軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第241話 水の魔法使いっ!!

エルストラさんが倒れると同時に私は伯父上に向かって消防車のように思い切り放水をした。水の砲弾では倒せないし、仕切り直しだ。

「甘いのぉっ!」

膝立ちのまま刀で私の放水をぶった切った伯父上。私の放水に沿って真っ直ぐ水刃の魔法が飛んで来る。

――――ジャッっ!!ボバッ!

「っ!!?」

水刃が私の放水を切り裂き、鎧にまで当たった。

当たる瞬間に水刃を中心に一気に水が膨れ上がって……私の鎧の至近距離で爆発してしまった。

「くっ!?<水よ!!>」

――――ボバッ!ボバッ!バダッ!!

魔導鎧の周りに卵型の三重の障壁を作り出し、高速で回転させる。

伯父上の攻撃を逸らせるかもと思ったが、水刃が障壁を切り裂いて魔導鎧の至近距離で爆発が起きる。

「このぉっ!!」

幸い鎧には守護竜王の鱗も貼り付けてあるからそんなに柔ではない。

だが衝撃は伝わってくる。水が発生するだけだが爆発が至近距離で発生するのはかなり苦しい。

これが格上との『領域』を意識しないといけない戦いか……。大きな魔獣の首を切ったのはこの伯父上だと聞くが、首の下からは鋭利な傷が見て取れたが裏側は激しく損壊していた。

おそらく何年もかけてその土地で自分の領域を作り上げ、水刃によって切込みを入れ、そこから水を思い切り発生させて斬撃と爆発を利用して首を落とした……とユース老先生が見識を教えてくれた。

領域の取り合いでは同じぐらいの力なのに、水刃の魔法によって私の領域は至近距離まで削られる。一瞬ではあるがその一瞬で水が一気に出現して爆破される。

障壁を張っても貫通して飛んでくる水刃と爆発。

役に立たない障壁を解除、氷結ドラゴンハンマーを伯父上に向かって放つ。

一方的に斬撃と爆発で負ける前に反撃しないといけない。頑丈に作った鎧でも絶対に無敵では無い。

「ぬぅんっ!!……硬いっ!が綻びは見つけたぞ!」

勝機と見たのか距離を詰めてこようとした伯父上だったが、流石に質量のある凍りついたドラゴンハンマーには警戒しているようだ。

ただ……大魔獣の表皮を切り裂くだけあってドラゴンハンマーも真っ二つに切り裂けるようだ。

――――――腹が立って仕方がない。

「何で、なんでそんなに力があるのに!こんな事になってるんですか!!!??」

「は?」

私が言う言葉が予想外だったのか、思い切り怪訝な顔をした伯父上。

鎧から出て面と向かって暴言を叩きつけたいがそれは命の危険があるので出来ない。

「だってそうでしょう!?大きな魔獣を倒せて!それだけ力があるなら!!争わずにねじ伏せることだって出来るかもしれない!!」

「…………」

もはや競技など関係ない。打ち倒してから言いたいことは言おうと思っていた。

氷結ドラゴンハンマーを無数に出し、自分を中心に高速で飛ばす。

完全に凍りついては操作ができないが。水を這わせて浮かべて飛ばす。時間の経過で中の氷はしっかり凍って動かしにくくもなるが、持ち上げて飛ばせば良い。

伯父上も集中した一撃で水のドラゴンハンマー一頭を切り裂くことは出来ても多くの氷結ドラゴンハンマーであれば話は別のようで警戒したようである。刃引きしてるのになんで氷を切れるのか……。

「それだけの力があるのなら!!エルストラさんに!意にそぐわない、やりたくもない嫌な仕事をさせなくてもいいはず!!」

エルストラさんは派閥の人間から私の情報を引き出し、部下を籠絡して私を害するようにいつも言われていたそうだ。断っていたようだけど子供にそんなことをさせようとするなんて大人のすることじゃない。

