軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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◆九白真緒

私は、前菜、スープ、魚料理、口直し、肉料理と、順に自作の料理を出していく。

レイちゃんは、それを優雅な所作で上品に食していた。

しかし、彼女はどこか不機嫌な様子。

やはり私の腕では彼女の舌を満足させることは難しいようだ。

もっと精進せねば。

そんな風に考えていると、ナプキンで口元をぬぐったレイちゃんが口を開いた。

「……違うのです」

と、伏し目がちに呟く。

「ごめん、好みの料理じゃなかった? 今度はちゃんとリクエストを聞くね」

今回の料理に関しては、こちらが勝手に用意したもの。

事前に聞き取りを一切行わなかった。

それはサプライズも兼ねての事だった。

自分の上達した腕前を試してみたかったのだ。

しかし、こういった時は、どういったものが食べたいか聞いておくべきだったと痛感する。

自分が出来るようになったことを披露することに執心し、料理を振舞う相手のことを考えていないというのは本末転倒。

きっと喜んでくれるだろうなぁ、と浮き浮きになっていた自分が恥ずかしい。

完全な失敗である。

「違うのです」

と、レイちゃんがまた呟く。

納得がいっていない様子だが、リクエストを聞くか聞かないかが原因ではない、という事なのだろうか。

「とりあえず、温度が変わるからデザート出しちゃうね」

と、ひとまずデザートを出す。

私の腕前では、残念な結果に終わってしまうが仕方がない。

最高の状態で提供しないと、更に味が落ちてしまう。

話は食べてもらった後で聞こう。

と、デザートをテーブルに置くと、レイちゃんの表情がパッと明るくなった。

「あら、フォンダンショコラではないですか」

「ふふん、レイちゃんの好物だから、腕によりをかけたよ」

フォンダンショコラは焼きたて、常温、冷蔵で印象が変わる。

今回は焼きたてのトロトロ食感を味わってもらいたかったので、素早い提供が命。

中途半端な温度にはしたくなかったのだ。

「それではいただきますね……。まあ! とっても美味しいですわ」

一口食べたレイちゃんの感想は良。

表情を見れば、お世辞でないことが分かった。

「やった。嬉しいな」

これは素直に嬉しい。

今まで気難しい顔をしていたけど、やっと表情が綻んだ。

それに釣られて、私の顔も自然と緩んでしまう。

「これなら、うちのパティシエと肩を並べられます」

「ふふ、それは本物の評価だね」

レイちゃんの評価を聞き、私は上機嫌。

やっと美味しいと言って貰えるものを提供できて大満足である。

フォンダンショコラをゆっくりと味わい、非常に満足した表情となって穏やかな雰囲気に包まれるレイちゃん。

――しかし次の瞬間、カッと目を見開いて立ち上がる。

「って、そうじゃないのです!」

レイちゃんが身を乗り出して興奮気味に声を上げる。

「どうしたの? 落ち着いて。ソファで休む?」

私はそう言ってレイちゃんをソファへ誘導。

さっきから感情の乱高下が激しい。

ふかふかのソファに座れば、その柔らかさに影響されて、きっと心もゆったり落ち着くはず。

私の勧めでソファに身を沈めたレイちゃんは驚きの顔となる。

「あら、これは自室と同じメーカーのソファですね」

「当然じゃん。ちゃんと体に合わせてオーダーしたよ」

このソファはメーカーさんと綿密な打ち合わせをして、完璧なものに仕上げてもらった逸品だ。

レイちゃん専用ソファといっても過言ではない。

「道理で体にフィットするわけですね、ってそうじゃないのです!」

ほっこり顔で、「はぁ~、落ち着きますわ~」とリラックスしていたのは、ほんの数秒。

次の瞬間には、またもやカッと目を見開いて興奮気味に立ち上がってしまう。

一体どうしたんだろう。今日は様子がおかしい。

ここに来るまでは、特に何もなかったのに……。

「大丈夫? そうだ、見損ねた映画のブルーレイを買っておいたから一緒に見ようよ」

と、棚からブルーレイを取り出し、パッケージを見せる。

すると、レイちゃんが顔を綻ばせた。

「あのアクション映画ですね! わたしも見たいと思っていたのです」

と、機嫌を直してくれる。

