軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第266話 エルストラ VS ポヨ令嬢

腕の中で熱いほどに体温を感じられる。まだ弱くて、誰かに守られなければ生きていけない……小さな子。

「この子の名前は?」

「フレー ス・タナ ・レー 」

「フレム!」

フラーナさんが答える前に子供が起きて元気よく答えてくれた。

まだ喋れる歳には見えないが、こんなに小さくても話せるのかしら?髪は短いけど女の子……であってるよね。

「フレー スで 。まだま 言葉、を 覚えて る、最中 で」

「なるほど」

年齢の割によく言葉を話す子。動き回ることもあるそうで、良ければ遊んでやってほしいと言われた。

木の根元に座る2人は明らかに具合が悪そうですし、小さな手で引っ張られてこの中庭で相手をすることにしました。

今から別の屋敷にいるお父様の元まで移動するのは暗くなってきてますし不安です。今日はこの屋敷に泊まることになるでしょうし、他にやることもありません。

手を引っ張るのが楽しいのか懸命に引っ張られる。小さくも力強い手に困惑しつつも転けてしまわないか心配になってしまう。

突然止まって、振り返って私の顔を見たフレム。なにか驚いている?

私の手を離してワタワタと座る叔父様のもとに戻っていって……叔父様の影に隠れた。何がしたいのだろうか?

「…………ねーちゃ。だえ?」

「エルストラよ」

先程まで楽しそうだったのにいきなり不安そうにして私に問いかけてきました。

子供というのはこういうものなのでしょうか?

「えうー……ねーちゃ!」

「ちがいます。エルストラ」

「ねーちゃ!あそっで!」

「ですから……仕方ありませんわね」

起きたこの子は活発で、フラフラと歩いてとても目が離せなくて、急に泣き出したりもしましたが……本当に不思議。

何も無い中庭で走り回って、突然コクリコクリとし始めて……ハッとして急に休んでいる叔父様方のもとに引っ張られた。

「ねーちゃ!ここでねう!」

「えぇ……」

この屋敷は特別で、中庭は雨さえ降らなければ夜であってもほんのりと温かい。

だからといって敷物一つで、叔父様とフラーナ様の触れ合う距離の間に割って入ってわたくしが寝ると?

自分はいい大人なのに、そんなはしたない真似……説得してみましょう。

「ちゃんとした寝台で寝ませんか?」

「やー!!」

よくわかりませんが嫌らしい。

フレムはわたくしのことなど無視して大きなオルダース叔父様の腕の上に横たわってしまった。服を掴まれたままでどうしたものか迷っていると――――

「それ 」

「ええ??」

「へへー!」

フラーナさんに引っ張られ、彼女の胸に頭をのせる形になってしまった。横にいるフレムはご機嫌で、すぐに眠ってしまった。

フラーナさんからすれば私も子供かもしれないが、頭を撫でられてしまって――――お母様にもこうやって甘えることは出来なかったのに……細かなことであればこの屋敷でも他にやることもあったはずなのに――――心臓の鼓動を聞いて眠ってしまった。

本当に不思議で、一夜の夢のような日でした。

――――この後、学園に戻り……政争は悪化。王となったシャルトルとの婚約がなされ……暴言を常に言われるようになりました。

私も友人や知人が何人も死んで、悲しんで、暴言を吐かれ、その気持ちもわかって………………そのうちこの日のことも忘れ、ただただ口を閉ざして日々が過ぎました。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

