軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第273話 その手 は 魔法

「フリムよ。どうだ?試験は?」

「なんですかあの問題は?ふざけてるんですか?」

「ん?いや、何の話だ?」

3日目、シャルルが休憩中の大部屋に見に来た。

シャルルの登場に大部屋の人間は恭しく膝をついて頭を下げた。辺境貴族を中心に虫やカエルの構えとなっていたりもする。私も膝を折って頭を下げたのだが軽々と持ち上げられ座ったシャルルの膝の上で話をしている。ヤメテ。

「以前言っただろう。俺はお前の無礼の全てを許すと」

それは覚えているが場とか空気を読んだのだよ……。

「単なる宣伝や関係のない問題が多すぎます。段階を踏んで専門的な問題を出せばいいのに」

「ん?次の問題はもっと分厚いが?」

周囲からぶわりと魔力が上がったのを感じる。今でもきついのにもっときついのかと心の声が聞こえてきそうだ。

「…………それは、まぁ理解しました。でも閉じ込められて試験を受けるばかりではとても疲弊します。休憩の時間をもう少しください」

「良いのか?……そうか、わかった。そのように取り計らえ」

「「「はっ!」」」

一通り話すとシャルルは帰っていった。

離れた場所にいる他の筆頭婚約者の方々には目もくれず……。

「フレーミス様感謝します!私もうこんなの耐えられません!!」

「ありがとうございます!本当に!」

「こんな問題誰が考えたんですかね」

「もう精霊を抑えきれなかったのです。ありがとうございます!」

大きな会場の隅々まで誰も動かなかったのに令嬢や令息が立ち上がって私に感謝を伝えに来た。

筆頭婚約者の1人であるセルティーさんはこちらを睨みつけている。嫉妬……かな?シャルルは本気で想われているのかもしれない。チェックチェック。

リュビリーナさんはなぜかこちらを見て――――少しニヤついた?すぐに目をそらされたが……子供扱いだと思われたのかな?

次の日、全員移動で花の咲いた庭園で休憩時間が儲けられた。

会場につくと……何やら異彩を放つ席が既にあった。

「フリム様、仕事のようです」

「そのようですね…………はぁ」

山盛りの書類にゴム手袋。試験問題を解いた後にこれは全然休まらない。

でも、ここに持って来るほどの書類ということなのだろう。

「<水よ>」

空中に書類を持たせてどんどんこなしていく。

私に休憩の時間はないのか……。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

休みを求めたからか今日はこのまま休んでいいらしい。まぁ私に休みはなかったんだけども。

「少しよろしいか?」

「え、何でしょう?」

「それは何だ?……何の魔導具だ?水で動いているが」

ゴム手袋を使った水の腕で書類を読んで書いてしているのが気になったらしい。

大量の書類もなくなってきた頃に令嬢がやってきた。

「これは水の魔法を使って書類整理をしているだけです。これ自体は魔導具ではなくゴムを使った手袋ですね」

パソコンほど便利ではないがもう私のデスクワークには欠かせないゴム手袋。

水の腕で色々掴んだりも出来るが流石に書類に直接水は使えない。だからゴム手袋を使って書類を動かしたり見やすいように配置している。

「ほう!これがゴムというものか!!うちの長老も褒めちぎっていたぞ!」

なにやらゴム手袋に興味津々のようだ。他では見ないし珍しいのかもしれない。

「長老?」

「吾輩の一族の長老だ。『過去』の二つ名を持つ偏屈爺様だ」

過去……何処かでよく聞いたことがある気がする。

すすっとエール先生が近づいてきて耳打ちしてきた。

「ユース老先生のことですよ。ユースス・ドリー・ヴァリエタース先生」

「あ、なるほど!いつもユース老先生って言ってたので……いつもお世話になって…………ます?」

「失礼した。ラズリーだ。家名は長すぎるので割愛させていただく。その手は魔法か?魔導具か?」

さっき伝えたはずだったんだけど、聞こえなかったのだろうか?あ、この人……。

「フレーミス・タナナ・レーム・ルカリム・リヴァイアスです。魔法省のラズリー様とこうして挨拶できて光栄です」

「挨拶などどうでも……いや、良くないんだったな。よろしく頼もう」

すっと近づいてきて軽く話しかけてきたから「筆頭婚約者の1人のラズリーさん」ってことが抜けていた。

彼女は夜会でも出席はしてもこちらに全く興味を示していなかったし。……ん、もしかしてだけど出席をしたことで私について「存在を認めつつも文句はない」といいたかったのかもしれない。何かしらの配慮だったのかも?

どういうことだとエール先生に目配せし、エール先生もよくわかりませんと目で教えてくれた。

どう対応したものかとほんの一瞬考えてラズリーさんを見る。

「ゴブボっ……ゴガボッボッ!!?」

「え?あ、ちょっ!!?」

ゴム手袋の中でも書類を束ごと掴んで運ぶ特に大きめのゴム手袋、内部構造が気になったのか水の腕の入ったままのそれに頭を突っ込んで……ゴムの伸縮で首から上が締まって……ラズリーさんは溺れていた。