私は、ほっと胸を撫で下ろした。はぁ~、よかった。

それじゃあ、鑑賞準備を始めていきますか。

「ふふ、観賞用にポップコーンを作るね。甘いのとしょっぱいの、どっちがいい?」

「もちろん、しょっぱいのですわ」

私の問いに、即答するレイちゃん。

さっきデザートを食べたし、今はしょっぱい味の気分だったようだ。

「じゃあ、私は甘いのにしよっかな。お皿を洗いながら作るから、ちょっと待っててね」

と、テーブルの食器類を片づけていく。するとレイちゃんが立ち上がった。

「それでは私はお茶を入れますね。いえ、ここは炭酸飲料の方がよいでしょうか……。って、そうではないのです!」

と、ティーセットを取り出した瞬間に、はっと我に返ったような表情で声を上げるレイちゃん。

「どうしたの?」

機嫌を直してくれたと思ったのに、まただ。

これは……、少し横になって休んでもらった方がいいだろうか。

でも、食後直ぐに横になると、逆流性食道炎になる可能性があるしなぁ……。

そんな事を考えている間に、レイちゃんがベッドに移動する。

彼女はベッドの上で正座すると、自身の正面をポンポンと叩いた。

そして非常に真剣な表情で言った。

「マオちゃん、こちらに来て座ってください」

「あ、はい」

私は促されるままに正面に正座。一体どうしたのだろう。

と、こちらが腑に落ちない顔をしていると、レイちゃんが口を開く。

「マオちゃん」

「うん」

「今日は、どこに何をしにきたのですか?」

「え、北海道にキャンプをしに来たんだけど」

物凄く真剣な表情で問われた内容は、あまりに当たり前のことだった。

今日は以前の約束通り、北海道へキャンプに来たのだ。

しかも、護衛無しの二人きり。

出発する際は、強引に同行しようとした後藤さんを日高さんが抑え込んでいたのが印象的だった。

以前サロンへ参加した際は将来の事を伏せていた日高さんだったが、最近その辺りについて話してくれた。

どうやら、後藤さんの下で色々学んだあと、私の身の回りの世話をしたいらしい。

私自身は両親の会社で平社員をやる予定なのに、専属の付き人や秘書のような人がいるのはどうなんだろう……。

できれば同僚とかになってもらえないだろうか……。

といったことをぼやいたら、レイちゃんが対抗意識を燃やし始めたので収拾がつかなくなっている。

ちなみに、キャンプ場に来るまでに、村で復興作業をしているレイちゃんのお祖母さんである咲耶さんと榊さんの所に挨拶も行った。

その次に、炎泉親子が経営することになったペンションにも顔を出した。

ペンションには、ちょうどミカちゃんが訪れていた。

私たちがキャンプに来ていることを告げると、予定を全ブッチして一緒に行きたいと駄々をこね始め、なだめるのに苦労した。

説得に参加した護衛の人には、悪いことをしてしまったな。

とまあ、色々なことがあったけど、今はキャンプ場でくつろいでいる状態なのである。

「その通りです。今日はキャンプに来たのです」

私の返答を聞き、満足げに深く頷くレイちゃん。

「うん。実際来てるよね。こうやってキャンプ場で、ご飯食べてるし」

丁度、食事を終えて、リビングでの映画鑑賞に移行したところだ。

「そこなのです!」

と、レイちゃんがパンと自身の膝を打つ。

「え、どこ?」

あまりに当たり前の問答しかしていないため、どこが要点だったのか見いだせない。

く、今のどこに重要なポイントがあったというんだ。

私の困惑顔で察したのか、レイちゃんがとつとつと語りだす。

「わたくしたちはキャンプに来ているはず。それなのに、この空間はなんなのですか?」

と、レイちゃんが周囲を見渡し、両手を広げてアピールする。

「え、家だけど」

私は端的に即答した。

今日のキャンプのために、自身の宇宙に家を収納しておいたのだ。

サイズとしては、コンテナハウス三個分。

少し小さいがキャンプ場との兼ね合いもあったので、これが限界だった。

「家だけど……、ではないのです! キャンプ場へ来たのなら、テントで宿泊するものです!」

と、レイちゃんが私の口調をモノマネした後、興奮気味にまくしたてた。

「ふふ、レイちゃんもまだまだだね。そんな固定観念に捉われていたらいけないよ。キャンプだろうが何だろうが、レイちゃんに相応しい環境を構築し、快適な生活を送ってもらうことが重要なんだよ」