予想以上にこの伯父上は強い。ボコボコに出来たらちゃんと話そうとは想定していたがもうそんな事は考えられない。明らかにこの伯父上のほうが格上である。

この魔導鎧があってなんとか立ち回れているが、この鎧がなかったらあっさり負けていたはずだ。

「私の両親だって!死ななくても良かったかもしれない!!」

感情のままにむちゃくちゃに叫んでいる自覚はある。

鎧に取り付けた魔導具で声は通じているはず、伯父上は警戒しつつもまっすぐこちらを見つめてくる。

――――襲われる。狙われる。というのはストレスだ。

うちの人間がこれまで刺客をガードしてくれているが……私に直接の被害はなくても、被害はゼロではない。そのたびに腹が立って仕方がなかった。

「シャルルだって王になりたくてなったわけじゃない!」

シャルルは王になりたくてなったわけじゃない。ゴミ貴族共には頭を抱えていた。だけど投げ出さずに、この世界では未知で難解な簿記を、異世界なんてわけのわからない世界の知識を吸収して役立てようとしている。誠実で優しい青年だ。

そんなシャルルをライアーム派閥は攻撃してくる。

あまりにも強い伯父上。――――だからこそ腹がたった。

伯父上の事情なんて無視して……私情であるともわかっている。だけど言わずにいられなかった。

これだけの力があって、部下も多くいる。伯父上ら一行は王都にいるのもきっと危険で……伯父上のために命をかけているはず。

ライアーム派閥からうちにも恭順しようと人は来るが、それでも瓦解するほどではないのはこの伯父上がいるからだ。それだけ慕われていて能力もある――――立派な人物なのだ。

「だいたいなんで私が狙われなくちゃいけないんですか!!私は生きたいだけなのに!!!」

伯父上に凍らせたドラゴンハンマーを射出する。伯父上の領域を食い破って凍ったドラゴンが飛んでいく。

氷の後ろ側は私の水が繋がってからある程度は操れるし、伯父上もドラゴンハンマーのコントロールの奪取に失敗したことに驚きつつもその一頭を切り裂いた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

久しぶりにあったフリムは、思った以上に成長していた。

思えば憐れな娘だ。両親を殺したのはライアーム派の人間……つまり仇である儂に育てられていた。

「知らぬからこその言だろうが……そうだな、それでこそルカリムだ」

フリムが見つかったときには正直信じられなかった。水路に落ちたフリムだが、杖もなくどう生き残ったのか……レージリアの爺あたりの策で別人を仕立て上げたのかとも考えられたが、そもそもフリムの存在は知らぬものが多い。やるなら別の人間や他国から来て邪魔してきたタナナの縁者の方が都合が良かったはずだ。

なにかの魔獣をかたどった氷がフリムを中心に渦巻いてこちらに迫ってくる。

先程よりも明らかに硬いしこれは氷である。操ることはできんか……切り捨てて行くが、終わりは見えない。

「この世は人の世ではない」

あまりにも馬鹿げた魔法力。

――――……儂もそうだった。

「精霊が王位を決め、人はそれに従う」

風が吹けば空に消える水は……あまりにも脆弱。

昔から死ぬのは水の魔法使いばかり。政争でなくとも大貴族の身代わりに、当主交代の折に、毒殺を防げぬ責任に……。

死んだものを悼み、憐れむのは家族の権利だ。彼らの想いは継いでいかねばならぬ。

だが、復讐してはいけない。いつだって水の属性の人間は吐き気がするほどに弱い。報復をしたところで野に捨てられ名誉も何も残らずに腐るのみ。稀に家ごと焼き払われることもある。

