軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第182話 イルーテガ王……。

リヴァイアスからクーリディアスへの航海は無事成功し、商人として王宮に参上。王への献上品があると言って酒を持って面会に行くと玉座に座ったイルーテガは不健康そうな面構えをしていた。

自分から機会を作ったとはいえほんの少し後ろ暗い気もする。幼きリヴァイアス侯には色々と見透かされていた気もするが……両国の利益になるように考えたい。

「おい!貴様、頭を下げよ!!」

「久しぶりだな!頭を下げるべきか?イルー!!」

部下たちは平伏しているが俺は平伏せずに突っ立っていた。

もちろん兵に頭を下げるように言われるが、知ったことではない。切り捨てにされない程度にはしないとな。

儂等を見ながらも肩ひじをついて動かなかったイルーが玉座から転げるようにこちらに向かってきた。

「お、おぉ!ゴーか!!?」

「陛下?」

「剣を降ろせ!!我が友だ!」

「しかし!?陛下?!」

数段上の玉座から降りてきたイルー。そのまま抱きついてきた。

互いにいい歳になってしまったな。周りの臣下たちは固まってしまっている。

「久しぶりだな」

「本当にな!!あの時は悪かった!」

「こっちもすまんな、船は沈めちまったし、なかなか機会がなかった」

「いいさ!いいさ!何があったか聞かせろ!おい!酒宴の用意だ!!」

「しかし、既に夜宴の準備が!」

「世界を巡っている豪商と話せばわかることもあるだろう!下がれ!」

港もだったが、城はやはり戦の空気が包み込んでいる。

おそらく敵地であるリヴァイアスから来たからこそこうやって話す機会があったのだろうが……知った顔に金を渡したのが良かったのかも知れないな。いきなり牢に入れられなかっただけマシかも知れない。

喜ぶイルーだが儂も嬉しい。以前と同じく、いや、その時以上に良い酒、良い肴、良い土産話で楽しめた。

お互いに歳をとって油っぽい料理を避けたりもして笑いもした。商談では船ごと買うと言われたが船を買われると帰れないと返すとここに住んでしまえと笑って言われてしまった。

まぁ冗談であるとわかるし、軽い態度が当時を思い出して心地良い。

戦時であることを考えればクーリディアスの様子を見るだけで会えないかもと考えていたのだがクーリディアスもオベイロスの状況が知りたかったのかすぐに呼ばれた。

何にせよこうやって顔を見れただけでも……会えてよかった。

「で?どうしてここに?」

「精霊の導きかな。……実はリヴァイアスに商売をしに行っててな。この国の様子を見てきてくれって巻き込まれたんだわ」

「それは……すまなかったな」

「まぁそっちは口実だな。なにかの機会があればイルーの湿気た面を拝んでやりたいとずっと心の何処かで思っていたから口実にさせてもらった。……で?どうするつもりだ?あ、俺は中立だからな?一応口利きも出来るが」

少し考えているように見えるイルー。

裏切り者と罵ってくるかと思ったがそうでもなさそうだ。

「……そうか、苦労をかけてしまってるな」

「そんなこともあるさ、俺はお前に会えたから嬉しいよ。そっちの酒とってくれ」

疲れ切った様子のイルーだが、そもそも何故オベイロスを攻めたのかと聞きたくはあるがまずは殺されなかったことを精霊に感謝しよう。

若い頃のように狭い部屋に二人で食べているので給仕もいない。周りの臣下からすれば儂は王と側近ぐらいしか知らない不審人物であるし。ものすごく色々言われていたがイルーが強行した。

近くの部屋にイルーの部下も儂の部下として小間使いの役割をしているリヴァイアスの者も待機している。もっと気軽に会えればよかったのだが……戦争が終わればその機会も完全になくなるかもしれん。贅沢は言えんな。

「こうする他なかったのだ。オベイロスの人間はすべて殺さねばならん、常識だろう?」

「……よくわからんが?」

こいつは何を言っているのだろうか?

オベイロスとクーリディアスは仲が良くもないが悪くもなかったはずだ。

オベイロスは精霊の国で他国からすれば『攻めにくい』『統治しにくい』『何もしなくても精霊が災害を起こす』というなんとも嫌な国だ。精霊に力を借りて使う魔法はオベイロス周辺でこそ強力だが離れてしまえば弱い。だから他国からすれば無理に攻める必要はないのだろうが……食料や鉱物に塩、豊富な資源に広い国土は他国にとって魅力的に見えるのかもしれない。

オベイロスと周辺国の国境線では小競り合い程度の争いは多々起きるし……儂が知らないだけで国同士ではこれまで細々とした争いがあったのかもしれないが。

わからんな。貴族は百年前の出来事でも恩に感じたり恨みに感じていたりするからな……しかし、儂が生きている間にオベイロスとクーリディアスで争いがあったなんて聞いたこともない。なのにイルーの『オベイロスを滅ぼすのが常識』などという言は常軌を逸している。