すぐにエール先生がこちらを見るだけで状況の分かっていない騎士から短剣を借り、手袋に切込みを入れて破いた。そのゴム手袋は便利な大きさだったのに……。

「げほっ……なるほど、恐ろしい武器だな」

「違いますよ!?何やってるんですか??!」

離れていた彼女の取り巻きも近くに来たが彼女には目もくれずにゴム手袋を指で触ったり伸ばしたりしている。

「柔らかいな。だが水を全く通さない性質のようだ」

「よく伸びる……が力強く戻ろうとする。面白い」

「もっと引っ張ってみよう」

「ゲホッ、コホン……吾輩も参加させろ」

「……あの、それ、私のなのでゴムは研究用に少し送りましょうか?」

彼女の取り巻きは全くラズリーさんを気にしなかったので大丈夫なのかと少し近付いて様子を見ていたのが大丈夫そうだ。

「いいのか!?」

「助かる!!」

「できれば量をください!!!」

「まて!ラズリーだ!こいつらの分もラズリー宛で頼むぞ!!!」

あ、これマッドな研究者だ。学園の賢者と同じ空気を感じる。

彼女の取り巻きは彼女を支えるための存在のはずなのに……ラズリーさんに「もっと私達にもよこせー」とか「権力を使った横暴だー、ずるいぞー」などと後ろから言っている。

「こんなときのための代表なのだよ諸君」「受け取ってそのまま横抜きすればいいさ」「それでも私の部下か貴様ら!?」「研究の機会は逃すなと上司からの教えがあるもので」「ぐぐうぅ!!?」

……なんか自分の取り巻きと喧嘩を始めた。

エール先生が後ろからやってきて耳打ちしてくれる。

「ラズリー様は研究者肌の方でして……『学園のインフー、王宮のラズリー』なんて言葉があります」

「あ、完璧に理解しました」

デンジャーな人らしい。今までにも何度も王宮を燃やしたり破壊したり御禁制の品を王宮に持ち込んだりもしたそうな。

王宮でも『魔導省の怪童』などと恐れられているが、かなり良い血筋で数々の成果も上げている。火のコピー器を作ったのも彼女だそうだ。

魔導省では学園よりも危険な研究をしている場合もある。精霊自体の研究であったり、精霊から授かる杖や宝玉、他国の魔導具、魔導兵器なども解析・研究・開発をする。

学園の研究と何が違うのか聞くと学園の研究は多岐にわたるが魔導省の研究や開発は国にとって有益なものに重点をおいている。似たような分野の研究については学園に所属して魔導省の仕事をすることもあればその逆もあるそうだ。

…………しかし、インフー先生と同じぐらい危険視されているというのなら結構色々しでかしてきたはずだ。

「しかし、これはどう使えばいいのか……」

「衣類に使えば雨の中でも行動できそうですね」

「それは……そう?いや、縫い目から水が入り込むだろう」

「雨を防ぐならテントに使えばどうでしょう?」

「『てんと』とは何だ?」

「野営具ですね。外で行動するのに雨の侵入を防ぎます」

「それは土で建物を作ればいいはずだ」

「魔法を使えるのならそうでしょう。魔法を使えない人のための開発でもあります。ユース老先生も『水を通さない性質』や『分厚さや作りによっては硬さや性質を変えることが出来る点』ですごく感心していましたよ」

「何!?爺様はこの素材を知っていたのかっ?!」

「爺様?え、えぇ……ユース老先生とは共同で魔導鎧も開発していましたし」

「なん……だと…………こんなにも面白そうなことを隠していたな!!えぇい!吾輩も参加するからな!休憩はもういい!試験に戻るぞ!さっさと終わらせて学園に行くっ!!」

プンスカと怒りながら行ってしまったラズリーさん。詰め寄られるように話されてつい素直に返してしまった。

ラズリーさんの名前にはヴァリエタースとユースが入っている。ただ、情報によると家の方針なのか名前がとにかく長い、本一冊分はあるほどに長いらしい。なのでラズリーだけで覚えることが通例になっているのだとか……じゅげむ・ラズリーさんとでも覚えておこうかな。いや、ラズリーだけでいいのか。

「ちょっと疲れてる気がするので休むことにします」

彼女も筆頭婚約者ではあるがやる気が無くなってしまった。

だって一瞬でわかった。裏表なく純粋に何かを作るのが好きなマッドな方だ。婚約についてはまだ探りを入れても良いかも知れないが人となりは一瞬でわかった。無表情なエルストラさんとずっと睨んでついてくるポヨ令嬢に比べてなんとわかりやすいことか。

ゴムについて仲間内で話し合ってる彼女は私に興味がなくなったみたいだし少し休憩することにする。

休んで体はスッキリした感じがあるのだが激務に激務、更に意味のわからない問題もあってか脳が休息を求めている気がする。

「はい?……はいっ!?」

「このままで」

エール先生は急に甘えるとたまに驚くことがある。その反応、結構好きである。

横長の椅子、大人では狭いかもしれないが私だとちょうどいい。横で書類の確認をしているエール先生の膝に頭を乗せて少し休むことにした。

シャルル王の元側近で王宮での地位は格別に高いエール先生。そのエール先生の膝枕である。悪役令嬢らしく私の地位を見せつけることが出来るんじゃないかな!この膝は私のものなのだよ!!

今は公の場だし、こんなことをするとは思っていなかったのだろう。少しワタワタしているが頭を撫でてくれる。

改めて頭が重い気がする。あれかな?髪がビカビカ光ってたからその影響かもしれない。もしくは酷い問題。だいたい意味のわからない問題が多すぎるのが悪い。

その上、人付き合いに領地経営。もういっぱいいっぱいだ。