精霊も契約者を殺されれば荒れることがある。怒り狂った精霊は土地を荒らすし、加害側も一方的にやられるものではない。……稀に精霊ですら人に負けることもある。

だからリヴァイアス家のような、水属性の家でありながら復讐を誓う頭のおかしい家に人が集まった。

リヴァイアスは水の家に珍しい好戦的で強大な精霊を有している。

地下から水で土を削って屋敷ごと落下させる。川を作り出して砦ごと孤立させて水で沈める。井戸に毒を流す。……そこまでしないと仇が討てない。

水の属性ではまともに戦ったところで殺されるだけだ。他の属性とは魔法を操れる距離が違う。殺傷力が違いすぎる。

水で呼吸を止める方法は昔からあるがその距離を詰める前にたいていやられるし、その距離であれば短剣を使ったほうが良い。

それにそもそもの数が少ない。昔からじわじわ殺される水の属性の人間は火と風に比べて半数にも足りぬ。

吐き気がするほどに水の属性の人間は弱い。

大精霊の中でも戦える精霊も少ない。ましてや加護を授かるのもなかなかに難しい。人の器がそれに耐えられん。

精霊と縁を得た者が貴族となり、婚姻を繰り返してやっと強大な精霊と縁を結べる。

……強き者のいない水の属性の家は、いつだって弱い。それが当たり前で、それがこの世の常であった。

「貴方は強いんだから、皆を守ってね」

「…………」

「お前に託したからな」

「なんで、こんなことに」

「かあさ 」

「ごめんなさい。く ろうばかり せ て……」

「ヴェル、俺のことは気にするな。だが母と嫁のことを――――」

「死にた な い よ」

妻の、友の、父の死に立ち会った。

今でもその声がしっかりと聞こえる。

幸運なことに儂には力があった。

だからこの力で家々をまとめた。これ以上、人が死なぬように。全滅したリヴァイアスのような不幸な家の人間をこれ以上出さぬように。

何度託されてきただろうか。

どれほどの無念を見てきただろうか。

だから儂は精霊と誓約を交わした。この魂にかけて儂が護りたい者を護らせてくれと。精霊と水と魂に誓い、身を捧げた。

そうして儂はローブを広げた。その内に弱き者を守れるように、ただただ無念に死なさぬように。

「その結果、多くの同胞が無念にも死んでしまった。……わかるか?フリムよ。割りを食うのは弱い者だ。この国ではそうなってしまっている」

怒りが、憤怒がこみ上げてくる。

儂は今でもライアーム様のほうが王にふさわしいと思っている。

そもそもあの時はライアーム様しか王家の人間は生き残っていなかった。そのはずだった。なのに政争で争うこともしなかったシャルトルが王位をかっさらった。

どう考えたって当時はライアーム殿下のほうが器も素質もあった。今もなお部下を御せていないシャルトルよりも良い選択だと確信している。

王城に間者や刺客をどれほど潜らせることが出来ただろうか。

「散っていった友の、家族の、同胞の願いを叶えてやれるのはいつだって生者だ。誰もが生きたかった。誰もが死にたくはなかった」

「……」

「彼らの心からの願いを聞いてやれるのは彼らを大切に想っている生者だ。力ある者がやらねばならんのだ。皆を取りまとめ、より多くが、より良い道を進めるように」

シャルトル陛下が真に王として適格なのかは精霊でないこの身にはわからない。

ライアーム殿下は覇気に溢れていた。唯一の答えのはずだった……しかし、正解はわからん。正しいかどうかなど後になるまでわからん。

しかし、それこそが世の理。大きな流れに水滴は身を任せることしか出来ない。

だが、儂には力がある。ほんの少しでも助けられる者がいるのならそうなるように動こう。

「シャルルは……シャルトル陛下は素晴らしい人物です」

「そうかもしれんな。だが儂は陛下よりもライアーム殿下のほうが王位にふさわしいと考える」

「考えを改めるべきです」

「そうかもしれんな。そうは思えんが」

火で炙られ、空から落とされ、体を岩で穿たれた配下を。家の誇りのためなどと短剣で貫かれた我が同胞を。敵である儂にしか子を託せなかった弟のような存在を……二度と出さぬために。

先頭に立ち、より良い道を選び、切り拓くと決めた。

そのために生きると儂は誓った。

これが正しいか、間違っているかなど知らん。結果は後でわかる。

「ただただ正しいと考えられる道を突き進む。それこそ大家の長であり、力のある儂の責務よ」

「私も同じく正しいと思うからこそこうしてここにいます。伯父上は、水の属性の人間のためにその立場に甘んじているのですか?」

「もちろんだ。この身は力を持つ。……だからこそ、護りたいものを護る。人の死なぬ道を探して突き進むのみよ――――覚悟は良いか?」

「ありませんよ。伯父上こそ、私の元に下る覚悟はおありで?」

儂が聞いた覚悟とはそういう意味ではないのだが……舐めた態度を取ってくれる。

「ないな。叩き潰してくれる」

だがそれでこそのルカリム。それでこその水の属性を率いるだけの当主よ。

儂と同じく力を得て、同じく護りたいもののために杖を掲げている。

思わず笑ってしまう。争わねばならぬこの酷い世界に。この状況に。この姪に。儂自身に。

この娘を下してしまえば決着はつくだろう。うまくいけばライアーム殿下は陛下になり、この国の争いも終わるやもしれん。……そのためには「絶対勝てない」とフリムにわからせねばならない。

おそらくフリムも同じように考えているだろう。それは魔力の高まりを見ればわかる。

「――――……<水よ。開闢の大精霊ルカリムよ。おいでませ>」

「――――……<水よ。リヴァイアスよ!オルカスよ!名前も知らない精霊たちよ!力を貸して!!>」