私はレイちゃんの意見に異議を申し立てた。

テントなんてとんでもない! レイちゃんに相応しいのは家のベッドでの就寝だよ。

「そうではないのです! それに……」

「それに?」

「さっきの食事は一体何なのですか」

「え、フレンチのフルコースだけど。味はもちろん、栄養のバランスも考えて作った力作だよ」

この日のために修業を積んだ渾身の一作である。

どうやらレイちゃんの要望に応えられず、空振りに終わってしまったが……。

「ええ、とても美味しかったです。何より、料理の隅々からマオちゃんの努力が窺える素晴らしいものでした」

と、笑顔になるレイちゃん。

あ、美味しいとは思ってくれていたんだ。

口に合わなかったのかと心配していたけど、ちょっと安心したよ。

「うん、ありがとう。美味しいと言ってもらえるだけで、嬉しいよ」

レイちゃんに喜んでもらえるなんて、こんなに嬉しいことはない。

次はもっと笑顔になれるものを作りたいね。

私の言葉を聞いたレイちゃんは嬉しいのか不機嫌なのか、よく分からない複雑な表情へと変化した。

「もう……。ですが、そうではないのです!」

「違うの?」

一体レイちゃんは何に憤っているのだろう。

「はい! それに映画です。さっきマオちゃんは、ブルーレイを何で見ようとしていましたか?」

「え、80インチの4Kモニターだけど。ちゃんとスピーカーもセットして音響もこだわったよ。コンテナハウスの防音も完璧だから、音漏れも気にしなくて大丈夫だからね」

映画を家で観るなら、やっぱり環境にはこだわりたい。

ある程度妥協はしたが、ここで鑑賞する場合においては最高の状態を構築できたと自負している。

「素晴らしい配慮だと思います。ですが違うのです」

レイちゃんが同意したのちに、首を振る。

「えぇ、違うの?」

く、やはりこの場で観る環境としては不適切だったか。

いや、むしろここで映画を見るという選択肢が間違っていたのかもしれない。

もっと違うものにするべきだったか……。

「そうなのです! どれもマオちゃんの心遣いが窺えて素晴らしいものだと思います。本当に心から嬉しいのです。それだけに、わたくしは今、非常に強いジレンマを抱えているのですわ」

と言うレイちゃんの顔は、なんかもう凄いことになっていた。

嬉しいんだか嬉しくないんだか、よく分からない。

混乱の極致にいるような顔である。

「大丈夫、休む? 落ち着くハーブティーを淹れようか」

心配になった私は、何かリラックスできるものはないかと立ち上がる。

すると、レイちゃんが声を上げた。

「マオちゃん!」

「あ、はい」

レイちゃんの言葉を受け、私は中腰から正座に逆戻り。姿勢を正す。

「わたくしはキャンプに来たのです。ですから、キャンプを楽しむという気持ちになっているのです」

と、レイちゃんが至極真っ当なことを言う。

「うんうん、私もだよ。前の日からワクワクしてたんだ」

「ですよね。わたくしも、とてもワクワクしていたのです。ですが違うのです」

そう言って溜めを作り、俯くレイちゃん。

「うん?」

私はよく分からず、首を傾げる。

すると、レイちゃんがガバッと顔を上げて拳を握り締めた。

「キャンプというのは、テントと寝袋で宿泊し、アウトドア料理を作ったり、インスタント食品に手を加えて簡易的な料理を楽しむ。ブルーレイを観るのであれば、小さなプレイヤーにヘッドホンで観る。これなのです!」

と、熱弁をふるう。

が、私は納得できなかった。

「ええ……、そんなのレイちゃんには似合わないよ」

そんな絵面、レイちゃんには相応しくないと思うだけだ。

すると、レイちゃんが半眼で私をじっと見てくる。

「マオちゃん……、最近ちょっとお父様や後藤と思考が似てきていますよ」

「ええ!? そんなことないと思うけど」

それはちょっと言い過ぎではないだろうか。

あの二人と一緒なんて解釈不一致だよ。

「マオちゃんのわたくしに対する気持ち。楽しませたい、喜ばせたいという気持ち。とても伝わってきます。わたくし、こんなに思っていただける方と一緒にレジャーに来られて非常に嬉しいです。ですが……、ですがそうではないのです!」

