軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第303話 行方不明∴名探偵フリム

船を使っての移動は正直面白かったが今はのどかな列車の移動だ。

景色を眺め、用意された美味しいものを食べ、リラックスしているだけでいい。

そんな――――……のどかな移動のはずだった。

「失礼、リヴァイアス侯爵閣下」

騎士が声をかけてきた。わざわざ直接言いに来るということは緊急事態だろうか?

「問題ごとですか?」

「はい、何度調べても乗車人数が足りません」

事件である。

誰がいなくなったのかはわからないが……この列車に乗っているのは監督者であるディア様と騎士、それと私と筆頭婚約者の少数の護衛以外のお見合い参加者はほとんどが貴族で残りは特殊技能を持っていたり超有力な商家の出であったりする。足りないとなれば大問題だ。

「数え間違いでは?」

「いえ、もう4度は数えました」

「誰がいないかは特定できていますか?」

「いえ、それはまだです。前後に人は動き回るので……」

確認して偉いと褒めたいところだが、ちょっと微妙な気もする。

シャルルに電車や飛行機、重要施設は日に何度もチェックするように言っていた。それは施設のことであって乗員のことではないのだが……まぁファインプレーである。

ちょっと疲れているのか思考が横にそれたが指示しなければならない。

「なら至急確認してください。ディア様への対応は私がします」

「はっ!」

とりあえず列車を止めてもらった。

このお見合い大会参加者は個人個人の意思よりも国や家による指示で参加している。

故に自分勝手すぎる行動は自分だけじゃなく自分の家にも迷惑をかけることに繋がりかねないため致命的なことはあまりやらかさない。基本的に皆自分勝手だが。

しかし、一体何が起きているのだろうか。

一応事故の可能性もある。ユース老先生は……いるな。列車を動かしながらも「下に潜って整備している」とかではなさそうで良かった。

しかし誰かがふらっと落ちてしまった可能性もある。それに乗り物酔いで後ろのピラミッド型のトイレと風呂用車両でグロッキーになって出られなくなってしまっている場合や最後尾の船が楽しくてそちらに勝手に乗ったなどの可能性もある。

最悪の場合が――――敵襲である。

領と領を行き来する乗合馬車のような組合があることから列車の存在は既得権益を大きく損なうことになる。だから……いや、それは未来の話でまだ列車はまだ商業活動を行っていない。まだ憎まれていたり、行動に移す段階ではないはず。

事故を考え、全ての車両の上側も下側も、果ては騎士数名に戻ってもらって確認までしたが……やはりそのいないはずの誰かは見つからなかった。

数え間違いかとも思ったがオベイロス出発時とソーギアー領出発時、それに水場を抜けて車両を連結させた後にも確認した。

「どうしましょうか?」

「うーん……とりあえず進みましょう」

誰かがいないことは分かった。そして事故の可能性も考えてチェックもした。後は誰がいないかが分かればいいのだが……とりあえず停車していてもできることはない。

おそらく殆どの確率で敵襲ではない。だけどここにいるのもよろしくはないはずだ。一応捜索のために騎士を飛ばしている。

いつからいなくなったのか?最後の目撃情報は?怨恨などの可能性は?名探偵フリムちゃんの出番かもしれないな。……まぁ探偵どうこうは関係なく調べる必要があるだけなのだが。

「いなくなった人物が特定できました!」

「一体誰ですか?」

「カリュプ・ベーレ・ソーギアー、ソーギアー家の長女となります!」

「 グ レ ジ ッ グ 子 爵 を 呼 ん で く だ さ い っ ! 今 す ぐ !! 」

フリム、名探偵じゃなくてもわかる!犯行動機が充分すぎるほどあるからっ!!

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「私はやっておりませんわ。なにか証拠でも有りまして?」

ふてぶてしい態度のグレジッグ子爵。

普通であれば自分の派閥のカリュプさんの心配するはずだし既にアウトな気もする。

「証拠、はないですね」

とりあえず証拠はない。

「それに私はデンレール様のお傍にいましてよ?」

「はい、彼女は近くにおりました」

「確かですか?それはいつ頃からです?」

カリュプさんはホルモン焼きうどんを食べ、その後車両に乗ったところまでは確認されている。

「はい、問題の女性がいなくなる前からですが……」

「ほぉらぁ」

ムカつく声を出しやがる。

そうだった。こいつ、ソーギアー領主とのやり取りの後、私からなにかされるとでも思ったのかセルティーさんの近くにいて領地の相談をしていた。

私はセルティーさんとは仲良くはなっていないこともあって近寄っていなかったのだが……犯人じゃないのか?

