望してきたのと……予想外にドゥッガとの対戦を求めてきた。

優勝者が求めてくるものはおおよそリサーチ済みで「お金」「魔導具」「武器」「役職」「領地」「永住権」「家」「婚姻の申し込み」「何かしらの権利」……このあたりが多いそうだ。…………何故にドゥッガ?

「はい、ドゥラッゲン卿の強さは有名です。暴れる商家の軍勢を一蹴し、他国の軍にも劣らぬ海賊どもを狩りに行く。そんな強者であればこそやりたい」

「なるほど……しかし彼は私の筆頭家臣、仕事の兼ね合いもありますから」

なにか因縁がありそうである。

しかし、いくらドゥッガでもこんな顔の怖いゴリゴリマッチョと戦って怪我でもすればことである。

「フリム様、できれば俺は相手をしたいと思っております」

「……ドゥッガ?」

「フリム様が来る前から何度も言われていまして、しかし仕事も忙しく……できればコイツにわからせてやろうかなと、ほら、うちの人間は両方負けましたし」

あれ?ドゥッガもすごいやる気のようだ。

ドゥッガは「大衆の面前で指名されたから仕方なく」という感じではなく、少し笑みを浮かべていて……本人にやる気があるように見える。

たしかにうちのライオンさんとヴァンディアズルさんは試合の内容自体は誇れるものでも、名目上『反則負け』となってしまっている。ここで挑戦されてるのに引けば汚名になるかもしれない。気にしなくてもいいと思うんだけど。

「わかりました。許可しますけど雨降ってますがいかがします?」

「構いません!観客がいなかろうともこの男とは決着をつけたく思っておりました!先程の獅子人とは再戦を誓いましたがドゥラッゲン卿とやれる機会なんて二度と無いかもしれませんから!!」

「俺なんかしたっけかなぁ……」

やる気満々のディーンさんに頭を掻いているドゥッガ。挑まれる理由はわかっていなさそうだけど双方にやる気があるなら良い。

明らかに体格はディーンさんのほうが大きいしドゥッガが殺されないように気をつけないといけない。だから後日に行うよりも雨の中の方が私の魔法で止めることも容易のはず、このまま続けよう。

「では次にスーリさんはなにか要望はありますか?」

「私は領主様としたい」

眠そうな目でこちらを見てくるスーリさん……何を言ってるんだろうか??

フリムちゃんの細腕だと戦いにもならないが?

「雨ですよ?それに私は拳闘なんて出来ませんが」

「雨だからこそ意味がある。魔法を使って全力でやって。こちらは拳闘だけ」

「わかりました。ではこちらが私の身代わりです。これが破壊されたら私の負けでどうでしょう」

「うん、魔法も使って、全力で戦って」

スーリさんも戦いを所望か、しかもこの雨の中で……観客を一度返そうとしたんだけどディーンさんとスーリさんの返答に観客席は盛り上がってしまって、また賭けが始まった。

直接戦闘するわけじゃなくミニフリムが破壊されれば負けというルールならやってもいいだろう。

「仕方ないか……<水よ>」

先程までの雨はリヴァイアスが関係している雨のようだが今は普通の雨だ。コロシアム全体に雨が当たらないようにコントロールする。

ドゥッガとディーンさんの賭けは五分五分かややディーンさんの方が上である。

ディーンさんは先程まで殴り合っていて腕も怪我している。しかし、ドゥッガよりも体格が良いし、七度優勝したチャンピオンという実績がある。

「特別試合です!リヴァイアス家筆頭家臣!!ドゥッガ・ドゥラッゲンと拳闘王ディーン!!この2人が戦うことになります!どう見ますか?」

「難しいですね。ドゥッガ様はその拳で海賊を震え上がらせていますが拳闘は出場経験はありません」

「そうですね!一度代役で審判になったことがありますが拳闘の経歴はありません!!最近では大商会同士の争いを止めるべく両者の船を半数沈めたそうです!!これは怪我をしていてもおかしくはありません!!」

「上司であるドゥッガ様には申し訳ありませんがドゥッガ様は連日連夜対応に追われていて疲労しているように思います。拳闘の場に慣れているディーン様に賭けます」

賭けのためだろうな。ドゥッガの情報を解説の2人が話している。

……というか、あれ?そもそも賭けをする意味はあるのだろうか?

