軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第288話 聖女 の リュビリーナ

子どもと走ったあと、部屋に戻ってきたリュビリーナさんは子どもの寝かしつけを行っていた。

「リーナ様、大好きぃ」

「はいはい。よく寝なさいね」

しばらく子どもたちを寝かしつけていたリュビリーナだったが部屋の机で書類を眺め始めた。

ちょうど日の当たる場所。後ろには木の板で閉じられる窓が開いていたので外から見に行く。あの書類になにが書いてるか気になる。

建物の裏は木々が邪魔でなかなか回り込めずにちょっとした冒険になった。やっとで回り込むとリュビリーナさんは机に突っ伏して寝ていた。

部屋の子はみんな寝ている。

「<ルカリム、おねがい>」

こっそりルカリムシステムで接続してやった。

この人がどこまで関与しているかはわからないけど……何もしないと、この人も襲撃犯に指示したって判断されれば死んじゃうかもだし仕方ないよね。確証も欲しいし。

――――……この人の思考が読み取れていく。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

いつからだろう?いつから、こんなに悪い子になってしまったのだろう?

こんな悪さばかりしていては――――……いつか破滅する。

もしかしたら、もう終わりは始まっているのかもしれない。

幼い頃から私の周りには人がいた。私の言うことなら何でも言うことを聞いてくれるし望みは何だって叶った。

私が笑顔でいればそれで周りのみんなは喜んだ。

人形のように人に飾られて、こうするべきだと言われればそれに従って……ずっと人の言う通りにただただ生きた。

周りの子にはみんな目標があって、やる気があって、充実していて――――私には何もなかった。

何でも手に入るし、贅沢もできる。友達もたくさんいて、みんなが私を羨む。でも全部私が自分で手に入れたものじゃない。

でもそれこそが「私」で、このままずっと勝っていればそれで良い気もしてきた。出来ないことなんてこの世には何も無いような気がして……調子に乗った。

私でもどうにも出来ない『王族』や『大貴族』そして『精霊様』がいる。そんなの知らないとばかりに好き勝手して……セルティーに怒られ、ポヨには叩かれた。

家族にも謝るように言われて、そのときはよくわからなかった。

だけど怒られている子を見たことがあった。大の大人に怒鳴られてとても可哀想だった。でも「叱られる」ということは「相手を想って」のことで……それは「愛」や「期待」がないと出来ない。

初めて叱られた。謝るように言ってくれたのは私のためで――――凄く嬉しかった。

人形のように誰かに動かされ、飾られ、持て囃される。それだけが人生ではなかった。

私が悪さをすればセルティーがそれを叱ってくれるし、叩かれるのは嫌だがポヨもちゃんと話せば遠慮なく話してくれるし反応が可愛い。ラズリーは悪さをする仲間で一体どれだけ王宮に御禁制の品を調達してあげたかしらか。

他にも何人かいたが、いつも4人で楽しんでいた。同格でなければ頭を下げられるばかりだし、歳が近い友達って初めてで、凄く楽しかった。

同じくシャルトル陛下の筆頭婚約者になって、この遊びも面白かった。

どうせ私が勝つ。だけど、みんなにちょっかいをかけてどう反応するかを見るのはとても楽しかった。

いつの間にか満たされていて……なのにまた私の中で悪い私がでてくるようになった。

身分や財力でチヤホヤされるのも好きで、成功するのも好き、子供も好き。あまり叱られることが無くて、悪戯するのも好き。

でもどこまでやっても中々叱られないもので……誰かに悪戯したりもした。綺麗事を言って実家の商売が傾きかねないようなことをやるようになった。

結果いけないことをしている自分にゾクゾクした。

いつかはなにかをして全部台無しになってしまいそうではあるが、その『やっちゃいけないこと』がたまらない。駄目だ駄目だとわかっていてもどうしてもやめられない。

可愛い可愛い人形のような私はどこまで許されるのかしら?私はどこまで愛されてるのかしら?

人というのはいざという時に強くないといけないことがある。貴族や兵を相手に商売する場では一瞬の判断で切り捨てられることがある。

だから見込みのある子から訓練していく。

顔の怖い客役にわざと難癖をつけさせてどう対応するかを見る。その子に商売に向いているものなら怒鳴り込んでくる輩も笑顔で買い物をして帰る客にしてしまう。

そこまでできる子は少ないが、そこで思った。私もやってみようと。

つまりは強い心をもたせれば良いのだ。幼い子でも大きくなると周りに教えられるのか私に遠慮をし始める。抱きついてきて「リーナリーナ」と言っていた子が大きくなっていて声を掛けると――――膝をついて恭しく「リュビリーナ様いかがしましたか?」なんて言ってくる。

明確に壁を感じたし、面白くない。

だから客役の私に向かって罵倒させるような訓練をさせてみた。私に向かって店から追い出すように訓練させてみたのは楽しかった。泣いちゃう子もいるのもやってはいけないことのようでゾクゾクする。自分が育てている子に罵倒されるって凄く悪い事のようでちょっと罪悪感はあるもののなんだかとても心地よかった。

私を慕って、私に嘘をつかない正直な子どもたちが私のことで感情を揺り動かされている。それはそれだけ私のことを想っているってことだし凄く凄く心地よかった。ついでに成長の役に立てているのも良い。ラズリーにもおすすめしてみたのだけどあの子は変わってるからか変な顔をするだけで面白くはなさそうだった。

子どもを育てるってお金がかかるってわかってたし、どれだけ我儘が言えるか知りたかったからその一環だったんだけど子どもって可愛いし、育てるのもとても面白い。セルティーは「花で良いんじゃない?」なんて言うけどわかってないなぁ。

