軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

228

◆九白真緒

「やっぱり、仕掛けてきたねえ」

海老名理沙がナナちゃんを突き落とそうとした瞬間をきっちりと撮影した私は呟いた。

録画した映像は、編集すれば使えるだろう。

後半の、ナナちゃんが海老名理沙を宙づりにしているところはカットだ。

すると、隣で私の言葉を聞いたレイちゃんが首肯で応じてくる。

「ええ。それにしても、まさか殺そうとするとは思いませんでした。……もしかして、ここから落ちても怪我で済むと考えていたのでしょうか?」

「う~ん……、積雪があるから大丈夫と考えた、という可能性もゼロではないかも?」

レイちゃんの言葉を聞き、迷いながら答える。

なんせ、海老名理沙は生粋のお嬢様。

どの程度で人が死ぬかなんて、知る由もないはず。

彼女からすれば、強めの脅しのつもり……、だったのかもしれない。

マンガを読んだ際は、殺しに来ていると思ったが、この何日か会話をしてみてそう感じた。

浮世離れしているというか、自分以外の事に対して楽観的というか……。

物凄く近い未来を都合の良いようにしか想像できていない感じだ。

今も、ナナちゃんを突き落として行動不能にすれば、自分がアキラ君と仲良くなれる程度にしか考えていないと思う。

だが、もしも死亡するような事態にまで発展すれば、様々な事象が発生し対応を迫られる。

ナナちゃんがいなくなるという部分以外のことまで視野を広げて先を見れば、年単位で落ち着かない状態になり、アキラ君との仲を育むことなんて不可能だと分かるはず。

そういった事が、すっぽり抜け落ちているのだ。

私はそんな事を考えながら、レイちゃんと一緒に物陰から出た。

そして、ナナちゃんと海老名理沙の元へ向かう。

すると、ナナちゃんがこちらに気づいて振り向いた。

その瞬間、彼女が掴んでいた海老名理沙の上着がすっぽ抜けた。

慌てたナナちゃんが、咄嗟に帽子を掴むも、あっさり脱げる。

すぐさま、髪を掴んで事なきを得た。

「ふぅ、危うく落とすとこだった」

と、ほっとした表情を見せるナナちゃん。

「ぎぃやああああ!」

それとは対照的に、激痛で悲鳴を上げる海老名理沙。

そこで髪を掴んでいたことを思い出したナナちゃんが、彼女を地面に放り投げた。

そして、こちらを見た。

「二人とも何でここにいるの?」

ナナちゃんが驚いた様子で聞いてくる。

「そりゃあ、予定を変更したからだよ」

「右に同じですわ」

「でも大事な用事だったんじゃないの?」

私たちの返答を聞き、「え」と驚くナナちゃん。

「私のは、それほどでもないかな。そもそも今日中に行く必要もないしね」

「わたくしもですわ。事前に決まっていたことではなく、直前の呼び出しですし、断って問題ありません」

「そっか」

ナナちゃんは静かに頷いた。

大体、優先順位が違うのだ。

「そもそも、ここに来ることより大事なことなんてないしね」

「全くその通りですわ。明らかに不自然な感じでしたものね」

「あ、うん……」

私とレイちゃんが深く頷き合っていると、ナナちゃんが照れくさそうに頬を掻く。

私は、携帯端末を二人に見せながら口を開いた。

「それじゃあ戻ろうか。録画した映像はどうする?」

「アキラ君には、お見せしておいた方がよいでしょうね」

「じゃあ、それで」

というわけで、無事トラブルも回避成功。

映像証拠も残せたので、ここから面倒ごとに発展することもないだろう。

ちなみにマンガでの展開では、結構大事に発展する。

突き落とされたヒロインは霊力を使って、衝撃を和らげるも負傷。

婚約者候補は、自身の服を傷つけてアリバイ工作を行う。

そして、ヒロインの捜索を翌日開始にずらそうとして、夜になるまでホテルに戻らない徹底ぶり。

といった感じで、結構危険な状況が構築されていた。

しかし、実際にはそうならなかった。