「おいおい、オベイロスは存在していてはいけない国だなんて子供でも知ってる常識だろう。どこの国でも習うんじゃないのか?だから国庫の財を使って奴隷を集めた。というのに、役立たず共が……」

「…………」

なにか恨みがあるわけでも敵意があるわけでもなく常識と言い放つイルーには違和感しか無い。

年をとったとはいえイルーはイルーだ。別人ではないはずなのに、何かがはっきりとおかしい。

「で、どうする?また攻めるのか?降伏か?」

「んー、考えては見たんだがなぁ。貴族共にも兵を出させて小さな領地から襲ってぇ……まずは戦力を見せつけるわけだぁ。染み渡るほど美味いなこの酒は」

「この料理もうまいな」

「俺は食べ飽きたし好きなだけ食え。で、なんだったか?あぁ、精霊に一方的に負けたのは国が感知するところではないと聞く。だから災害で困っているうちの兵士を捕縛したオベイロスに賠償をふっかけてだな」

「お前酒弱くなったか?」

酒に酔うイルーから話を聞き出すのはほんの少し心苦しくも思うが、聞いた上でどこか落としどころがないか探りたい。

年月が人を変えることもあるし、南で商売していた儂には分からないなにかがあったのかも知れない。もしかしたらオベイロスがなにかしていた可能性もある。

「なぁに言ってやがる!俺こそクーリディアスで『竜に飲み勝つ』と言われたイルーテガ様だぞ!お前こそ弱い酒を飲んでるんじゃないか!?」

「唾を飛ばすな、これはお前のところの酒だ。お前が飲む酒に比べて強いか弱いかなぞ知らんよ」

「……それもそうだ!ゴーは変わらず頭がいいなぁ!!……なんだっけ?そうそう、やっぱクーリディアスの平和のため、民のためにはこれが一番なんだよ」

友は思い出の中の友のままであるとも感じるのに、やはり明らかになにかがおかしい。

優しく、民思いで、権力欲もないやつだったというのに……一体何があったというのだろうか。

――――床を眺めていてゾッとした。

影が揺らぎ、その中に誰か……いや、得体はしれないがナニカがいた。

「オベイロスに賠償金をふっかけて、その後どうする?」

「当然うまくはいかないだろうし、にらみ合って使者を出し合って互いに「誤解でした。友好関係を築きましょう」って笑って見せてから毒でも飲ませてやろうと思う。お前が知ってるかは知らんがオベイロスは精霊がいるのに落ち着いているのは王家がいるからだ」

他の国にも精霊はいるが姿を見ることはほとんど無いがオベイロスでは精霊が身近な存在である。彼らは災害を引き起こす存在でもあるにも関わらず、敬意の念を誰しも持っているし、その中で秩序が出来ている。

いきなり丘や池が出来ていたりもあるが、他所の国ではないことらしい。それでも住んでみると良い国ではあると思う。

「だからまずはオベイロス王家の人間だけは殺さないとな。今ならたった数人殺しただけで世界は平和になる。当たり前だ」

「……商人の俺には稼がせてもらえればどっちでも良い。金になるならクーリディアスの味方になるぞ」

「それでこそ商人だ!ハハハ!今日はとことん飲むぞ!!!」

「おう!」

盃を交わしてお互いについて朝まで語り合った。

しかし、こんなに味は良いのに不味い酒は生まれて初めてだ。親友は何か良からぬものに影響を受けている。思い出の中のイルーはそこにいながらもおかしくなってしまっていて……楽しめていた酒が不味くて仕方ない。

この状況をどうにかしないといけない。

まずは何の魔法かはわからんがこれをかけた術者はおそらくイルーにオベイロスを攻めてほしいのだ。そして今この場は監視されているのだろう。クーリディアスに味方する姿勢をとっておかねば殺されてしまう。

この事実を知っているのは儂だけのはず。イルーに味方するように言いつつ、魔法使いを殺せてイルーを治せる人間を探さないといけない。……そのためには儂が生きて帰らねばならん。

しかし、自分たちはイルーの好意で王宮に軟禁されることになり、イルーは軍団を率いて行ってしまった。

止めることも出来ず、交渉の余地があるかも聞けず……数日到着が早ければ結果は違っていただろうか?軍の招集に貴族への号令を考えれば一日酒盛りする時間を作ってくれたことには感謝しないといけないが、それでも遅すぎた。

この不穏な空気の中、気がつけば部下になっていたワーがどこにもいなくなっていた。まるで初めからいなかったかのように……港で女でも引っ掛けている可能性も考えたが彼はリヴァイアス侯と年齢がそう変わらないように見えた。

……無事かどうかはわからなかったが彼が生きてリヴァイアスにイルーの状態を伝えてくれればと願わずにはいられないな。

……………………あれ?儂、クーリディアスに味方するって言ったのだけど殺されないか?