ポヨ令嬢は私に向かって「どっか歪んでる」なんて言ってきて失礼でしたが、不良娘に言われたくはありません。

私と違って必死に頑張って生きようとする子どもって、応援したくなるしね。貰って増えるだけの装飾品をしまっておくだけよりもよっぽど素敵だと思うんだけど……。だからついつい路地裏なんかで倒れてる子がいると連れて帰っちゃう。

――――……ある日、哀れで、惨めな子を見た。

貴重な水の魔法なのにそれを使って王宮の庭を掃除をする稀有な子。

同じ属性の魔法はだいたい似たようなことが出来るけど人によっては性質が大きくかわったり、人とは違う使い方が出来たりすることもある。彼女の水もきっと掃除に使える性質なのでしょう。

普通の貴族の生まれなら蔑まれるような使い方。

王宮の掃除をする彼女は、私を見るなり虫のように小さく地面に這いつくばった。

汚れた地面に、私の不興を買わないために――――……『生きるため』に。

気になってその子を調べさせた。流石に道に落ちてる子を拾うのとはわけが違う。王宮にいたのだから何処かの子でしょう。

すると……少し前まで、蹴られ殴られ、屋根のない道で寝ていたような――――何も持ってない哀れな商家の子だった。

私のように何も好き勝手できず、嫌でも誰かに頭を下げないといけないような拾われ子。

うちの孤児院に呼んであげよう。水の魔法が使えるなら私の側近にして……着飾らせてやって、どんな反応をするか見てみたい。

ところが彼女は私が調べているうちに陛下をその身を犠牲にしてまで助けた。

爵位を得て、領地を得て、特権を得て、国を得て、王都一と称えられるガーレール商会と比肩する商売までするようになった。

何も苦労せずここまで来た人形のような私と違って何もないところから自分で成り上がってきた本物だ。

更に自分と同じ立場に、陛下の筆頭婚約者の1人となった。

まぁ勝つのは私だとは思うし、その頭を下げさせる姿は想像するだけでも愉快だ。以前のように頭を下げる彼女はどれほど哀れなのでしょうか?もしも、もしも本物の彼女に頭を下げさせれば、その時人形の私はどう思うのでしょうか?――――……いえ、私が負ければ私はその時何を感じるのでしょうか?

もしかしたら、彼女なら私を倒すかもしれない。そんなわけないはずなのに、どこか期待してしまう。

しかし、いつしか服も宝飾も、領地も商売も、シャルトル陛下からの寵愛も……王宮での派閥の力すらも負けて――――膝をついたのは私だった。

部下を引き連れていた私が、たった1人相手に。

人前での盛大な敗北。誰がどう言おうと、私が認めるはっきりとした初めての敗北。

しかも相手はかつて哀れんだ、何も持っていなかったはずの幼い少女。

そんな相手に、この上なく無様に敗北した私。

なんだか気持ちよかった。

なんだかとても、とてもとても気持ちがよかった。

全部親のもので動かされてきた人形の私が、本物に相手をされた。

いつかは望み通り、思い通りに行かないだろうとは思っていた。

悔しいはずなのに、全くそんなことはない。

それをどこかで望んでいた私は…………最高に気持ちよかった。

不思議な気分だった。彼女を屈服させて自分のものに出来ればとも心の何処かでは思っていた。でも、それは無理ともわかっていながらもやってしまって……彼女の言うことは正論で、真っ向から押しつぶされた。

あの魔力の圧は、今でも夢に出てくるし、彼女のことを考えない日はなくなって、そのうち目で追うようになった。

彼女に憤る側近を止めて、彼女が何をしてくるのか気になった。目が合うと胸が跳ね上がって、嬉しくて……でも抑えた。

まだ誰にも知られていないし、流石に自分でもおかしいと思う。「敵対した人にやられて胸が高鳴ってる」なんて自分でも何故か全くわからない。でもずっと彼女を想ってしまってどうしようもなくて……ただ見ていた。支配されてしまっていた。不思議な筆記具で問題を解く姿をもっと近くで見たかった。仕草の一つ、髪の動き一つでさえ気になった。

ある日、勝って私のものになるはずだった陛下が彼女を膝に乗せて話していた。陛下を独占する彼女を見ても悔しさなんてものはなく……むしろムカついた。

――――……その椅子になるべきは私だ!!!

もしもあんなに近くで触れ合ってくれたらと妄想すると……倒れてしまいそうだ。

だけどこんなの誰にも言えなくて、抑えた。流石に変だ。変だと自分でもわかってるから何もせずにいた。まだ誰にも知られていない。

側近は数人で彼女を襲おうと勝手に画策するし、お父様も事情聴取がされている。

逆に考えるんだ。これは好機だと。

だから贈り物をした。喜んでもらえるかはわからなかったが、それでも貴族はこういうきっかけで仲良くなったり喧嘩することはよくありますし……で、出来ればお話してみたい。またルカリムを出して、圧をかけてもらって、冷たい床に押し潰され――――――

「うわぁ……」

近くから誰かの声がして、ゾッとして飛び起きた。

いつの間にか寝てしまっていたらしい。私の後ろには今日ここに来た猫人の子がいて、その彼女の後ろには夢にまで見たルカリムが何故かいて……彼女は蔑んだ目で私を見ている。

本能からか体が勝手に彼女を捕まえようと動き、咄嗟に出た手が何かを掴み……彼女の尻尾が落ちていった…………。

え……………………?

え…………………………………………………?

彼女とともにいた…………見覚えのあった精霊を調べて、やはりあれはリヴァイアス侯爵フレーミスであることがわかった。

ルカリムには特別な力がいくつもあるが、誰かの心を見ることができるそうだ。

なら…………なら、もう、我慢しなくても――――――いいよね?