「ねぇフリムちゃん、どっちが勝つかしら?」

「全然わかりません。私は私の家臣の力を信じてドゥッガに賭けておきます」

「うーん、悩ましいわ!」

ディア様は賭け表を見て悩んでいるようだ。

必要経費として金貨100枚ぐらいドゥッガに賭けておこう。これで試合内容に関わらず、周りから「ケチ」だとか「家臣を信じられないのか」とか言われずに済むはずだ。

「 試 合 、 開 始 ィ ィ ッ !!! 」

「体調は大丈夫か?」

「あぁ、問題ねぇ」

「覚えているか?お前が受けた拳を」

「あぁ、ちょっと審判が倒れて俺が代わった試合な。明らかに勝負が決まってたのに殺そうとしてただろ?」

試合は始まったというのに構えることもなく、少し話し始めた2人。

あ、組まれた試合じゃないからか宣言は無しらしい。

挑んだディーンさんにはなにか理由があるのかもしれない。

「そうだな。あいつの目にはまだ力があった。決着を望んでいた」

「そうだな」

「わかっていて俺の拳を止めたのか?」

「そうだ。ここは戦場じゃねぇ。審判の言う事を聞かねぇから止めただけだ」

「そう、勝負の邪魔も気に食わなかったが、俺の拳を軽々止めたな。戦士として終わらそうとしていた俺の拳を、軽々と」

「だからか」

「あぁ、気に食わねぇ」

審判として止めたドゥッガを不服に思っていたのだろうか。

よくわからないが因縁があるようだ。

「そうか、じゃあやるか」

「――――あぁ」

まずは一発と顔面を狙ったディーンさんの繰り出したパンチを軽く避けたドゥッガ。

会場から悲鳴が響く。「一撃でドゥッガが負ける」という賭けもあったからね。グローブタッチの文化を作ってもらおうかな。

「避けるか!」

「あぁ!すまんな!俺はこの領地の筆頭家臣!交渉事もあるからな!!できるだけ顔は傷つけねぇようにしねぇと、なぁ!!」

構えていないディーンさんに対してドゥッガは右ストレートを叩き込んだ。

鈍い音がして、たたらを踏むディーンさん。先程までの少し怒っていたような表情と違って困惑していることがうかがえる。

「そういや、お前に勝っても俺に得はねぇな」

「あ?」

「――――そうだ。俺が勝ったらお前、部下になれ。俺を戦わせるために騒いでたお前の取り巻き共が『腰抜け』だの『勝負から逃げた』だの煩かったからな。……それにお前、暇だろ?」

「――――いいだろう。俺が負けたらな!じゃあ俺が勝ったらお前の酒を全部よこせ!」

「わかった。賭けは成立だな!」

挨拶は終わったとばかりに殴り合う2人。

ゴガンゴガンと、雨の中、衝撃を伴う危険な音が鳴り響いている。

ドゥッガの方が体格が負けているのに、一歩も引かない。

ドゥッガはディーンさんの拳をちゃんと避けてちゃんとガードしているのに対して、ディーンさんはノーガードで避けない。

「 ぶ っ 潰 し て や る !」

「やれるもんならやってみなぁっ!!」

ディーンさんが一発殴るとドゥッガは三発は殴り返している。

ドゥッガの拳は予想以上に効いているのか、ディーンさんもちゃんと構えて攻撃を腕でガードするようになった。

ドゥッガは止まらない。

顎や喉、心臓に肩など、ディーンさんの攻撃はうまく当たらないのに、ドゥッガの攻撃は魔法のように当たる。

ドゥッガも何発か当たっているが、それでも前に出て殴り続けている。攻撃は明らかに効いていてディーンさんは後ろに押し込まれている。前に出て攻撃しようとしてもドゥッガの攻撃が止まること無く叩き込まれていく。

ドゥッガの拳がガードをすり抜けるように斜め下から顎を捉えた。衝撃は凄まじく、体の芯ごと身体が後ろにのけぞった。

「 グ ッ ――――――――…… ダ オ ォ ォ ラ ァ ァ ッ !!! 」

ディーンさんの気配がぐっと大きくなり、殴られながらも前に出た。

ディーンさんの全力の拳がドゥッガの顔面を捉えたと思ったが、ドゥッガは少し笑って前傾姿勢になり、頭突き気味に額で拳を受け止めた。

何かが割れたような鈍い音が会場に響く。

ひやりとする瞬間。あんな一撃、頭がもぎ取れてもおかしくはない。

だが、砕けたのは拳の方だった。ディーンさんの手の甲から血が出て、その一瞬ドゥッガが動いた。

まるで台風になったかのようにドゥッガがディーンの懐に潜り込み……ドゥッガの拳が深々とディーンの腹にめり込んだ。

「 ゴ ァ ッ ?!」

ディーンさんはたまらず口を開けて、息を吐いた。それでもディーンさんはそのまま苦し紛れのパンチを繰り出し、ドゥッガは軽くそれを避け……顎先に鋭い一撃を放ち、続けて耳の上当たりにフック気味の一発、更に倒れてくる巨体に対して下から猛烈なアッパーで身体を持ち上げた。

少し体ごと浮いたディーンさん。きっと勝負は決まっただろう。……あれ?

ドゥッガが一歩バックステップした後、勢いをつけた右ストレートでディーンさんの身体を大きく吹き飛ばした。

ほんの一呼吸の間だろうか、深々と突き刺さったボディブローからの顎先・頭・顎……そして顔面への流れるような合わせて5連撃。ロープを引きちぎり、ディーンさんの巨体が場外に沈んだ。

審判が割って入ってディーンさんの顔を覗き込むが……意識がなさそうだ。生きてるかな?

「勝者ドゥッガ様!なんと!なんと!あの拳闘王を!!真っ向から殴り倒したぁぁぁ!!!!」

激しい歓声が会場を覆った。

大の字で倒れているディーンさん。その眼の前にドゥッガが行った。意識のないディーンさんに対して拳を突き出した。トドメかな?

「どうなって……あぁいてぇ。俺の、負けか。……負けだな」

「あぁ、終わったな」

拳を向けるのを止めたドゥッガ。

「どんな、硬さだ。……城壁をぶっ壊したこともある俺の拳が砕けちまったぞ」

「そうか、動けるか?」

「無理だ。世界が歪んで見えやがる。ガキの頃、オジキの酒に手を出して以来だ」

「そうか、おい、医療班!!運んでやれ!!」

「「「にゃー」」」

海猫族が頑張って運ぼうとしているがディーンさんは見た目通りに重量があってうまく絨毯の上に乗せられないでいる。

「たくっ」

みかねたドゥッガがぐったりとしたディーンさんを丁寧に横抱きにして海猫族の支える絨毯の上に乗せようとしている。

体格はドゥッガのほうが小さいし、なかなかうまくいかない。

「デケェし汗クセェな、手間かけやがって。チッ……連れてけ」

「すまんな。きっちり働くから勘弁してくれ」

「あぁこき使ってやる」

なんとか絨毯で運ばれていくディーンさん。

ドゥッガは立ち上がって観客によく見えるように拳を振り上げ、会場は歓声に包まれた。