と、泣いていないのに、目元を覆う仕草で悲しそうな顔を作るレイちゃん。

うん、演技派ですね。

そんな風に考えていると、レイちゃんが続ける。

「もっとこう……、不便を味わいたいのです。不便の中で非日常の楽しみを味わいたいのですわ」

「……なるほど。キャンプというのは、そういう趣向の催しだったんだね」

私からすれば野外でのお泊り位の感覚であったが、レイちゃんは違ったようだ。

どちらかというと訓練寄りだったわけね。

もっとサバイバル要素がある方が良かったと。

なるほど、納得である。

「分かってくれましたか」

と、ほっとした表情となるレイちゃん。

「レイちゃん、私に分かるように説明してくれてありがとう」

「わたくしも、折角の心遣いを無下にするようなことを言って申し訳ありませんでした」

なんとかお互いの齟齬が解消されたようだ。

「ううん、ちゃんと話してくれたことが嬉しいよ。じゃあ、次に行く時は、そんな感じにしようね」

「はい!」

満面の笑顔となるレイちゃん。

これで今回のような失敗は最後だ。

次はレイちゃんの要望通り、もっとサバイバル要素強めの野営を計画しよう。

「まあ、今回は修正できないし、このまま映画を観ようよ」

「ええ。これはこれで楽しいので問題ありません。ポップコーンも準備しましょう」

というわけで、今日はこのまま映画を楽しむこととなった。

そのための準備を整えていると、インターホンが鳴る。

「あら、誰でしょう」

「管理人さんみたいだよ」

モニターを確認すると、キャンプ場の管理人さんが居た。

玄関ドアを開けると、管理人さんが少し焦った様子で話しかけてきた。

「遅くに悪いね。実は避難指示が出たんだ。この辺の住民は皆、避難場所に指定されている小学校に向かっているから、君たちも来てくれ」

「何かあったのですか?」

「妖怪が出たんだよ。それも複数匹確認されて、こっちに来ているらしいんだ。今、霊術師を呼んでいるから、それまで避難することになったんだよ」

ここは北海道。少し前までは、そこかしこに妖怪が居た。

だが今は人が住めるほどに数が激減した。

それでも、人里に妖怪が現れることが割りとあるようだ。

「それなら駆除しておいた方がいいね。行こっか」

「はい」

私がレイちゃんに呼びかけると、快活な返事が返ってくる。

すると、管理人さんが驚きの表情となって、私たちを止めてくる。

「おおい!? 聞いていなかったのか? 危ないぞ!」

「おっと、これを見せていませんでしたね」

「こう見えて、私たちは霊術師なんですよ」

と、二人揃って霊術師の免許証を見せる。

「おお、そうなのか。それなら任せても大丈夫……、なのか?」

免許証を見た管理人さんが、戸惑ったような反応を示す。

利用客が、たまたま霊術師だったわけだから迷いが生じるのも頷ける。

ここは毅然とした態度を取って、相手の不安を解消しておこう。

「もちろん」

「お任せください」

私たちは、自信たっぷりに妖怪討伐に問題がないと、はっきり言い切った。

これくらいの雰囲気を出しておけば、安心してもらえるかな。

「そ、それじゃあ任せるよ。避難所には私の方から話をしておく。討伐が済んだら、報せに来てほしい」

管理人さんは、私たちに妖怪が目撃された場所を教えてくれた後、事情を説明するために避難所へ向かった。

私たちは管理人さんを見送った後、戸締りをし、出発準備を整える。

「私たちの余暇を邪魔するなんて不届きな奴らだね」

私は霊術を使った早着替えで戦闘服を纏い、指揮棒型の霊装を取り出して腰に差す。

「ええ。手早く一掃して、映画を見ることにしましょう」

レイちゃんも戦闘服に着替え、洋扇型の霊装を取り出す。

「ポップコーンを作る前で良かったよ」

「ふふ、冷めてしまっては台無しですものね」

「それじゃあ、行こうか」

「ええ。どちらが沢山仕留めるか、競争ですね」

「いいね」

お互い顔を見合わせ、余裕の表情で笑い合う。

私たちの余暇を邪魔した罪は重い。

住民に安心してもらうためにも、徹底した殲滅を心掛けなくては。

雑事はさっさと片づけて、キャンプの続きを楽しむとしよう。

頷き合った私とレイちゃんは、二人同時に駆け出した。