全てを未然に防ぐことが出来たので、本当に良かった。

思い返すと、ナナちゃんへの事前警告の効果が高かった。

あれが無かったら、海老名理沙に対する警戒度合いも変わっていただろう。

ナナちゃんの身体能力と勘の鋭さは一級だが、万が一の可能性もあったからね。

というわけで、海老名理沙関連のトラブルはこれで一段落だ。

さて、日高さんの方はどうなっているだろう。

これまで、合間を縫ってGPSを確認していたが、特に何も起きていない様子だった。

こっちで海老名理沙のイベントが発生したし、向こうでは起きないはず。

そう思いつつ、GPSの反応をチェックする。

「おっと、ルーティーンですか」

「少しジェラシーを覚えます」

などと二人にからかわれながらも画面を見る。

「あれ?」

すると、日高さんの反応が妙な場所から発信されていることに気づく。

どう見ても山の中。スキーコースからは外れた位置だ。

主要道路からも遠く、とても歩いて行ける場所ではない。

なぜこんな所に?

「ごめん、変な場所から反応があるから様子を見てくるよ。二人はどうする?」

気になったので確認に向かうことを告げる。

「二人は、元々この場所にいないことになってるし、レイちゃんはマオちゃんと一緒に行って。ここの後処理は私でやっておくよ。あと、録画映像を転送してもらっていい? アキラと合流したら、見せておくよ」

「ありがとうございます。それでは、わたくしはマオちゃんに同行しますわ」

「了解。それじゃあ、一旦下まで一緒に行こう」

というわけで、私たちはリフトで下山。

海老名理沙のメンタルが崩壊していたので、各々で滑って降りるということができなかったのだ。

海老名理沙は魂が抜けたようになり、反応が薄くなっていた。

いくら、浅慮な性格で楽天的な計画しか立案できなくても、これから自分に訪れる未来については、随分先まで詳細に想像できたようだ。

私とレイちゃんは、事後処理をナナちゃんに任せ、日高さんが滞在しているホテルへと向かう。

下山後、後藤さんに車を出してもらい、移動を開始。

日高さんに接近するため変装するか迷ったが、今回はしないことにする。

時間がないということもあったが、バレないという確信があったためでもある。

今の私たちは防寒対策バッチリのフル装備状態。

帽子に、サングラス仕様のゴーグル、口元もマフラーで隠している。

この状態であれば、顔の詳細なんて分かるはずもない。

これなら、わざわざ変装する必要はないだろうと考えた。

移動中、GPSの発信源に直行すべきか迷ったが、一旦ホテルへ向かうことにした。

日高さんの動向については、一日に数回チェックしていた。

そのため、現在の反応があるポイントに移動してから、大して時間が経過していないことは分かっている。

まずは、ホテルで安否を確認しておきたい。

GPSが外れて飛んで行っただけ、ということもあり得ると思ったためだ。

また、日高さんが反応通りの場所にいるのであれば、周辺はどういった対応をしているのか。

その辺りの情報が足りないので、状況を確認しておきたかった。

日高さんが宿泊しているホテルへ到着した私とレイちゃんは、早速中に入った。

フロントは穏やかな雰囲気であり、緊急事態といった感じはない。

日高さんがいるか確認してみると不在と分かった。

「GPSの反応に近いスキー場へ行ってみようか」

「そうですね。そこなら何か分かるかもしれません」

ということで、近くのスキー場へ向かう。

するとそこでは、従業員が駆け回っており、騒然とした雰囲気になっていた。

周囲の会話に聞き耳を立ててみると、どうやら小規模な雪崩が発生したらしい。

スキー場内は、巻き込まれた人間がいないか、安否確認の真っ最中だったのだ。

「なるほど……、日高さんたちは大丈夫だったのかな」

「マオちゃん、あそこをご覧ください」

レイちゃんに袖を引かれて、指さされた方向を見る。

すると、綾小路君を含めた男性陣が、スキー場の従業員と揉めていた。