「しかし、動機があります。調べてみても?」

「私は構いませんがぁ、それはデンレール様の言を疑うのでしょうかぁ?先程も聞き返しましたしぃ」

ニヤニヤしているグレジッグ子爵。

私に対して「この小娘が」とでも言うような侮りの感情がとてもわかりやすい。

「疑っています」

「っ!?」

セルティーさん。セルティー・ラース・デンレールさんの顔がはっきりと歪んだ。

そりゃいい気はしないでしょうね。

「なぜなら全ての証言に対して疑ってかかることこそが今必要なことだからです。……それとも協力する気はありませんか?」

「知ってることは全てお話しましたわぁ。これ以上話すことはございませんがぁ」

おそらくこいつが犯人だと思う。

この舐めた態度がそう物語っている。……いや、犯人じゃなくても私が相手だからこの態度なのかもしれない。

「再度申し上げますが彼女は私の傍におりました。彼女を疑いになっているようですが私を含めて他の方の証言もあります。何かしらの事故の可能性もありますし彼女を疑いになる前によく調べてからのほうがよろしいのではなくて?」

「そうよそうよ!」

「侯爵が自分の考えだけで人に冤罪をかけていいと思ってるのかしら!」

「小娘が!!」

「恥ずかしくて領地に逃げ戻ったんじゃない!グレジッグ様のせいじゃないわ!人のせいにしないで!!」

「恥をしれ!!」

いつかの庭園でも見たグレジッグ子爵の取り巻きたちだ。

セルティーさんの取り巻きが彼女たちを呼びに行っていたようだ。きっと彼女たちが証言したのだろう。

こちらにはちゃんとした理由があるのだが……セルティーさんの後ろから暴言を吐かれていて口を挟む事ができない。

「お前ら、フレーミス様にどういう口の聞き方だ?」

「護衛の分際でデンレール様の前に立つのか?トカゲ」

私への暴言に苛立ったのかジュリオンが前に出た。セルティーさんの後ろにいた彼女らはさらに後ろに引いた。

それはいいのだが少しシワがあって40代ぐらいに見える角のある女性。きっとセルティーさんの護衛の女性が前に出てきた。

「角つきか、何の種族か知らんがよくも私の前に立てたな。小娘」

「デケェだけのトカゲが、主人と同じで無礼ね」

「…………」

「…………」

セルティーさんも筆頭婚約者だけあって国の中でも随一の護衛がつけられているんだろう。

彼女は普通の人ぐらいの大きさに見えるが、3メートルほどはありそうなジュリオンを前にしても全く引く気はなさそうだ。

「エール、フレーミス様を任せた。……フレーミス様にこいつの血が届かないように下がってくれ」

「ふふっ面白い冗談を言うね?デンレール様、こいつの首を貴女に捧げましょう」

エール先生にジュリオンが声をかけた。

私は止める立場だけど猛獣を目の前にして動けないように、声を上げることが出来ないでいる。きっとセルティーさんもそうなのだろう。

ジュリオンと護衛の人が濃密な殺気を撒き散らしながら前に出た。エール先生に抱きかかえられる。どちらの攻撃も当たる距離――――

「えぇい!止めなさい!フリムちゃんもラーちゃんも!!」

ディア様が割って入ってきてふっと空気が軽くなった。

「いなくなった子がいるのは分かったけど!それで2人が争って何になるの!しばらく離れて反省してなさい!」

「はい、ありがとうございます」

「感謝じゃなくて謝罪なさい!」

「はい、ごめんなさい」

ぷりぷり怒っているディア様。ジュリオンも護衛の人も睨み合うのを止めて戻ってきた。

たしかにそうだ。カリュプさんがいなくなったのは確かである。とはいえ私とセルティーさんが争う理由にはならない。単なる取り調べがしたかっただけで若干納得はできていない部分もあるが……ディア様のおかげで誰も怪我をしないで済んだ。

「ラーちゃんも!」

「しかし、間違ったことはしておりません。貴族の立場を守るのも――――」

「ラーちゃん!!謝りなさい!またお尻をひっぱたいて立たせるわよ!!」

「申し訳ございませんでした」

固まっていたセルティーさんも声をかけられて言い訳しようとしたがディア様に教育的指導をされたことがあるらしくすぐに謝ってきた。

セルティーさんは私に向かって嫌そうな顔を向けてきたのを最後に見て……隔離されて反省することになった。

先程の争いから周りの空気も悪い。何処かから無責任に「リヴァイアス侯爵が証拠もなしにデンレール様に難癖をつけたそうよ」なんて声も聞こえる。

カリュプさんの捜索のために騎士が飛んで行った。彼女が見つかるかはわからないが付近と線路を捜索しに行った騎士。彼らが戻ってこれるようにするためにも列車をゆっくり移動しないといけない。

……居心地の悪い、逃げ場のない空間にいなくちゃいけないのは気分が悪いな。さっさとリヴァイアスで自由に活動したいものである。