フリムを睨みつけて追い回すポヨ令嬢が、ついに動いたと報告が来ました。

ポヨ令嬢は不良として知られます。

ポヨ家は数百年オベイロス王家に仕えてきた由緒正しき一族で……現在の当主は大臣でもあります。

ある程度国策としてはずっと悪くないものを出してくるが利益の分配は自分の派閥にばかり良くなるように采配しますし、国の大臣としては少しよろしくないようにも思えます。

ポヨ令嬢は複雑な家庭環境であり、本人は国の行事すらたまに抜け出しています。噂では気に入らない相手を殴りに行くのだとか……。

彼女がフリムの近くにいるのはよろしくありません。彼女は陛下と同じく闇の精霊が共にいますし、悪夢を相手に見せることもできると聞きます。

フリムが彼女の一派にも威圧した以上、彼女が自ら何かをしに来たのかもしれません。

水の宮の近くをうろついているのもフリムに悪夢を見せている可能性があります。

わたくしも護衛と侍女に控えてもらってフリムのもとに向かう。ブレーリグスには止められましたがフリムのいる宮はすぐ近くですし、水の家として特別な話があると言えば控えてもらえた。威圧のことで上位者として注意をしに行くとでも思ったのでしょうか?

報告にあるように水の宮の周囲をうろついているポヨ令嬢がこのあたりにいるのはフリムが目的でなければいいのですが。

……見つけたポヨ令嬢はフリムのいる水の宮に向かって杖を抜いていた。

「……ポヨ令嬢」

「なんだ!?……なんだ仮面女か。何の用だ?」

彼女は抜いた杖をその身に隠した。互いに侍女も護衛もいないこの状況。大変よろしくありません。

明らかに不審。闇の魔法は風の魔法で認知できないことが多い。フリムの周りに闇魔法使いがいるとは聞いていませんし、認知できていないのなら――――フリムは既に何らかの攻撃を受けている可能性があります。

「……貴女こそ、フリムに何の用ですか?」

「お前には関係ないだろうが?あぁん?」

彼女の取り巻きも夜会でフリムに倒されている。フリムを害する動機には充分だ。

すぐに彼女の後ろから闇の精霊が現れた。……やる気のようだ。

こちらも杖を抜く。

「――――正気ですか?」

「――――やる気かてめぇ!!」

この場で精霊を出すなんて、正気とは思えない。

いえ、この強引さはフリムへの何かしらの攻撃が終わるまでの時間稼ぎの可能性があります。

「<水、よ!!?>」

「あめぇ!!」

話は無駄だと水を使って杖を取り上げようとした。幸いここは水の宮であり、噴水も多くあります。

しかし、10歩はあった距離なのに……何らかの魔導具で距離を詰められ、杖を持つ手を蹴られました。

「くっ?!」

「ちっ!おらぁっ!!」

もう片手で近くの水を操ってポヨ令嬢の杖をはたき落とす。しかし怯むことなく蹴りかかってきたポヨ令嬢。

水の玉で受け、そのまま魔導具らしき靴に水をまとわせて片足の動きを封じ、腰の短剣を茂みに飛ばす。

「ちっ何だ?邪魔くせぇな!!おっぐ?!」

「ぐぅっ?!」

水の玉で受けたとはいえ、腕を蹴られて痛んだが……この女を止めませんとフリムがどうなってるかわかりません。

動こうとするポヨ令嬢の足をフリムのように水で掴んだまま引張り、もう片手でポヨ令嬢の顎を手のひらで打ち抜きます。

同時に掴んでいないポヨ令嬢の膝がみぞおちに入った。ただ、無理やりな一撃。

そのままポヨ令嬢を押し倒し、あたりの水を……だめ、闇の精霊が動き始めたせいか、水の動きが悪い。

「仮面女ァっ!!!」

「いたっ?!」

視界が闇に包まれ、髪を掴まれ体が入れ替わる。ただ水は完全に動かせないわけではない。

精霊を出せばと考えてしまうが……それをしてしまえば戦争になりかねないから出来ない。

足の魔導具を使いたいのか離れようとするポヨ令嬢を水で引き寄せ、頭のあるであろう辺りの泥水を私の水で掬って当てた。

「おぇっ……ちく」

お互いに杖を持たぬ身、闇で見えないが、こちらには水も短剣もあって有利のはず。

短剣を抜いて警戒すると……かすかに見える闇の向こうからなにかが投げつけられ、それが短剣にささって何処かに飛ばされてしまった。

迫りくるポヨ令嬢。顔のあたりを拳で殴りつけるとこちらも殴られた。

騒ぎに気づいて誰かが来るまで耐えればいい。――――フリムには……手を出させないっ!!!